ママっ子同士は可愛くて癒しなので特例
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「あー…?」
アジトの一部屋…チームのメンバーが屯するその部屋の扉を開けたホルマジオは、飛び込んできた異様な光景に思わず声を零した。
「な…何やってんだァ…?」
彼の視線の先には小刻みに肩を震わせるイルーゾォと、そんな彼を抱き締めながら子供をあやすようにぽんぽんと一定のリズムで優しく背中に手を添えるミエーレの姿があった。ミエーレはホルマジオに気が付くと人差し指を口元に当てて「しーっ」と言ったが、面白がっているらしい彼はニヤニヤと含み笑いを浮かべながら近寄って来る。
「どういう状況だよ…なぁイルーゾォよォ!何、オメー…泣いてんのかよ!?だっせぇな!マンモーナに抱き着いて慰めてもらってたのか?ええ?はははっ!あーみっともねぇ~!」
「………」
「ホ…ホルマジオ…っ!何て事を…」
「何があってそうなったんだァ~?教えてくれよ、なぁなぁ~へへっ」
プライドの高いイルーゾォが泣いているところを見られ、その上ここまで馬鹿にされたら黙っていないのでは…。そう思ったミエーレだったが、その心配と緊張をよそにイルーゾォは落ち着いた様子でミエーレの名前を呼んだ。
「ミエーレ、どうだったよ…なぁ」
「え…あ、…悲しい物語でした…」
「悲しいって感情はあるんだな。そう思ったなら涙のひとつでも流してみろよ、可愛くねぇなぁ」
「すみません……イルーゾォが先に泣いちゃったので…ちょっとびっくりして…」
「オレのように感受性が豊かで優しい心を持ち美しい涙を流せるように努力するんだな」
「はい…」
「高慢ちきの犯罪者が何言ってんだァ…?面白れぇ冗談を言うぜまったくよォ…」
ホルマジオの相手をするつもりは毛頭ないらしいイルーゾォは、変わらずミエーレの体を強く抱き締めている。抱き締め返すように彼の背に触れていたミエーレは少し眉を寄せると控え目に声を掛けた。
「あ…あの…イルーゾォ、ちょっぴり苦しいです…。ホルマジオも帰ってきましたし…そろそろ…、」
「あ?」
「は…離れませんか…?」
「…これだからマンモーナは困るってんだ。顔を見られたくねぇというオレの気を察する事ができねぇんだからな」
そう言われて初めて泣き顔を見られたくないから抱き着いてきたんだ。と思ったミエーレは「なるほど…」と小さく声を零して彼の長い髪にそっと指を通した。
「………オレの髪を弄ぶ事は許可しない」
「…枝毛を探しています」
「あるわけねぇだろうが。枝毛は許可していない」
「ん…本当に一本もないですね…。綺麗な髪の毛です。羨ましいなぁ」
「おまえだってないだろう。色も質も悪くない」
「わぁ…イルーゾォに褒めてもらえると嬉しいです」
「せいぜい有難く思って幸福感を噛み締める事だな」
「はい」
一体何がどうしてこうなったんだ?と少し呆れた様子で見ていたホルマジオは、ふと視線を落とした先にあったとあるビデオのパッケージを拾い上げた。そこに記された世界的に有名な悲劇の作品タイトルを見て納得したように「へ~」と言った。
「くだらねぇとか言いながら見そうなもんだが…イルーゾォ、おめー意外と可愛いとこあるんじゃあねぇか?ははっ」
「最初はくだらないって言ってたんですけど、いつの間にか物語に入り切ってしまったみたいで…」
「はんっ…で、何だって急に二人でこんなもん見始めたんだァ?暇か?おめーらよォ~」
「心が正常じゃあない喜怒哀楽を失った息をするだけの死体はこういうものを見て感性を養え、と言って見せてくれました」
「けっこうひでー事言われてる自覚あるかマンモーナ?」
「事実ですから…。それに嬉しい事や楽しい事は他のみんなが教えるからオレは悲しみを教えてやる、って言ってくれたんです。それはとってもありがたい事です」
意外に思っているのか関心しているのかよく読めない表情で小さく何度か頷いたホルマジオはある事に気が付き「しょうがねぇなぁ…」と呟いた。
「いつまでも引っ付いてねぇでいい加減離れた方がいいんじゃあねぇの?そろそろよォ~…」
…言葉を詰まらせたホルマジオは視界に煙のようなものが入った事で唾を飲み込んだ。漂うそれによってみるみるうちに体に皺が刻まれていく。振り返って確認するまでもなくプロシュートが帰った事が分かり盛大に溜息を吐いた。
「オイオイ、プロシュートてめぇ!やるなら ”直” にしろよ ”直” に!マンモーナまで巻き添え食らうじゃあねぇか!」
異変に気が付き鏡の位置を確認するよりも早く、大股で近付いたプロシュートに肩を掴まれたイルーゾォは彼の「グレイトフル・デッド」の一言で枯れ果ててしまった。
「ずいぶん仲良くなったじゃあねぇか…ええ?」
