あなたが残したこの世界で
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プロシュートは毎日電話を掛けてきてくれる。ずっと一緒に居られるお休みの日以外は、毎日欠かさず。
『おうミエーレ、昼飯は食ったか?何時に何を食った?置いておいたスープとパンか?昨日の残りのペンネか?夕飯は何が食いたい?いやその前にドルチェだ。帰りにドルチェを買っていく。何がいいか今決めるんだ』
いつも質問が多くて一度にたくさんの事を言うから、最初に何を聞かれたのか忘れてしまう…。全部正確に答えられなくても怒った事がないからプロシュートは優しい…。えっと、とりあえず今日は…電話を貰ったら言おうと思っていた事がある…!
「あの…プロント?…愛しのプロシュート!」
『ああ?』
あ………お、怒られる…?
『…ははっ何だそりゃあ』
良かった…笑ってる。声が何だか嬉しそう…!
「さっきドラマで見たんです…!」
『言われた相手は何て答えていた?』
「”ああアリーチェ!僕の大切な宝物!電話に出てくれて嬉しいよ”って!」
『そうか。じゃあミエーレ、オレの大切な宝物。電話に出てくれて嬉しいぜ』
「う…うう~…っ」
『オイ?どうした?』
時々息が苦しくなる…。プロシュートと一緒にいると、胸が苦しくなる時がある…。プロシュートが言ったりやったりしてくれる事が嬉しい時によくなる気がする。…心臓の病気なのかな…。
「何でもないです…早く会いたいなって思っただけです…」
『………昨日より早く帰るからいい子にして待ってるんだぜ』
「…はいっ」
『で、今日のドルチェは何がいい?』
「今日は………プリンがいいです…!」
『…ああ、今日金曜か。”プリンの日”だったな』
「はい…!」
『OK、いつもの店で買って帰る』
「待ってます…!」
プリンの日…。初めてあのお店のプリンを食べた時にすごく驚いた。この世にはこんなに美味しいものがあるんだって…。その日が金曜日だったから、毎週金曜日をプリンの日に制定した。三種類の味があって、プロシュートは必ず各味一個ずつ買ってきてくれる。プロシュートは色んな美味しいものをたくさん与えてくれるけど、一番最初にもらったあのお店のプリンが…今でも一番好きなんだ…。
───
「おかえりなさい、プロシュート…!」
「ああミエーレ、オレのミエーレよォ。お前がいてくれるおかげで世界がいつでも美しく見えるぜ」
「え?映画のセリフですか?」
「さぁな」
「女の人は何て答えたんです?」
「”あなたがそう思うのは当然だ”」
「…ずいぶん自信のある女性なんですね………わたしにはとても真似できません…」
「だろうな。そこがオメーのいいところだ」
プロシュートはよくわたしのほっぺたを軽く摘んで持ち上げる。…きっと口角を上げて笑えって事なんだと思うけど…わたしはうまく表情筋を動かす事ができない。プロシュートと出会って嬉しいと思う事も楽しいと思う事も知ったのに、プロシュートの笑顔に笑顔を返せる日はまだ遠いみたい…。
でもプロシュートはいつも言ってくれる。心が”正常”になれば…体もそうなると。心を殺し、脳を殺し…何も感じないように死体になる事を望んだ時とは違う。…死体だった時とは、明らかに違っている。プロシュートと出会ってからわたしは………。
きっともう少しなんだ。プロシュートが言う”正常”に近付いているんだ。身も心も普通の人とおんなじになったら、きっとプロシュートの笑顔に応えられる………───、
─────
「───もしもし?プロシュート?」
『───ミエーレ…』
…電話を掛けてきてくれる彼はいつも言葉の数が多くて、こんなふうにわたしの名前だけを呼んで黙る事は今まで一度もなかった。
「プ…プロシュート………?」
『ッ………』
何より…声がとても苦しそうで…胸騒ぎがした。
「お仕事…終わったんですか?…早く、帰ってきてください。顔が見たいです」
嫌な予感がして声が震えてしまう。だけどこうして電話を掛けてきてくれるのだから何も心配する事なんて………、
『ああ…ミエーレ………オレもな………おまえの顔を………』
「…プロシュート?…もしもし?」
『………オレ…は、…おまえを…愛しているぞ………ミエーレ………』
愛して…いる?こんなにはっきり言われたのは…初めてかもしれない。大切だとか…傍にいたいとか…たくさん言ってくれたけど、こんなに…。こんなに言われて嬉しい言葉は他にない…。その言葉がプロシュートから自分に向けられているのだから、嬉しいに決まっているけれど…今はどうしても、素直に喜べない。
「わ…わたしも、愛しています。何もなかった私に全てをくれた…プロシュートだけが、私を見てくれました…」
『愛しているか…オレを…』
「はい、」
『そうか………』
「で、でも…そういう大切な事は顔を見て言いたいです。あなたからも、直接言ってもらいたいです。電話じゃなくて…会って…だ、だからプロシュート…早く帰ってきてください…!」
『……………』
「プロシュート…?」
『…すまねぇ…ミエーレ………先に、………行って…待ってる………』
「え………?」
電話が………切れてしまった………。先に行って待ってる?どこに?どこに行くんですかプロシュート…私を置いて、どこに………?
