何か知らんが気に食わない
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「あ………」
ほんの一瞬目を離した隙にミエーレが香水と性格がキツそうな女に足を引っ掛けられて転ばされていた。どういう状況なんだ?
「…?………??」
ミエーレ本人も状況が飲み込めてないらしいな。倒れ込んだまま首を傾げている。
「だっさ。何であんたみたいなのがあの人の隣を歩いてるわけ?」
偉そうに腕を組んでミエーレを見下ろしている女……どうせプロシュートが適当に引っ掛けた女の一人だろうな。自分が使い捨てだという自覚がないばかりにミエーレに突っかかっている…。ディ・モールト……良い。ああいう女はドラッグにも手を出しているに違いない。いい母親を見つけたぜ!
「何とか言いなさいよ」
「あ、あの………」
ミエーレ…やられっぱなしで何をやっているんだ?スタンドが見えるって事はスタンド使いだろう。自分の力で自分を貶める相手をぶっ殺すくらいの気概を見せなくちゃあ成長出来ないぜ…。
「…チッ」
「あ………」
徐々に人の視線が集まって来た事に舌打ちをした女はミエーレに背を向け歩き出した。憂さ晴らしに転ばせただけか?幼稚だな。オレの真横を通るのか。ちょうどいい、スリは得意じゃあないが生年月日と血液型が分かるものをくすねなきゃあな。携帯でいいか。データを解析して個人情報を抜き出すなんて事は簡単だからな。ベイビィを使うまでもなく追跡ができる。
「…大丈夫か?ミエーレ」
「メローネ………追い掛けていたお姉さんとはお話出来ましたか?」
それは…、この私を放っておいて追い掛けた女はどうだったんだ?って皮肉……じゃあないだろうな。こいつに皮肉を言えるだけの知能はない。
「君のおかげでもっといい女を見つけたぜ」
「わたしの…?それは、よかったです」
差し伸べたオレの手に乗せられたミエーレの小さな手には擦り傷が出来ている。…転んだ拍子に手をついたせいだろうな。…膝も擦りむけて血が出ている。
「膝、舐めてもいいかい?」
「え………あっ、た、大変………プロシュートにもらったタイツに穴が………」
「大変なのはタイツなんかよりも膝から血が出ている事だと思うんだが」
「どうしよう……縫ったら直る?でもわたし縫い物できないし…針は危ないからきっと持たせてもらえない……ど、どうしたら………」
「…痛くないのか?」
「何がですか?」
「………いや、」
膝を擦りむいた事はどうだっていいんだな。こいつにとって重要で嫌なのはプロシュートにもらった服が汚れる事であって、見知らぬ女に怪我を負わされた事や血が出ている事は大した事じゃあないらしい。
「………そんな事じゃあダメだぜミエーレ。やられたらやり返すべきだ。あの女を追跡しよう。君が君の能力を使ってちゃんと仕返しをするんだ」
「え?な、何のお話ですか?メローネ…顔が怖いです…」
「相手に悪意を向けられたら怒っていいって話さ。いきなり転ばされて頭に来なかったのか?」
「え………あ、いえ………あの人の隣を…って言ってたけど、あの人って誰だろう?って思って………」
「疑問だけで怒りはないのか………はぁ…。これだから君はマンモーナなんだぜ…」
「す、すみません………」
仕方ない、とりあえずさっきの女はオレが秘密裏に始末しておくか。しかしこんなマンモーナが一体どんなスタンドを見せるのか気になるな。
「あの…メローネ、プロシュートとの待ち合わせ場所まだですか?」
「ああ…そこの角を曲がった辺りだ」
「ではここで大丈夫ですよ。送ってくれてありがとうございました」
「いや…責任を持って最後まで送り届けるぜ。送ってやれってのはリーダーの命令だからな」
それにまた目を離したら何が起こるか分からない。こいつは不幸体質ってやつなのか何かと問題に巻き込まれやすいからな。プロシュートだってもう居るはずだがいない可能性だってなくはない。確実にプロシュートに手渡さないと後で誰に何を言われるか分かったもんじゃあないしな。
「………あ、プロシュー………」
指定場所に立つプロシュートは何やら女と揉めているようだ。ミエーレを待つ間に逆ナンでもされたのか?…いや、会話の内容はよく聞こえないが女の態度からして初対面じゃあなさそうだ。…また過去に引っ掛けた女か?まったく、ミエーレの不幸の元凶はプロシュートじゃあないのか…。
「………、」
「寄るのを躊躇ったのは賢い選択だぜミエーレ。首突っ込んでも厄介なだけだからな。あの女が去るまで待とう」
「はい…」
プロシュートの奴…相手にする気がないって事をあからさまに態度に出すから女が逆上してるんじゃあないのか…。しかし気の強い女だな……あー、バッグを投げ付けて…手を挙げたぞ!あれはいいビンタを繰り出すに違いない!
