恋のメッセージ
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《あなたが残したこの世界で》その後。
「…ひっ…」
…ジョルノのクソ野郎が、嫌がらせをしてきやがる…。
「うおっ!き、キモォ!!何だこれ、おいミエーレ何処だァ?いねぇのー?」
この間抜けな声は、ミスタ!
「こっち…!ベッドの上です」
「おー…」
部屋中を飛び回る無数の蝶々を手で払いながら近付いて来たミスタに状況の説明を求められたけど私の方が知りたい。10や20ではない…もっともっと多いこの蝶々は、きっと…いや絶対ジョルノの能力で作られたに違いない。昨夜寝る時はいなかったし、明け方近くに部屋に入ってきて「ゴールド・エクスペリエンス!」って言ってた気がする。
「ジョルノの野郎です、絶対」
「だろうな…」
「生命を作り出せるって、神様にしか許されてないですよね!?何なんですか!」
「神様なんじゃあねぇの?」
「クソがっ!」
「八つ当たりすんなよ」
「どうしてこんな嫌がらせを…っ」
「嫌がらせ?」
ミスタならともかくジョルノの野郎にこんな事をされる理由はない。勝手に暗殺計画を練っているだけで私から嫌がらせをした覚えはないのだから。ミスタのように分かりやすい弱点がないし、何を考えているのか分からないから距離を置いている。訳分かんない奴ほど怖いものはない…。
「嫌がらせじゃあねぇだろ?」
「はあ?許可なく勝手に部屋に入りおぞましい数の蝶々を室内に放つ事のどこが嫌がらせじゃあねぇって?」
「昨日の事だろ?覚えてねぇのかよ。おめーが好きだって言ったんだぜ、蝶々がよー」
蝶々が好き?そんな事…言った?ジョルノに?
「何に興味があるのかって聞いたジョルノに、窓の外飛んでた蝶指さして"あれとか好き"って言ってたぜ?」
「全然覚えてない」
「記憶障害かよ…医者に診てもらった方がいいんじゃあねぇの」
「………プロシュートに言われた事があります。人と話した事を全く覚えていないのはおめーがその喋った奴に興味ねぇからだって。私、ジョルノに興味がなさ過ぎて会話の内容を微塵も覚えてないのです」
「おいおい、おめーが好きだって言ったもんを出してやったあいつに対して酷くねぇ?可哀想だろーが、まだ15のガキなんだぜあいつはよ〜」
「いえ、そもそも奴が私の好きなものを出す意味が分からないです」
「そりゃあおめー………いや~まぁー何つーかよォ~そこは察してやろうぜ~」
「薄ら笑いがきめぇので出て行ってもらえます?」
「マジで可愛くねぇんだけどこいつッ!!」
───別な日、
「もういらない………寒い………」
ジョルノの野郎の嫌がらせが続いている………。
「飽きました。もう三日も食後のドルチェがかき氷です。三食全部。どうしてこんな………」
冷たいお菓子は好きだけど一日一個までってプロシュートは言っていた。体が冷えるからって…。ギアッチョだって冷たいもんばっかじゃあ腹壊すって心配して氷のお菓子を毎日くれる事はなかったのに…。
「こんなにずっと氷ばかり食べていたら氷人間になってしまいます!」
「おめーが好きだって言ったんだろ~?美味いグラニータの店すげーチェックしてたぜ?健気じゃあねぇか。その気持ちは酌んでやれよな~」
「嫌がらせをする奴の気持ちを酌んで何になるんですか!つーか気持ちを酌むって何だァ~?何で理解するのが難しい人の気持ちなんてものを酌まなきゃならないんだよっ!その言い回し意味分かんねぇぜクソッ!クソォッ!!」
「お…落ち着けって…。意味分かんねぇのはおめーの方だぜ。そのキレ方直した方いいよ?」
「うるっせぇぞこのビチグソ野郎がァッ!!」
「八つ当たりしてんじゃあねぇぞッ!」
「やんのかァ!?ああん!?」
「そんな声で凄んだって可愛いだけだぜ!表出な!室内で愛銃出すとボスが怒るんでね!!」
「組織の家畜が…ッ!!」
「…っておめー唇真っ青じゃあねぇか!顔色悪!」
「寒いのに氷ばかり食べてたら顔色だって悪くなりますよそりゃあ!」
「ったくしょうがねぇな~…オレのココア分けてやるから飲め。まだあったけぇからよ」
「ココア………?………程よくぬるい。………リゾット…、…私のリーダーが、…二人きりになるとよくミルクココアを作ってくれたんです。…火傷したら大変だからって…少し冷まして………」
「……………、…へぇ…いい思い出だな」
「………リーダーのココアの方が5憶兆倍美味しいです」
「そーかよ!………そういうのよォ~…ジョルノにも言ってやれよ」
「え?」
「喜ぶと思うぜ」
「ええ…?」
「お、噂をすれば………よぉジョルノ!お疲れさん!」
「ああ…ミスタ…。………ミエーレ、…今日のドルチェは気に入りましたか?」
