Strada per la gloria
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プロシュートの様子が…少し変だ。
「おかえりなさい、プロシュート…!」
「………おう」
玄関まで行って出迎えたけど、プロシュートは私の頭にぽんと手を置くとすぐにバスルームへ向かってしまった。いつもだったらたくさん私の名前を呼んでくれるし、今日は何をしていたか、何を食べたか、何を考えていたか…色々聞いてくるのに…。こんなふうに言葉少なく真っ直ぐバスルームに向かったのは初めて…。
しばらくしてバスルームから出てきたプロシュートは冷蔵庫からお酒を取り出してソファーに座った。少し俯き加減に見える。不機嫌というよりも気が滅入っている…という方が合っていると思う。何か…あったのかな………。
考え事をしているみたいで、飲む為に出してきたはずのお酒の瓶をじっと見つめている…。絶対的な強さを持って自信に満ちている…人並外れた精神力を持っているプロシュートは、悲しんだり落ち込んだりしないんだと思っていた。でも違う…そんな人はいないんだ。どんなに強い人だって…人間だから気持ちが沈んでしまう時はあって当然…。………どうしよう…。…落ち込んでいる人にどうしてあげるのが正解か、私には分からない…。何かしてあげたいのに…分からない………。
「………、何突っ立ってんだ?座れ」
「あ…はい…」
傍にいてもいいのかな…。本当は誰にも会いたくない気分なんじゃ…?私、邪魔じゃないかな…。
「来いよ」
………真っ直ぐに私を見つめて小さく手招きをした。…やっぱり顔付きがいつもと違う…。
隣に座ろうと思って近寄ったら腰を引かれてプロシュートの膝の上に座る体勢になってしまった。えっと…、邪魔に思ってたらこんな事しないから…ここにいていい…んだよね。…一人になりたかったらそう言うはずだし、そもそも帰って来ないはずだから…。逆に誰かと一緒にいたいのかな…?プロシュートも寂しいとか…思ったりする時があるのかな…。
「ミエーレ………」
私の体を抱き締めて首筋に顔を埋めている…。聞いた事のないような声で名前を呼ばれて戸惑ってしまった。弱々しい…なんてこの人から最も遠い言葉なのに、そう思わせる声で私の名前を呟いた…。本当にどうしてしまったんだろう………。
そっと手を伸ばして私の掌を優しく撫でてくる……くすぐったい。…手、繋ぎたいのかな?いや…繋ぎたいと思っていたらすぐに繋ぐはずだから…無意識のうちにただ触っているだけ…?考え事をしているだけだったらいいけど、心を曇らす何かに囚われているのではないかと思うと…辛い。…代わってあげられたらいいのに…。
指を絡めながら強く手を握ってきた…。…握り返したいなぁ。嫌じゃないかな?自分が触るのはいいけど触られるのは嫌な気分だったらどうしよう。…ううん、違った。考えるよりまず行動!思ったなら即行動!…プロシュートはそう教えてくれた。私は握り返したいと思った、だったら行動しなければ。よし、手を握り返す………っ!