───彼からの最後の電話からしばらく経つけれど、…彼どころか他のみんなも…未だに誰一人としてアジトに帰ってきていない。
プロシュートと一緒に暮らしている家…。ここから出るな。アジトには絶対に行くな。…プロシュートからの電話の後…家を訪ねて来たリーダーにそう言われた。見た事がない…ひどい顔だった。…今までにない触り方で…頭を、頬を、唇を撫でた…リゾットの様子は普通じゃあなかった。…わたしは、大切なものを…失ったのかもしれないと、………思った。
じっとしていられなくて…リーダーの言い付けを守らずにアジトへ来て…どれくらい経ったんだっけ…。
こんなに静かなのは…初めて…。部屋を見渡せばいつもの光景が広がる。そこのソファーに座ってサッカーを見ているホルマジオとギアッチョ。その横で何か熱心に入力をしているメローネと、鏡を磨きながら誰かしらに話掛けるイルーゾォ。…あの一人掛けのソファーに座るリーダーには、無理を言って隣に座らせてもらった事が何度かあったっけ。一人掛けのソファーに二人で座るなってギアッチョによく怒られた気がする。一人掛けのソファーに二人で座ると言ったら…ソルベとジェラートもそうやって座っていたな…彼らとはもう二年くらい…顔を合わせていなかった…。わたしは…よくそこに座っていた。…隣には肩を抱いてくれるプロシュートとミルクを飲むペッシがいた。そうやって…何となく決まった位置に座っていた…みんなと…この部屋で………。あんなに賑やかだったのに…どうして今は誰もいないの…?
ガチャ───、
扉が開く音に一瞬期待をした。…でも、すぐに分かった。プロシュートじゃない。…私の知っている誰かじゃない…。足音はまるで間取りが分からないように、そして何かを警戒するかのように慎重に歩いているように聞こえる。…誰………?ここに…来ないでほしい。土足でこの場所に…入って来ないで。
「ッ………何だ?この感じは………殺気…に似てるが違う。ただ尋常じゃねぇ悪寒がするぜ………何かいるのか?…オイ!誰かいるなら今のうちに出てきた方が身の為だぜ!」
…何か言ってる。…こっちに来る…?
乱暴に扉を蹴破って入って来たその人はやっぱり私が会いたい人ではなかった。でも…、知っている人ではある………。
「なっ何だオメー!?何でこんなとこに居る!?」
目が合うとその人は手に持っていた拳銃を下した。
「浮浪者か?…にしては綺麗な服着てんな…。暗殺者チームに女はいねぇ!オイあんた一体何者だ!?」
「………」
「…びびっちまって声が出せねぇか?女子供を脅すのは趣味じゃねぇんだ。ほら、拳銃しまうからここで何してたか言いな」
「…拳銃使いは、グイード・ミスタ………」
「ああ?」
「写真を見て覚えた…ペッシと一緒に、何度も、顔と名前を覚える為に…写真を何度も…二人で一緒に………」
「…誰と、何だって?」
また拳銃に手を掛けたのは一般人の女じゃないと思ったから…?撃たれたら死ぬ…?プロシュートが先に行った場所…そこがどこだか分からないけど、もしも…死後に行ける場所だとしたら………、
「っ、動くんじゃあねぇ!オレの写真を何度も見て顔と名前を覚えたって?あんたオレのファンか?カワイー子に初対面で熱烈な告白をされたのは初めてだぜ、ありがとうよ!で、あんたは何者なんだ?答えによっちゃあキスしてやるぜ。オレのリボルバーが、だがな!」
ペッシが必死に顔と名前を覚えていた……それは始末するべき対象だったから。…つまりこの人は敵だ。…敵であるこの人がピンピンしている事、…敵を討ちに行ったはずの彼らが帰って来ない事……これから結び付けられる事は………、
「ッ!」
何かの気配を察知したらしいミスタは私に向けていた銃口を背後の扉へ向けた。半開きの扉を警戒しているみたい。ギィ、ギィ…と独特な音を立てて揺れるのはここからは見えないもっと奥の部屋の扉…。建付けが悪いだけかと納得しかけたような彼は、突然棚の上から落ちて割れた小瓶の音に驚いて銃を構え直した。
「何で揺れてもねぇのに突然落ちてくんだ?」
棚の付近を確認しながら独り言を呟く彼は鋭い感覚の持ち主のようで、またバッと扉の方を振り向いたかと思ったら次は天井を見上げた。
「オイあんた、誰かいるのか。あんた以外にここによォ…」
「…ここ何日か、誰も帰ってきていません」
待っているのに…。誰一人………。
