If:小さなお姫さま
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朝起きると、ベッドの隣に幼女がいた。
茫然自失、とはまさにこのことだろう。ニュートは頭の中が真っ白になる。
まさか、いやまさか。生まれてから今日まで人の道は外さずに生きてきたつもりだ。
脳裏に過ぎるのは誘拐、拉致監禁、児童虐待の文字。
昨夜の行動を必死で思い起こす、夕べは少し酔っていた。
焦れば焦るほど人間の脳は使い物にならない。
「リジー!リジー、どこだい?!ああ、どうしよう、一体どこで拾ったんだろう、僕としたことが……」
家の中になぜかリジーの姿はなかった。
不思議そうにニュートを見つめる女の子と目が合う。
「ああ、どうしよう……君、どこの子?お名前言えるかい?」
「……しんしはレディより先に名のるのがマナーってママが言ってた」
ニュートはきょとんとして目を瞬かせる。
「僕は……ニュート・スキャマンダー」と名乗ると少女は右手の甲を差し出した。
……まさか、口づけしろという意味なのか。
ニュートは恐る恐る小さな手を握り、敬愛のキスをする。
少女は少し照れながら満足げに微笑んだ。
「リジー・ヴァンクス、会えてうれしくてよニュート」
ニュートは信じられない気持ちで少女をまじまじと見つめる。
その顔にはどこかリジーと重ね合う面影を感じる。
「リジー……?そんな、まさか……年はいくつ?あー、何歳か分かる?」
「しんじられない!レディにそんなこと聞くなんて!」
「ああっ、悪かった、ごめんよリジー。そしたらえっと……お家はどこか分かる?」
リジーはちょこん、と首を傾げる。
年の頃は恐らく、四歳か五歳程度。住所を答えるのは難しいだろう。
どうやら見た目だけでなく、中身も一緒に幼児化してるらしい。
「……そうだ、将来の夢はなに?」
「おひめさま!」
「ああ、これは違ったか……好きな本は?」
「シンデレラと、美女と野獣と、眠れる森の美女と、白雪姫と……あとシャーロック・ホームズ!」
「間違いなくリジーだ……」
ニュートは頭を抱える、まさかこんな頃からホームズを嗜んでいたとは驚いた。
彼女は色んな意味で相当おませだったらしい。
さてどうしたものか、たぶん放っておいてもそのうち元に戻る一時的なものだろうが、念の為病院に連れて行くべきだろう。
その前にリジーの職場に連絡をしないと、あと一応彼女のご両親にも……
「えっと、まず魔法省に電話して、それから病院と、リジーの実家……ああ、お義父さんとお義母さん……っ」
ふとニュートは昨夜起こった一連の出来事を思い出した。
もう帰らなければ、と言う彼女を上手いこと言いくるめてそのまま一晩家に引きとどめたのだ。
もう随分前から公認とはいえ、嫁入り前の大事な一人娘を、無断で……しかも朝起きたらこんなことに。
叱られること間違いなしだろう、電話じゃなくここはひとつ出向いて頭を下げるべきか。
これをきっかけな婚約の日が遠のかないことを祈る。
ニュートのそんな心配をよそにリジーは「ねーねー」と純粋に彼の袖を引っぱる。
「おなかすいた」
「そうだ、朝ごはん……気づかなくてごめんよ、お腹すいたね。おいで、何か作ってあげる」
小さな体を怖々抱き上げると、あまりの軽さに驚いた。
子どもというのはこんなにも小さくて軽いものなのか。
居間に行くと寝起きの二フラーがニュートと小さなリジーを見て、混乱した様子でリジーの姿を探し始めた。
「二フラー、大丈夫だよ。リジー、ごはんが出来るまで二フラーと待ってて」
「にふらー、いい子いい子」
丸っこい体をむぎゅっと捕まえて背中をわしゃわしゃ撫でるリジー。
少し危なっかしい抱き方だけど二人の光景に思わず頬が緩む。
もし、いつか僕にも娘が出来たら。こんな感じなのかなとつい想像してしまう。
娘でも、息子でも、リジーに似た子がいい。彼女は僕似がいいって言うだろうけど。
二フラーはふんふん鼻を鳴らしてしきりにリジーの匂いをかいでいる。
ニュートは早速朝食の準備に取りかかる。
さて、ろくな食べ物なんてこの家にあったかと一瞬頭を過ったが、幸いなことにリジーが買い出しをしてくれていたらしい。元に戻ったら礼を言おう。
昨夜の残りのスープを温めながら、パンを切り分けハムやチーズや卵を適当に挟んで皿に盛る。
ニュートが魔法を使う様子をリジーは不思議そうに、呆然と眺めていた。
「はいどうぞ、食べたらパパとママのところ行こうね……」
リジーはぽかんと口を開けたまままた浮かび上がるのではとじっとサンドイッチを見つめている。
恐る恐るパンの間からハムだけ引き剥がして、ぱくり。
「……おいしい」
「よかった」