「……………、……………ギアッチョが作ってくれる方が5憶兆倍美味しいです」
「オイ!オメーよくそんな事が言えるな!?」
「はあ?おまえが言えって言ったんじゃあないですか!!」
「はああッ!?………、そっちじゃあねぇよ!オレにするようなちょっとした話をしろって言ったの!!」
「そんな事絶対に言ってないです!!」
「話の流れで分かんだろ普通ッ!!」
「普通!?普通って何だァ!?どこの基準だ誰の匙加減だっ あ”あ!?」
「あーもうめんどくせぇ!!助けてくれジョルノ!…あれ?ジョルノ~?………、あーあー…ほらオメーが他の男と比べるから拗ねて行っちまったじゃあねぇか!どうすんだ!謝って来い!」
「普通ってのは人それぞれその時々で違うもんだよなァ~!?ええ~!?」
「聞いてねぇ!クソーもうめんどくせぇー…」
─────
「………ミエーレ」
ジョルノ………また何か嫌がらせをしに………?
「…気分はどうですか?」
「あなたが来るまでは悪くなかったです」
「そうですか」
「何か用でも?」
「…これを」
………花………。やっぱりまた嫌がらせをしに来たんじゃあないですか。
この部屋に飾られている花は全てジョルノが持って来たもの。お花は綺麗だから好きだけど、この人がくれるのはやっぱり嫌がらせの類でしかない。…その花々に込められる意味…花言葉は「希望」「明るい未来」「新しい光」…そんな明るいものばかりだから。私に無いものばっかり。全て…当て付け。
いらないといくら言っても勝手に花瓶に活けていく。一体この人は何を考えているの…?
「………明日、一日休みを取ったんです。…出掛けませんか。少し遠くに、…二人で」
「………二人?」
何故?二人でいて何を話せば?今この数分ですら気まずさを感じているのに。
「………、気分転換にどうかと。他意はありません」
他意……隠された別の意味はないと。それは嘘ですよ。だって………、
「今持って来たその花、意味は何ですか?」
「花言葉ですか?…"幸福が訪れる"ですよ」
ほらまた…。遠回しに皮肉って来やがる。私に幸福など一生訪れないのに。全てを奪った張本人が…それを一番分かっているくせに。…嫌な奴。
こいつにとって私は嫌がらせをするくらい好かない相手。それなのに休みの日に時間を充てるのは、私の機嫌を取らなくちゃあいけないから。機嫌を取って少しでも「ぶっ殺す」って思いを抑えさせたいんでしょう。私が恨みを持って「殺す」と思えば思うほどに、お前の意識は死に向かう。私のスタンド能力で、無意識のうちに死に近付く選択をしてしまう。だから…。…気分転換に、という建て前の裏にご機嫌取りがある。これを他意がないとは言わない。
「どうして嘘を…」
「嘘…?…ぼくが君に嘘の花言葉を教えるメリットがどこに?」
花言葉の話じゃないよ…。
「…チッ。おまえなんか死体の指を口の中に入れられてしまえばいいのに」
「………、………ハハ…もう二度と御免ですね、あの拷問は…」
「え?あるんですか?そんな経験が…」
「彼は何だろうとぼくの口の中に入れる事ができると言っていた。汗の味で嘘をついているかどうか分かるとも」
「汗の味とは」
「彼がいたら今ぼくが嘘を言ったかどうか証明できるのに」
「証明はされない。私がその彼を信じないから」
「…それもそうですね」
………なんか…機嫌が良い?…表情が柔らかい…ムカつく。早く出て行ってほしい。
「いつまでここに居るつもりですか?」
「…まだ返事を聞いていないので」
明日出掛けるかどうかの返事?………外には出たい…。…でもこいつと二人は嫌…。息が詰まる。
「………ミスタも一緒なら」
「……………、」
は?今ちょっとむっとした?…ムカついてるのはこっちですけど?相変わらず何を考えているのか分からない。…外でどんな嫌がらせをされるか分からないからいざという時の為にミスタには傍にいてほしい。あのガタイなら弾除けくらいにはできそう。
「───分かりました」
─────
「おおーい、ちょ…ミエーレさんよォ~」
「は?何ですか気持ち悪い…臭そうなので寄らないでください」
「オイおめー!男子に臭そうは禁句だぜ!?女子の些細なそれが心にどれほどの傷を負うと思ってんだ!!」
「良い事を聞きました。グラッツェ ミスタ。ジョルノの野郎に言って来よ~」
「可哀想だからやめてぇッ!?」
「うるさいなぁ…で、何?」
「こいつ…心に悪魔を宿しているとしか思えねぇ…!」
「用がねぇなら呼び止めるんじゃあねぇですよ」
「用がなきゃおめーみたいなの呼び止めるかっての!!チッ…ったくよォ、あんた…せっかくジョルノが勇気出してデー…トじゃなくて…あー…、…気ぃ遣って遠出しようって言ったのに断っただろ」
