性的な表現と一部キャラ崩壊が含まれますのでご注意ください。
これは…どういう事なのかしら………。
結婚して二年目。子供はいない。
彼は女性との接点がほとんどないような人で、唯一の異性の知り合いは私も知っている学生時代からの友人…。ちょっと変わった彼女曰く、リヴァイとは前世からの付き合いらしい。…彼も否定しなかった。
…そんな彼のスーツのポケットから…、…風俗店のレシートと思しき物が出てきた。印字された時間は昨夜23時34分。…昨日は仕事で接待だと言っていたけど…。
浮気………?
…潔癖症の彼が…、どれほどのお客をとってきたか分からないお店の子と…?
「お前だけだ…」
これが口癖のようなものだった。…こうして触れるのは、お前以外あり得ない。と…。
…もしかして、その子は特別という事?"お前だけ"の範疇にその子も入ったという事?
だとしたら私は…不要…?
夜の営みだけが夫婦じゃないけど…他所で種を撒き散らしてるような人と一緒に生活はできないわ…。気持ちで繋がれているなら、その行為自体はなくても私は構わない。でも彼が他の人と関係を持っているのだとしたら、気持ちが繋がっているとは言えないわよね…。
それとも一度きり…?一夜の過ち…?
謝るなら………許そうか…。
…だけど、氏素性の知れない売女の粘液が付いたものなんて触れないわ。私も大概潔癖症だから…。そうなるとやっぱり夫婦である意味がない?…そうしたらやっぱり一緒にいる意味はない…?…でも私は、彼の傍にいたい…。…やっぱり彼を愛しているから…。だけど傍にいて求められたら…、…この事が頭を過って酷い事を言ってしまうかもしれない…。でも…、だけど、やっぱり………、
「………という感じで切りのない迷宮に迷い込んだので助けてほしい」
「んー………」
喫茶店の一角で状況を説明すると彼は小さく唸って俯いた。悲しい事にこんな時頼れる友人がいない私は、相談相手に実の兄を呼びつけた。せっかくの休日なのに理由も聞かずにすぐに駆けつけてくれた兄の事は大好きで、あのリヴァイが嫉妬するほど兄妹仲は良好である。
…リヴァイも今日はお休みだったわね。昨晩帰りが遅かった彼が起きる前にこっそり家を出てきたけど、彼に何も伝えずに外出したのは初めてだわ…。
「別れなさい。心配しなくても出戻りは歓迎だ」
「エルヴィンは呼んでないんだけど…。ファーラン、どうして連れて来たの?」
「いや兄貴が勝手に…」
親身になって話を聞いてくれる仲の良い次男のファーランとは対照的に、いわゆるシスコンの長男は事あるごとに離婚を勧めてくる。結婚にも猛反対で、昔から人の自立心を妨げ実家に縛り付けようとする敵である。
「実家に帰って来なさい。掃除でも料理でも、君はただ好きな事をやっていればそれでいい。家にいて生活に困る事は何もないだろう?兄である私といれば、心に負担がかかる事など何もない。こんな風に迷宮に迷い込む事もない」
「ねぇ、ファーラン…私はどうするべきかしら?」
「無視かな?」
「まず本当に旦那が浮気しているのか突き止めるのが先じゃねぇか?」
「突き止めるって…」
「
ユーリア?」
「あー、もう…ほらエルヴィン。私のパンケーキ食べていいから。少し黙ってて」
「
ユーリアの食べかけか………ふふ」
「きも…」
「よく分からないが、今までお前に嘘を付くような事は一度もなかったんだろ?」
「ええ」
「直接聞いてみたらどうだ?…それが本当なら正直に謝ると思うぜ。あんだけお前に骨抜きにされてるんだ、別れたいわけはねぇだろうからな」
「でも…もし本当だったら…」
「気持ち悪くて一緒にいられないってか?」
「うん…」
「…あのな、一度や二度の浮気は大目に見てやってもいいんじゃねぇか?旦那を愛してんなら、ちょっとの気の迷いくらいよ」
「……………」
「いいや、許せないな。こうして
ユーリアを悩ませている時点で、リヴァイにはもう旦那を名乗る資格はないよ。大目になんて見てはいけない。一度甘んじれば調子に乗るのが男というものだ」
「兄貴は黙っててくれよ…」
「天使と悪魔の囁きくらい真逆な事言わないでよ…」
「ん?そういやお前指輪はどうした?」
「置いてきたわよ。そのレシートの上に」
「…結構あれだな…。…そういうところ、俺は好きだぜ…」
「ファーランまでエルヴィンみたいな事言わないでよ、気持ち悪い」
「ん?それは私に気持ち悪いと言っているのかな?」
「そうよ」
「そうか…」
ファーランの言うように、直接本人に聞かなければ真実は分からない…。行ってないのだとしたらレシートを持っている説明がつかないけど、私は一つ…確信している事がある。…彼から連絡が来たら帰ろう。
Prrrr...