「…まぁそりゃあそうだろうよ。暗殺者チームは全員殺ったからな。だからこそアジトであるここにあんたみてぇなカタギさんがいる事に驚いたぜ。そうじゃなくてよォ、他に誰かいたりする?別の仲間とか…」
殺った…?全員………?この人が?………いや、たった一人にやられる訳がない。この人もチームなんだ。…こいつのチームが、奪ったんだ。私の…大切な人たちを。
『心の中で思った時にはすでに行動を終わらせていなきゃあならねぇ。おめーもそうなるんだぜ、オレたちの仲間ならな』
プロシュート………、
………ぶっ殺す…と、心の中で思ったので実行します。こいつも、こいつの仲間も…皆殺しにする。
「聞いてんのかよ…、………っ!?」
今度は別の棚から床に落ちた物を見て目を見張った。銃口をそっちへ向けどこか動揺したように瞳を揺らしている。
「…ポルターガイストって知っていますか?ここではそれが…頻繁に起きるんですよ…」
さっきから何か分からない得体の知れない音が何度も、微かではあるが部屋中から聞こえる。ミスタが感じ取る何かの気配…ひとりでに落ちる物…。この人が来た時…部屋に入って来てほしくないと思った。…帰れ、と思った。…その瞬間から起きている。………これが私の能力の一部…なのかもしれない。自分でもよく分からないけど…身を守る為に…こいつを追い出す為に…私が無意識の内に起こしている現象なのかもしれない。
「な…何が、何だって…?い、いや…今はそれどころじゃあねぇんだ!4つなんだよ!さっきそこの棚から落ちたもんが、4つ!そこに転がってんだ!何で4つ落ちてくんだよ!4はダメだ!4はオレの周りにあっちゃあいけねぇ数字だ!!」
突然震えながら何かごちゃごちゃ言い始めた。この人は感覚が鋭くて敏感な人かと思ったけど、扉の方を横切った”何か”に気が付けないほど…余裕がなくなってしまったみたい。何がこの人をこうさせているの…?
「オイ…オイあんた!そこに転がってるもん…1つ拾って3つにしてくれ!4はダメだ…4つはダメなんだ!早く3つにしてくれ!!」
「…ミスタ、ミスタミスタミスタ…」
「なっ!なんだオメー!?4回呼ぶんじゃあねぇ!!さっさと拾え!ぶっ殺されてぇのか!?」
「それは…4日前に4本目を開けたワインのコルクです…。先月の4日に…4丁目に新しく出来たお店に4人で行ったんです…。その時に一人一本ずつ買って…楽しかった思い出に…コルクだけを取っておいたんです…」
「オ…オイ…」
「…そういえば…もう少しで4時ですね。時計の針は44分を指していますが、その時計ずれているので、正確にはあと4分で4時です」
「や、やめろ!それ以上喋るんじゃあねぇ!それ以上4にまつわる話をしてみろ!今度こそ本当にドタマぶち抜くぜ!脅しじゃあねぇ!本気だ!」
………取り乱して弱虫の吐くセリフを言っている。ドタマぶち抜いて黙らせる…そう心の中で思った時にはすでにやっていなければいけないのに。ギャングの世界なら…心で思ったと同時に終わらせていなければいけないのに。この人はさっきから大声で脅すだけ。私を一般人のマンモーナだと思って油断しているのだとしてもそうじゃあないとしても、どちらにせよ甘ったれたマンモーニだ。…と、彼ならきっとそう言う…。
「クソ…っ!!」
…二発、撃った。一発目でコルクを飛ばして4つから3つに。もう一発は私の横を掠めて後ろの鏡を割った。結局脅しじゃあないですか…。それにせっかくコルクの数を減らしたのに、今度は残りの弾丸の数が4になった。毛嫌いしている4はまだすぐ手元にある。
「残りは4発…ですね、ミスタ。4…いい数字です」
「あんた普通じゃあねぇぜ……品のいいお嬢さんかと思ったが違ぇ。見ず知らずの野郎が拳銃ぶっぱなしても怯えた表情ひとつ見せねぇ…つまり慣れてるって事だ。カタギじゃあねぇんだろ」
「………」
「吐いてもらおうか。あんた一体何者だ?何が目的でここにいた?暗殺者チームとはどういう繋がりがあった?」
ミスタ……こいつは私がぶっ殺す。…だけど今じゃない。こいつの仲間も…全員殺るには近付いて知らなければ。顔と…能力を。
全員殺った…って言うのがこいつの見栄を張ったしょうもない嘘で、本当はみんなどこかに隠れて機会を伺っているのかもしれない。…私が勝手な行動をしたらみんなは……プロシュートは、きっと大きな声を出して怒る。でも、私は………殺ると、思った………ッ!