「二人きりは嫌だと思っただけ。ミスタ、てめぇも行くなら行きます」
「何で?もしかしてお前…オレの事好きなの?」
「きっしょ」
「……………」
「ジョルノの野郎にどんな嫌がらせをされるか分かりませんからね。盾が必要かと」
「………一回も嫌がらせなんかされた事ねぇのに何を警戒してんだよ…あと人を盾にしようと目論むな」
「はあ?これまでの行動が嫌がらせじゃあなかったら何だって言うん………」
…そう言えば…、…私に心の底から「ぶっ殺す」と思わせない為に気に入られようとしているなら最初から嫌がらせなんてしない方がいいのでは…?嫌がらせをしておきながらわざわざ休みの日に時間を割いてご機嫌取りをするって…行動が矛盾している。何を考えているのか分からないジョルノの事だから矛盾するのも仕方ない…?でも…その矛盾は奴が最も嫌う”無駄”に繋がる…。それは…納得いかない。
「…ジョルノはどういうつもりですか?」
「どういうって………あんたも結構鈍いって言うか…あんま経験ねぇのな。普通の女だったら察して舞い上がると思うぜ?」
「普通…?普通ってよォ~…辞書引いたら一般的にとかありふれたものとか書いてあるよなァア~?一般って誰の事だよ?ありふれたものってどこにあんだよ!?なァア~ッ!?」
「地雷踏んじまっためんどくせェーッ!落ち着け!どうどう!あ、ほら!おめーの好きなチョコラータ!持っててよかったぜ~」
「ちょこらーた…」
「二重人格かァ…?ヴェネツィアで戦った奴も根掘り葉掘りとか言ってキレてたっけ……アイツの影響か?」
「これひと粒でけっこう値が張るチョコラータですよね。美味しい…」
「聞いてねぇのな。まぁ聞いてねぇ方がいいか…」
「…おいゲロボケビチグソ野郎」
「なんて?」
「何の話でしたっけ?」
「聞いた事のねぇひでぇ呼ばれ方にびびって忘れたわ」
「そ。では寝るので失せてください」
「いちいちムカつくなお前…。…ひとつ言っとくけどよォー、ジョルノはあれでも15歳の少年だ。女を喜ばせる事なんか器用にできねぇんだからあんま変に解釈してやるなよ」
「……………」
「あと臭そう、きっしょ、ゲロボケビチグソ野郎禁忌な?………聞いてる?」
「明日………海見に行きたいです」
「…ジョルノに言っとく」
「では。今日もお前とジョルノが悪夢に魘されますように。おやすみなさい」
「おう、お前も悪い夢見ろよ!」
─────
───海も空も綺麗な青。…青色が一番好き。…プロシュートの瞳の色とおんなじだから…。
『ミエーレ、』
…初めて海を見た時にキラキラ光っていてとても綺麗だと思った。…でもそれ以上に、海を瞳に映すプロシュートを見た時にドキドキしたのをよく覚えてる。海よりもっとキラキラしてて…眩しくて…綺麗で…。そっと手を握って笑いかけてくれた事が嬉しくて…涙が出そうになったっけ…。今は全然別な気持ちで、…涙が出そうですよ…プロシュート…。
「寒くないですか?」
ジョルノ………今日はやたら距離が近い気がする。…嫌がらせですか。虫唾が走る。
「寒くないので寄らないでください」
近くに来ないで。転びそうになったからって手を伸ばさないで。彼らを傷付けた手で、私から全てを奪ったその手で、私に触ろうとするな。
「…転ばないように気を付けて」
砂浜で転んだって怪我なんかしないですよ。心配してるふりなんかして…そんな事でお前を殺すという思いは消えませんよ。
「少し一人になりたい」
「…それはできません」
「なぜ?」
「あなたに何かあっては困るから」
「何かって?」
「………」
…私の能力の全貌が明らかではないから私に死なれたら困るんだっけ。本体が死んで初めて覚醒する能力も存在するらしいから。
「身投げでもすると思ってんですか?」
「………正直に言うと、自殺してもおかしくない状況かと。…ぼくらに囚われて生き続ける意味は…あなたにはないから。どうして自害しないのか聞かれたら…説明できますか?その理由を」
「人のものを壊してはいけないからです」
「人のもの…?」
「私はプロシュートのものです。プロシュートが救った体、育てた心…この命は、私の全てはプロシュートのものです。プロシュートが大切にしていたものを私が壊していい訳がない。勝手に傷付けていい訳がない。だから自殺はしたくてもできないんですよ」
それにお前とミスタを殺すまでは死ねない。お前らを始末しなければみんなに会いに行けない。胸を張って彼に会えない。だから………、
「………、………」
「………は…?何ですかその顔………」
どういう感情?まったく読めない。…ただ…悲しそうというか…辛そう…?…今の話の流れで何故そんな顔に…?
