「やぁリヴァイ!調子はどう?」
社員食堂の一角でにこやかに声をかけたのはメガネをかけた女性。声をかけられた方は、面倒なのが来やがった…と言わんばかりに眉間に皺を寄せた。
「失礼するよー」
当然のように相席した女性…ハンジを鋭い目付きで睨み付ける。
「…で、
ユーリアは?」
ユーリア。その名前を聞いた男が幾分か穏やかな表情になったのをハンジは見逃さなかった。
「緩い顔しちゃってー!このこの!」
「うぜぇ…」
「プロポーズ!したんでしょ?
ユーリアはなんて?」
聞くまでもないけどさ、と言いながら箸をすすめる。そんな彼女から視線を逸らし水を一口飲んだ男は答えた。
「あぁ……振られた」
「そりゃそうだ!前世から夫婦みたいな生活してたしね!断る理由がな………はぁぁぁあああ!?」
予想外のリヴァイの言葉に驚きを隠せないハンジはテーブルを勢いよく叩き立ち上がった。
「なっなななな、なんでぇ!?」
「チッ…うるせぇな」
「浮気でもした!?」
「んなわけねぇだろ!」
リヴァイは目を見開き立ち上がって声を荒げた。リヴァイが
ユーリアを傷付ける事をするはずがないこと、
ユーリア以外の女性を女性と見なさないことをハンジは知っている。
「いやあなたはあり得ないから
ユーリアの方が!」
「んな…わけ、ねぇだろ…」
先程の勢いはどこへ行ったのか自信なさげに声のボリュームをだんだん下げてそう言った。ハンジは慌てて冗談だと伝える。
「それで…何だって断られたの?あなたは何て言われて納得したの!?」
「………」
数秒間黙った後、腕を組み椅子の背もたれに寄りかかってボソッと呟いた。
「…恋を…していたいんだと」
「は…っ?」
「結婚しちまったら恋をする対象ではなくなる。それは嫌だから恋人でいたいと言われた」
「…はぁ?夫婦でも…恋…?してればいいじゃん!そんなの本人の気持ち次第でしょ!!」
「その本人の気持ちが、結婚に向いてねぇならする意味がねぇだろうが」
「いや~…え~…?リヴァイはそれでいいの?」
納得のいかない様子のハンジは怪訝そうな表情でリヴァイを見る。黙りこくるリヴァイの表情から何かを察したハンジは静かに椅子に座り直した。
「…よさそうな顔だね…。結婚できない事よりも、自分に恋をしてくれていた事実を知れて嬉しいって顔に書いてあるよ」
「読心術でも得たのか」
「まぁでも…別れたわけじゃなくてよかったよ…」
ほっと息を吐き水を飲んだハンジ。リヴァイはまたボソッと呟く。
「………いや、別れた」
「はぁあ!?げほっげほ!」
飲んでいた水が気管に入ったのか涙目で咳き込む。そんなハンジにリヴァイは汚ぇなと言いながらもハンカチを差し出した。
「うっそ!?ちょ、え!?リヴァイ大丈夫!?精神状態!もしかしてもう崩壊してる!?だから異様に冷静なんじゃないの!?ちょっと身投げとかやめてよ寝覚め悪い!!」
「するわけねぇだろ。あいつが責任感じたらどうする。あいつの荷になる事はしねぇ」
「あ…愛が、濃い…っ。…いやいやいやいや!え…待って。プロポーズ断られて別れたって…前世からのながーい片想いがやっとこさ実ったのにあなた………か、可哀想…っ。
ユーリアの気持ちはいつの間に冷めきっていたんだ…」
「………いや、それは多分違う」
「え?あ…信じたくない気持ちは分かるけどどう考えても恋云々嘘でしょ!完全にあなたに興味失ってるよ!」
「別れてもあなたに恋をする気持ちは変わらない。今度は私から告白するから待っていて。…と言われた」
「………え?」
「今夜約束を取り付けている」
「………」
《何そのクソ茶番》
勝手にやってろ。
Ende.