優しい光の世界で今日も
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「…起こしちまったか?ミエーレ」
微かな明かりが瞼の向こうに見えて目を開けた。…隣で寝ているはずのプロシュートが居なくて上体を起こすと、彼の優しい声が耳に入った。
「…いえ…」
プロシュート…。
ベッドの端に座って煙草の煙を燻らせている。…大きくて逞しい背中から目が離せない。………触って…みたい。………抱き着いてみたい。…触ったら怒るかな…。…汚いって言われる…?
………ううん…プロシュートはそんな事言わない。…心の中で思ったりもしない…。プロシュートは違う。今までわたしが関わって来たクソ野郎共とは…違う。
わたしから手を伸ばしても……触っても、きっと怒らない…。…殴ったりなんかしない。プロシュートは今まで一度だってわたしに手を上げた事はない。プロシュートは…優しい…。
「眠れねぇのか」
こんなに優しい声で話し掛けてくれるのはこの人が初めて…。暴力を振るわず、暴言も吐かず、温かいご飯を与えてくれる…一緒にベッドで寝てくれる…名前を呼んで、頭を撫でてくれる…。何の役にも立たないわたしにどうして良くしてくれるんだろう?
「ミエーレ?」
「ん……はい……?」
「眠そうじゃあねぇか。一服したら横になるから先に寝てろ」
「………はい…」
でも、プロシュート…わたし、無理して起きてるのではなくて…あなたの背中をまだ見ていたいだけなんです…。
…ぼーっとしてたら、ふと思い出した。初めてアジトに行く前にプロシュートに言われた事………、
「───アジトには当然オレ以外の奴がいる。なんかあったら我慢せずに口に出せ。嫌な事は嫌とはっきり言うんだ。やめろと言えばやめてくれる。言ってみろ、ほら。”嫌だ”」
「…”いやだ”」
「そう。”やめて”」
「”やめて”」
「そうだ。嫌だと思ったらそう言うんだぜ」
「……………。いやだ…やめて…ごめんなさい、許して…。………声が枯れるほど言っても…聞いてくれない人もいます」
「聞く奴もいる。オレがそうだ。オレの仲間はお前が知ってるクソ野郎共とは違う」
「…………、」
「お前はもう我慢する必要はねぇんだ。自分がしたい事をしていい。もう自分を殺す必要はねぇんだぜ───」
………その言葉にどれだけ救われたか…プロシュートはきっと知らない。自分を殺す事でしか自分を守れなかった。だからそれに慣れて、当たり前になってしまった。
プロシュートは…今の状況をどん底だって言う。だから栄光を掴んで這い上がるって…。でもわたしにとっては今がもう這い上がった先です。プロシュートが…暗闇から引き上げてくれたから。陽のあたる場所まで手を引いてくれたから。…プロシュートはわたしの光そのものです。
大きな声で怒る事がよくあるのは、わたしの普通じゃない感覚を正す為に必要だから。わたしの普通は普通じゃなくて…、わたしがやってはいけないと思っている事は、本当はみんな普通にやっている事で………まだまだ、光の世界での普通は分からない事だらけで慣れないから…プロシュートにもまだまだたくさん怒られてしまうんだろうな。大きな声で怒鳴られるのは怖いけど、それが嫌じゃないのはやっぱり優しさが隠れているからだと思う。
我慢…する必要はない。わたしがしたい事をしても………いいのなら、………背中に抱き着いてもいいですか………?
タバコの火を消して小さく息をついたプロシュートに手を伸ばした。
「っ………ああ?なんだ…どうした?」
一瞬びっくりしたようだったかも。薄暗い中で急に後ろから抱き着かれたらびっくりしちゃいますよね。…でも、嫌そうではない…と思う。拒絶する言葉も暴力もない…。それどころか、頭を…そっと撫でてくれている…。
「プロシュートの…大きな背中に飛び付きたくて…」
「ははっ…心の中で思ったなら行動するのが正解だ」
「でも…悩みました…」
「何で?」
「…怒られるかなって…」
「何でそう思った?」
「…イヤかもしれないから…わたしに触られる事が…」
「………はぁ…」
ため息…。…嫌われた…?こういう事を言う方がダメだったかも…。どうしよう………、
「ご、ごめんなさい…」
体の向きを変えたプロシュートは、両手を広げるとわたしを見た。…えっと、後ろからではなく、前からも抱き着いていいという事…?