「………、」
打たれてやったぜ、気が済んだならもう行きな。化粧が崩れてひでぇ顔だぜ。…って言っただろうな、口の動きと表情から分かる。
っ………なんだ?この背筋が凍るような嫌な寒気は…。スタンド攻撃か…!?
な…何か見えるな。黒っぽい…手のような何かだ…それがプロシュートの頬を叩いた女の首を締め上げている。同時に黒い顔のような形のものが女の耳元で何かを囁いているんじゃあないか?オレにはそう見えるが…何を言っているんだ?
…一頻りもがき苦しんだ女は何かに取り憑かれたように奇妙な歩き方で近寄って来た。…気味が悪いな…一体何が起こったんだ?
「ミエーレ、こっちへ来い。変な女が近付いてくる…」
「………」
「…オイ?」
…様子がおかしい。目が据わっている。怒っているのか…?プロシュートを打った女に対して…?変わらず女に纏わり付いている黒っぽい何かは………まさかミエーレのスタンド…なのか?だとしたら怒りの感情から無意識的に使っているようだ…なんて危険な奴なんだ。
ミエーレの横まで来ると膝から崩れるようにして転んだ女。見向きもしないミエーレは一言何かを呟いた。それを聞いてか聞かずか…転んだ女は不自然な体の動きで起き上がると奇声を上げて走り去って行った…。
「ミエーレ!」
プロシュートの声に呼ばれてハッとしたミエーレはいつもの様子を取り戻したようだ。一点を見つめ異様な空気を纏っていたのが嘘のように、いつもの間抜けなミエーレの顔に戻っている。………一体何だったんだ…?
「ミエーレミエーレ、ミエーレミエーレミエーレよォ〜!誰彼構わず襲ってたんじゃあおめーの身が持たねぇだろうが!」
襲った…?やはりさっきのはこいつのスタンド能力…!
「襲ってなんてないですよ……ただあなたのほっぺを叩いたから……溺れて死んじゃえって思っただけです」
「…ったく、おめーはいつもそうだな…。オレが誰に何をされようがおめーには関係ねぇってのによォ…」
「関係…あります!…嫌なんです。プロシュートがひどい事されるの…。胸が苦しくなるんです…。あなたにひどい事する人は…許せないです」
「分かった分かった、落ち着け…オレのミエーレ。悪かったな、ダセーとこ見せてよォ」
「ん……いえ、大丈夫ですか?…ほっぺ、痛い?」
「痛ぇ訳ねぇだろ、この程度。…だが冷やさなくちゃあな?手ぇ貸しな。おめーの手はいつも冷てぇがオレはそれが気に入ってんだぜ…」
「ちゃんとタオルで冷やさなくては!早くお家に帰りましょう」
「…はぁ…分かってねぇなァマンモーナ…」
「え?」
「何でもねぇよ。…あ?オイおめー!転んだのか!?膝すり剥いてんじゃあねぇか!じっとしてな、消毒してやる!」
消毒液持ち歩いてるのか…?ガーゼやら絆創膏やら色々出て来るな…四次元スーツかこいつの服は。この程度の怪我は珍しくないんだろうな…。不注意ならまだ良いが今日のように怪我させられてんじゃあねぇかと思うと心配だな。プロシュートが過保護になるのも頷ける。
…しかし彼女の能力によって人が一人まともじゃなくなったってのに、それには触れないのか?…プロシュートの奴、仕事柄そういうのに慣れてるからってそれはどうなんだ。少しは気にするべきじゃあないのか?ミエーレが一般人にスタンド攻撃を仕掛けたんだぞ?
「オ、オイ…」
「あ?…何だ、いたのかメローネ」
「ずっと居たぜ。ミエーレをここまで連れて来てやったんだからな」
「礼でも待ってるってか?恩着せがましいんじゃあねぇのか、ええ?」
「何で喧嘩腰なんだ?まぁいい…こいつのスタンド能力について知っているんだろ?この目で見ちまったんだ、詳しく教えてくれ」
「スタンド?何言ってんだおめー」
「は?」
「このマンモーナがスタンド使いだって?本気じゃあねぇよな?」
「はあ?さっき"襲った"って言わなかったか?お前に危害を加えた女に対してミエーレがスタンドで襲ったって事だろ?実際にオレが見てもそうだった」
「ああ?」
何だ、こいつの反応は…本気で訳が分からねぇと言うような顔だ。訳が分からねぇのはこっちだが?