「自分が何者かは分かりません。目的は…帰りを待つ事。繋がりがあったのかは分かりません。ただ…一緒にいました。私が"正常"になるように…手助けをしてくれたんです…」
「あー?何言ってんのかよく分かんねぇんだけど」
「さっき私の事を普通じゃあねぇって言いましたけど、私は最初から普通じゃあないんですよ。カタギじゃありませんけどギャングでもないです。裏社会の事は何も知らない。知っている人もいない。だけど普通の…表の社会の事も何も知らないです」
「えっと………、とりあえず名前は?」
「ミエーレ」
「ミエーレさんよォ………出身は?」
「分からないです」
「歳は?」
「数えてないです」
「生年月日…身分証とか、なんか分かるもん持ってねぇの?」
「何も持ってないです」
「…記憶喪失か何かか?今までどうやって生きてたんだよ」
「………」
どうやって………、………人に飼われて…自分を殺して………、………プロシュートに見付けてもらわなければ、犬以下の生き方しか許されなかった…。プロシュートが…みんなが、家畜から人間にしてくれた…。
「…あー、もういい!何がほんとで何が嘘かオレには分からねぇ!調べた方が早いぜ。身の潔白を証明してぇなら一緒に来てもらおうか。断らねぇよな?この拳銃が目に入ってればよォ」
ついて行けば…仲間の顔を知れる。
…もしかしたらもう、ここには二度と帰って来られないかも…。みんなと過ごした…大切な場所…。
………でも、行くしかない。…私が自分でやるしかない。
「ッ!?オイ!今そこに誰かいなかったか!?」
「誰か…って?」
「それをオレが聞いてんだよッ!!」
プロシュートの能力は、老化させるから拷問には向くけど殺しには少し時間が掛かってしまっていた。だけど" 直 "は素早い。…私の能力は…?脅しや拷問、追跡向きで殺し自体は得意じゃないのかな…。でも………分からない事だらけだけど、" 直 "を試す価値はある…。
「グイード…ミスタ、」
「な、何だよ!」
「手を貸していただけませんか」
「あ!?何で!?」
「ここ何日か…4日くらい、まともな食事を摂っていなくてちゃんと歩けるかどうか…。毎日4食、ドルチェも4つは食べていたのに…4時間前に4枚ほどクッキーをつまんだ程度で…。あと残り4枚しかないし…」
「うるせぇぇええ!!分かったからそれ以上喋るんじゃあねぇ!それ以上4って言ってみろ!耳が片方なくなっても知らねぇぜ!?」
「では手を…」
「分かった分かった!ったく仕方ねぇなァ!…ほら!」
「………グラッツェ、」
直触り…、………これで、ミスタ…。
………気が狂う程の悪夢を見て、生きている事を拒絶したくなって、自害を選ぶ。………呪い殺す。…って事が私の能力だったら良いのになぁ…。
「冷てぇ…あんたの手、氷みてぇだな…大丈夫か?」
「大…丈夫です」
「ッオイ!?オイ、しっかりしろ!!オイ!!」
徐々に意識が遠のいていく…。霞んでいく視界の中で最後に見たのは、私に呼び掛けるミスタの背後に立っていた黒い影。…その影はまるで彼に取り憑くかのように…吸い込まれるように消えた───。
─────
「……………、」
………ここは………、
「オッ!起キタゼ!ミスタヲ呼ンデ来イ!」
「ミスターッ!」
え………らっきょう…みたいなのが喋ってる…。これって…ミスタのスタンド?………喋れるんだ………変なの。
…大きなベッド…窓辺には花が飾ってある。壁の装飾や照明だけで立派な建物なのだと分かる。…ドラマで見たお金持ちの人のお家みたい…。まさかここって………、
「お?」
うわ…。部屋に入って来たミスタはベッドに腰かけると顔を覗き込んできた…。
「ボンジョルノ、シニョリーナ。ずいぶん起きたくねぇみたいだったがどんな楽しい夢を見てたんだ?」
「…どれくらい、寝ていましたか?」
「んーと、…3日と1日だな」
「え………4日間?」
「オメーとはとことん反りが合わねぇ気がするぜ」
「………。不思議な夢を見ました…。4月4日の4時44分発の列車の4両目に4人の仲間と一緒に乗って、40分後に目的地に到着したらそこに4人の別の仲間がいて…」
「オイオイオイオイ、オイ!何でそんな4って数字に拘ってんだァ!?」
「さぁ…夢なので自分でもよく…」
「いいかよく聞け!オレは4って数字が嫌いなんだ!今後4に関わる事に気付いたり思ったりしてもオレには言うんじゃあねぇ!」
「………」
「聞いてんのかコラ!どこ見てんだ!?」
「窓の外に蝶々が4匹います…なんかくっ付いてるから交尾中ですかね?ね、ミスタ…」
「チッ!1匹減らして3匹にしてやる…ッ!」
ミスタが銃を取り出したのとほぼ同時に部屋の扉が開いた。
「ミスタ…銃をしまって。彼女は一般人だ」
「ジョルノ!」
ジョルノ…?…ペッシが覚えようとしていた敵の中にそんな名前はなかった。…って事はリーダーが言ってた新入り…?
