本当に綺麗なもの
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プロシュートは時々どこか悲しそうにも見える顔で私を見る…。目は優しいけど少し複雑そうで…私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう…。
「…おい、ミエーレよォ…」
「あ、プロシュート…おかえりなさい」
「おう。…何やってんだ」
コップに注いだ水を見るのに夢中になっていてプロシュートが帰ってきた事に気が付かなかった。私を見下ろすプロシュートの顔が曇っている…機嫌悪いのかな…。
「えっと…水がとても綺麗なので見ていました…この色の着いたコップに入れると特に…」
「………」
あ…まただ……この顔……。今何を考えているんだろう?眉間に皺を寄せて私を見ている……蔑んだようではなく、怒っているようでもない。やっぱりどこか…悲しそうというか、切なそうな顔…?
「す、すみません…水は後で飲みます。無駄にはしないので…えっと……」
小さく溜め息をついたプロシュートは私のすぐ隣に座るとコップに目をやった。手に取って傾け水が揺れる様子を見てゆっくりと瞬きをしている。…まつ毛がとっても長い…。
「…確かにな」
「え?」
「コップに入れた水が綺麗だなんて思った事は一度もねぇ。ただの一度もだ。…おまえに言われて初めて気付いたよ。確かに悪くねぇな」
目を細めている…。笑ってる…?溜め息をついたから怒られるかと思ったけどそうじゃなさそう。機嫌は悪くないみたい。良かった…。
「こんなものを綺麗だと思うおまえの感性は褒められるべき長所だぜ。オレを取り巻く環境は世辞にも良いとは言えねぇ。言っちゃあなんだがおまえは異質だ。だがそれがいい。おまえはそれでいい。世の中は目まぐるしく変わっていく。だからこそミエーレ、おまえは変わるんじゃあねぇぞ」
頬を撫でながらおでこをくっ付けて優しい口調でそう言った。…褒められた…のかな?綺麗なものを綺麗だと思って見ていただけだったのに…。こんなふうに言ってくれる人は初めて…。優しく話し掛けてくれるのも、そっと触れてくれるのも…プロシュートが初めてで、嬉しいけど少し戸惑ってしまう…。
「ミエーレ」
「…はい?」
「ミエーレミエーレミエーレよォ」
「………」
こんなに名前を呼んでくれるのも…この人だけだ…。居ても居なくても同じ…むしろ居ない方が良くて、認識されていなくて、誰にも必要とされていない…。自分は捨てるだけの物同然の価値が無い人間だと思っていたけど…プロシュートはそんな考えを否定してくれた。…プロシュートが沢山呼んでくれるから、この名前が少し好きになった。プロシュートの言葉はとても心に響く。プロシュートは……すごい。
「プロシュートは魔法使いですか?」
「は?」
「不思議な力を持っています」
「………スタンドの事なら…まぁ、どっちかって言ったら超能力だ。魔法じゃあねぇ」
「超能力?プロシュートの言葉が心に響くのは超能力のおかげじゃないと思います」
「あー…?…話が噛み合う気がしねぇぞ」
「プロシュートはすごいんです」
「おう………一体おめーの中で何があってそうなったんだ」
「プロシュートの瞳が私を映すから、プロシュートに認識されているから、私は私を少しずつ好きになっている気がするんです。全てプロシュートのおかげです。それほど大きな影響力がある…大きな存在である事はすごいです。それはきっとプロシュートだけ。他にはいません。だからプロシュートはとってもすごい人なんです」
「急に何だァ?どっからそんな話になったんだ…。…まぁ、良い殺し文句だ。悪い気はしねぇよ」
…良かった…嬉しそうな顔になった気がする。でも手に持っていたコップに視線を落とすとまた…眉を寄せてさっきのあの顔に戻ってしまった。
「…話を戻すぜ」
「はい?」
「さっき言った事、分かるか?」
さっき?…褒めてくれた事…かな。変わらなくていい…って言ってたっけ?
「おめーはどうやら物を知らねぇらしい」
「…す、すみません…」
「誰が謝れって言ったよ。そうじゃねぇぞ。知らねぇなら知ればいいだけの話だ。知るべき事が山ほどある。おまえに限ってはな」
「知るべき事…ですか?」
「世の中にはもっと綺麗なもんがたくさんあるんだぜ。コップに入れた水なんか比べ物にならねぇほどに綺麗なもんがよ。おめーはそれを知らねぇ。…それは不幸な事だ」
「綺麗なもの…」
「だがもっと不幸なのは大きな物を知ったが故に小せぇ物の良さに気付けねぇ…感性が鈍っちまう事だ。…分かるか?オレの言ってる事」
「………」
「さっきも言ったが要するに、変わるなって事だ」
「………はぁ…」
「見せてやるさ。その目に綺麗なもんだけをよ。だがこの事を忘れるな。コップに注いだ水を綺麗だと思った事をだ。いいな?」
「…はい」
プロシュートの言う事は時々…と言うか大体難しい。だけど…何となく分かった。もっとたくさん色んな物を知るのは良い事だけど、代わりに小さな事を見失ったりくだらない事だと思ってしまうのは良くない…と言っているんですよね?…大丈夫ですよ。忘れませんから。だって今日、プロシュートとこの話をしました。一人で見ていても綺麗だと思ったお水をプロシュートも一緒に、悪くないと言って見てくれました。不思議な事にあなたが一緒だともっともっと綺麗に見えるんです。あなたとした事、あなたと見たもの…それは忘れません。忘れたくない。
「…手始めに次の休みに海を見に行くぞ。夜中に出るからそのつもりでいるんだぜ」
「夜中…?理由を聞いてもいいですか?」
「んなもん朝焼けの海が一番だからに決まってんだろうが」
「朝焼けの海……楽しみです…っ」
───初めて見た海は大きくてキラキラ光って見えて、とても綺麗でちょっぴり涙が出そうになってしまった。
…だけど、海を瞳に映すプロシュートを見た時に、私が心から惹かれる本当に綺麗だと感じるのはプロシュートだって思ってしまった。プロシュートが一番綺麗だって…。この人が一緒だときっと一人で見る時の何倍も綺麗だと感じるんだ。空っぽだった何かが満たされていく…そんな感覚を覚える。それがどうしてかは分からないけど、プロシュートが手を握って笑いかけてくれた事が嬉しくて…胸がいっぱいになって…今が永遠に続けばいいのにって、本気で思ったんだ…。
《本当に綺麗なもの》
それが恋だと気付くのはもっともっと先の事───。
Fine.
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