「なぁ………」
「えっ、は、はい?」
「嫌かよ。触られるのはよォ………」
遅かった…行動するのが…。嫌だから手を握り返さないんだと思わせてしまった。私が嫌がるわけないのに…今まで一度だって拒んだ事はないのに、こんな事を言ってくるのはやっぱり弱気になっている証拠なのかもしれない。
指に少しだけ力を入れて手を握り返すと、一層強く繋いでいる手と腰に回した手の両方に力を込めた。…抱き潰されそう…。
「はぁ…、」
「っ………」
深い溜息を吐いたプロシュートは繋いでいる手を口元に持っていくと、私の指に甘噛みをするようにキスをした。歯は当たっていないから痛くはないけど、食べられてるみたいで変な感じ…。息が熱い…唇 柔らかくて…ちょっぴり気持ち良いかも…。指先から手の甲、手首……はむはむしながらだんだん上がってきたと思ったけど、手首で止まってしまった。私の手首に唇を付けたままじっと目を見つめてくる。…私に何を求めているんだろう。私は何をしてあげたらいいんだろう…。
この人は身も心も最強で超人だけど、…いつ誰がいなくなってしまうか分からない…明日も生きていられる保証なんてどこにもない…そんな世界で生きている…。人の命を奪うという事は、自分も奪われる覚悟がなければできない。だから時々…不安になってしまうのかも………。
その不安を少しでも和らげる事ができたなら……、そう考えた時に少し前にあった事を思い出した───。
『───す、すみませんプロシュート……私、おっぱい小っちゃくて………』
『何謝ってんだ』
『…大きい方が抱き締めていて気持ちいいんじゃないかなって…』
『オレがいつでけぇのがいいって言ったよ』
『で、でも………』
『ちっせぇおかげで心臓の音がよく聞こえるんだろうが───』
………あの時、抱き締めながら私の胸に耳を当てていたプロシュートは…穏やかな表情をしていたように見えた。私の心臓の鼓動がこの人を安心させてあげられたのかもしれない…。
空いた手を彼の背中に回して心臓の音を聞かせるようにそっと抱き締めてみた。いつもプロシュートがしてくれるみたいに…優しく頭を撫でる。私はこうされると安心するし嬉しいけど…プロシュートはどうだろう?…また強く抱き締め返してきただけで嫌がっている様には見えない…気がする。
「………、………成長しなきゃあ…オレ達は栄光を掴めねぇ………」
え…?…栄光…?
「ビビってるわけじゃねぇだろ。覚悟はしていた。………こうなっても仕方ねぇ覚悟は、…できていたんだ」
………私に話し掛けている、と言うよりも…独り言のように聞こえる。…この人の中で、冷静さを取り戻す為の確認作業のようなものなのかも…。
「いつか、必ず………、……………」
必ず………栄光を掴む…?………栄光って何だろう?プロシュートにも持っていないものがあったんだ…。欲しいものは全部手にしているのかと思ってた…。
「……………ミエーレ、」
「ん…?はい?」
「………ミエーレ…」
「…いますよ、ここに。ずっと…あなたのそばに…」
「……………」
私の胸から頭を離すと顔を見上げてきた。…目を逸らせない。何か…もっと安心させてあげられる事が言えたらいいのに…。…私は、プロシュートしか知らない。だからこんな時どうしたらいいか分からなくて…結局プロシュートの真似をする事しかできない…。
「プロシュート、」
いつも彼がしてくれるように、頭を撫でながらおでこをくっ付けてみる。
「自信を…持ってください。あなたは最強です。身も心も、強くて美しい。あなたよりも黄金に輝いている人はいません。神様よりも大天使様よりも、ずっとずっとあなたの方が眩しい。私の英雄はあなただけです。…あなたでよかった」
生意気な事を言ってしまったかな…。私なんかに言われなくても分かっていますよね…自信だってなくしたわけでは………、………ううん…心が弱っている時は、分かりきっている事でも言葉にするのが大切なのかも…。目を細めながら私の頬を優しく撫でてくれている。生意気だとかうるさいだとか…そんな事思ってる顔じゃない。…この仕草、…好きだなぁ…。
ギューッともう一度強く抱き締めてきた後…さっきたくさんキスをした方の手を取ってまた唇を付けた。そしてぽつりと呟くように言った…その言葉に驚いて硬直してしまった…。
「グレイトフル・デッド…」
「え………」
プロシュートに触られている手首にほんの少しずつ皺ができていく…。ど、どうして………、
「………直触り、なのによォ…何でオメーは老いねぇんだ…。これっぽっちしか、効かねぇのは何でなんだ」
「………体温が異常に低いから…でしょうか。…ギアッチョに言われた事があります…血が通っているようには思えねぇ…まるで死体だ、…と」