「こいつは一般人なんかじゃあねぇぜ!銃口を向けてもビビりゃしねぇ。こいつ自身も一般人とは言えねぇ自覚があるみたいだぜ。なぁ?」
「………親に育てられ、学校に通い、常識的な感覚を持って生きているのが一般人と呼ばれるものであるなら…私はそうではありません。何一つ当てはまりませんから」
「犯罪に手を染めていなければ、また組織に属していなければ一般人と呼べます。培ってきたもの、経験してきた事は人それぞれですから」
…犯罪に手を…。…多分、人を殺した事がある気がする。…一度だけ、プロシュートを殴って傷付けたクソ野郎をぶっ殺すと本気で思った事がある。その時に自覚はないけどスタンド能力を…使ったのだと思う。説明しがたい不可解で不可思議な死を遂げていたから…。きっと私の…ぶっ殺すって思いがそうさせたのだと思う。
…だからきっと私には、殺す、と思った相手を殺す力がある。…この、ジョルノ…。…生意気そうなこの若者は…私の大切な物を奪った連中の一人なんだろうか…。
「そうは言うけどよォ、こいつ怪しいぜ?大体組織に属してねぇっつっても組織の人間とつるんでたんだ。でなきゃ暗殺者チームのアジトに入り浸ってるはずがねぇ。ちょっと手荒でも知ってる事全部吐かせた方がいい。今はただでさえ基盤が固まってねぇんだ。ちょっとの不安要素も見逃すべきじゃあねぇ」
「珍しく慎重ですねミスタ。何が不安なんですか?」
「4の使い手なんだよこいつはッ!!」
「…はい?」
「4って数字にまつわる話をするプロフェッショナル……いや!スタンド使いかもしれねぇ!能力は4を引き寄せる事だ!!」
「………はぁ…」
………このミスタ…、最初は実戦経験が豊富で勘の鋭いギャングかと思ったけど…あんまり怖くない。数字の4が関わると途端に冷静さを失っておかしな事ばかり言いだす。4なんて私でも怖くないのに。…こいつはやっぱりマンモーニですね。
分からないのはジョルノ………、
「あなた達は…チームメイト、ですか…?」
” Sì ” ならジョルノは情報になかった新入り。みんなが目的を果たす為に排除しようとした敵。
「知ってどうすんだよ。暗殺者チームの敵討ちでもするってか?」
「ええ、ぼくらは同じチームの仲間だ。幹部のブチャラティという男の下で共に任務に当たっていました」
「おおい得体の知れねぇ奴にそんなべらべらと…」
「相手の事を知りたいならまず自分の事を話さなくては」
「女口説くのとは訳が違うだろうが……いやある意味同じか…?いやでも…」
ミスタと共に任務………じゃあ、やっぱり………、
「暗殺者チームは7人でしたよね。ぼくが実際に会ったのは鏡の男と氷の能力の男だったが…生命を組み替えて物質にする能力の男とも戦いました。あれは遠隔操作でしたね」
イルーゾォとギアッチョ…?…遠隔操作をするのは…メローネ…。
「それと老化させる能力も目の当たりにしました」
……………嘘じゃない。………ミスタが言ったのは…、全員殺ったと言うのは………本当だ。能力を知れるのはターゲットだけ。ターゲットを仕留め損なう事はあり得ない。………みんなが本当はどこかに身を潜めているのかと思ったけど…そう信じたかったけど、………こいつらが今も生きているのは…、みんながこいつらを暗殺しないのは、………できないから。………みんなは……………、
「………暗殺者チームのみんなと戦ったのは…、あなた達以外にいますか…?」
「………仲間はいた。…だが今はもういない」
「……………」
………明らかに、表情が暗くなった。…失ったんだ。…きっと仲間を見送ったんだ。………今の私にはそれすらも羨ましくて憎いと感じる。…私は誰一人として死に目にあう事ができなかった。…別れの言葉も、お礼も…何も言えないまま………、
『………オレ…は、…おまえを…愛しているぞ………ミエーレ………』
っ………愛の言葉も…、直接、聞けなかった。…顔を見て言えなかった………。一番大切な人に、一番大切な言葉を………、
「ただ…一人いますが彼も今はここにはいない。…でもいずれ会う事になるでしょう。フーゴという男です。彼もあなたの仇の一人という事になりますね」
「………仇、なんて…私は一言も言っていませんが…」
「違うんですか?暗殺者チームを始末したぼくらを恨んで復讐の機会を伺っているのでは?」
「……………」
「それとも逆かな。首や腕に痣がありますね。首輪や手枷のような痕だ。暗殺者チームに監禁されていたんですか?自由を奪われ拘束されていたから、彼らがいなくなったおかげで解放されたと思っているのなら、そっちの方がぼくとしても嬉しいですが」
