なんか…おっぱい邪魔だなぁ。重いし。………このナイフで削ぎ落とす…なんてできないわよね。痛いのは嫌だし…。
ナイフの刃を胸に向けていた事に驚いたらしいリヴァイがすごい勢いで私の手からナイフを取り上げた。
「わっ…びっくりした!」
「びっくりしたのはこっちだ!何やってやがる!?危ねぇだろうが!」
この人こんな大きな声出せるんだ…。…というかどうして私の部屋に…?ノックの音は聞こえなかったと思うけど…。それにこんなに早く帰って来るのも珍しい。
「呼んでも返事がねぇから何かと思って来て見りゃこのザマだ…お前は何を考えている?」
おっぱいが邪魔だからちょっと削げないかな?って思った……なんてアホみたいな事言えない………。
体ごと動かして顔を背けると両肩を強く掴まれリヴァイの方を向かせられた。びっくりして彼の顔を見たらとても…焦っているみたいな…不安そうにも見える複雑な表情をしていた。
「自分を傷付けるような真似はよせ…」
肩を掴む手に力が込められる。僅かに震えているようにも思えるけど…ちょっと…、
「痛い…、」
はっとしたように力を緩めたリヴァイは肩から手を滑らせて私の指先をそっと握った。…手が熱い。…私の手が冷えているだけかしら。
「…行くぞ」
「え…」
どこに…?って、多分兵団の本部かな。こんな早い時間に帰る事はないでしょうから、きっと何か用事があって抜け出して来たんだと思う。その合間に私のあんな行動を見てしまったからここへ一人残してまた仕事へ向かう事は出来ないと思ったのかな。
「ごめんなさい、大丈夫よ」
立ち止まって振り返ったリヴァイに真っ直ぐに見つめられる。こんなふうに目を見られる事って珍しいから…戸惑って逸らしてしまった。
ぐっと眉間に皺を寄せたリヴァイは何も言わずにまた私の手を引いて歩き出した…。
昼間の兵舎に人はいない。兵長が女を連れ込んでいるなんて噂が立ったら大変だから助かったわ。
ベッドに座るように言われて素直に従う。サイドテーブルにお茶やお菓子を置いてくれているけど、私の呼び掛けには反応してくれない。…本当は忙しくて私に構ってる時間なんかないのかもしれない。
彼を目で追っていた時にふと視界に入った…、あれって…ブレードのストック?すごい…初めて見た!立体機動装置やその刃って個人が管理するものじゃないと思ってたけど…磨いていたのかしら?鏡みたいにピッカピカだわ…。
「オイ…!」
触ってみたくて手を伸ばしたらまたすごい勢いで腕を掴まれてしまった…。まぁそうよね…せっかく綺麗にしたのに私の指紋が付くのは問題だわ…。
「お前…」
怒ってる………。どうしよう…こんなに怖い顔のリヴァイは久しぶりに見た…。目を逸らして俯いたら手を引かれてベッドに座るように誘導された。目を閉じて私の手を強く握っている…。何を考えているのかしら?数秒後、深く息を吐き出すとどこからかロープを引っ張り出してきた。
「悪く思うな」
「え…?」
手を…縛られてしまった…。こういう趣味があったのかしら?これではせっかく用意してもらったお茶やお菓子に届かない…。
「リヴァ…っ」
口にお菓子を捩じ込まれた…手が使えないから食べづらい。…けど美味しい。
「すぐ戻る。…大人しく待ってろ」
扉の閉まる音が妙に響き渡った。まさかリヴァイに拘束される日が来るとは…。兵士長が兵舎の自室で女を縛って監禁していると知れたら大事ね…。言われた通り大人しくしていましょう。
しばらくすると廊下を走るような音が聞こえてきた。それはこの部屋の前で止まると勢いよく扉を開けた。