「……ニュートはまほーつかいなの?」
「そうだよ」
「ゆーかいはんではないのね」
「……」
さすがシャーロキアンというべきか、すでに闇祓いの素質を垣間見た気がする。
王子様、という選択肢はないのか……と内心がっかりするとリジーはすかさず「おーじさまはお城に住んでるし」と付け加えた。
「……でもこう見えても僕、ドラゴンと戦ったことがあるんだよ」
「でもおーじさまならお城に住んでる」
「そうだね……」
リジーはサンドイッチを食べ終えると二フラーとホームズごっこで遊び始めた。
ニュートは深呼吸を繰り返し心を落ち着かせながら、頭の中で謝罪の言葉を考える。
意を決して受話器を握り、リジーの実家の番号をダイヤルする。
「……いや、やっぱり先に魔法省にしよう」
ガシャン、とダイヤルを切って魔法省の電話番号を回す。
いやなことはつい後回しにしてしまうのは悪い癖だ。
電話交換手が淡々とした口調で応対する、「闇祓い局へ」とだけ伝えたのにこちらの素性を知ってか知らずか電話はテセウスに繋がれた。
「ニュート、お前から電話なんて珍しいな。どうかしたか」
「ああ、テセウス……」
よりによって、テセウスだ。ニュートは思わずため息をつく。
「テセウス、ごめん。リジーだけど、ちょっとそのう……いま非常事態で。今日行けそうにないから、それだけ」
「非常事態?どういうことだ、ニュート?応援が必要か」
「ああ、ちがう、非常事態ってのはなしで……とにかく仕事に行ける状態じゃなくて――」
「じつにフカカイでナンカイなじけんなのだよ、ワトソンくん」
電話しているニュートの周りでリジーが二フラーを相手に推理を始める。
「……今のはなんだ?」
「や、違くて兄さん、ちょっとダーメだって」
「子どもの声がした、小さな女の子の声が」
「ワトソンくん!ワトソンくん!」
電話越しにテセウスは動揺のあまり思わず弾かれたように立ち上がる。
ニュートは慌てて「しーっ!」と唇に指を当てると、リジーはくすくす笑いながらニュートの真似をした。
その愛らしい姿が不覚にもかわいいと思ってしまう。
「ど、どこの誰の子だ?!ニュート、まさかお前……っ」
「ちがう!ちがうから!もう切るよ!」
「ナゾがとけたのだよ!ワトソンくん!」
少女の声を最後に、電話はプツリと途絶えた。
テセウスは訳が分からないまましばらく呆然と立ち尽くしていた。
▶あとがき
茫然自失、とはまさにこのことだろう。ニュートは頭の中が真っ白になる。
まさか、いやまさか。生まれてから今日まで人の道は外さずに生きてきたつもりだ。
脳裏に過ぎるのは誘拐、拉致監禁、児童虐待の文字。
昨夜の行動を必死で思い起こす、夕べは少し酔っていた。
焦れば焦るほど人間の脳は使い物にならない。
「リジー!リジー、どこだい?!ああ、どうしよう、一体どこで拾ったんだろう、僕としたことが……」
家の中になぜかリジーの姿はなかった。
不思議そうにニュートを見つめる女の子と目が合う。
「ああ、どうしよう……君、どこの子?お名前言えるかい?」
「……しんしはレディより先に名のるのがマナーってママが言ってた」
ニュートはきょとんとして目を瞬かせる。
「僕は……ニュート・スキャマンダー」と名乗ると少女は右手の甲を差し出した。
……まさか、口づけしろという意味なのか。
ニュートは恐る恐る小さな手を握り、敬愛のキスをする。
少女は少し照れながら満足げに微笑んだ。
「リジー・ヴァンクス、会えてうれしくてよニュート」
ニュートは信じられない気持ちで少女をまじまじと見つめる。
その顔にはどこかリジーと重ね合う面影を感じる。
「リジー……?そんな、まさか……年はいくつ?あー、何歳か分かる?」
「しんじられない!レディにそんなこと聞くなんて!」
「ああっ、悪かった、ごめんよリジー。そしたらえっと……お家はどこか分かる?」
リジーはちょこん、と首を傾げる。
年の頃は恐らく、四歳か五歳程度。住所を答えるのは難しいだろう。
どうやら見た目だけでなく、中身も一緒に幼児化してるらしい。
「……そうだ、将来の夢はなに?」
「おひめさま!」
「ああ、これは違ったか……好きな本は?」
「シンデレラと、美女と野獣と、眠れる森の美女と、白雪姫と……あとシャーロック・ホームズ!」
「間違いなくリジーだ……」
ニュートは頭を抱える、まさかこんな頃からホームズを嗜んでいたとは驚いた。
彼女は色んな意味で相当おませだったらしい。
さてどうしたものか、たぶん放っておいてもそのうち元に戻る一時的なものだろうが、念の為病院に連れて行くべきだろう。
その前にリジーの職場に連絡をしないと、あと一応彼女のご両親にも……
