これは一体…どういう状況だ…?
ユーリアが来ていると聞いて部屋の前まで来てみりゃ…中から聞こえたのは
ユーリアとエレンの声。
「エレン…」
「え…ちょ…
ユーリアさん…っ」
「私を見て…」
「は………、」
「目を逸らさないで…」
「…
ユーリア…さん…」
何してやがんだ…。
扉を少し開けて中の様子を確認してみりゃあずいぶんと距離が近いじゃねぇか…。
ユーリアに頭を撫でられているエレンは赤面している。
「…チッ、いつまでそうしてるつもりだ」
「へッ、兵長!?」
俺を見るやエレンは立ち上がり
ユーリアと距離をとる。
「あらリヴァイ…」
「掃除用具の片付けもせずにこんなところでお喋りとはずいぶん偉くなったもんだな、エレン」
「っ…す、すみません!今すぐに…!!」
「そうさせたのは私よリヴァイ。だからエレンを叱らないであげて」
「………」
「エレン…時間を奪ってしまってごめんなさいね。付き合ってくれてありがとう。嬉しかったわ」
「あ…い、いえ…。オレは何も…」
エレンに目をやると、顔を強張らせて視線だけを下に落とす。その額には汗が滲んでいた。
「じゃ、じゃあオレは作業に戻ります!失礼します!!」
扉の横に立つ俺に一礼するとその勢いで駆け出した。
「元気ね」
なんて言って笑っていやがる
ユーリア。
さっきまでエレンが座っていた場所に腰を掛けると
ユーリアは立ち上がった。
「美味しい紅茶を頂いたの。淹れてくるわね」
「いや、いい」
「え?」
俺の言葉に心底驚いたような顔をした
ユーリアは立ったまま俺を見下ろす。
「…座ったらどうだ。それとも、俺の隣じゃくつろげねぇか」
「…」
一瞬たじろいだ様だったが、すぐに「そんな事ないわ」と言い俺の隣に腰かけた。
「…エレンと何を話していた」
「…特に、何も…」
何も言わずに見つめ合ってたってか。なんだそりゃあ…。
「………エレンが可愛いわ」
「ぁあ?それは一体…どういう意味だ…」
「………あの子に少し…、似ているような気がして…」
あの子…?
「目が大きくて…、瞳の色が同じだわ…」
…あぁ…、…あいつと重ねてやがるのか………。
「思わず抱きしめたくなる…」
「やめろ。エレンは男だ。ファーランが泣くぞ。…それに、似ちゃいねぇよ。…イザベルの方が色が薄い」
「………でも、あの瞳が好きよ…。あの子を思い出させてくれる…あの色が好き。…綺麗な瞳だわ………」
「………」
いつもとは違う…悲しそうに笑うこいつを見たのは久しぶりだ。
…思わず目を逸らす。見てられねぇよ。そんな面は………。
あいつと重ねるのも、ガキを可愛がるのも勝手だが…エレンは駄目だ。
俺が
古城にいる理由を、こいつは忘れてやがる。
「…エレンと二人になる状況はなるべく避けろ」
「え?」
「同じ敷地内に俺がいても…だ」
「…どうして?」
「………」
「あの子が…巨人だから?」
「…そうだ」
「………」
「兵団の人間でもあいつと接触できるのは限られている。あいつの監視を命じられている以上、あいつが何を話し、何を考えるかを把握するのも仕事の内だと思っている」
「…」
「何があいつを刺激する事になるのか俺にもまだ分からん。だから迂闊に近づくな」
「エルヴィンに許可をとったわ」
「あ?」
「エレンが組織にとって貴重な人材だということは私にも分かるわ。だからエルヴィン……団長にちゃんとお願いしたのよ」
「………そんな話、俺は聞いてない」
「今日言おうと思ってたの」
「………」
「…エルヴィンの判断を信じないの?」
「………。………」
万が一、何かの拍子に巨人化したら…。
万が一、俺がその場にすぐに行けねぇ状況だったら?
…
ユーリアを失う事になる。…
ユーリアまで、巨人に奪われる事になる…。
「怖い顔…。貴方って心配性ね」
俺の目にかかる前髪をそっと避けながらそう言った。
「エレンは大丈夫よ。意志が強いわ。私はエレンも、エルヴィンの判断も、リヴァイ…貴方の力も信じてる。貴方がいれば、私は死なないわ」
「………」
「違う?」
「…違わねぇよ。…死なせはしねぇ。お前だけは…。あいつらと…ファーランとイザベルに誓った。お前だけは守り抜くと……、」
「うん……信じてる」
《彼らの為にも…》
お前を守る事、奴らとの約束を守る事、それは俺の責務であり…生きる意味だ。
Ende.