掃除が完了したから確認をしてもらうために兵長のもとへ…って思ったけど、執務室にも食堂にも
ユーリアさんの部屋にもいなかった。どこに行ったんだ…?探し回るくらいならもう一回仕上げ磨きをした方がいい…よな。…担当の場所に戻る時に調理場の前を通りがかった。…中から話し声が聞こえる…。これは、兵長と
ユーリアさんの声…?何だ、こんな所にいたのか。
ユーリアさんが料理するのを傍で見たいって事か?相変わらず
ユーリアさんの事大好きだな…。
「ねぇリヴァイ、たまご焼きは甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?」
「…しょっぱいの」
「了解だっ」
しょっぱいの…って………そんなふうに答えるのか…なんか兵長らしくねぇな。いや、まぁ…それ以外に答えようがねぇのも分かるけど…。
「
ユーリア」
「ん~?」
「…リボンが曲がっている」
「…?ああ、エプロンの結び目?ふふ、結び直して!火を使っていて手が離せないから」
エプロンの紐…結び直してやってるのか…?そんなの曲がってたところで誰も困らねぇだろ…無駄な几帳面がそんなところでも出るのか…。…いや、ただちょっかい出したかっただけかもな。前に
ユーリアさんのこと構ってくれって主張が強い”かまってちゃんだ”って言ってたけど、オレからしたら兵長も同じに見える…。
「ちょっと味見してみて?」
「ああ」
「熱いから気を付けてね?はい、あーん…」
「………」
「どう?」
「…美味い」
「よかった~」
う…美味い?そんな言い方したの初めて聞いた…「悪くねぇ」が兵長の中の最高とか良いって意味だと思ってたけど…、
ユーリアさんには素直に率直な感想言うんだな…。
「
ユーリア」
「なーに?…あら、髪の毛結んでくれるの?」
今度は髪いじってんのか…。珍しいな。いつもはあんまり触らねぇようにしてたと思ったけど…。今日の兵長は本当に”かまってちゃん”なのかもな。
「良い色だ……嫌いじゃねぇ」
「本当?あなたにそう言ってもらえるなら、この髪の色に生まれてよかった~」
…例えばオレが褒めても同じ事を言ってくれるんだろうか。…多分、言わねぇよな。兵長だから、兵長に言われるのが嬉しいからそういう言葉が出て来るんだろう。
「ん~でも私の髪で遊ばないで?」
「………」
「暇なら手伝ってよ」
「忙しい」
「えー?…あら、三つ編みになってる…!あなた…女の人の髪の毛を三つ編みに結ぶ事なんて出来たのね!」
「教わったからな」
「え?…誰に?」
「そこらへんの奴だ」
「…ふーん…」
「…何だ」
「…別に?」
「…不機嫌そうじゃねぇか」
「別にー」
「何を怒っている?」
「別に」
…ヤキモチ、ってやつじゃねぇのか。よく分かんねぇけど…。兵長が他の奴と仲良くしてて、髪の結び方なんか教わって、そいつの髪で練習したのか?って思ったら腹が立つんじゃねぇのかな。兵長だってそうだろ…いつも
ユーリアさんがオレや先輩方と親し気に話してる時すげー怖ぇ顔になってる。
「………ちなみに教わったのはモブリットからだ」
「…えっ?ど、どういう事…?」
「ハンジの髪をモブリットが結うところを見て覚えた」
「………どういう事…?」
「さぁな。ハンジの奴の戯れ事だろ。モブリットに髪を三つ編みにしろと命令し、何故か俺はそれを見ているように強く言われた」
確か
ユーリアさんって昔は今よりもっと髪が長くて、三つ編みにしてたんだっけ。ハンジさんはそれを知ってる…?だとしたら多分、三つ編みのやり方を覚えて
ユーリアさんにやってやれば?って事だったのかもな。ハンジさんの意図は分かんねぇし、兵長がそれを察したとも思えねぇけど…。
「ねぇ?今どんな髪型?」
「…変な髪型だ」
「えー!?ひどいっ」
全体を三つ編みにするには長さが足りねぇって前に言ってたもんな。…だから想像するに部分的に三つ編みになってるんだろう。変な髪型だって兵長は言ってるけど、そんなに変でもねぇんだろうな。…ちょっと見てぇけど、さすがに覗き見るわけにはいかねぇよな。…立ち聞きだけでもどうかと思うのに…。
「ほら、解いてやるから怒るな」
