観察対象と眠れない夜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「オイ、ミエーレ…」
地を這うような低い声で名前を呼ばれビクッと肩を揺らしたミエーレは恐る恐る彼の方を向くように寝返りを打った。
暗がりの中で目を凝らしようやく確認できたプロシュートの顔が不機嫌そうに歪められている事に気付き、また萎縮したミエーレは掠れたような声で小さく返事をした。
「はい………?」
「オメーどういうつもりだ?モゾモゾモゾモゾ隣で動くんじゃあねぇ。鬱陶しくて寝られやしねぇぞ」
同じベッドに入って数時間が経つが、中々寝付けず寝返りばかり打っていたミエーレが気になって眠れないらしい。プロシュートの威圧感に怯えたように唇を震わせて返答を考える。
「ぁ…あの……えっと、」
出かかったミエーレの言葉はプロシュートに服を掴まれた事に驚いて引っ込んでしまった。目を見開いて手際よく外されていく胸元のボタンに視線を落とす。
「ある程度疲れりゃ眠れるぜ。悪いようにはしねぇから安心しな」
「………、」
肌を滑る冷たい手、ねっとりと這う舌の熱、細く柔らかい金色の髪が掠める擽ったさにすら眉一つ動かさないミエーレ。何の反応も見せず息を乱す様子もない彼女を気にしつつも手を休める事のなかったプロシュートだが、経験上十分と言えるほどの愛撫を施しても伸ばした手の先に湿り気が感じられなかった事で体を離した。
「……………おまえ不感症か?」
「あ………い、いえ…緊張しているだけだと思うんですが………」
「ここまでやって無反応の女は初めてだ…」
「………すみません…。………ずっと…何も考えないように脳を、何も感じないように心を…殺す事ばかりしてきたので…癖になっているんだと思います………」
「……………」
「…ローションありますか?なければ調理用の油でもいいですよ……前戯は無駄なのでここだけ使ってください…」
「………はあ………もういい」
「………、」
「オメーじゃなきゃダメな理由はねぇ。…もう寝ろ」
「え………でも………」
「同じ事を二度言わせるんじゃあねぇぞ」
「す…すみません………」
「………ああ、眠れねぇんだったな」
「………すみません………」
「何かあんのか?眠れねぇ理由がよ」
「………、………あの、私…、こんなふうに温かいお布団で…誰かと一緒に寝た事がなくて………う、嬉しい…です………」
「途中までやられて良くそんな事が言えるな」
「本心です………、」
「…そうかよ」
彼女の今までの生活を想像すると、ベッドで寝るというごく当たり前の事に喜びを感じるのも不思議ではないのかも知れない。人としての扱いを受けていなかったと見える彼女が不憫に思えて仕方がないらしいプロシュートは、眉間に皺を寄せると徐ろに手を伸ばした。険しい顔とは裏腹に優しい手付きで頭を撫でられ、徐々にミエーレの肩の力が抜けていく。
「だがそれが理由じゃねぇだろ。本当の理由は何なんだ」
優しい手付きのおかげか声色も柔らかいものに感じられる。彼の目を見据えていたミエーレは少し顔を背けて視線を逸らすと口を開いた。
「私……ずっと玩具だったんです…。何度も…壊れそうなくらい、酷い使い方をされていました…」
「……………」
「………心地良い眠りについたのは…いつが最後だったか覚えていません。いつも…気絶してそのまま………だから、自分から寝る…っていう事を…忘れてしまったのかも知れません………」
思い出したくない事を思い出させて、言いたくない事を言わせているのではないか。僅かに瞳を揺らしたプロシュートはそんな事を考えている自分に驚き怪訝そうな顔を作った。自分は純粋な心配や気遣いができる人間じゃなかったはずだ。じゃあこれは何かって言ったら…ただの哀れみだろう。…そう自分で納得したプロシュートはいつの間にか止まっていた手を動かしてまた優しく彼女の頭を撫でた。
「ミエーレよォ…そんな事じゃあ困るぜ。誰が困るか?おまえ自身だ。寝たくなきゃ寝なくていい。だが寝る努力はしろ」
「努力………?」
「目ぇ閉じな」
「はい………」
素直に従う彼女を見て目を細めたプロシュートは整えた掛布団の上にそっと手を添えた。心臓の位置を一定のリズムで軽く叩く。子供を寝かし付けるような優しい手付きに安心感を覚えたミエーレは小さく息を吐いた。
「プロシュート………」
「…何だ」
「………、………あなただけです…最後までしなかったのは……無理矢理しなかったのは………あなただけです。………ありがとうプロシュート。あなたといれば私は…自分を殺さずに済むのかも知れません………」
「……………。………努力を怠るんじゃあねぇぞマンモーナ」
「はい、ごめんなさい………。………おやすみなさい…」
「…ああ」
─────
「おはようございます兄貴!プロシュート兄貴ッ!」
「…ペッシ…」
「え?」
「ペッシペッシペッシペッシ!」
「な…何怒ってんです!?」
「あれをやってちゃあ寝られねぇ!だがあれを止めてモゾモゾと隣で動かれても眠れねぇ!」
「へ…ッ?よ、よく分かんねぇけど…隣で寝なきゃいいんじゃねーかな…?」
「あ"あ"ッ!?」
「すっすまねぇ!余計な事………ッ」
「チッ!まったくどいつもこいつも手が掛かりやがるこのマンモーニがッ!!」
「ええっ!?ご、ごめんよ兄貴ィ!!…オ、オレ一体何をやらかしちまったんだ…?」
プロシュート兄ィの寝不足による八つ当たりは数日間続いた──。
《観察対象と眠れない夜》
Fine.
1/1ページ