「………言いたい事は色々あります。…でも、今はひとつだけ。………あなたは物じゃあない。…そんな言い方はやめてください」
………違う。プロシュートは私をオレのものだって言ったけど、…いずれゴミになるような物とは違うって言ってくれた。…モノはモノでも…なくなっては困る大事なもんだって…。それがどれほど嬉しかったか…言葉では言い表せない…。
「…お前に理解されたいとは思ってないです。それでも真っ向から否定されるのは腹が立ちます。…私はプロシュートのものである事が嬉しくて、生きていてよかったと思った。…誇り、です。何も知らないくせに適当な事言わないでください」
「…今のあなたにはぼくの言いたい事は伝わらないようです。これ以上話すのは無駄かも。…だから時間をかけます。そうすればいつかぼくの言いたい事が正しく伝わるはず…」
何の話か分からないけどいくら時間をかけたところで情が湧くわけでもあるまいし、お互いの思った事を正しく理解し合う事はあり得ない。そんな日はいくら待っても来ない。…こんな事を言っても無駄…ですね。…こいつと話すのは時間と唾液の無駄遣いです。
「………あの、これを」
…また、花?…貝殻を花に変えたの?…意味分かんないしいらない。…また花言葉で皮肉る嫌がらせ?どんな意味が込められていても腹が立つからもう花言葉なんて聞かない。
「誤解があるようなのでこれだけははっきり言っておきます。ぼくはあなたに恨みはない。苦しめる気も貶める気もありません。そうする事で得られる物が何もないから。…だから…あなたを傷付けるつもりはないという事だけは………」
………私の顔を見て言葉を途中で切ったのは、私がお前と話すのは時間の無駄だと思っているのを察したから?察しの良さだけが取り柄みたいなもんですもんね。意味のない事をべらべら喋るのは無駄だと気が付いたみたい。
…そういえばミスタの野郎はどこに………。………ジョルノの後ろか。話に入って来れないくらいには距離を置いてる。一体どうしてそんな後ろを歩いているんだろう。…傍に寄られては迷惑だから丁度いいけれど。
………何だか気分が悪くなってきた。こいつらとこんなに長く顔を合わせているのは初めてだから…?せっかく海を見ているのに…何だか嫌な感じ…。………帰りたい。………みんなのいるアジトに…。
………手紙…書こうかな…プロシュートに。…今日はあなたと海を見た日の事を思い出しましたって…。…星が綺麗な夜に風船で飛ばせばきっと…雲の上のあなたに届きますよね?………ね、プロシュート…。
「───ジョルノ?」
歩き出したミエーレを立ち止まったまま見ている。さっきまで隣を歩いていたってのにどうしたんだ?なんか喋ってたみてぇだし…まさか臭そうとか言われてイジメられたんじゃあねぇだろうな?
「………ミスタ、少し距離を取って歩きましょう。…一人になりたいそうです」
「おー…」
なんか花握ってんな。…差し出してたように見えたけど、いらねぇって突き返されたのか?可哀想なジョルノ…。
「なぁ、それ何て花?」
「………イリスです」
「イリス…ね」
花言葉は「あなたを大切にします」か…。…ジョルノが言葉の代わりに花を送っているのかどうかは知らねぇけど、もしそうだとしたら何つーか………、…拒否られちまったな。…あいつとオレ達の間には大きな壁がある。それは一生かかっても越えられやしねぇだろう。伝えたい事は何一つ伝わらねぇ。…全てを拒絶するあいつには何も届きゃしねぇ。
《恋のメッセージ》
このもう一つの意味もあいつは気付かねぇ。
何にも………届きゃあしねぇぜ、ジョルノ。
Fine.