「違う。奴隷同然だった私を見つけて生かしてくれたのは…プロシュートです。…私に人としての在り方を教えてくれたのは…暗殺者チームのみなさんなんです…。信じられないかもしれませんが、私が今ここにいられるのは、彼らが生かし…教え導いてくれたおかげなんです」
「暗殺者が人助けねぇ…」
「………」
「うおっ…そんなに睨むなっておっかねぇなァ~また4の言葉責め食らっちゃあ堪らねぇ。オレは戻るぜジョルノ」
「ええ」
ミスタ………、
「ッ、いって…」
「ミスタ?どうかしたんですか?」
「いや…何かにぶつかっただけだ。…最近ちょっと寝不足でよォ…」
「………」
「なんか妙な夢ばっか見ちまって眠りが浅いって言うか…」
「妙な夢?」
「まぁ疲れてるだけだと思うんだけどよ…」
「…状況が目まぐるしく変わっていますからね。無理もないでしょう」
「おー………」
「夢の中でおかしくなる程の恐怖を感じ脳が勘違いして心肺停止する事を願います」
「願うなッ!ったく、オメーは口を開けば嫌な事しか言わねぇな!…ミエーレ!名前覚えたからな!?」
「勝手に覚えて呼ぶ事は許可しない」
「はぁッ!?」
「ミスタ…もう行って」
「クッソ…腹立つ…」
それはこっちのセリフですよ。…グイード・ミスタ。私だって覚えましたよ。…じわじわと憔悴していって次第に次第に死んでいけばいいのに。
「…実はぼくも最近悪夢ばかりを見るんです。まるで無意識の更に深いところで恐れている”何か”を操作されているようだ。…あなたですよね?ぼくらに悪夢を見せているのは…」
「はあ?無意識に深いも浅いもねぇえだろうがァア!” 何か” って何だァっ!?分かるように言えナメてんのかッ!?クソ!クソッ!!」
「………」
……………ギアッチョだったらそう言うかもって思ったら…口に出てしまった。
「…あるんですよ。無意識の更に深いところ…メタ無意識というんですが、それは潜在意識を超えたもので具現化してしまう思考と言われています」
「………は?」
「つまりあなたの能力は潜在意識を超えた先にある個人が抱く”恐怖”に作用し夢や幻覚を見せ徐々に精神を崩壊させていくんです」
「……………はあ?」
言っている事がひとつも理解できないのは私の頭が悪いってだけじゃあないですよね?
「もっと簡単に言えばあなたは殺すと思った相手を殺せる。その思いだけでです。思いが強く、目の前にいる人物であればその場ですぐに、相手の素性が分からずただ漠然と殺す、とだけ思った場合や殺すべき時ではないと判断した場合は時間を掛けてじっくりと…だが確実に意識を死に向かわせているんだ」
「……………」
「…あくまでぼくの仮説ですが…合っていますよね?」
自分でもよく分からない能力の事をこいつ………、勘が鋭くて推理ができる頭の良い人は嫌い。
「何を根拠に言ってるんですか。今初めて会ったばかりなのに。目に見えるわけでもないのに」
「あなたが暗殺者チームのアジトにいた目的は、彼らの帰りを待つ為だったと聞いています。暗殺者チームが全滅した事をミスタに聞きましたね。その時に…仲間を奪った奴らを殺す。と思った。ぼくが悪夢を見始めたのはミスタがあなたを連れて帰った日の夜からだ。それから今日まで何かとツイていないし、嫌な気分なんだ」
みんなの帰りを待っていたとミスタから聞いたのなら、私がみんなを仲間だと思っていると感づいていたなら、さっき…暗殺者チームに監禁されていたのか?なんてふざけた質問をしてきたのは、私がそれを否定する為に彼らを庇うような事を言うと想定したから…。信憑性を高める為に必要以上の真実を口走る事まで見越していたのだとしたら……こいつは頭の回転が速く機転の利く男だ。
こいつの言う事は悔しいけど合っていると思う。…ぶっ殺すと思ったけど相手の事を何も知らなかったから悪夢を見せる程度に留まっている…。もしそうなら、顔と…戦ったという真実を知った今だったら………、
「…つまりあなたが言いたい事は何ですか?よく分からん説明はつまらないのでもういいです。あなたが見た夢の内容や今の気分なんて反吐が出るほど興味がないです」
「つまり………あなたはこれからぼくらと共にいなければならない…という事です」
「意味が分からないしあり得ません。私があなた達と共にいる事はない。何故なら私はお前とミスタを殺すとすでに心の中で思っているからです。心の中で思ったから行動している。直接この目で見たわけではないから、まだ信じたくないから………躊躇いが生まれているのかもしれない。でもここへ来て確信した。私は必ずお前達を殺す」
「だからですよ。ぼくとミスタはあなたに殺すという思いを向けられた。死ぬという現実に自らの意志で向かうように操られている。自分では抗いようがない。ぼくらに残された道は、あなたに” 躊躇わせる ”事だけだ」