「えっと、まず魔法省に電話して、それから病院と、リジーの実家……ああ、お義父さんとお義母さん……っ」
ふとニュートは昨夜起こった一連の出来事を思い出した。
もう帰らなければ、と言う彼女を上手いこと言いくるめてそのまま一晩家に引きとどめたのだ。
もう随分前から公認とはいえ、嫁入り前の大事な一人娘を、無断で……しかも朝起きたらこんなことに。
叱られること間違いなしだろう、電話じゃなくここはひとつ出向いて頭を下げるべきか。
これをきっかけな婚約の日が遠のかないことを祈る。
ニュートのそんな心配をよそにリジーは「ねーねー」と純粋に彼の袖を引っぱる。
「おなかすいた」
「そうだ、朝ごはん……気づかなくてごめんよ、お腹すいたね。おいで、何か作ってあげる」
小さな体を怖々抱き上げると、あまりの軽さに驚いた。
子どもというのはこんなにも小さくて軽いものなのか。
居間に行くと寝起きの二フラーがニュートと小さなリジーを見て、混乱した様子でリジーの姿を探し始めた。
「二フラー、大丈夫だよ。リジー、ごはんが出来るまで二フラーと待ってて」
「にふらー、いい子いい子」
丸っこい体をむぎゅっと捕まえて背中をわしゃわしゃ撫でるリジー。
少し危なっかしい抱き方だけど二人の光景に思わず頬が緩む。
もし、いつか僕にも娘が出来たら。こんな感じなのかなとつい想像してしまう。
娘でも、息子でも、リジーに似た子がいい。彼女は僕似がいいって言うだろうけど。
二フラーはふんふん鼻を鳴らしてしきりにリジーの匂いをかいでいる。
ニュートは早速朝食の準備に取りかかる。
さて、ろくな食べ物なんてこの家にあったかと一瞬頭を過ったが、幸いなことにリジーが買い出しをしてくれていたらしい。元に戻ったら礼を言おう。
昨夜の残りのスープを温めながら、パンを切り分けハムやチーズや卵を適当に挟んで皿に盛る。
ニュートが魔法を使う様子をリジーは不思議そうに、呆然と眺めていた。
「はいどうぞ、食べたらパパとママのところ行こうね……」
リジーはぽかんと口を開けたまままた浮かび上がるのではとじっとサンドイッチを見つめている。
恐る恐るパンの間からハムだけ引き剥がして、ぱくり。
「……おいしい」
「よかった」
「……ニュートはまほーつかいなの?」
「そうだよ」
「ゆーかいはんではないのね」
「……」
さすがシャーロキアンというべきか、すでに闇祓いの素質を垣間見た気がする。
王子様、という選択肢はないのか……と内心がっかりするとリジーはすかさず「おーじさまはお城に住んでるし」と付け加えた。
「……でもこう見えても僕、ドラゴンと戦ったことがあるんだよ」
「でもおーじさまならお城に住んでる」
「そうだね……」
リジーはサンドイッチを食べ終えると二フラーとホームズごっこで遊び始めた。
ニュートは深呼吸を繰り返し心を落ち着かせながら、頭の中で謝罪の言葉を考える。
意を決して受話器を握り、リジーの実家の番号をダイヤルする。
「……いや、やっぱり先に魔法省にしよう」
ガシャン、とダイヤルを切って魔法省の電話番号を回す。
いやなことはつい後回しにしてしまうのは悪い癖だ。
電話交換手が淡々とした口調で応対する、「闇祓い局へ」とだけ伝えたのにこちらの素性を知ってか知らずか電話はテセウスに繋がれた。
「ニュート、お前から電話なんて珍しいな。どうかしたか」
「ああ、テセウス……」
よりによって、テセウスだ。ニュートは思わずため息をつく。
「テセウス、ごめん。リジーだけど、ちょっとそのう……いま非常事態で。今日行けそうにないから、それだけ」
「非常事態?どういうことだ、ニュート?応援が必要か」
「ああ、ちがう、非常事態ってのはなしで……とにかく仕事に行ける状態じゃなくて――」
「じつにフカカイでナンカイなじけんなのだよ、ワトソンくん」
電話しているニュートの周りでリジーが二フラーを相手に推理を始める。
「……今のはなんだ?」
「や、違くて兄さん、ちょっとダーメだって」
「子どもの声がした、小さな女の子の声が」
「ワトソンくん!ワトソンくん!」
電話越しにテセウスは動揺のあまり思わず弾かれたように立ち上がる。
ニュートは慌てて「しーっ!」と唇に指を当てると、リジーはくすくす笑いながらニュートの真似をした。
その愛らしい姿が不覚にもかわいいと思ってしまう。
「ど、どこの誰の子だ?!ニュート、まさかお前……っ」
「ちがう!ちがうから!もう切るよ!」
「ナゾがとけたのだよ!ワトソンくん!」
少女の声を最後に、電話はプツリと途絶えた。
テセウスは訳が分からないまましばらく呆然と立ち尽くしていた。
▶あとがき
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