「おっと、電話だ」
このタイミングで鳴ったのは私の携帯ではなくエルヴィンのもの。見せられたディスプレイには彼の名前が表示されている。…どうしてエルヴィンに電話を…。
「出てもいいかな」
「ええ」
何となく自分も携帯電話を確認してみると、彼からの着信が6件、ショートメッセージが20件ほど届いていた。無音にしていて気が付かなかった…。私に連絡がつかないからお兄ちゃんに掛けてきたのね…。
「………ああ。…
ユーリアなら一緒にいるよ。…いや…、」
そう言えばリヴァイとエルヴィンはどこか親しげなのよね。初めて紹介した時も、相応の挨拶を交わしながら表情が穏やかだった気がする。昔の知り合いに会って懐かしんでいるような…そんな感じ…。
「
ユーリア、リヴァイが代わってほしいと言っているんだが」
一度頷いてエルヴィンから携帯電話を受け取った。
「…はい」
『…
ユーリア。…すまない。とりあえず帰って来てくれねぇか。…誤解を解く前にお前の顔が見たい』
誤解…ね。………顔が見たい、なんて初めて言われた…。
『………なぁ?
ユーリア…』
どことなく声がいつもと違う。…畏まった感じというか…、…なんか可哀想。
「分かったわ。…今帰る」
『…ああ、』
って言って帰らなかったらちょっと意地悪かしら?
何となく安心したような声だったけど…、今どんな気持ちで待っているのかな。
通話を終了した電話をエルヴィンに手渡してから、店員を呼ぶ為のベルを押した。
「ふわふわパンケーキと紅茶一つ」
店員さんにそう注文した私に、ファーランが少し驚いたような顔をする。
「帰らなくていいのか?旦那が待ってるんだろ?」
「彼が何を考えているのか分からないけど、きっとそわそわして落ち着かないはずよ」
「ああ、だから早く帰ってやれよ」
「だからそれを一秒でも長く味わってもらいたいの」
何とも言えない表情のファーランの横で、エルヴィンが声を上げて笑った―――。
―――家の扉を開けると壁に寄りかかって立つ彼が目に入った。
え、ずっと玄関で待っていたの…?