「………、………躊躇わせる…為に、自分達がいなければ困るような状況に…私を置くと…言っているんですか…?ぼくらを殺したら困るのはお前だ…と、脅しているつもりですか?」
「……………。あなたの事を調べさせてもらいました。…だが何も分からなかった。ないんだ。あなたに関する情報が。…あなたを知る人物が…いないんだ。…人は人と関わらなければ生きていけない。誰にも知られずにたった一人で生きる事は不可能だ。…だとしたら考えられる事は二つ。何者かによって徹底的に隔離されて生きてきたか、…関わってきた人物が皆…何らかの理由で死亡しているかの二つです」
「………」
「奴隷同然だった…と言いましたね。常識的な感覚を持って生きている一般人ではないとも言っていた。暗殺者チームには監禁とまではいかないが行動は制限されていたはずだ」
「…なぜ?」
「ぼくだったらそうするからです」
「…なぜ」
「どこにどんな敵が潜んでいるか分からない。同じ組織内でもチームが違えば信用はできない。そんな中で常識も知識も力もないあなたのような人を野放しにしていたらどんな危険に巻き込まれるか分からないからだ。君を利用しようとする連中は遅かれ早かれ必ず現れる。行動を制限する事は守る為に必要なんです。あなたを危険に晒す事を避ける為に必要な事なんです」
……………思わず頭を抱えてしまった。…深い溜息が出る。
私が外へ出る時には必ずプロシュートの許可が必要だった。そしてチームの誰かが傍にいる時でなくてはならない。知らない人とは口を聞いてはいけないと強く言われたし、外出したら何時にどこで何をしたのか細かく報告するように言われていた。…誰かが…支配力、独占欲、束縛が異常過ぎて呆れる…と言っていた。私はそれがプロシュートの恋人に対する接し方なのだと納得していたけど…少し違ったのかも…。こいつの言う事を鵜呑みにするわけではないけれど…でも、私はそうして…彼にずっと…守られていたのかもしれない………。
「あなたは裏社会に触れていた時間があまりに長すぎる。常識は自然と身に付いてくるものだが、一般人に混ざって普通の生活を一人でする事は難しいでしょう。そういう意味でも、今のあなたに選択肢はない。ぼくらは互いに進める道は一つなんだ」
悔しい。こいつの口から出てくるのは…否定できない事ばっかりだ…。確かに今解放されて外に出されてもどうしようもない…一人で生きていけるだけの力も知識もない…。でも…帰る場所はある。…プロシュートと過ごした…家は………、
「家は………」
「………」
「帰る場所は…、あります」
「…いいえ、もうないですよ」
「え…」
「ミスタに暗殺者チームのアジトを視察に向かわせたのは、必要のない場所を借りているのが無駄だからだ。ぼくは無駄が嫌いなんだ。街を支配できるほどの力のある組織は利する必要があると考えています。当然街の無駄は省くべきだ。いなくなった構成員の所有物は無駄にならないように街に返すべきです」
それって………アジトだけではなく、みんながそれぞれ生活していた家も…もう…、…誰か別の人の物になる手配が済んだという事………?プロシュートの家も…?家にあった物も…処分したの………?
…どうして………こいつは私から全てを奪っていくの………。
「………道は、もう一つあるじゃあないですか。私を殺さないのは…どうしてですか。殺せばいいでしょう。それで済む話です」
「確証がないからです。あなたを殺せばぼくらの死へ向かう思考が消えるという確証が。普通スタンド能力は本体が死亡すれば消えるはずだ。だがそうではないスタンドも存在する。本体が死亡して初めて覚醒するスタンドを見た事があります。あなたの能力もそれに近いものかもしれない。能力の全貌が明らかでない以上軽率な行動はすべきではない」
「……………」
抜け目のない性格だ。…自分でもよく分かっていないけれど私のスタンドは…怨霊のようなものだと思う。ポルターガイストを引き起こす事もできる。こいつは深い無意識がどうのこうのとか言っていたけど、強い念で悪霊を憑けて呪うというイメージが私の中でしっくりくる。すでに存在するこの世を彷徨う霊魂を利用する能力だったとしたら、私が死んでも元々持っている怨念で憑り殺す事は不可能な話ではないはず。…そこまで、考えているの…?こいつは…。勘が鋭く的を射た推測ができて慎重…。話せば話すほど嫌になってくる…。
私は…こいつと違って頭が悪い。だからやっぱり考えるより行動した方が早い。…そうすれば躊躇いもない。私はやれる。すでにやっている。すでに仕込んでいる。殺す為の準備を、悪夢という形で序章を見せている。…やれる。時間は掛かるかもしれないけど、確実に…!
