If: Wands of Ready!
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人は誰しも本音と建前を使い分け、ある意味で二面性を秘めている。
ニュート・スキャマンダーの短所は建前の使い方を知らないこと、恐らく使う意味もよく分かっていないところと周囲の人間は言うが、リジーは彼のそんな素直で真っ直ぐなところを愛していた。
学生時代から長く共に過してきたため、お互いに言葉にせずとも通じ合える最大の理解者だ。
しかし、ニュートはリジーの「建前」を知らない。
ホグワーツを首席で卒業し、闇祓いとしての彼女の一面を彼が普段目にすることはほとんどない。
ニュートにとっては一つしか歳も違わないとはいえ、いつまでも甘えたで寂しがり屋が抜けない年下の女の子のままなのだ。
闇祓いになって早五年が過ぎ、後輩も何人かできて、ハイヒールで現場を闊歩しながら闇の魔女や魔法使いを相手に日夜闘っていることも、ニュートは知らない。
――ああ、最悪。
止めどなく溢れる血液を見て、リジーは漠然と他人事のようにそう思った。
頭痛と耳鳴りのする頭で必死に考えて、とりあえず腹部の傷をハンカチで強く圧迫して止血を試みる。
そんなことで血が止まるはずもなく、後からふと魔法の存在を思い出す。
とっさの時につい手が出てしまうのは、未だにマグルの時の習慣が抜けていないらしい。
「エピスキー、エピスキー、エピスキー……」
痛みは大して変わらないが、恐らく出血はこれで一時的には治まっただろう。血濡れのハンカチ越しではよく分からないけど。
すっかり取り乱して青ざめている後輩に微笑みかけてやりたいところだけど、残念ながらそんな余裕は残っていない。出来るならこちらが泣きたいところだ。
そろそろ相棒を組めるぐらいには育てたつもりだったけど、そうでもなかったらしい。
まあ初めの頃は自分もそうだったか、と思い出して自嘲する。
「大いなる善のために!!愚かなマグルに死を!!」
ゲラート・グリンデルバルドの信奉者の男が声高らかに叫ぶ。
瞳孔は開き、呂律の回らない舌で支離滅裂なことを喚きたて、獣のように咆哮を上げ、杖を振り回しながら攻撃呪文を放ってくる。
ただの信奉者ではない、恐らく麻薬だ。
今時珍しくはないけど生憎、今日は分が悪い。
わたし以外の闇祓いは全員三年未満の現場に不慣れな新米だ。
今日は朝からどこもかしこもこんなのばっかりで、オーラーオフィスに残っていた人間をかき集めて来るしかなかった。
さてどうするか、一度撤退して出直した方が確実だろう。
これ以上犠牲を増やさないためにも、それが最善策だ。
一時撤退、そう決断を下そうとした時。
視界の端で後輩が前線に飛び出していくのが映った。
「?! 嘘でしょ、全くもう……戻りなさい!今すぐ戻ってきなさい!」
傷の痛む体に鞭打って立ち上がる。
出血は止まっている、大丈夫……。
男の放つ攻撃呪文が後輩に当たりそうになるのを後方から弾き返す。
「下がって!早く!」
防御魔法で何とか攻撃を交わしながら距離をつめる。
赤い閃光が空を切り裂く。
まともに当たればひとたまりもないけど、向こうは錯乱してるおかげで隙は多い。
一瞬の隙をついて攻撃呪文を打つ。
「ステューピファイ!」
男が膝をついて倒れる、その隙に後輩が後ろから杖を奪い取った。
即座に地面に押さえ込み、そのこめかみにリジーが自身の杖を突きつける。
なおも往生際悪く抗おうとする男の背中を踏みつけて、彼女のブーツの踵が食い込む痛みに男が足元で呻いた。
「はあ……ほんっとにもう、手間掛けさせるんだから……っ!」
不意に脇腹に激痛が走る、じわりと鮮血が卸したての白いシャツに滲む。
貧血で視界がぐらりと暗転し、勢いよく倒れ込みそうになるのをなんとか地面に手をついて体を支える。
周囲のざわめきを遠くに聞きながら、リジーは意識を手放した。
――
目が覚めた時には、病院のベッドの上だった。
ふと目をやれば、ニュートが傍にいて手を握っていてくれた。
その目は少し潤んで赤くなっている。
リジーは緩慢な動作で手を伸ばし、ニュートの頬を撫でた。
「……泣いてるの?」
「泣いてない」
「うそ、泣いてる」
「っ……ないてない」
ニュートの涙が、繋いだリジーの手を濡らす。
麻酔が効いてるのか、本来あるはずの温もりがよく分からず、指先が鈍く痺れていてうまく動かせない。
力が入らなくて握り返すこともできず、それを悟ったのかニュートは繋いだ手をぎゅっと優しく握りしめ、口付けを落とす。
「……わたし、どうなったの?」
「少し縫って、あと出血の量が多かったらしいから二、三日入院。……お家には連絡しといたから、もうすぐお義母さん来てくれるよ」
「そう……傷、残っちゃうかな……」
「かもね」
何気なく答えた後でニュートはリジーがなぜそんな事を気にするのか遅れて理解して「気にしないよ」と慌てて付け加えた。
リジーはふふっと笑って、少し体をずらしぽんぽんとシーツを叩く。
ニュートはリジーの隣に上半身を横たえてそっと彼女の肩を抱き寄せる。
「ごめんねえ、心配掛けちゃったね……いつもはこんなヘマしないんだけどなあ……」
リジーはゆるゆると気だるげな手つきでニュートの髪を撫でる、ニュートは彼女を抱いたままぐす、と鼻を鳴らした。
「よかった……ほんとに、ほんとによかった……」
「……」
この仕事が周囲の人たちにどれだけ心配を掛けているか、分かっている。家族も、ニュートも、口にこそ出さないけれど。
わたしはずっとその優しさに甘えてしまっているのだ。
昔からひとりぼっちが怖かった、勉強を頑張って人気者になったら寂しさが紛れた。
ニュートと出会って、孤独から救われた。
勧められるがままに闇祓いになって、仲間ができて、心配されながらも必要とされて、一人でも平気になったと思っていたのに。
なんだかいつもと逆だとリジーは思った。
やっと落ち着いてきて、安心したら鼻の奥がつーんとして、気づけば涙が溢れ落ちる。
死ぬかと思った、ぽつりと呟くとニュートは優しくリジーの頭を抱き寄せてまぶたの上にキスを落とした。
▶あとがき
ニュート・スキャマンダーの短所は建前の使い方を知らないこと、恐らく使う意味もよく分かっていないところと周囲の人間は言うが、リジーは彼のそんな素直で真っ直ぐなところを愛していた。
学生時代から長く共に過してきたため、お互いに言葉にせずとも通じ合える最大の理解者だ。
しかし、ニュートはリジーの「建前」を知らない。
ホグワーツを首席で卒業し、闇祓いとしての彼女の一面を彼が普段目にすることはほとんどない。
ニュートにとっては一つしか歳も違わないとはいえ、いつまでも甘えたで寂しがり屋が抜けない年下の女の子のままなのだ。
闇祓いになって早五年が過ぎ、後輩も何人かできて、ハイヒールで現場を闊歩しながら闇の魔女や魔法使いを相手に日夜闘っていることも、ニュートは知らない。
――ああ、最悪。
止めどなく溢れる血液を見て、リジーは漠然と他人事のようにそう思った。
頭痛と耳鳴りのする頭で必死に考えて、とりあえず腹部の傷をハンカチで強く圧迫して止血を試みる。
そんなことで血が止まるはずもなく、後からふと魔法の存在を思い出す。
とっさの時につい手が出てしまうのは、未だにマグルの時の習慣が抜けていないらしい。
「エピスキー、エピスキー、エピスキー……」
痛みは大して変わらないが、恐らく出血はこれで一時的には治まっただろう。血濡れのハンカチ越しではよく分からないけど。
すっかり取り乱して青ざめている後輩に微笑みかけてやりたいところだけど、残念ながらそんな余裕は残っていない。出来るならこちらが泣きたいところだ。
そろそろ相棒を組めるぐらいには育てたつもりだったけど、そうでもなかったらしい。
まあ初めの頃は自分もそうだったか、と思い出して自嘲する。
「大いなる善のために!!愚かなマグルに死を!!」
ゲラート・グリンデルバルドの信奉者の男が声高らかに叫ぶ。
瞳孔は開き、呂律の回らない舌で支離滅裂なことを喚きたて、獣のように咆哮を上げ、杖を振り回しながら攻撃呪文を放ってくる。
ただの信奉者ではない、恐らく麻薬だ。
今時珍しくはないけど生憎、今日は分が悪い。
わたし以外の闇祓いは全員三年未満の現場に不慣れな新米だ。
今日は朝からどこもかしこもこんなのばっかりで、オーラーオフィスに残っていた人間をかき集めて来るしかなかった。
さてどうするか、一度撤退して出直した方が確実だろう。
これ以上犠牲を増やさないためにも、それが最善策だ。
一時撤退、そう決断を下そうとした時。
視界の端で後輩が前線に飛び出していくのが映った。
「?! 嘘でしょ、全くもう……戻りなさい!今すぐ戻ってきなさい!」
傷の痛む体に鞭打って立ち上がる。
出血は止まっている、大丈夫……。
男の放つ攻撃呪文が後輩に当たりそうになるのを後方から弾き返す。
「下がって!早く!」
防御魔法で何とか攻撃を交わしながら距離をつめる。
赤い閃光が空を切り裂く。
まともに当たればひとたまりもないけど、向こうは錯乱してるおかげで隙は多い。
一瞬の隙をついて攻撃呪文を打つ。
「ステューピファイ!」
男が膝をついて倒れる、その隙に後輩が後ろから杖を奪い取った。
即座に地面に押さえ込み、そのこめかみにリジーが自身の杖を突きつける。
なおも往生際悪く抗おうとする男の背中を踏みつけて、彼女のブーツの踵が食い込む痛みに男が足元で呻いた。
「はあ……ほんっとにもう、手間掛けさせるんだから……っ!」
不意に脇腹に激痛が走る、じわりと鮮血が卸したての白いシャツに滲む。
貧血で視界がぐらりと暗転し、勢いよく倒れ込みそうになるのをなんとか地面に手をついて体を支える。
周囲のざわめきを遠くに聞きながら、リジーは意識を手放した。
――
目が覚めた時には、病院のベッドの上だった。
ふと目をやれば、ニュートが傍にいて手を握っていてくれた。
その目は少し潤んで赤くなっている。
リジーは緩慢な動作で手を伸ばし、ニュートの頬を撫でた。
「……泣いてるの?」
「泣いてない」
「うそ、泣いてる」
「っ……ないてない」
ニュートの涙が、繋いだリジーの手を濡らす。
麻酔が効いてるのか、本来あるはずの温もりがよく分からず、指先が鈍く痺れていてうまく動かせない。
力が入らなくて握り返すこともできず、それを悟ったのかニュートは繋いだ手をぎゅっと優しく握りしめ、口付けを落とす。
「……わたし、どうなったの?」
「少し縫って、あと出血の量が多かったらしいから二、三日入院。……お家には連絡しといたから、もうすぐお義母さん来てくれるよ」
「そう……傷、残っちゃうかな……」
「かもね」
何気なく答えた後でニュートはリジーがなぜそんな事を気にするのか遅れて理解して「気にしないよ」と慌てて付け加えた。
リジーはふふっと笑って、少し体をずらしぽんぽんとシーツを叩く。
ニュートはリジーの隣に上半身を横たえてそっと彼女の肩を抱き寄せる。
「ごめんねえ、心配掛けちゃったね……いつもはこんなヘマしないんだけどなあ……」
リジーはゆるゆると気だるげな手つきでニュートの髪を撫でる、ニュートは彼女を抱いたままぐす、と鼻を鳴らした。
「よかった……ほんとに、ほんとによかった……」
「……」
この仕事が周囲の人たちにどれだけ心配を掛けているか、分かっている。家族も、ニュートも、口にこそ出さないけれど。
わたしはずっとその優しさに甘えてしまっているのだ。
昔からひとりぼっちが怖かった、勉強を頑張って人気者になったら寂しさが紛れた。
ニュートと出会って、孤独から救われた。
勧められるがままに闇祓いになって、仲間ができて、心配されながらも必要とされて、一人でも平気になったと思っていたのに。
なんだかいつもと逆だとリジーは思った。
やっと落ち着いてきて、安心したら鼻の奥がつーんとして、気づけば涙が溢れ落ちる。
死ぬかと思った、ぽつりと呟くとニュートは優しくリジーの頭を抱き寄せてまぶたの上にキスを落とした。
▶あとがき
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