「ねぇリヴァイ、あなたの初恋っていつなの?」
ソファーに腰かけ本を読んでいた
ユーリアは、おもむろに顔を上げるとリヴァイにそう尋ねた。
ユーリアのすぐ隣に座るリヴァイは、はぁ…?と気の抜けた声を出した。
「………そういう内容なのか、それは…」
ユーリアの膝に乗る分厚い本に視線を向けてそう言った。
「えぇ。自分の初恋の相手が誰だったか考えてしまったわ」
「………ほう」
ユーリアの初恋…聞くまでもないだろう。今は亡き彼女の恋人。彼はリヴァイにとっても大切な存在であった。
「…実はね、ファーランじゃないの」
「は………?」
予想外の言葉にまた気の抜けた声が出てしまった。リヴァイは目を見開くように驚いた顔をして
ユーリアを見る。
「彼には内緒よ…」
人差し指を口元に当てた
ユーリア。
「あれはね…まだファーランと出会う前。…子供の頃よ。同い年くらいの男の子が大の大人を喧嘩で負かしていたの。小さなナイフを片手に…すごい勢いだったわ」
「………」
「…その彼がね、野次馬の中から去る一人の男性を目で追ったの。…どんな顔をしていたのか私の位置からは見えなかったけれど…その小さな背中が寂しそうに見えて…抱き締めたくなったわ」
「………、」
「今でもたまに夢に見るの…。傍にいて…尽くしてあげたいと思うわ。…ファーランと出会って、無償の愛を知った時に……彼に対する思いもそれと同じだったと気付いたの。名前も、顔もよく分からない彼が………私の初恋よ」
ユーリアの話を黙って聞いていたリヴァイは、目を見開き唾を飲み込むと頭を抱えて呟いた。
「………それは、恋じゃねぇ。ただの憐れみだ…」
「そうかしら………でも、あの時彼に声をかけなかった事を、今でも後悔しているわ…」
「………」
リヴァイは俯き加減でそう話す
ユーリアをじっと見据える。おもむろに手を伸ばし、
ユーリアの顔にかかる長い髪をそっと耳に掛けた。
ユーリアは控えめに彼の目を見つめ、優しく微笑みかける。
「あなたは…?…どんな人に恋をしたのか…聞かせてちょうだい」
優しい声色に目尻を下げ、穏やかな表情になったリヴァイは思い出すように目を閉じた。
「あれは…俺もガキの頃だ。…ムカつく野郎をぶちのめした。…てめぇより体格のいい奴をな。…死にかけだった俺に地下で生きる術を教えた奴がいた。…そいつを最後に見たのがその時だ。奴が見えなくなって、次に目に入ったのが…女だ。同い年くらいのな。誰かに手を引かれて立ち去るところだったが…、前にもどこかで会った事がある気がして目で追った。…そいつは髪の色が印象的で、…いい色だと思ったのを覚えている」
「………、………どんな色…?」
リヴァイは
ユーリアの髪に指を絡めて弄ぶ。はらはらと指をすり抜けていく細い髪の毛を見て…さぁな。と呟いた。
「………リヴァイ、」
「なんだ………」
ユーリアはリヴァイの頬をそっと撫でる。両手で包み込むようにリヴァイの顔に触れ、自分の方へ向かせるとその目をじっと見据えた。
何も言わずに見つめ合う。
数秒後、
ユーリアはゆっくりと彼の首に腕を回した。驚きのあまり硬直する彼を他所に、ぎゅっと強くその体を抱き締める。そして彼の頭を優しく撫でた。
「………いい子ね…」
「………大人半殺しにするガキのどこがだ…」
「自分の身を守る為に必要だったはずよ。…よく頑張ったわね。偉いわ…」
「………っ…よせ。もうガキじゃねぇぞ…」
「そうね…。…あの時、こうしてあげられなくて…ごめんね」
抱き締める腕に一層力を込めた
ユーリア。
リヴァイは何を思うのか…辛そうに歯を食いしばりながら目を閉じ、強く
ユーリアの体を抱き寄せた。
「遅ぇぞ…っ…お前はもう………、…ファーランのもんだ………っ」
「………ごめんなさい…、」
《初恋》
それが叶う事はない。
彼を、
あいつを、
裏切る事は出来ないから―――。
Ende.