「何を見たか知らねぇがこいつはスタンド使いなんかじゃあねぇ」
「ならさっきのは何だ?お前は自分の目の前にいた女の奇妙な行動をどう思っている?"襲った"ってのはどういう意味だ?」
「チッ…めんどくせぇな。こいつはスタンドが見える程に霊感ってもんが強いだけだ。スタンド以外のオレ達にすら見えねぇもんまで見えちまう」
霊感?本気で言ってるのか…。スタンドはスタンド使いにしか見えないんじゃあないのか…?
「そのスタンド以外の"見えちまうもん"に人を襲わせる事が稀にあるってだけの話だ。スタンドとは関係ねぇ」
「………いやだからそれがスタンド能力だろ!?」
「違ぇっつってんだろ!話の分からねぇ奴だな!」
「誰が聞いたってどう考えたってそれがこいつの能力だろうが!」
「もういい!時間の無駄だ!帰るぜミエーレ!」
「あ……、えっと、メローネ………」
プロシュートに手を引かれて歩き出したが、どこか気まずそうにオレの様子をうかがっている。…お前の話だが別にお前が悪い訳じゃあないんだからそんな顔でこっちを見るな。手を振って見せると小さく手を振り返してきた。…能力の事は明日にでもミエーレ本人に聞けばいい。
…プロシュートの奴は本気で言っているらしいな。多分だが精神力の問題か?不安定で脆いマンモーナにスタンドを操れるだけの精神力なんかねぇから有り得ないと決め付けている…。だが実際に発現しているんだから精神の弱さからもスタンドは生まれると思っていいって事になる。精神的才能に基づいていると考えればミエーレはまだまだ成長出来るんじゃあないか?興味深いな、ますます…気になるぜ。
───後日、近くの川から女の遺体が上がったというニュースを耳にした。一見自殺のようだが手足がない状態だったらしい。日時と特徴から察するにあの夜の女の可能性が高いが…「溺れて死んじゃえって思った」…そう言っていたよな?偶然…か?それとも………、
「なぁ、ミエーレ…この間の女に"溺れて死ね"以外に何か思ったかい?」
「え……この間の女……」
「プロシュートをひっ叩いた女だよ」
「ああ………、………手足、取れちゃえば良いのにって思いました。二度とプロシュートに近付けないように。二度とプロシュートに手を挙げられないように」
「…ははっ。ディ・モールト…」
暗殺者に一番向かないこいつの能力が一番暗殺向きじゃあないか。面白いな。だが強い殺意が芽生えるのはプロシュートに何らかの危害を加えた奴に対してだけなんだろうな。汎用性は低いし精神が未熟だから自分でコントロールも上手く出来ないだろう。こいつの不幸体質はスタンドの暴走から来るものだとも考えられる。
「ミエーレ…強く成長するんだ。自分の為にな」
「ん………はい……、」
プロシュートの為じゃあなく自分の為に…だ。自分が何かされても怒らないこいつが、プロシュートの為なら人を殺す程に感情を剥き出しにする。不幸を取り巻きプロシュートの為だけにその能力を発動させる…。あのプロシュートもここまで献身的な女は初めてだろうな。それに気付いているのかは疑問だが。…いや気付いている訳ないか。ミエーレのスタンドの存在すら信じてないんだからな…。
「お前、ミエーレを大切にしてやった方がいいぜ?お前が思っている以上にお前に尽くしているんだからな」
「お前に言われるまでもねぇ」
「いや、お前は知らないだろう。彼女がどんな時に殺意が芽生えるほど憤るのか。そして取り巻く不幸がどれほど不便であるかも。たった数分一人でいるだけで何かに危害を加えられるんだぜ?お前はもう少し彼女の為に行動を…」
「ザ・グレイトフル・デッド」
「何でだ…ッ」
《何か知らんが気に食わない》
そんな理不尽な理由で枯らされる日が週に4回程あるオレも不幸を取り巻いているのか?…いや、オレ達の不幸の元凶はプロシュートじゃあねぇか…。気に食わないはこっちのセリフだぜ…クソ…このダボ野郎が…。
Fine.
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