私を見てわずかに眉頭を上げたリヴァイはその目元を手で覆って深く息を吐いた。
「………帰って来ねぇかと思った」
…少しのんびりし過ぎたかな。思ったよりボリュームあったのよね、あのパンケーキ…。
靴を脱いで上がり彼の様子を窺っていると、顔を上げたリヴァイが一歩距離をつめてきて手を握ろうとした。…何となく…垂れていた手を胸元に持っていくと、それを拒否と見なしたリヴァイが悄然として俯いた。こんな彼を見たのは初めて…。なんて可愛らしいのかしら…。
「あれは………誤解だ」
低く小さい声が耳に入る。
「おそらくあれは…、性風俗関連特殊営業に分類される店の紙だ」
せいふう………え?え、何?長い。
「昨日は接待で深夜1時まで拘束されていた。これは俺の部下が証明してくれる。口裏を合わせる事ができると疑うなら店に連絡してもいい。下見やら何やらで店員と顔見知りになったからな。俺の名で予約した事、昨日のその時間俺がその場にいた事を証言してくれる。言っておくがそこも変な店じゃねぇ。有名な料亭だ。こいつがその店のレシート。ここに刷られた時間を見れば嘘じゃねぇと分かるな?俺は仕事を抜け出してそんな店に行くようなクソ野郎じゃねぇし、そもそもそんな事は不可能だ」
必死ね…元々よく喋る方ではあるけど、こんなに畳みかけるようにいい声が聞けるなんて…。
でも…じゃあ、あのレシートは何なのかしら…。
「俺は如何わしい店には行っていない。…お前を裏切るようなマネはしない」
真っ直ぐに私の目を見据えるその目は、俺を信じろと言っている。
ふぅ…と小さく息を吐いてみると、彼は僅かに寄せるように眉を動かした。付き合いが長いと言っても、彼の一つ一つの仕草で全ての感情を読み取れる訳ではない。…今はどういう気持ちなんだろう?緊張…してるように見えるけど…。私が何も言わないから不安なのかな?
「………一つ確信していたの。几帳面なあなたがレシートをそのままポケットに突っ込むわけがないって。今まで一度だってそんな事なかった。お財布にレシートぽっけがあるでしょう?いつもそこに綺麗に折りたたんで入れてるものね」
「…ああ、そうだ」
「…だけど、絶対なんてあり得ないから。やっぱりどこかで、もしかしたらって気持ちがあって…そうしたら…、…色々考えてしまった。………誰かに触れた手で…触ってほしくない…」
「………言ったはずだ。………お前だけだと」
フローリングの溝を見つめるように下を向いている。さっき手を握らせなかったから…また拒否されたら、って思ってるのかな。
「あなたは私に嘘…付かないもんね」
「…当然だ」
「………信じるわ。…疑ってごめんね」
安堵したような顔で小さく溜息を吐いたリヴァイは左手を差し伸べてきた。右手には私が外したリングがある。彼の手に左手を乗せると、そのリングを元あった場所にそっと戻した。
「結婚式以来ね、あなたに嵌めてもらうの…」
「もうしたくねぇぞ…外されるのは御免だ」
「ふふ…」
髪を撫でてくれるこの手が好き。
愛おしそうに見るその目が好き。
頬を両手で包み込んで、額と鼻先をくっつけてからキスをするのが好き。
私の為に気を揉んで、私の言動で一喜一憂する…あなたの全てが可愛くて好き。
「……………好きだ」
「…え?」
「…何でもねぇよ」
「………ふふ、…私も。…好き」
「…あ?」
「…何でもないわよ」
聞こえた言葉を聞き返したのは、もう一度目を見て言ってほしかったから。
聞き返された言葉に言ってない振りをしたのは、恥ずかしかったから。
お互いの鼓動を聞きながら、そんなくだらない掛け合いをした。ラブラブとは程遠い私達の結婚生活二年目―。
《結婚生活二年目のある日の出来事》
Bonusおまけ↓
「………それで結局、あのレシートは何だったの?」
「それは俺が知りたい…」
「…嫌がらせ?職場でいじめられてるの?」
「そんなタチの悪い事する奴、少なくとも俺の班にはいねぇ」
「…班の人以外で…?」
「………そういや、…ハンジに会った」
「え?」
「何故か俺が接待で遅くなると知ってやがってな。料亭から出た直後、声を掛けられた」
「そんな夜中に何を…?」
「興味ねぇから聞かなかったが。…そう言えば、
ユーリアがヤキモチやいてくれればいいね。とか訳の分からん事言ってたな…酔っていたと思うが。………いや、待て…あいつの仕業じゃねぇか」
「え…いや、でも………違うでしょ。だってハンジは女性でしょ?どうして男性が行くお店のレシートを……」
「……………」
「……………」
「……………もういいだろ」
「怖いわ…なんかもう、誰も幸せにならない未来しか見えない…詮索はよしましょう」
「ああ…」
Ende.Re: