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今日の夢見〜獏は密かに夢を見る〜

 肌も髪も、目の色も違う。けど、それでも大切な好敵手ダチなんだ。



 夜遅く。とある街のとある路地の先。暗く汚れ、廃れた工場には紅白の軍団が対面している。
「─今日も決めようじゃねえか。どっちが強えのか」
「今日こそ決着をつけないとね。もう互角は許されないよ」
 そう言って軍の中から出てきたのは、『White dead Rebellion』のリーダー、白髪の沙咲ささき 白埜はくやと『愚罰煉狼緋ぐばつれんろうひ』のリーダー、赤髪の宮基みやもと 緋斗あかとであった。
「「行くぞ─ッ!!」」
 二人の鬨の声を聞き、二つの軍団がぶつかり始めた。


 抗争が始まってから数時間─いつもの時間─になってしまった。この時間になると見回りの警備員が来る。
「…ッ!クソッ、ヤツが来た!お前ら帰んぞ!」
「またお預けか…。みんな、戻るよ!」
 そうして、彼らの強さ比べは終わりを迎える。



 朝起きて体調を確認する。今日はいつもより天気がいいから、少し気を付けないと。
 クローゼットにしまわれた制服を手に取る。─あれ、こんなところに血、付いてたんだ。バレないように学ランで隠す。

「おはよう白埜。体調は大丈夫?学校には行けそう?」
「おはようお母さん。大丈夫だよ。なんなら元気だし。お弁当、なに入ってるの?」
「今日は白埜の好きなトマト!たくさん入れといたからね」
「やった!じゃ、行ってくるね」
 僕は塩分控えめのおにぎりと日傘を手に、家を出た。

 僕はいわゆるアルビノというやつで、髪の毛は真っ白、目は真っ赤。けど、めっちゃ体が弱いというわけでもない。
「お前、またわんぱくスタイルで出てきたのか。別にゆっくり食ってから出てくりゃいいだろ。時間あんのに」
 彼は宮基緋斗。僕のクラスメイトだ。髪の毛は真っ赤でいい褐色の肌をしてる。…正直羨ましい。
「別に両手におにぎりじゃないんだからわんぱくっていうのやめてよ。ん、ありがと」
 僕が左手に持っていた傘を緋斗が差す。二年間、いつも通りだ。緋斗は僕の体調をすごく気にかけてくれる。
「お前が調子悪ぃと俺も調子狂うしな。…つーか、今日の体育小テあるっつってなかったか?大丈夫か?」
「そういえば言ってたような…。体育館だったらできるかな」
 他愛のない会話をして学校へ向かう。特に何かあるというわけでもないけど、気の置けない友が緋斗でよかったと思う。

 その後、体育の小テストは体育館で行われ、無事受けることが出来た。先生も体質アルビノを考慮して採点してくれているのが助かる。…別に手を抜いてるわけじゃないけど。

 昔からそうだった。幼稚園にもまともに通えず、自分だけ車で通園することによるいじめ。小・中学校でも同様。だから、できるだけ抵抗できるようにトレーニングをした。軽い体でも強い力で押し返せるように、筋力がなくても格上に勝てるように。いろんな動画を見て、いじめてきたやつにやり返した。今思えばやりすぎだったこともある。そのせいで避けられてたのかも。
 でも、高校に入って環境が大きく変わった。別に引っ越したとかではなく、僕のことをいじめようとするやつもいた。入学式後に自己紹介をしたその後の自由時間、僕にちょっかいをかけてきたいじめっ子がいたんだ…名前は忘れたけど。その時に声をかけてくれたのが緋斗だった。
 強さ比べが始まったのは1年の夏休み前だったと思う。特に深い理由はなかった。ただ単純に緋斗に勝ってみたかっただけだった。最初はぼろ負け。でも一緒にトレーニングしてるうちにだんだん僕も体の使い方が分かってきて、その年の冬休みにはほぼ互角になってた。それと同時に囲いみたいなグループもできて、まとめてもらいたいというよくわからない理由で僕らはそれぞれ『White dead Rebellion』─通称"白死はくし"と『愚罰煉狼緋』─通称"レッドウルフ"のリーダーになった。
 白死の特長は、髪の一部を白く染めているところである。僕みたいな真っ白にする人もいる。逆にレッドウルフの特長は、髪の一部を赤く染めているところである。緋斗も地毛ではなく染めてあの色にしている。"そういう気分だった"って言ってたけど、僕の髪色を気にしてだと僕は思っている。

 僕らが通っている高校は雁柳高校という、なんの変哲もない公立高校だ。ぱっと見ヤンキーの軍団が2つもいる高校が"何の変哲もない"というには少し厳しいかもしれないけど。"ささき"が僕で"みやもと"が緋斗。まるで巌流島伝説みたいじゃない?