「あの…、えっと………、」
「来いよ」
「………、」
目を細めて、少し笑っているように見える。…優しい瞳…。…ゆっくり近付いて彼の体に腕を回すと…ギューッと強く抱き締め返してきた。…ちょっと苦しい。でも、あったかい…。
「…オレは言わなかったか。おまえから動く事が嫌じゃあねぇと。…おまえから触れてくれる事が嬉しいんだってよォー」
「…聞いた事ないです」
「今聞いたな」
「…聞きました」
「そういう事だ。この先何があってもそいつが変わる事はねぇ。よーく覚えとくんだな」
「…わたしの事、イヤにならないんですか?」
「ならねぇ」
「嫌いにならない…?」
「なるわけねぇ」
「…どうして…」
「どうして、じゃあねぇだろ。今おまえが言う言葉は」
「え?」
「そりゃあ良かった、安心した。って言うのが正しい。大体なぁ、どうしてか聞かれたってオレにも分からねぇんだよ。ただ確信しているだけだからな」
「…え?」
「オレがそうだと言ったらそうなんだぜ。理屈はどうでもいい」
プロシュートの言う事は時々難しくて、わたしは頭が悪いから…よく理解できない時がある。
…わたしを嫌いにならないと、ただ確信している…か。…わたしも、プロシュートを嫌いになる事はない…って確信している。プロシュートを嫌いにならない理由がたくさんあるから…。
…プロシュートもひとつひとつ考えてないだけで理由があるのかな?何か…心で感じ取れるものがあるから確信しているって言えるのかな…。…もしそうだったら、嬉しい。
「頭でなく心で理解しろ。オレがオメーをどう思って、どうしたいと思っているのかを」
心臓を指でつつかれた。…どう思って、どうしたいか…?
「嫌いじゃあないなら、好きか普通っていうのは分かります。でもどうしたいのかは分からないです…。無理矢理しないから体目的じゃない…となると、どうしたいんですか…?」
「……………」
あれ?…黙ってしまった…珍しい…。理解しろって……心で感じろってさっき言ってたから、聞いたらまずかったかな…。
「おまえ…オレの事どう思ってんだ」
「どう…?………とっても、…優しいです」
「それだよ」
「それ…?」
こつん、とおでこを重ねると頭を撫でくり回しながら「もういいだろ。寝るぞ」と言った。…どういう事なんだろうか…。
優しい………。それだよって…優しさの事?………プロシュートは、わたしに優しくしたい………?
これ以上…どう優しくしたいんだろう…。
「ほら…」
横になるように急かされて一緒にベッドに入ると、またギューッと強く抱き締められた。…プロシュートの抱き枕になるの…あったかくて嬉しい気持ちになるから好き…。
「おめーは抱き心地はいいが冷てぇな。寒いか?」
「ううん…あったかいです。プロシュート…とってもあったかい」
「そうか」
どうしてプロシュートはこんなに温かいんだろう?どうしてこんなに…、
「あの……プロシュートは、どうして優しいんですか?わたしに、どうして優しくしてくれるんですか…?」
「…どうしてどうしてって、おまえの中には疑問しか生まれねぇのか」
「すみません…」
「分かるだろうが。理由はひとつしかねぇ」
理由はひとつ…?
嫌いにならない理由は分からないけど、優しくする理由はひとつだけなんだ…。…そのひとつしかないってプロシュートの中で決まっている事…何だろう?
「なぁ…オイ。嫌いじゃあねぇから好きか普通ってのは間違ってるぜ。普通、なんて感情は存在しねぇ」
「じゃあ………好き?」
「………ああ」
「…プロシュートは、わたしの事が好き…」
「……………おう」
………好き、かぁ…。………嬉しいなぁ…。
好きだから優しくしたいのかな?…わたしも、プロシュートの事が好きだから嫌われたくないって思うのかな…。
「…好き…」
…好きって、あったかい。嫌いは悲しくて辛いから…寒くて、ブルーとか、グレーなイメージ。でも好きは、あったかいから…心があったかくて嬉しい気持ちになるから………、
「オレンジ色…」
「あ?」
「心があったかくなるから、好きはオレンジ色です」
「………赤だろ」
「赤?…確かに赤もあったかそうですけど…、熱そうですね」
「熱いもんなんだよ。本来は」
「ん…?」
「…"好き"の解釈が違うらしいな、お前とはよォ…」
「え?解釈…?」
「適当な付き合いしかして来なかったオレが言うのもなんだがな」
「…赤みたいな熱い好きは、プロシュートもよく分からないんですか?」
「まぁ…そうだな。オレは誠実で熱い男だが一途ではねぇ。その一瞬は大事にするが一晩経てば熱は冷める」
「ふーん…」
「…だからお前は誇りに思っていい。毎晩このオレに抱かれて眠る事をな」
…髪の毛の先を指でクルクルされるの、好き…。わたしも今度してみようかな…。プロシュートの髪の毛…細くてキラキラで綺麗だから触ってみたい。
「………意味、分かってんのか?」
「え?」
「お前は特別だって言ってんだぜ」
「特別…?プロシュートの抱き枕になるの、わたしだけですか?」
「オメー自分の事オレの抱き枕だと思ってんのか…」
「はい。あったかくて嬉しいのでいつでも使ってくださいね」
「…オメーが良いなら良いけどよォ…。…それ他の野郎に言うんじゃあねぇぞ」
「言わないです…嬉しいのはプロシュートだけです」
「何でそう言える?」
「…特別、だから…?」
特別って、嬉しいのかな?なんか嬉しそうな顔でおでこをくっ付けた後、触れるだけのキスをしてくれた。…プロシュートのキスは優しくて甘い。…柔らかくて、気持ちいい。これも特別だからそう思うのかな…?