「私はお前とミスタを…刺し違えてでも殺す。…必ず。…躊躇う理由はありません」
「いや、あなたはすでに躊躇っている。…そうでなければぼくはもう死んでいるはずだ。メタ無意識はもちろんあなたにもある。無意識の奥の奥で躊躇っているのは、ぼくらが仇である証拠を見たわけじゃあないから…かな。あなたは芯がある意志の強い人だろう。だからスタンド能力が発現した。だが性格は攻撃的ではない。能力も自分を守る為に発動したと考えるのが自然だ。あなたが心にブレーキのない悪人じゃあなくてよかった。そのおかげでぼくらはまだ生きているのだから」
「…それも今だけです。あなた達が生きていられるのは今だけ。さっき私があなた達と共にいる事はないと言いましたが…言い変えます。確実に仕留めるまでは傍にいる。心も能力も未熟だから時間が掛かっているだけで、私がお前達を始末する事はすでに決まった真実です!何故なら心で思った時には実際に行動しているから…ッ!」
『───真実』
「………え………っ?」
『ジョルノ・ジョバァーナ ト グイード・ミスタ、コノ二人ノ死ハ、確カニオマエノ能力ガ実際ニ起コス「真実」ダ。シカシ、ソノ「真実」ニ到達スルコトハナイ。ワタシノ前ニ立ツ者ハドンナ能力ヲ持トウト無意味ダ』
………え?私が私の能力で二人を殺す事は実際に起こる事?私はちゃんとみんなの仇を討てる…はずなのに、そうなる未来は来ない…?ど、どうして………、
『オマエノ能力デ死ヌトイウ「真実」ニ向カウ事ハナイ。コノ「ゴールド・E・レクイエム」ノ前デハ───』
真実に………向かわない………。実際に起こる事のはずなのに、実際には起こらないようにする………それがジョルノの能力………?そんなの………じゃあ、どうやって殺せばいいの………。
「───………大丈夫ですか?」
「え…」
「気を失ったように突然眠ったので驚きましたよ。4日間も眠り続けた事といい、スタンド能力を突然使い始めた事に慣れずに不安定な状態にあるのかもしれない。…ぼくらは共に居なければならない。これだけははっきりしました。物騒な事を考えるのはやめて、少し安静にしていてください」
「……………、待って。あなたの、スタンド能力は…?」
「…例え仲間であっても能力を明かす事はないんですよ。ぼくらの世界ではね」
「ゴールド・E・レクイエムは…あなたのスタンドですよね」
「…何故?ぼくは能力の一端でもあなたの前に出してはいない」
………じゃあスタンドが自分から出てきたの?………私のしようとしている事が無駄だと伝える為に…?…ミスタのスタンドも意思があるように喋っていたし…あり得ない事ではない…。
無駄………。
………私がこいつらを殺すという真実には到達しない…?その未来は…どうあがいても来ない………?ジョルノのスタンドが存在する限り…私はこいつらを殺せない………?
「……………。それでも………、無駄…かもしれなくても…」
「………」
「やらなければならない。何故なら、やると心の中で思ったから………」
「……………君は疲れている。心も、身体も。…少し眠ってください」
思ったなら…実際に………。………できなくても、やらなければ………。
私はもう………マンモーナじゃあない…。みんなに会う為には、胸を張って会いに行く為には、………始末する。みんなの………仇を。
っ………あれ、…ない…。ペンダントが………彼に貰ったペンダントがない………どこで落としたんだろう…。この部屋からは出ていない。でもここにないなら…アジトだった場所…?それともミスタに連れて来られる途中のどこかで………、………どこに………。大切な物は…どこにあるの?大切な人は………どこにいるの………。
私はもう何も持っていない。空っぽだ…。…大切だと思ったものがいつの間にか全て手から零れ落ちて何も残っていない。…残ったのは…私………だけ。…プロシュートが救い出してくれたこの体と、みんなが育んでくれた…感情を取り戻したはずの心…。でもこれも…なくなっていく感じがする…。心が冷えて…死体に戻っていく感覚がする………。何にもない…空っぽの死体…。せめて彼らが存在した証が欲しかった。みんなが生きた形跡が…。ほんの少しの慰めだけど、使っていた物や着ていた服が…残っていたら………、
「あー…そういえば、あなたの物なら隣の部屋にありますよ。あなたが生活していた家はもうないが、家にあった物は移しておきました」
「え…!…わ、私の…物だけ………?」
「どれがあなたの物か判断できなかったので家にあった物のほとんどですが」
じゃあ…プロシュートの物も………っ、
「アジトや他のメンバーの自宅にあった物も全て回収し、一時的に保管してあります。処分する前に点検したいと思ってはいるんですが時間が取れなくて。…もしも必要な物があったら言ってください。残しておくので」
「全部いる」
「………分かりました」
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