「…ひっ…」
…ジョルノのクソ野郎が、嫌がらせをしてきやがる…。
「うおっ!き、キモォ!!何だこれ、おいミエーレ何処だァ?いねぇのー?」
この間抜けな声は、ミスタ!
「こっち…!ベッドの上です」
「おー…」
部屋中を飛び回る無数の蝶々を手で払いながら近付いて来たミスタに状況の説明を求められたけど私の方が知りたい。10や20ではない…もっともっと多いこの蝶々は、きっと…いや絶対ジョルノの能力で作られたに違いない。昨夜寝る時はいなかったし、明け方近くに部屋に入ってきて「ゴールド・エクスペリエンス!」って言ってた気がする。
「ジョルノの野郎です、絶対」
「だろうな…」
「生命を作り出せるって、神様にしか許されてないですよね!?何なんですか!」
「神様なんじゃあねぇの?」
「クソがっ!」
「八つ当たりすんなよ」
「どうしてこんな嫌がらせを…っ」
「嫌がらせ?」
ミスタならともかくジョルノの野郎にこんな事をされる理由はない。勝手に暗殺計画を練っているだけで私から嫌がらせをした覚えはないのだから。ミスタのように分かりやすい弱点がないし、何を考えているのか分からないから距離を置いている。訳分かんない奴ほど怖いものはない…。
「嫌がらせじゃあねぇだろ?」
「はあ?許可なく勝手に部屋に入りおぞましい数の蝶々を室内に放つ事のどこが嫌がらせじゃあねぇって?」
「昨日の事だろ?覚えてねぇのかよ。おめーが好きだって言ったんだぜ、蝶々がよー」
蝶々が好き?そんな事…言った?ジョルノに?
「何に興味があるのかって聞いたジョルノに、窓の外飛んでた蝶指さして"あれとか好き"って言ってたぜ?」
「全然覚えてない」
「記憶障害かよ…医者に診てもらった方がいいんじゃあねぇの」
「………プロシュートに言われた事があります。人と話した事を全く覚えていないのはおめーがその喋った奴に興味ねぇからだって。私、ジョルノに興味がなさ過ぎて会話の内容を微塵も覚えてないのです」
「おいおい、おめーが好きだって言ったもんを出してやったあいつに対して酷くねぇ?可哀想だろーが、まだ15のガキなんだぜあいつはよ〜」
「いえ、そもそも奴が私の好きなものを出す意味が分からないです」
「そりゃあおめー………いや~まぁー何つーかよォ~そこは察してやろうぜ~」
「薄ら笑いがきめぇので出て行ってもらえます?」
「マジで可愛くねぇんだけどこいつッ!!」
───別な日、
「もういらない………寒い………」
ジョルノの野郎の嫌がらせが続いている………。
「飽きました。もう三日も食後のドルチェがかき氷です。三食全部。どうしてこんな………」
冷たいお菓子は好きだけど一日一個までってプロシュートは言っていた。体が冷えるからって…。ギアッチョだって冷たいもんばっかじゃあ腹壊すって心配して氷のお菓子を毎日くれる事はなかったのに…。
「こんなにずっと氷ばかり食べていたら氷人間になってしまいます!」
「おめーが好きだって言ったんだろ~?美味いグラニータの店すげーチェックしてたぜ?健気じゃあねぇか。その気持ちは酌んでやれよな~」
「嫌がらせをする奴の気持ちを酌んで何になるんですか!つーか気持ちを酌むって何だァ~?何で理解するのが難しい人の気持ちなんてものを酌まなきゃならないんだよっ!その言い回し意味分かんねぇぜクソッ!クソォッ!!」
「お…落ち着けって…。意味分かんねぇのはおめーの方だぜ。そのキレ方直した方いいよ?」
「うるっせぇぞこのビチグソ野郎がァッ!!」
「八つ当たりしてんじゃあねぇぞッ!」
「やんのかァ!?ああん!?」
「そんな声で凄んだって可愛いだけだぜ!表出な!室内で愛銃出すとボスが怒るんでね!!」
「組織の家畜が…ッ!!」
「…っておめー唇真っ青じゃあねぇか!顔色悪!」
「寒いのに氷ばかり食べてたら顔色だって悪くなりますよそりゃあ!」
「ったくしょうがねぇな~…オレのココア分けてやるから飲め。まだあったけぇからよ」
「ココア………?………程よくぬるい。………リゾット…、…私のリーダーが、…二人きりになるとよくミルクココアを作ってくれたんです。…火傷したら大変だからって…少し冷まして………」
「……………、…へぇ…いい思い出だな」
「………リーダーのココアの方が5憶兆倍美味しいです」
「そーかよ!………そういうのよォ~…ジョルノにも言ってやれよ」
「え?」
「喜ぶと思うぜ」
「ええ…?」
「お、噂をすれば………よぉジョルノ!お疲れさん!」
「ああ…ミスタ…。………ミエーレ、…今日のドルチェは気に入りましたか?」
「……………、……………ギアッチョが作ってくれる方が5憶兆倍美味しいです」
