幻獣たちのカルテ
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人類の輝かしい科学技術の進歩により、現代において「帰り道が分からない」という状況はまずない。
極度の方向音痴のわたしを含む一部の人間にはよくあることかもしれないが、それでも道はある。
スマートフォン――忙しい日々を生きるのに欠かせない戦友、彼には何度も助けられた過去もある。
縋るような気持ちで電源ボタンを押す、パッと明るくなるバキバキに割れた画面、いつもと何ら変わらない日常の動作に少し心が軽くなる。
だがしかし、電波が飛ばない。
何度見ても、快適な高速通信を宣伝文句にうたっている四柱は途切れたまま。
文明の利器に頼りきっている軟弱な現代人でしかないリジーは絶望のどん底に突き落とされた。
シャッターの閉じた店の軒先で膝を抱えてうずくまる。
ハンチングを被った小さな少年が売る英字新聞に大きく書かれた「1927」の数字と、蹄の小気味よい音を響かせながら通りを行く騎馬警察、博物館でしか見たことないような年代物のクラッシックカー。
スマートフォンの日付はそこだけ墨で塗りつぶされたかのように暗いまま表示されなかった。
「ねえ、君……大丈夫?」
不意に響いた声に頭上を見上げる。
信じられないほどナチュラルに、ネイティブのブリティッシュイングリッシュにここが見ず知らずの異国の地である現実を突きつけられる。
まだ見ぬ潜在能力が己の中で開花することを祈りながら、勉強中の英語力を総動員して何とか言葉を紡ぐ。
「帰り道が分からないの、てかここどこよ……」
「えっと……ロンドン?」
「オーマイゴッド……」
うっそやろ、そうじゃないかと思ってたけど!
まあ流暢な英語ですこと、あちらはもしやウェストミンスター寺院ですか?かの有名な?
待って待って、知らないうちにロンドンで迷子ですかわたし?生まれてこの方日本を出たことすらないのですが。ああ、偉大なる母国よ……。
さすがにやばいよ?いつ飛行機に乗った?まさか泳いできたかリジーさん?
いやいやいや……本日もよく働き、仕事終わってそのまま電車乗ってうち帰るつもりだったんだけど?乗る駅も降りる駅もばっちり覚えとるよ、JRじゃねえよド田舎のローカル線ですよ。「〇〇ってめっちゃ都会やん!やばー!」とかよく言われるけど、それJRな?おんなじ駅名だけどこっち田んぼに囲まれたポツンと無人駅な?
待って、どこで道を間違えた……マジで記憶がない……。
「ねえ……ほんとに大丈夫?」
よくよく見たらこれまたハンサムなイケメン、これが英国紳士……!
普段なら速攻で「LINE交換しよ」とか言ってしまうところですが、肝心な時に限って生憎LTEが死んでるんだよ……!どこでも繋がる安くて速い高速通信どこ行った……!
やたらオドオドしてるけどどうしたん?大丈夫?座敷童子みたいにしゃがみこんでるからビビってるのかな、急に大きい声出したりしないから安心してイケメン。
「……ちなみに今日は何年の何月何日ですか」
「1927年、四月二十日だけど……?」
「1927……?」
待って、何時代?昭和?平成の世も終わるというのに。
今が2019年だから……えっと、まず1920+80=2000で……
100??計算とかほんと無理なんだけど。
もはや電卓ぐらいしか使えないスマホを取り出し、数式を打ち込む。
「92……?92年前?え、戦時中?ファーストワールドウォー?日本人やばくない?」
英語で第一次世界大戦が分からない、確かエド・シーランの歌でセカンドワールドウォーとか言ってたから多分ファーストワールドウォーでいけると思う。
イケメンは眉をひそめて苦笑いする。
「戦争はこの前終わっただろ、その箱何?」
「終わった……戦後ってこと?日本大丈夫?」
「君、日本人だよね。時間旅行者かな?あの……河童とか見たことある?」
「ジャパニーズ……そう、わたし日本人。カッパ??」
カッパに似てると言われてるのだろうか?カッパ……カッパ??