心のみならず体まで…正常じゃあないって事なのかな。…もしくは私にも…プロシュートや他のチームのみんなみたいな特別な力があるのかも…?…なんて、そんなわけないか…。
「あの……、……どうして?」
私を殺したい…?…あなたに殺されるのなら…本望だけれど………。
「オレは…お前と一緒に歳を取っていく事はねぇ。お前がどう老いていくのか見る事もなく先に死ぬだろう。…お前を一人残していっちまったら…死んでも死にきれねぇ。だがこればかりは抗いようのねぇ運命…な気がする」
「気が………、」
考えたくもない弱気な事に対して…確固たる自信のように”気がする”なんて…言わないでほしい。あなたがそんな事を言ったら…それは本当になってしまう…。
「だから今…自分の能力で私を殺そうと…?」
「…いや、見たかっただけだ。数十年先の…お前の姿を。…だがお前は見せてくれねぇらしい…」
「………見せません。今は。………あなたも一緒に、少しずつ一緒に歳を取っていくんです。毎年ちょっとずつ皺が増えていって、髪の毛が白くなっていって…大好きなステーキも食べたくなくなっちゃって………鏡を見たあなたはきっと気に食わないって顔をするけど、私はそれを見て…幸せだなって…思うんです。あなたと一緒に歳を取ってきた事を…幸せだと言って笑うんです」
「……………」
「だから今、あなただけがおばあちゃんになった私の姿を見るのはずるいんです。ちゃんと月日を重ねさせてください。老いた姿は一緒に積み重ねた軌跡そのものですから、急いで見るものじゃあないんですよ。数十年先…お互いの皺だらけの顔を見て…今日のこの事、これからできる思い出のお話を…一緒にしましょう。…ね?アモーレ…」
目を閉じて、頷くように俯いた。少しだけ口角を上げて目を細めて笑ったプロシュートに頭を撫でられる。
「オレにプロポーズの言葉を並べるなんて…二年早いぜ、マンモーナ」
「二年?二年後なら…言ってもいいんですか?」
「少なく見積もって二年はよォ…お前の心を育てなきゃあならねぇ。幸せだと笑わせるには心と体を満たさなきゃいけねぇだろうが。このペースじゃあ二年はかかるって話だ」
「…では二年後…心も体も正常になって、普通の感覚や知識を持ったらもう一回プロポーズしますね」
「普通の感覚を持ってたらなぁ、そこはプロポーズする、じゃあなく しろって言うんだぜ、アモ」
「そこは譲れないです」
「何でだよ」
良かった…少し元気が出たみたい。プロシュートが笑うととても心があたたかくなって、嬉しい気持ちでいっぱいになる。今の私は表情筋が死んでいるけど、いつかこの綺麗な笑顔に笑顔で応えられるようになりたいな…。
「……………なぁ、お前………ソルベとは、………普段何を話してたよ」
「え?ソルベ…?」
急にどうしたんだろう?家で二人きりの時に仲間の名前を出すなんて珍しい…。
「そうですね………ジェラートがよく分からない冗談を言った時に教えてくれたり、ジェラートがよく分からない事を言った時に解説してくれたりします。あまり口数は多くないですけど優しいですよ」
「ふっ………そうか。…じゃあジェラートは?虐められたか?」
「いいえ。私の知らない事をたくさん教えてくれます。落ちにくいマニキュアの塗り方とか、足に塗るのはペディキュアって言うとか、色々です!」
「………そうか」
…一瞬、眉を顰めたように見えた。
………私は、察しが良い方じゃあなかったはず…。人の気持ちを読み取る事も、雰囲気から状況を予測する事も…出来た事がない。…なのにどうして、………プロシュートの言動から…もう二人に会う事はないのだと、…察してしまったんだろう。あのプロシュートが普段の気を保っていられないほどに…何かひどいものを見たのかもしれない…。
道は…プロシュートが通った後に出来る。屍を積み上げて、仲間を見送って…後ろを振り返らずに真っ直ぐ立って歩いていかなければ…”栄光”に辿り着けない。プロシュート…あなたは栄光を掴むという覚悟と黄金の精神で道を切り拓いていってください。もしも邪魔をしようとする魂があったら、私が取り込みます。進むべき道を行くあなたの足を掴む亡霊がいたとしたら私が取り除きます。私にはそれができる………気がする。
辛い事は忘れてもらいたいけど、仲間の事は忘れてほしくない…。勝手な事ばかり考えてごめんなさい…。…今はあと少しだけでも……、気持ちが楽になるように…もう一度、心臓の鼓動を聞かせるように優しく抱き締めた───。
《Strada per la gloria 栄光への道 》
歩みを止める事ができない彼とこの先数十年…平穏な日常を…。…それが到底叶う事のない望みだったと思い知るまで、あと二年──……。
Fine.
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