「やぁ
ユーリア!やっぱりリヴァイに連れ込まれていたんだね!さっきちらっと見掛けてさぁ〜見間違いじゃなかった!実はあなたに折り入って相談が………」
「………」
「………」
手を拘束されている私の状況を見たハンジは時が止まったように固まっている。ああ…どうしましょう。リヴァイの重大な秘密が…歩くスピーカーにいけない趣味がバレてしまった…。
あら…?彼女の背後にリヴァイが…。ハンジの頭を鷲掴みにしたリヴァイはとても低い声で彼女の名前を呼んだ。
「ハンジ…お前のメガネは曇っているな。よく見えてねぇらしい。ここに
ユーリアはいない。そうだな?」
「………ははは…おかしいなぁ。どうして勘違いしてしまったんだろう?じゃあリヴァイ…”自宅”にいる彼女によろしく伝えておいてくれ」
「ああ。”自宅”にいるあいつにな」
”自宅”をとても強調している…。私はここにいない事になったみたいね。ハンジが何も見なかった事にして去った後、部屋に入って扉の鍵を閉めたリヴァイは真っ直ぐに私の前へ歩いてきた。
「腹は?」
「減ってない」
「便所は?」
「行きたくない」
「気分は?」
「良くない」
「…だろうな。縛られて喜ぶ変態じゃねぇ事くらい知っている」
隣に腰掛けたリヴァイは私の全身を見るように視線を動かした。何を考えているのかしら…。こんな状況の異性を見て悪くないとか思ってたらどうしよう…。
「あなたは…縛るのが好きなの?」
「………さぁな」
否定しない……これは私をからかっているのね…。からかわれたら…お返ししなきゃ。やられたらやり返せとはリヴァイ兄貴の教訓だもの。…ちょっと意地悪しちゃおう。
私はこの人が距離を詰めると硬直してしまう事を知っている。過剰に反応して避けたりなんてしない事を知っている。…うん、やっぱり。驚いたように目を見開くけど避けようとはしない。耳元に顔を近付けてわざと息がかかるように言ってあげたわ。囁くように「変態」って。ちょっとだけ低い声でね。
…目が合って…初めてからかった事を後悔した。…まずいと思った…。リヴァイも男性だって事…忘れてたわけじゃないけど…こんな顔をするとは思わなかった…。首を軽く掴まれて顔を少し上げさせられる。目を逸らせない…。…唇が…触れてしまいそう………。
「………チッ…」
舌打ちをして顔を背けたリヴァイはそのまま立ち上がった。
「お前のそれはどうにかならねぇのか」
それ…?
「…他人を信用し過ぎるな。身を滅ぼす事になる」
………そうね。何が刺激になるか分からないから、少し考えて行動しなきゃ…。
オイ、と呼ばれて彼を見上げたら指で口をこじ開けられた。な…何…っ?普通人の口に指を突っ込む?無理矢理開けた口にお菓子を詰めたリヴァイは目を細めて私を見下ろしている。お菓子は美味しいけど苦しい…。
「っ…けほっ!…乱暴しないで…」
「俺は教えなかったか?やられたらやり返せと」
「先に縛り付けてからかったのはあなたじゃない…仕返しに仕返しをしてどうするの…」
「仕返しの仕返しに仕返しするしかねぇだろうな」
「…覚悟があるの?」
「お前に更なる仕返しをされる覚悟があるかの方が問題だ」
「…ムカつく」
「それは良かった。俺が戻るまでに次の仕返しを考えておくんだな」
さっきまで余裕のない顔見せてたくせに何言ってるのよ…。まぁさっきので懲りたから異性の刺激になるような仕返しは出来ないけど…それを分かって言っているんだからムカつく…っ。もう仕返しをしたくなくなるような仕返しを考えなくては…。こういうのは私の方が得意なんだから…!