外国人って日本のサムライとかニンジャが好きな人多いけど、カッパのことはちょっと……
よく分からないけどとりあえず「オーイエース!」と答える。
イケメンは嬉しそうにぱあっと瞳を輝やかせて乗ってきた。
「ほ、本当に?!あの河童だよ?」
「マジマジ、あれだよね、あのキュウリが好き、キューカンバー」
「そう!キュウリだよ!彼らはキュウリが大好物なんだ」
嬉しそうにキラキラと顔を輝かせ熱っぽく語るイケメン、早口で流暢すぎて何を言ってるのかほとんど聞き取れない。多分話の流れ的にカッパについて語ってるのだと思う。
カッパとか、イケメンとか、昭和のロンドンとか色んなことが急激に頭の中を駆け巡ってリジーの思考回路はパンク寸前だった。
やたらカッパが好きな顔のいい男を見つめながら、じわりと涙が滲む。
この後どうしよう、帰りたくても帰れない。警察に相談したところで自称タイムトラベラーのおかしな小娘にしか思われず、掛け合ってもらえないのは目に見えてる。
銀行に行って、所持金をドルに変える?ポンド?でも今確か二千円ぐらいしか持ってなかった気がする。それに小娘が一人でおかしなお金持ってきたら絶対変に思われる。
もう野宿するしかないのか、どうしよう、どうしよう……
きゅう~と胃が切ない音を立てる、空腹を自覚した途端余計に涙が溢れ出てくる。
「う、ぐす、ふうぅ、お腹空いた……もうやだ……」
「ああっ、ごめんよ、君迷子だったね……どうしよう」
極度の方向音痴のわたしを含む一部の人間にはよくあることかもしれないが、それでも道はある。
スマートフォン――忙しい日々を生きるのに欠かせない戦友、彼には何度も助けられた過去もある。
縋るような気持ちで電源ボタンを押す、パッと明るくなるバキバキに割れた画面、いつもと何ら変わらない日常の動作に少し心が軽くなる。
だがしかし、電波が飛ばない。
何度見ても、快適な高速通信を宣伝文句にうたっている四柱は途切れたまま。
文明の利器に頼りきっている軟弱な現代人でしかないリジーは絶望のどん底に突き落とされた。
シャッターの閉じた店の軒先で膝を抱えてうずくまる。
ハンチングを被った小さな少年が売る英字新聞に大きく書かれた「1927」の数字と、蹄の小気味よい音を響かせながら通りを行く騎馬警察、博物館でしか見たことないような年代物のクラッシックカー。
スマートフォンの日付はそこだけ墨で塗りつぶされたかのように暗いまま表示されなかった。
「ねえ、君……大丈夫?」
不意に響いた声に頭上を見上げる。
信じられないほどナチュラルに、ネイティブのブリティッシュイングリッシュにここが見ず知らずの異国の地である現実を突きつけられる。
まだ見ぬ潜在能力が己の中で開花することを祈りながら、勉強中の英語力を総動員して何とか言葉を紡ぐ。
「帰り道が分からないの、てかここどこよ……」
「えっと……ロンドン?」
「オーマイゴッド……」
うっそやろ、そうじゃないかと思ってたけど!
まあ流暢な英語ですこと、あちらはもしやウェストミンスター寺院ですか?かの有名な?
待って待って、知らないうちにロンドンで迷子ですかわたし?生まれてこの方日本を出たことすらないのですが。ああ、偉大なる母国よ……。
さすがにやばいよ?いつ飛行機に乗った?まさか泳いできたかリジーさん?
いやいやいや……本日もよく働き、仕事終わってそのまま電車乗ってうち帰るつもりだったんだけど?乗る駅も降りる駅もばっちり覚えとるよ、JRじゃねえよド田舎のローカル線ですよ。「〇〇ってめっちゃ都会やん!やばー!」とかよく言われるけど、それJRな?おんなじ駅名だけどこっち田んぼに囲まれたポツンと無人駅な?
待って、どこで道を間違えた……マジで記憶がない……。
「ねえ……ほんとに大丈夫?」
よくよく見たらこれまたハンサムなイケメン、これが英国紳士……!
普段なら速攻で「LINE交換しよ」とか言ってしまうところですが、肝心な時に限って生憎LTEが死んでるんだよ……!どこでも繋がる安くて速い高速通信どこ行った……!
やたらオドオドしてるけどどうしたん?大丈夫?座敷童子みたいにしゃがみこんでるからビビってるのかな、急に大きい声出したりしないから安心してイケメン。
「……ちなみに今日は何年の何月何日ですか」
「1927年、四月二十日だけど……?」
「1927……?」
待って、何時代?昭和?平成の世も終わるというのに。
今が2019年だから……えっと、まず1920+80=2000で……
100??計算とかほんと無理なんだけど。
もはや電卓ぐらいしか使えないスマホを取り出し、数式を打ち込む。
「92……?92年前?え、戦時中?ファーストワールドウォー?日本人やばくない?」
英語で第一次世界大戦が分からない、確かエド・シーランの歌でセカンドワールドウォーとか言ってたから多分ファーストワールドウォーでいけると思う。
イケメンは眉をひそめて苦笑いする。
「戦争はこの前終わっただろ、その箱何?」
「終わった……戦後ってこと?日本大丈夫?」
「君、日本人だよね。時間旅行者かな?あの……河童とか見たことある?」
「ジャパニーズ……そう、わたし日本人。カッパ??」
カッパに似てると言われてるのだろうか?カッパ……カッパ??
外国人って日本のサムライとかニンジャが好きな人多いけど、カッパのことはちょっと……
よく分からないけどとりあえず「オーイエース!」と答える。
イケメンは嬉しそうにぱあっと瞳を輝やかせて乗ってきた。
「ほ、本当に?!あの河童だよ?」
「マジマジ、あれだよね、あのキュウリが好き、キューカンバー」
「そう!キュウリだよ!彼らはキュウリが大好物なんだ」
嬉しそうにキラキラと顔を輝かせ熱っぽく語るイケメン、早口で流暢すぎて何を言ってるのかほとんど聞き取れない。多分話の流れ的にカッパについて語ってるのだと思う。
カッパとか、イケメンとか、昭和のロンドンとか色んなことが急激に頭の中を駆け巡ってリジーの思考回路はパンク寸前だった。
やたらカッパが好きな顔のいい男を見つめながら、じわりと涙が滲む。
この後どうしよう、帰りたくても帰れない。警察に相談したところで自称タイムトラベラーのおかしな小娘にしか思われず、掛け合ってもらえないのは目に見えてる。
銀行に行って、所持金をドルに変える?ポンド?でも今確か二千円ぐらいしか持ってなかった気がする。それに小娘が一人でおかしなお金持ってきたら絶対変に思われる。
もう野宿するしかないのか、どうしよう、どうしよう……
きゅう~と胃が切ない音を立てる、空腹を自覚した途端余計に涙が溢れ出てくる。
「う、ぐす、ふうぅ、お腹空いた……もうやだ……」
「ああっ、ごめんよ、君迷子だったね……どうしよう」
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