ガチャンッ!
「っ…」
彼が死んだ──…彼から貰った、お気に入りのティーカップを割ってしまった瞬間、そう思った。
数日前、見送ったのは三人。
数日後、帰って来たのは一人だけ…。
地上の永住権を手にしてくる。
そう意気込んでいた彼を見送ってから、どれだけの時間が経ったのだろう…。
この地下街は変わらず薄暗く、私の心も暗くする。
「………」
目の前には、この世の終わりを見たような顔をした男が一人…。
「すまなかった。…俺が、選択を間違えなければ…」
「…謝ってはいけない。あなたは…悪くないのだから」
「…」
「自分を責めれば…許せるの?」
「…いや」
「ならやめて。…あなたが自分を責める事も後悔する事も…彼らは望まないわ」
一番辛いはずのあなたが謝るから、何て声をかけたらいいのか分からない。
あいにく私は、優しい言葉も慰めの言葉も持ち合わせてはいない…。
「………お前は…何故俺を責めない?俺は約束を破った。あいつらを守るというお前と交わした約束を…。…どの面下げて来やがったと、声を荒げて俺を責める権利をお前は持っている」
「…彼を………私からファーランを奪ったのは誰…?あなたなの?」
「…それも間違いじゃねぇ…」
「違う。巨人よ。…さっきも言ったでしょう…あなたは何も悪くないと…。私があなたを責めるのは筋違いだわ」
いくら言っても変わらない表情でテーブルの木目から目を逸らさない。そんな彼の頬を両手で包んで顔を上げさせる。
「リヴァイ…」
彼の少し驚いたような顔が滲む。目に溜まっていた涙は、見下ろした事で彼の顔に落ちてしまった。それは…リヴァイの涙であるかのように頬を伝っていく。
愛する彼を失った実感はまだない…。リヴァイの顔を見れば酷い最期だったのが伝わるけれど…私は見ていないから…。
見送る時、私は行ってらっしゃいと言ったのよ。さようならなんて言っていないわ…。リヴァイはこうして帰って来た…あの人もその内…いつもの調子でただいまって…帰って………っ、
「
ユーリア…、」
私を見上げるリヴァイの顔が歪んだ。
この人のこんな顔…初めて見た…。
…そんな顔を見せられたら…、私だけが不幸みたいに泣いているのが申し訳なくなる…。そうは思っても、涙は勝手に溢れてしまうのだけど…。
何か…今目の前にいるこの人に言える言葉は…、
今、思っている事は………、
「…リヴァイ…、………帰って来てくれて、ありがとう…」
無理矢理作った笑顔は、また彼の顔を歪めてしまった…。
…" 無敵のリヴァイ " が本当は寂しがりやな事を私達は知っていた…。…一人になってしまったこの人の…、優しくて不器用なこの人の傍にいてあげられるのはもう、私しかいない…。
………一人の友人としてこの人の支えになろうと…、彼らの分まで、この人の傍にいてあげようと…そっと心に誓った───。
─────
「帰って来てくれて、ありがとう…」
そう言って笑った
ユーリアをただ見上げた。…俺の頬を濡らすこの雫は、
ユーリアの涙か、それとも自分のものか…それを考える余裕はない。
《誓い》
ファーランの代わりが俺に務まるとは思えねぇが、こいつのもとに帰って来る事だけはできる。
こいつを一人にはしねぇと、どっかに捧げて空になっちまった胸に確かに誓った───。
Ende.