第57回壁外調査後―――…。
「リヴァイ…おかえりなさい」
「…あぁ」
彼が帰ってきた。いつも以上に酷い顔をして…。きっとまた…大切な仲間を失ったんだわ…。足を引きずっているようにも見える。
身も心も傷だらけ……。
そんな彼に、いつもと変わらない日常を送っていた私がかけられる言葉なんてない…。
「…」
気が抜けたようにただ座っている。瞳はどこを見ているのか分からない…。
いつものように紅茶を淹れて差し出しても、一向に手をつけようとしない。
「リヴァイ…」
「…」
表情には出さなくても、悲しんでいるのが分かる。辛そうな彼を見ていると心が抉られるようだわ…。
椅子に座る彼の横に膝を付いて屈んだ。
…そっと、彼の手に自分の手を重ねる。
温かい…。この手でどれだけのものを抱え、守ってきたのだろう…。伸ばしたこの手が掴みきれなかった…守りきれなかったものはどれだけ彼を苦しめただろう…。
「リヴァイ…、傍にいるわ。だから安心して…少し眠って…」
「………」
暗い瞳が私を映す。
目を覆いそうな黒髪を横に流してあげると、静かに瞳を閉じた。
「………帰って来てくれて、ありがとう」
彼の手をとり、そっと甲に口付けをした…。
彼は瞳を閉じたまま、手を握り返してきた。強く…それは痛いくらいに。
…その手は微かに震えていた―。
―――翌日、彼の手には綺麗な花束が握られていた。
「…
ユーリア。…何か、縛るものはあるか」
「…リボンならあるわ。…四色…」
「………丁度いい。こいつを四つに分けて束ねてくれるか…」
「…分かったわ」
色や量が偏らないように気を付けながら四つに分け、用意したリボンを手に取る。
「…ペトラは女の子だからピンク色…。淡くて綺麗なコスモスの色…。あの子の唇も、こんな可愛らしい色をしていたわ…」
「………」
「エルドは黄色。冷静に状況を見据える事の出来る、頼りになる先輩…。人当たりがいいからこの明るい色がよく似合うわ」
一人一人を思い出していると涙が溢れてしまいそうになる。…一番辛いはずの、リヴァイの前で私が泣くわけにはいかないのに…。
「っ、………グンタは緑。真面目で忠実な兵士の鑑…。顔はちょっと怖いけど優しいところはあなたに少し似てるわね…。…だから、この優しい色がいい…」
「………」
「オルオは青がいいわ。知っている?あなたに憧れてよく真似をしていたのよ。チーム一の実績がありながらも、ユーモアがある素敵な子…」
泣き顔を見せるわけにはいかないから、…彼の顔を見る事ができない。
…普段、めったに触れてくれないのに…肩を抱いてくれた彼の優しさにも、涙が出てしまった。本当に泣きたいのは彼の方なのに、…慰めてあげなきゃいけないのは私の方なのに…。
…あの子達は、この人の優しさに気付いていたかしら…?きっと知っていたわよね。…だってみんな…リヴァイの事、大好きだったもんね。
「いい子達はね…神様も傍に置きたくて、早くに天に召されてしまうのよ…。…みんな、笑っているかしら…」
「………ああ。もう…息が詰まるような、クソみてぇな事はねぇだろうからな。全員一緒に、アホ面で笑ってるはずだ…。だから、お前も笑え。…笑って見送ってくれ」
目に溜まった涙は、頷いた勢いで落ち 花弁を濡らしてしまった―。
《親愛なる同志達よ》
天に召された彼の同志達よ。
もう苦しくはありませんか?
痛いところはありませんか?
彼を慕ってくれてありがとう。
どうか…これからも彼を見守ってあげて。
あなた達が安らかに眠れる事を心より願っています。
Ende.