「オイ!オメーよくそんな事が言えるな!?」
「はあ?おまえが言えって言ったんじゃあないですか!!」
「はああッ!?………、そっちじゃあねぇよ!オレにするようなちょっとした話をしろって言ったの!!」
「そんな事絶対に言ってないです!!」
「話の流れで分かんだろ普通ッ!!」
「普通!?普通って何だァ!?どこの基準だ誰の匙加減だっ あ”あ!?」
「あーもうめんどくせぇ!!助けてくれジョルノ!…あれ?ジョルノ~?………、あーあー…ほらオメーが他の男と比べるから拗ねて行っちまったじゃあねぇか!どうすんだ!謝って来い!」
「普通ってのは人それぞれその時々で違うもんだよなァ~!?ええ~!?」
「聞いてねぇ!クソーもうめんどくせぇー…」
─────
「………ミエーレ」
ジョルノ………また何か嫌がらせをしに………?
「…気分はどうですか?」
「あなたが来るまでは悪くなかったです」
「そうですか」
「何か用でも?」
「…これを」
………花………。やっぱりまた嫌がらせをしに来たんじゃあないですか。
この部屋に飾られている花は全てジョルノが持って来たもの。お花は綺麗だから好きだけど、この人がくれるのはやっぱり嫌がらせの類でしかない。…その花々に込められる意味…花言葉は「希望」「明るい未来」「新しい光」…そんな明るいものばかりだから。私に無いものばっかり。全て…当て付け。
いらないといくら言っても勝手に花瓶に活けていく。一体この人は何を考えているの…?
「………明日、一日休みを取ったんです。…出掛けませんか。少し遠くに、…二人で」
「………二人?」
何故?二人でいて何を話せば?今この数分ですら気まずさを感じているのに。
「………、気分転換にどうかと。他意はありません」
他意……隠された別の意味はないと。それは嘘ですよ。だって………、
「今持って来たその花、意味は何ですか?」
「花言葉ですか?…"幸福が訪れる"ですよ」
ほらまた…。遠回しに皮肉って来やがる。私に幸福など一生訪れないのに。全てを奪った張本人が…それを一番分かっているくせに。…嫌な奴。
こいつにとって私は嫌がらせをするくらい好かない相手。それなのに休みの日に時間を充てるのは、私の機嫌を取らなくちゃあいけないから。機嫌を取って少しでも「ぶっ殺す」って思いを抑えさせたいんでしょう。私が恨みを持って「殺す」と思えば思うほどに、お前の意識は死に向かう。私のスタンド能力で、無意識のうちに死に近付く選択をしてしまう。だから…。…気分転換に、という建て前の裏にご機嫌取りがある。これを他意がないとは言わない。
「どうして嘘を…」
「嘘…?…ぼくが君に嘘の花言葉を教えるメリットがどこに?」
花言葉の話じゃないよ…。
「…チッ。おまえなんか死体の指を口の中に入れられてしまえばいいのに」
「………、………ハハ…もう二度と御免ですね、あの拷問は…」
「え?あるんですか?そんな経験が…」
「彼は何だろうとぼくの口の中に入れる事ができると言っていた。汗の味で嘘をついているかどうか分かるとも」
「汗の味とは」
「彼がいたら今ぼくが嘘を言ったかどうか証明できるのに」
「証明はされない。私がその彼を信じないから」
「…それもそうですね」
………なんか…機嫌が良い?…表情が柔らかい…ムカつく。早く出て行ってほしい。
「いつまでここに居るつもりですか?」
「…まだ返事を聞いていないので」
明日出掛けるかどうかの返事?………外には出たい…。…でもこいつと二人は嫌…。息が詰まる。
「………ミスタも一緒なら」
「……………、」
は?今ちょっとむっとした?…ムカついてるのはこっちですけど?相変わらず何を考えているのか分からない。…外でどんな嫌がらせをされるか分からないからいざという時の為にミスタには傍にいてほしい。あのガタイなら弾除けくらいにはできそう。
「───分かりました」
─────
「おおーい、ちょ…ミエーレさんよォ~」
「は?何ですか気持ち悪い…臭そうなので寄らないでください」
「オイおめー!男子に臭そうは禁句だぜ!?女子の些細なそれが心にどれほどの傷を負うと思ってんだ!!」
「良い事を聞きました。グラッツェ ミスタ。ジョルノの野郎に言って来よ~」
「可哀想だからやめてぇッ!?」
「うるさいなぁ…で、何?」
「こいつ…心に悪魔を宿しているとしか思えねぇ…!」
「用がねぇなら呼び止めるんじゃあねぇですよ」
「用がなきゃおめーみたいなの呼び止めるかっての!!チッ…ったくよォ、あんた…せっかくジョルノが勇気出してデー…トじゃなくて…あー…、…気ぃ遣って遠出しようって言ったのに断っただろ」