 今日も23:30分にいつもの廃工場に総出で集う。レッドウルフは来ていない。緋斗たちは一度別のところで集まってから来ているようで、いつも数分遅れてくる。今日も案の定まだ来ていない。
 その時、表通りから漏れるかすかな光を逆行に4、5人がこちらへ向かってきた。明らかに緋斗たちレッドウルフではない。

「─ッみんな、構えろ!」
「おいおい、強え奴らがのさばってるて聞いてたのによ。ガキしかいねえじゃねえか!」
 チンピラだ。隣町で噂されていたけど、まさかここまで来るなんて思ってなかった。それほど僕らのうわさが広がってるってことなのかな。

 色々考えようとしていたら、目の前に拳が現れた。─まずい、そう思った瞬間、メンバーの一人が僕を抱え、もう一人がぶん殴られていた。それを皮切りに大乱闘が始まってしまった。しかし、大人数人に高校生20人程度では歯が立たなかった。
 そんな中、緋斗たちが来てしまった。白死は半壊状態だった。正直、来てほしくなかった。僕たちが勝てないということは、レッドウルフが来ても勝算がないからだ。

「─ッ何してんだよ!行くぞお前らァ!」

 威勢のいい声をあげ、緋斗たちは向かっていった。大人は強い。強いというか体の鍛え方や拳の振り方が違う。あれは相手を確実に再起不能にする拳の振り方だ。


 何十分、あるいは何時間戦っただろうか。疲労で時間の感覚がおかしくなっていた。その時、チンピラのリーダーがこちらを見降ろしてきた。

「テメェ、その髪と目、アルビノってやつか?ハッ、ちょうどいい」

 頭を鷲掴みにされ、立たされる。痛みと振動で視界が歪む。その視界の中で、赤いものがこちらへ近づいてきた。

「手ェ放せやクソ野郎ォ!!」
「ダメだ…ッあかと─」

 沸騰した頭にか細い僕の声は聞こえなかったみたいだ。そもそもその程度で止まるような奴ではない。振りかぶった拳は軽く避けられ、チンピラからの蹴りをもろに喰らわされていた。

「ク─ッソが…!」
「…そうだ、赤髪のお前、今ここでこいつを見捨ててどっか行ってくれたらお前の家族に手は出さねえ。お前の姉ちゃんは有名だもんなぁ?」
「僕の…、ことは、いいから…!」
「…─ゥルセエエエ─!!」

 背後から声がし、そのまま僕をつかんでいるチンピラに何かをしたらしい。体が揺れる。
 衝撃で僕から手を放してくれたみたいだ。

「家族を犠牲にすんのか?!ガキの癖に、家族不孝な奴だな!」
「別に家族を犠牲にするつもりはねえ!…だからと言って見捨てるつもりもねえ!そんくらいの覚悟、できてるに決まってんだろ!─あの時から腹は決まってんだ。ソイツは、白埜は俺と全然違ぇ。俺に無ぇもんを持ってるし逆に白埜に無ぇもんを俺は持ってる。だから一緒に強くなんだって約束してんだよ!」

 そうだ。僕だって、決して強くない体でここまで来たんだ。ここで甘えちゃ、緋斗に顔見せらんないな!

「…アルビノだから何?金になる?─知らないけど、お前みたいに心が貧弱な奴に勝てるように毎日トレーニングしてんだよ!!!」
「─グホァッ!?…ッソ、生意気なガキがァ!!」

 拳を間一髪で避ける。こうやって感情を高ぶらせて精度を下げる。僕の戦い方だ。こういう人は隙が多くなりがちだ。でも、相手は基礎ができてるからあまりブレない。でも確実にブレるタイミングがある。例えば…

「─ッ!」
「!ほかに気を取られるなんて、舐めプしてるんだね!」

 表の道を通った車のヘッドライト。こういう些細なきっかけでブレる。更に極めつけは…

「オラ!テメェの敵は一人じゃねえぞ!」

 うん、いい拳だ。顔面にクリーンヒット。僕たちは一人で戦ってるわけじゃない。相手が複数であれば意識は分散する。意識が分散すればそれだけ気力を使う。気力を使えば隙が生まれやすくなる。

「「喰らいやがれ─!」」
「──ッグ!!……わ、分かった!もうお前らには手出ししねえよ!─家族もな!…クソ、ただのヤンキーじゃねえじゃねえか…!」

「─っふー…。終わった…。クッッッソ疲れた…」
「…僕も。びっくりしたよ、まさか大人がここに来るなんて。…あれ?いつも来る警備員こなかったね」
「…確かに。もしかしてあいつらの偵察だったんじゃね?」
「…まさか」

 あまりにも突飛な意見に二人して笑った。僕らの笑い声を聞いて、グループのメンバーも笑い始めた。戦闘疲れか、深夜のせいか。なんか、面白くて仕方がなかった。

 二人の背中に東の空から祝福の光が差し込む。その後、周囲の住民から連絡を受けた警察と校長先生、担任の先生に起こされるまで、二人は自分たちが寝ていたことに気が付かなかった。
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