あなたが残したこの世界で
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
───
…保管場所に入った瞬間、みんなの香りがした。アジトの香り…落ち着くにおい…。
すでに処分されたと思っていた…でも、間に合ったんだ…。プロシュートのスーツ、ペッシの釣り竿、ギアッチョの眼鏡のストック、メローネの自宅用のパソコン、ホルマジオのジャケット、イルーゾォの鏡、リゾットのベルトのバックル…他にもたくさん………普段使いしていたみんなの私物だ………。
私の…プロシュートに貰った服やアクセサリー、みんながプレゼントしてくれた大切な物も全部ある………良かったぁ………。
処分されたと本気で思った…無駄に悲しい思いをさせたジョルノをぶん殴ってやりたい。ちょうどここにソルベに貰ったナックルダスターがあるし…ジェラートがくれたクローネックナイフもある…。…持っておこう。
例え真実に到達できないとしても…奴らを始末する為の準備は、いつでも整えておかなくては。………優秀な暗殺者を見て来たんだから、私だって…。もう、マンモーナじゃあない今の私になら…できない事はない。
『自信を持て、お前にできない事はねぇんだぜ』
プロシュートはいつもそう言ってくれた。偉大な彼の言葉は…いつも私に勇気と自信をくれる。…プロシュート…。
………携帯電話の履歴は…プロシュートの名前ばっかり。…最後に声を聞いてから…もうこんなに時間が経っている。…もうこんなに…プロシュートの顔を見ていない…。………あなたはたくさんの事を教えてくれた。…一緒にいるだけで心が満たされる事があるなんて、あなたがいなければ一生知らなかった。…それを愛と呼ぶなんて、…知らないままだった。あなたのおかげで私はこんなにも変われた…。でもまだある…。あなたに教えてもらわなければ分からない事が…まだまだ…。なのに……………、
───コンコン、
「おーい、ミエーレさーん?」
「………ミスタ…ミスタミスタミスタ」
「ッ!もう1回呼べ!あと1回でいい!4回でやめるなッ!!」
「用は何ですか」
「何ですかって…何時間物置に閉じこもってる気だよ」
「…え?」
「もう………3時間と60分くらい経つぜ。…まぁ、仲間の遺品整理が数時間で終わるとは思っちゃあいねぇがよ…」
いつの間にか…そんなに時間が経っていたんだ…。…時間の感覚が全くない。………なんか、こうして少しずつ少しずつ…色んな感覚を失っていくような気がする。…それで困る事はないけれど…。だって普通じゃあねぇって怒る人も…正常に戻す手助けをしようとしてくれる人も…いないから。
「ウチのボスはプリンが大好物でよ。出先で買って来たんだが、慈悲深~いボスはあんたの分も用意してくれたぜ」
「プリン…?」
「お、好きか?知る人ぞ知る名店のプリンらしいぜ。………まぁあれだ、オレが言えた立場じゃあねぇがよォ…女の子がいつまでも暗い顔してちゃあいけねぇぜ。美味いドルチェと紅茶でも口に入れれば自然と笑顔も出てくんだろ。来いよ」
………ジョルノって、ボスだったんだ…。まだ子供なのに…。じゃあやっぱり敵だ。だってボスがケチだからみんなあんまり贅沢はできなかったもの。アジトがいつも薄暗かったのは節電だって言ってた。…人の命を奪う…選ばれた者にしか務まらない大変なお仕事をみんな頑張ってたのに…。
「おうジョルノ。こいつもプリンが好きみたいだぜ」
「それは良かった。…どの味がいいですか?この店は三種類味があって…」
あ………、その袋は………、
あのお店の………いつものお店の、プリン………。そうだ、今日は金曜日…。金曜日は…プリンの日………。
” 今日は………プリンがいいです…! ”
” …ああ、今日金曜か。「プリンの日」だったな ”
” はい…! ”
” OK、いつもの店で買って帰る ”
” 待ってます…! ”
「っ………、………」
「オ…オイ?な…何だよ…どうした?何で急に泣き出してんだよ…?」