「二人きりは嫌だと思っただけ。ミスタ、てめぇも行くなら行きます」
「何で?もしかしてお前…オレの事好きなの?」
「きっしょ」
「……………」
「ジョルノの野郎にどんな嫌がらせをされるか分かりませんからね。盾が必要かと」
「………一回も嫌がらせなんかされた事ねぇのに何を警戒してんだよ…あと人を盾にしようと目論むな」
「はあ?これまでの行動が嫌がらせじゃあなかったら何だって言うん………」
…そう言えば…、…私に心の底から「ぶっ殺す」と思わせない為に気に入られようとしているなら最初から嫌がらせなんてしない方がいいのでは…?嫌がらせをしておきながらわざわざ休みの日に時間を割いてご機嫌取りをするって…行動が矛盾している。何を考えているのか分からないジョルノの事だから矛盾するのも仕方ない…?でも…その矛盾は奴が最も嫌う”無駄”に繋がる…。それは…納得いかない。
「…ジョルノはどういうつもりですか?」
「どういうって………あんたも結構鈍いって言うか…あんま経験ねぇのな。普通の女だったら察して舞い上がると思うぜ?」
「普通…?普通ってよォ~…辞書引いたら一般的にとかありふれたものとか書いてあるよなァア~?一般って誰の事だよ?ありふれたものってどこにあんだよ!?なァア~ッ!?」
「地雷踏んじまっためんどくせェーッ!落ち着け!どうどう!あ、ほら!おめーの好きなチョコラータ!持っててよかったぜ~」
「ちょこらーた…」
「二重人格かァ…?ヴェネツィアで戦った奴も根掘り葉掘りとか言ってキレてたっけ……アイツの影響か?」
「これひと粒でけっこう値が張るチョコラータですよね。美味しい…」
「聞いてねぇのな。まぁ聞いてねぇ方がいいか…」
「…おいゲロボケビチグソ野郎」
「なんて?」
「何の話でしたっけ?」
「聞いた事のねぇひでぇ呼ばれ方にびびって忘れたわ」
「そ。では寝るので失せてください」
「いちいちムカつくなお前…。…ひとつ言っとくけどよォー、ジョルノはあれでも15歳の少年だ。女を喜ばせる事なんか器用にできねぇんだからあんま変に解釈してやるなよ」
「……………」
「あと臭そう、きっしょ、ゲロボケビチグソ野郎禁忌な?………聞いてる?」
「明日………海見に行きたいです」
「…ジョルノに言っとく」
「では。今日もお前とジョルノが悪夢に魘されますように。おやすみなさい」
「おう、お前も悪い夢見ろよ!」
─────
───海も空も綺麗な青。…青色が一番好き。…プロシュートの瞳の色とおんなじだから…。
『ミエーレ、』
…初めて海を見た時にキラキラ光っていてとても綺麗だと思った。…でもそれ以上に、海を瞳に映すプロシュートを見た時にドキドキしたのをよく覚えてる。海よりもっとキラキラしてて…眩しくて…綺麗で…。そっと手を握って笑いかけてくれた事が嬉しくて…涙が出そうになったっけ…。今は全然別な気持ちで、…涙が出そうですよ…プロシュート…。
「寒くないですか?」
ジョルノ………今日はやたら距離が近い気がする。…嫌がらせですか。虫唾が走る。
「寒くないので寄らないでください」
近くに来ないで。転びそうになったからって手を伸ばさないで。彼らを傷付けた手で、私から全てを奪ったその手で、私に触ろうとするな。
「…転ばないように気を付けて」
砂浜で転んだって怪我なんかしないですよ。心配してるふりなんかして…そんな事でお前を殺すという思いは消えませんよ。
「少し一人になりたい」
「…それはできません」
「なぜ?」
「あなたに何かあっては困るから」
「何かって?」
「………」
…私の能力の全貌が明らかではないから私に死なれたら困るんだっけ。本体が死んで初めて覚醒する能力も存在するらしいから。
「身投げでもすると思ってんですか?」
「………正直に言うと、自殺してもおかしくない状況かと。…ぼくらに囚われて生き続ける意味は…あなたにはないから。どうして自害しないのか聞かれたら…説明できますか?その理由を」
「人のものを壊してはいけないからです」
「人のもの…?」
「私はプロシュートのものです。プロシュートが救った体、育てた心…この命は、私の全てはプロシュートのものです。プロシュートが大切にしていたものを私が壊していい訳がない。勝手に傷付けていい訳がない。だから自殺はしたくてもできないんですよ」
それにお前とミスタを殺すまでは死ねない。お前らを始末しなければみんなに会いに行けない。胸を張って彼に会えない。だから………、
「………、………」
「………は…?何ですかその顔………」
どういう感情?まったく読めない。…ただ…悲しそうというか…辛そう…?…今の話の流れで何故そんな顔に…?