「わっ…解き方乱暴じゃない?もう少し優しくしてちょうだい」
「…こうか?」
「ん………ふふ、頭撫でられてるみたい」
「………」
「よしよしって言って?」
「言うか…」
「ちぇ~…じゃあお手本見せてあげる!」
「あ?」
「はい、よーしよし!」
「よせ馬鹿…」
「本当は嬉しいくせにー」
「うるせぇぞ…」
「否定しない…だと…っ!?」
「………」
「ふふ、照れ屋さんね」
兵長も
ユーリアさんに頭撫でてもらったりするのか…。…オレにはガキ扱いしてけっこうやってくれるけど、兵長の事もガキ扱いしてるって事なんだろうか…?…いや、それは違ぇか…。…それよりも羨ましいのは頭を撫でる方…かも。オレは
ユーリアさんの頭を撫でられる理由がねぇしそんな状況も来ねぇよな…。…年上の人の頭撫でるとか…そんな機会、あったとしてもやっちゃダメだろ…。
「ん~…ねぇあなた」
「何だ」
「もしも今この包丁で指を切ってしまったらどういう処置してくれる?」
「水で洗う」
「えー…?」
「…消毒液を持って来る」
「うーん………」
「………咄嗟の行動としては…最悪の場合、…口に咥えて止血をする…」
「やってくれるの?」
「………やむを得ない状況ならやるだろうな」
「やったっ」
「オイ!何してる!」
「え?これで指を…」
「わざとやる奴があるか!お前は一体何を考えている!?」
「だってリヴァイが…口を使って止血してくれるって言ったから…」
「ああ?」
どういう状況だ…?
ユーリアさんがわざと包丁で指を切ろうとして兵長が怒ってる…?何でだ…。
「…怪我しないと舐めてくれないでしょう?」
「………いや、意味が分からねぇ。自分を傷付けるような真似はするな」
「………」
「返事をしろ」
舐めてほしい…って事か?指を…兵長に?
ユーリアさんの構って主張がよく分からねぇ。何もそんな事要求しなくても十分構ってもらえてるだろ…。それともそれが
ユーリアさんが求めるイチャイチャする…とかいう事なんだろうか…。でも、いくら大好きな
ユーリアさんの望みでもあの潔癖症の兵長がそんな事出来るわけねぇよな。
「オイ新兵、こんなところに突っ立って何をやっている?」
「何かあったの?」
「あ…」
オルオさんとペトラさん…。調理場の前に立って盗み聞きしてたのバレた…。
「いや…実は、」
兵長と
ユーリアさんが…って言いかけたその時、部屋の中から
ユーリアさんの上擦った声が聞こえた。嘘だろ…まさか兵長、
「あっ……リヴァイ…?どうして…?」
「そんな理由で怪我されちゃ敵わねぇからな…」
「っ…、…ちょっと、恥ずかしい…」
「望んだのはお前だろ。…嫌なら今すぐやめる」
「…嫌じゃ、ない…。…吸って?もっと強く…」
「………っ」
「ん………、」
ユーリアさんの指を…舐めてるのか?…怪我させねぇ為…?確かに
ユーリアさんの考えってやべーもんな。舐めてもらいたいが為にわざと怪我するとか…。だから兵長は舐めりゃ気が済むだろうって思ったんだな。…だけどまさか兵長がそんな事するなんて…。…いくら潔癖症って言ってもやっぱ好きな人とはそういう事出来るのか…。
「中に兵長と
ユーリアさんが…。…兵長ってやっぱ
ユーリアさんの事大好きですよね………あれ?」
オルオさんとペトラさん、どうしたんだ?すげー顔赤い…。
「兵長…何で、よりによって調理場で………っ」
「絶対夕飯作る時思い出しちゃう…」
「え…?何をですか?」
「何をってお前決まってんだろ…大人の、そういう…そういう事だろ…っ」
「はい?」
「でも兵長にそういう事は自室でやってください、なんて言えるわけない…!」
「と…とりあえず行くぞペトラ…邪魔しちゃ悪いからな…」
「そうね…。…エレン、興味があるのも分かるけど盗み聞きはダメよ…」
「は、はい…すみません…」
先輩達に続いてその場を離れた。…確かに次調理場使う時、兵長が無駄に
ユーリアさんにちょっかい出してた事とか
ユーリアさんが兵長に指を舐めさせた事とか色々思い出しちまいそうだな。…早いとこ忘れる努力をしよう。
《兵長が嫁とイチャイチャしていて調理場が使いづらい件について》
Ende.