何を怒っているのか分からないがそれを聞く勇気がないミエーレはポケットに入れていた手鏡を取り出してイルーゾォを映した。
「マン・イン・ザ・ミラーさん!イルーゾォだけを許可してください!老化は許可しないで!」
彼女の機転で難を逃れたイルーゾォは鏡の中の世界で氷を探し体を冷やしながら、何も言わず突然能力を使って攻撃してきたプロシュートに対し怒りを露に罵倒した。しかしいくら鏡の中で言ったところで彼の耳に入る事はない。ミエーレと抱き合っていた事に腹を立てたのは理解できなくはないが、躍起になり過ぎていて面倒だから関わりたくない。そう思いしばらく彼らと距離を取る事を決めた──。
───数日後、
「うっ…うう………、ぐすっ………」
「ど…どうしたんですか、ペッシ…!」
すすり泣くペッシを心配して駆け寄ったミエーレ。優しく背中を摩りながら、零れる涙を指で拭う彼を辛そうな表情で見つめる。
「兄貴にこっ酷く叱られたんだとよォ~。まぁ、いつもの事だろ」
「けっ、情けねぇなぁ~これだからマンモーニはよォ~」
ホルマジオの言葉にプロシュートがペッシを叱り付ける様子が目に浮かんだミエーレは眉を寄せた。馬鹿にするようなイルーゾォに困ったような表情を見せた後、ホルマジオに向き直り疑問を投げかける。
「兄貴は…暴力を振るいましたか?殴ったり叩いたり…」
「さぁな。オレは見てねぇから知らねぇよ」
「うう………っ」
「まぁこの様子から察するに一発や二発くらいなら殴られたんじゃあねぇか?いや知らねぇけど」
よく見ると頬の辺りがうっすら赤くなっている。打たれて出来た痕であるとすぐに分かったミエーレは顔を歪めるとペッシの背に手を伸ばして優しく抱き締めた。
「可哀そうなペッシ…」
「わっ…ミエーレ…!?」
「痛かったでしょう…ごめんなさい」
「な…何でミエーレが謝るんだい…?」
「兄貴は謝らないから…」
「そりゃあ…そうだよ。オイラが悪いんだ。…兄貴はオイラの為を思って…やってくれてるんだ…」
「私も…愛のムチだと思います…。あなたを大切に思っていて、期待しているからこそ厳しくするんです」
「うん………」
「だけどやっぱり暴力はよくないです。…泣いているあなたは見ていられません…」
強く抱き締めながら頭を撫でるミエーレに戸惑いと照れが混ざった様子を見せるペッシ。そっと腕を回して優しく抱き締め返し、弱々しい声で呟くように言う。
「ありがとうミエーレ…。ミエーレは、あったかいね」
「…本当ですか?私…体温が低過ぎるせいでみんなに動く死体と言われるんですけど…」
「ひどいなぁ…。あったかいよ、ミエーレは。…心が」
「心………」
「うん。元気出たよ。次は上手くやって兄貴に褒めてもらえるように、オイラ頑張るから!」
「はいっ。ペッシなら大丈夫です」
「へへ、…ありがとう」
健気な子供達を見るような気持ちになったホルマジオは時刻を確認して息を吐いた。プロシュートが戻って来る前に抱き合う二人を引き離しておいた方がいいか、という考えはイルーゾォも同じだったらしい。
「…もうそろそろ離れておかねぇとよォ、嫉妬狂いジジイに枯らされるぜペッシィ?」
「オメーじゃねぇんだ、さすがにペッシ相手なら脅し止まりだろ」
「はっ どうだかな」
先日 奇襲を受けたイルーゾォはあの時の様子から奴に例外はなく、可愛い舎弟相手でも容赦はしないだろうという確信に近いものを感じていた。
ホルマジオが見越した通り、その後すぐに扉を開けて部屋に入ってきたのはやはりプロシュートだった。未だ密着したままのペッシとミエーレに、ホルマジオとイルーゾォは「あーあ、見つかった…」と言わんばかりの顔を見せた。
「……………」
イルーゾォの例を思えば問答無用で枯らされ強制的に引き剥がされる事は想像に難くない。…ところがプロシュートは能力を発揮する事も怒気を含んだ声で話しかけるような事もせず、ゆっくりと二人のすぐそばまで近寄った。
何もせず何も言わない…それが妙に気味悪く思えたホルマジオとイルーゾォは怪訝な顔を見合わせる。
「………続けろ」
密着する二人にそう言い煙草に火を点けたプロシュートは、リラックスしている時と同じようにどっかりとソファーに座っている。不思議そうに小首を傾げながらもお互いの体をギュっと支え合っているペッシとミエーレを間近で見つめる彼の顔に嫉妬や怒りの色はなかった。
可愛いマンモーニ同士の絡みは見ていて癒し……って事か?と薄っすら感じ取ったように苦笑いを浮かべたホルマジオの横で、全く何ひとつ理解できない様子のイルーゾォが「解せねぇ…」と呟いた。
《ママっ子同士は可愛くて癒しなので特例》
Fine.
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