「………言いたい事は色々あります。…でも、今はひとつだけ。………あなたは物じゃあない。…そんな言い方はやめてください」
………違う。プロシュートは私をオレのものだって言ったけど、…いずれゴミになるような物とは違うって言ってくれた。…モノはモノでも…なくなっては困る大事なもんだって…。それがどれほど嬉しかったか…言葉では言い表せない…。
「…お前に理解されたいとは思ってないです。それでも真っ向から否定されるのは腹が立ちます。…私はプロシュートのものである事が嬉しくて、生きていてよかったと思った。…誇り、です。何も知らないくせに適当な事言わないでください」
「…今のあなたにはぼくの言いたい事は伝わらないようです。これ以上話すのは無駄かも。…だから時間をかけます。そうすればいつかぼくの言いたい事が正しく伝わるはず…」
何の話か分からないけどいくら時間をかけたところで情が湧くわけでもあるまいし、お互いの思った事を正しく理解し合う事はあり得ない。そんな日はいくら待っても来ない。…こんな事を言っても無駄…ですね。…こいつと話すのは時間と唾液の無駄遣いです。
「………あの、これを」
…また、花?…貝殻を花に変えたの?…意味分かんないしいらない。…また花言葉で皮肉る嫌がらせ?どんな意味が込められていても腹が立つからもう花言葉なんて聞かない。
「誤解があるようなのでこれだけははっきり言っておきます。ぼくはあなたに恨みはない。苦しめる気も貶める気もありません。そうする事で得られる物が何もないから。…だから…あなたを傷付けるつもりはないという事だけは………」
………私の顔を見て言葉を途中で切ったのは、私がお前と話すのは時間の無駄だと思っているのを察したから?察しの良さだけが取り柄みたいなもんですもんね。意味のない事をべらべら喋るのは無駄だと気が付いたみたい。
…そういえばミスタの野郎はどこに………。………ジョルノの後ろか。話に入って来れないくらいには距離を置いてる。一体どうしてそんな後ろを歩いているんだろう。…傍に寄られては迷惑だから丁度いいけれど。
………何だか気分が悪くなってきた。こいつらとこんなに長く顔を合わせているのは初めてだから…?せっかく海を見ているのに…何だか嫌な感じ…。………帰りたい。………みんなのいるアジトに…。
………手紙…書こうかな…プロシュートに。…今日はあなたと海を見た日の事を思い出しましたって…。…星が綺麗な夜に風船で飛ばせばきっと…雲の上のあなたに届きますよね?………ね、プロシュート…。
「───ジョルノ?」
歩き出したミエーレを立ち止まったまま見ている。さっきまで隣を歩いていたってのにどうしたんだ?なんか喋ってたみてぇだし…まさか臭そうとか言われてイジメられたんじゃあねぇだろうな?
「………ミスタ、少し距離を取って歩きましょう。…一人になりたいそうです」
「おー…」
なんか花握ってんな。…差し出してたように見えたけど、いらねぇって突き返されたのか?可哀想なジョルノ…。
「なぁ、それ何て花?」
「………イリスです」
「イリス…ね」
花言葉は「あなたを大切にします」か…。…ジョルノが言葉の代わりに花を送っているのかどうかは知らねぇけど、もしそうだとしたら何つーか………、…拒否られちまったな。…あいつとオレ達の間には大きな壁がある。それは一生かかっても越えられやしねぇだろう。伝えたい事は何一つ伝わらねぇ。…全てを拒絶するあいつには何も届きゃしねぇ。
《恋のメッセージ》
このもう一つの意味もあいつは気付かねぇ。
何にも………届きゃあしねぇぜ、ジョルノ。
Fine.
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