「………、………(そういえば…)」
─────
「───すみません、プリンを各味一つずつ」
店のレジの前で、紐が切れかかっていた彼女のペンダントを見ながらどう直そうか考えていた…。
「───………、………毎週金曜日にね、えらい男前のお客さんが来ていたんだよ。毎週欠かさず。…でも先週は来なかった」
「…はい?」
…話好きの店主なのか。…急ぎじゃあないからいいが…何の話なんだ…。
「必ず各味一つずつ…全部で三つ買っていくんだ。でもサービスのスプーンは二つ。…何度か彼女を連れて来ていたね。愛おしそうに何度も名前を呼ぶもんだから覚えちまったよ」
「………その彼女の…名前は?」
「………ミエーレ、」
まさか………、
「そのペンダント、ミエーレちゃんのかい?」
「あ……ええ、そうです」
「じゃあ彼とも知り合いかな。言っといてくれよ。頼まれちゃあいないが、” いつもの ” をあんた達の為に取ってあるんだから…これからも贔屓にしておくれ、ってね」
「いえ彼はもう………、………もう、来られないので、代わりにぼくが。… ” いつもの ” を予約します。…毎週、金曜日に…」
「………グラッツェ。…彼女によろしく」
「………はい」
─────
思い出しているのか…。彼を…。
彼を想って…涙を流しているのか………。
「プリンが嫌いだったのか?あ!アレルギーか!?た、卵アレルギーとか?プリンって卵使ってたよな…?食いたくても食えねぇから泣いてんだな!?わ、悪かったよ…」
「……………行こう、ミスタ」
「え?」
「…彼女には、……………時間が必要だ」
「あー…?…おー………そう、だな………」
どうして………、プロシュート、どうして涙が出てくるんですか………?あなたと過ごした何気ない日の会話を思い出したら…勝手に溢れてきてしまいます。何で………。
「………これを。紐が切れかかっていたので直そうかと。…でも勝手に手を加えるべきではないと思ったのでこのまま返します。…必要な物があったら言ってください」
………プロシュートがくれた…プロシュートとお揃いのペンダント…。彼のイニシャルの………。
プロシュート………。悲しくなくても涙が出ると教えてくれたのはあなただった。嬉しい気持ちの時、あたたかい気持ちの時………幸せな時も涙は出てくるんだって………。でも今は…あなたに会えない事が寂しくて辛いです。これは…悲しみの涙…ですよね。こんな気持ちで涙を流すのは初めてです。あなたは…ちゃんと私に、全ての感情を教えてくれるんですね…。悲しいという事も…ちゃんと…。
でも…また消えてしまいます。あなたのおかげでたくさんの事を知って、心が…満たされていたけど、それはあなたが傍にいてくれたから。あなたがいなければ私は空っぽです…。あなたは私の心をあたためて満たして、そして奪った。あなたがいなければ私は空っぽの、なんにも感じない死体に逆戻りです…。
「…………、………っ…」
ほら、やっぱり………美味しくない。あんなに大好きだったあのお店のプリンなのに、味がしないです。あなたが傍で嬉しそうに見つめてくれていないと、全然美味しくないです。
窓から見える沈んでいく夕陽だって、風で舞い散る花びらだって、まだ少し明るい空に輝く一番星だって………、あなたと見たらあんなに綺麗に見えて、嬉しかったのに…今は何も思わない…。
………あなたが残したこの世界には、きっともっとたくさん………綺麗なものが…たくさんあります。…だけど、あなたが傍にいてくれなければ…私はそれが綺麗なものだと気付く事ができません…。私の心はあなたが持っている。いつの間にかあなたに奪われ、私の物ではなくなっていた。だからあなたがいなければ美しいものを美しいと感じる事ができない。私は…何も感じる事ができない。あなたが教えてくれなければ…私は何も知る事ができない………。
《あなたが残したこの世界で》
たった独りで、死体のように……………、
Fine.
2/2ページ