駆逐…してやる………ッ!!!
夢か、現実か…区別がつかない時がある。
巨人になれる事が分かってからは特に。
今オレは巨人化していて、目の前には多数の巨人がいる。
夢だろうが現実だろうが関係ない。目の前にいる巨人をただ駆逐するだけだ…!!
オレは朦朧とする意識の中で、ひたすら巨人のうなじに噛み付いた。
「きゃぁ…っ」
間近で聞こえたその声に、ハッと意識を取り戻した。
夢だった…。
そうだ…今は、
ユーリアさんに勉強を教わる為に部屋を訪ねていたんだった。
ユーリアさんが少し席を外している間に居眠りしちまったらしい。
目の前には人間のうなじ。その白い肌には赤い歯型がくっきりと付いている。
「……エレ…ン?」
「え………」
ユーリアさんが困ったようにオレを見る。その目には涙が溜まっていた。
体勢から察するに、椅子にかける
ユーリアさんをオレが後ろから襲ったらしい。…まずい。完全に寝ぼけていた…。
「すみません…!!巨人になって巨人を駆逐する夢を見ていて…!痛かったですよね!?本当にすみません!!」
ユーリアさんの首にかかる髪をよけうなじを見る。オレの歯型が消えているはずもなく、赤かったそれは一層濃いものへと変色していた…。…完全にやらかした…。
「
ユーリアさん…ごめんなさい!まさか痣になって残ったりしないよな…!?どうしたらいいんだ…っ。とりあえず…洗いましょう!オレがやります。洗面所に行きましょう!!」
オレの言葉が聞こえていないのか、
ユーリアさんは俯いたまま動こうとしない。
「
ユーリアさん…?」
「…黙って」
「えっ…」
体勢を変えないまま一言そう言った。
お…怒ってる…?
そりゃそうだ…。
オレの為にわざわざ時間割いてくれてんのに、居眠りして寝ぼけて噛み付くなんて……最低のクソ野郎じゃねぇか…。
普段温厚で優しい人が怒ると怖いって聞くけど…、怒っている事よりも嫌われる事の方が怖い…。オレが悪いんだけどな…。
「す…すみま…」
「今あなたへの仕返しを考えているから」
…し、仕返し………?
「貰ったものには礼をしろ、景物を添えてな。…リヴァイ兄貴の教訓よ」
「え…?」
「要するに、やられたら倍返ししろって事」
「は…はぁ…」
そう言って
ユーリアさんは考え込んだ。
…兵長、この人に何教えてんだ………。この人になんかあったら自らが手を下すくせに………。あ、オレ死ぬんじゃないかこれ………。
ユーリアさん……同じ事で手打ちにしてくれねぇかな…。
「あの…オレのうなじも噛んでいいんで、兵長には内緒にしていただけませんか……お願いします…!!」
「え?」
やっぱダメか…?
そもそも人なんか噛みたくないか…っ。くそ…どうすれば………。
「巨人になってしまわない?」
「…え?」
「私が噛むことで巨人になられたら困るわ。リヴァイに怒られてしまう」
「あ…それは大丈夫です。強い目的意識のうえで自傷行為をしなければ…。多分、人にやられても問題ないかと…」
「…そう、よかった」
そう言って立ち上がると
ユーリアさんはオレの正面に立ち肩に手を置いた。
「…お座り」
「っ…はい!!」
思わず床に正座したオレを
ユーリアさんは見下ろし、汚いわね。ソファーにかけてちょうだい。と言った。その言い方が冷たい気がして泣きたくなる。服が汚れたら困るのはあなたでしょう?そう言って立ち上がらせた。…やっぱり優しい。結局泣きたくなった。
ユーリアさんはオレのすぐ隣に体を密着させるようにして座った。いつも以上に…近い…っ。
白くて綺麗な手がオレの服を引っ張る。
「ぁぁああの…」
「服で隠れるところがいいから、ここにするわね」
ユーリアさんはそう言うとオレの鎖骨の下辺りを指でなぞった。服で隠れるところ…そんな気遣いに礼を言う余裕もなく、肌が粟立つのを感じたオレは強く目を瞑った。
硬いものが肌に触れる。
ユーリアさんの歯だ。噛む力は徐々に強まり、思わず声を上げる。
「いってぇ…っ。
ユーリアさん!何でゆっくり噛むんですか!?一思いにやってくださいよ!」
「何でって…その方が痛いでしょう?」
「痛いですよ!だから一気にやってください!」
「それでは仕返しの意味がないわ」
「っ…」
オレの胸の位置辺りにある
ユーリアさんの顔。上目遣いにオレを見る
ユーリアさんが妙に色っぽく感じてしまって…思わず目を背ける。
「あの…っ、どこまで強く噛んだら気が済むんですか?」
「血が出るまでに決まっているでしょう」
「冗談キツイですよ!」
「…先に噛み付いたのは誰?仕返しに噛み付いていいと言ったのはどの口?」
「でも…本当に痛いんですって…!」
「我慢しなさい」
…そう言われたら…もう何も言えない。
オレはまた強く目を閉じた。
さっきから何かおかしいんだよな…。体が…熱いっていうか…。
「倍返し…だから二回やるわね」
嘘だろ…っ
まだ血が出てないから今のも一回じゃねぇし…。本当に…ちょっと、辛い…っ。
「我慢…できるわよね?」
ユーリアさんは上目遣いで見ていて、決して睨んだりしているわけではなく怖い顔でもないのに、何故か有無を言わさない威圧感がある。
「はい…っ、できます…!」
「いい子ね…」
「で、でも…その前に、トイレに行かせてください!」
体が熱くて、…ぶっちゃけあそこが痛い…っ。
「あら……」
ユーリアさんはオレの下半身を見て目を丸めている。
「み…見ないでくださいよ…!」
「若いわね…」
「っ…もう許してください…」
「でも何で今…?あなた…もしかして痛くされるのが好きなの?」
「違いますよ!!あんたが近くにいるから…!!いい匂いすんですよ…!!」
「…いい匂い…?お菓子なんか持ってないけど…」
「そういうんじゃなくて…っ」
もういいから少し離れてほしい!
こんなところ兵長に見られでもしたら…っ!
………なんて思ったら嫌な予感がして、…こういう時は当たるんだよなぁ…。
恐る恐る扉の方に目を向けるとそこには…、………誰もいない。…よかった…。
安堵の溜息を吐いてふと窓際に置かれた椅子を見ると、いつの間にどうやって現れたのか、兵長が豪快に脚を組んで座っていた…。ホラーなんですけど………。
「兵長…どうやって…いつから…、………そこで、………何されて、る…んですか………?」
完全武装した兵長はおもむろに立ち上がると、ブレードを抜いて近づいて来た。体が硬直して動かない。それでも尚、
ユーリアさんの体温を感じている状況ではオレの下半身が冷める事はなく………。
《お前の肉を削いでいい正当な理由は》
…あるよな、エレン。分かるだろう…?
オレが悪いの…?………オレが悪いか………。
Ende.