───
「ん………」
あれ…?いつの間に眠ってしまったのかしら…。窓の外はもうすっかり陽が落ちてしまっている。
「よぉ…起きたか」
「リヴァイ…」
ずっとベッドに座っていたの…?じゃあ私は…寝顔を見られていたという事かしら…。よだれとか垂れてない?大丈夫?口を手で拭ってみる。…うん、大丈夫そう!あ…そういえば手が使えるわ。縄を解いてくれたのね。
「いい仕返しは思い付いたか?」
「あ…うん!たくさん!」
「そうか」
「あなたの心が抉られるような事をたくさん思い付いたわ!」
「なら良かった」
「いや良くないと思うけど…?どうしてちょっと嬉しそうなの?」
嫌がらせをされるのが好きなのかしら…。変な人…。
リヴァイはサイドテーブルに手を伸ばすと置いてあった食事の乗ったトレーを私に差し出した。
「まだ少し温かい。…食っておけ」
「兵団で支給される食事を頂いていいの?」
「誰が咎めるって言うんだ」
「誰だろう…他の兵士達とか?」
「黙らせる事は簡単だ」
「怖い上司ね」
リヴァイに見つめられながら食事をするのはとても居心地がいいとは言えないけど、せっかくここまで運んでくれたのなら無駄には出来ないわね。お腹も減ってる事だし…。何気なく食事用のナイフに手を伸ばしたらその手を強く掴まれて驚いてしまった。
「持つ場所が違うだろうが…」
こわっ…。確かに刃の方を触ろうとしたけど、よっぽどぼーっとしてなければこんな物で怪我なんてしないわ…。心配性なんだから…。そもそもこの食事用のナイフって切れ味が悪いわよね。
「どうしてこういうのって切れ味が悪いの?」
「お前みたいな馬鹿が馬鹿な事に使わねぇようにだろ」
「………?」
どういう事…?
「お前はナイフの使い方を間違っている」
…もしかして…、昼間の事を言っているのかしら…?胸にナイフを向けていた…あれは別に何でもないんだけど…。…もしかして自殺でもすると思ったのかな?…だからここへ連れて来て自由を奪った…?
「あの…私、…おっぱいが大きいと思わない?」
「は………?」
「重くて邪魔なのよね…肩が凝るし…。それでちょっと…簡単に軽くする方法でもあったらなぁ~なんて………あれ?」
顔が少し…赤い?…揉んで見せたのがいけなかったのかな…?別に悪意があったわけじゃないんだけど…。自分で自分の胸を揉む人をどういう目で見ればいいのかなんて分かんないわよね…。
「ごめん…」
「やはり馬鹿じゃねぇか…」
「うん…」
「馬鹿なだけで自傷行為をするつもりはなかったんだな?」
「痛いのは嫌なので…」
「…何の意味もなかったという事だ」
「え?」
ロープの痕が赤く残った手首を優しく擦られる。…くすぐったい…。
「悪かったな…」
少し…辛そうな顔をしている…?どうして………。
………そっか………そうだわ。…この人は優しいんだ…。…いつでも守ってくれる。私を傷付けるような事はしない…。ずっとそうだった…。
「ごめんなさい…。………仕返し、してもいいのよ…?心配と迷惑を掛けた仕返し…」
「しねぇよ。…お前に振り回されるのは、悪ふざけに付き合うのは…趣味であり責務だからな」
やっぱり…そうなんだ…。やられたらやり返せと教えたくせに、私のイタズラに仕返しをしたのは今日が初めてだった。…でもあれも仕返しじゃなかったのね…。自分を傷付ける事を考えないように…意識を他に向けさせる為にわざと私を煽ったんだ。…おかげで私は…ムカつくって本当に思ってしまって、ムキになって仕返しの事ばかり考えていたわ。リヴァイの思惑通り他の事を考える余裕はなかった。…だから仕返しをいっぱい思い付いたって言った時に嬉しそうにしたのね。気を紛らわす事に成功したと思って安心したんだ…。
…無理矢理口に押し込まれたのと同じお菓子を手渡して目を見つめてみた。少し考えてから私のしてほしい事を察したらしいリヴァイは丁寧に包みを解いてそれを私の前に差し出した。…当然の事だけど改めて思った。どう頑張っても私はこの人には敵わないわ…。
《完全敗北》
ぶっきらぼうな思いやりと不器用な優しさに…この人のこういうところ、好きだなぁ…って思っちゃった。…でもなんか…リヴァイの方が私の事好きよね?私が思っているよりもずっとずっと大切にしてくれている気がするわ…。なんて…お菓子を食べさせてもらいながらそんな事を考えて小さく笑った───。
Ende.