「プロシュート…」
「ん?」
「わたしずっと…キスされるの嫌だったんです。なんか気持ち悪くって…。…でもプロシュートだけは違うんです。…キスが気持ちいいって思ったの、初めてです」
プロシュートは色んな初めての気持ちを教えてくれる。嬉しいとか気持ちいいとかをたくさん知っていけば、心が正常になって…笑顔を見せられるようになるのかな。体でもプロシュートを感じる事が出来るようになれるかな…。
「………、」
ちょっと難しい顔をしたプロシュートに胸を押さえられた。…心臓の音を確かめてる…?
「あの…動いてますよ?一応生きてますから…」
「…まだだな」
「まだ…?」
「オメーのここがうるさく騒ぐようになったら抱き枕は卒業だ。優しいだけのキスもな」
…心臓が、うるさく…?どういう状況なんだろう…怖い。病気?すぐに死ぬのならいいけど、プロシュートに迷惑が掛かるようなら嫌だな…。
「あと少しだ。…安心しな。おまえの心はオレが責任を持って育ててやる」
「…それって、…育ったら終わりですか?」
「あ?」
「心も体も正常になって…普通の人のように色んな事を感じられるようになったら…終わり?プロシュートと一緒に居られないの?」
「………」
「だったらわたし、今のままがいいです。普通じゃあねぇって怒鳴られても…分からない事がたくさんあって困ってもいいです。…あなたがいる光の世界で、あなたを見つめて生きていたいです…」
それが迷惑だと言うのなら…いっそ殺してほしい。もう…たった一人で冷たい暗闇の世界には戻りたくないから…。
………小さく息をついたプロシュートに抱き締められる。さっきよりもずっとずっと力が強くて、痛い……抱き潰される………。
「オメーには本当にオレの言いてぇ事がまったく伝わらねぇな」
「ご、ごめんなさい…」
「始まりだろうが。終わりじゃあなくてよォ」
始まり…?
「何が始まるんですか…?」
「その時になったら教えてやるよ、シェモッタ」
気になるなぁ……その時が早く来たらいいのに…。
…プロシュート、眠そう…?ゆっくり瞬きをしてる。もうすぐにでも目を閉じてしまいそう。…無理して起きてくれてる…?
眠いですか?って聞いたら、優しい顔で頬っぺを撫でてくれた…。
「…もう満足か?」
「え?」
「喋り足らねぇなら朝まで付き合ってやるぜ。おまえがこんなにベラベラ喋んのは珍しいからな…」
お話に付き合う為に無理して起きてくれているの…?…たくさん喋るの、珍しいのかな…。わりとよく話すようになったと思っていたけど…。
「…ありがとうございます。…明日またお話聞いてください」
「ああ」
目を閉じちゃった…。
…頬っぺをそっと撫でてから髪の毛を指に絡めてクルクルしてみた。でも起きない…本当に眠っちゃったんだ。
…綺麗な顔…。心臓がうるさく…か。プロシュートを見ていたらドキドキする時がある…今もそう。これがもっともっと激しくなるのかな?
触りたいと思うのもギュッてされるのが心地いいのもプロシュートだけ。
なんだかこの"好き"は、ピンク色かも知れない。あったかくてオレンジ色だと思ったけど、プロシュートが言っていたようにだんだん熱くなってきた気がするから…、熱い赤がオレンジ色でちょっと薄まってピンク色…。絵の具で混ぜたら朱色だったと思うけど、優しいピンク色のイメージ。
「………好き、です」
唇を重ねるとわたしの体を抱き締める腕に力が入った。…返事の代わりなのか眠っている間の無意識の行動なのか分からないけど、嬉しいからどっちでもいいや。
部屋は薄暗いのにプロシュートが眩しく見えるのは、この人がわたしの光そのものだからかな。あたたかい光に包まれて眠りにつける事を感謝しなくては…。
「…
《優しい光の世界で今日も》
Fine.
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