キャンディ
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「ハーイ、ニュート」
「ああ、おかえり。早かったね」
日課の動物たちの世話を終えて、地下室から上がってきたニュートは洗面台の大きな鏡の前に背を向けて立つ彼女を見つけ――最初はなんとも思わず普通に通り過ぎてから、ふと何となく小さな違和感が胸に引っかかり、何気なく振り返る。
そこには十年前、ホグワーツで出会った頃の十三歳の彼女がローブを着て立っていた。
「早かったね……って、そんなわけないでしょっ、エインズワースが十五分も授業を延長させたんだから!あのハゲチャビンときたら!」
「君……っ、授業って君、」
「ヒミコの話でよく一時間も喋り続けられるわよね、聞いたらテストに出る所でもないのよ?ただ話したいだけ、ただ好きなだけ、あのハゲチャビンのただの趣味!これ以上に無駄な時間の使い方がある?!」
頬をわずかに紅潮させながら早口で捲し立てる、どうやらかなりご立腹らしい。
そういえば、学生時代にも同じ事があったなと懐かしい記憶がふと蘇る。
エインズワースという魔法史の教授がいたこと、彼女はその教授のことを特に嫌っていた、いつも関係ない話で脱線して授業を長引かせるから。あの教授はみんなに嫌われていたな。
そうだ、あれはたしか三年生の時。たまたますれ違って声を掛けて、彼女は同じように怒っていた。ヒミコの話をずっと聞かされたって。
ニュートは懐かしい思い出にふっと微笑んで、当時と同じように答える。
「それは災難だったね。でも明日は日曜だから、一緒にキャンディーを買いに行こうよ」
「本当?とっても楽しみ!」
彼女は嬉しそうに満面の笑みを咲かせて、弾むように小さくトントンと踵を浮かせた。
ニュートは「ちょっと待ってて」と急いでキッチンに向かう。確かあったはずだ、さして好きでもないのについ、ハロウィンのためにたくさんお菓子が並べられた棚の雰囲気につられて買ってしまったキャンディーが。
「――もう行かなきゃ、また明日ねハニー」
ふっと温かいキスを頬に感じて、慌てて振り返った時には家の中には誰もいなかった。
一人分の呼吸と気配をやけに色濃く感じる、唐突に寂しさが胸を襲った。
「キャンディーを買いに行こう」それがお決まりのデートの約束だった。
彼女の好きなキャンディーを買いに行く、ボンボ二エール付きの、着色料の入った砂糖味のそんなに美味しくないキャンディー。ニュートはさして好きじゃなかったけど、彼女は色々な形や絵のボンボ二エール欲しさにいつも買っていた。
ニュートはキャンディーを一つ頬張って、菫色の硝子のボンボ二エールを彼女との写真の前に置いた。
安い砂糖の味が口の中にぼわんと広がる、やっぱり大して美味しくはない。まだたくさんあるのにどうしよう、と早くもうんざりする味だ。
彼女はもういないのだと、思う度に家の中のあちこちに彼女の面影を見る。
記憶の中の幻でしかない彼女は虚ろで虚しくて、けれど彼女を失ったニュートの心は動物たちと、幻を追うことで生かされている。
もう死んでしまいたい、馬鹿げた考えだと分かりながら一日のうちに何度も漠然と頭を過る。
亡霊でもなんでもいいから、一瞬でも本当に姿を見せてくれないか。
菫色の硝子のボンボ二エールの中でカラフルなキャンディーがひとつカランと転がる。一つ減ったキャンディーに、ニュートが気づくことはとうとうなかった。
「ああ、おかえり。早かったね」
日課の動物たちの世話を終えて、地下室から上がってきたニュートは洗面台の大きな鏡の前に背を向けて立つ彼女を見つけ――最初はなんとも思わず普通に通り過ぎてから、ふと何となく小さな違和感が胸に引っかかり、何気なく振り返る。
そこには十年前、ホグワーツで出会った頃の十三歳の彼女がローブを着て立っていた。
「早かったね……って、そんなわけないでしょっ、エインズワースが十五分も授業を延長させたんだから!あのハゲチャビンときたら!」
「君……っ、授業って君、」
「ヒミコの話でよく一時間も喋り続けられるわよね、聞いたらテストに出る所でもないのよ?ただ話したいだけ、ただ好きなだけ、あのハゲチャビンのただの趣味!これ以上に無駄な時間の使い方がある?!」
頬をわずかに紅潮させながら早口で捲し立てる、どうやらかなりご立腹らしい。
そういえば、学生時代にも同じ事があったなと懐かしい記憶がふと蘇る。
エインズワースという魔法史の教授がいたこと、彼女はその教授のことを特に嫌っていた、いつも関係ない話で脱線して授業を長引かせるから。あの教授はみんなに嫌われていたな。
そうだ、あれはたしか三年生の時。たまたますれ違って声を掛けて、彼女は同じように怒っていた。ヒミコの話をずっと聞かされたって。
ニュートは懐かしい思い出にふっと微笑んで、当時と同じように答える。
「それは災難だったね。でも明日は日曜だから、一緒にキャンディーを買いに行こうよ」
「本当?とっても楽しみ!」
彼女は嬉しそうに満面の笑みを咲かせて、弾むように小さくトントンと踵を浮かせた。
ニュートは「ちょっと待ってて」と急いでキッチンに向かう。確かあったはずだ、さして好きでもないのについ、ハロウィンのためにたくさんお菓子が並べられた棚の雰囲気につられて買ってしまったキャンディーが。
「――もう行かなきゃ、また明日ねハニー」
ふっと温かいキスを頬に感じて、慌てて振り返った時には家の中には誰もいなかった。
一人分の呼吸と気配をやけに色濃く感じる、唐突に寂しさが胸を襲った。
「キャンディーを買いに行こう」それがお決まりのデートの約束だった。
彼女の好きなキャンディーを買いに行く、ボンボ二エール付きの、着色料の入った砂糖味のそんなに美味しくないキャンディー。ニュートはさして好きじゃなかったけど、彼女は色々な形や絵のボンボ二エール欲しさにいつも買っていた。
ニュートはキャンディーを一つ頬張って、菫色の硝子のボンボ二エールを彼女との写真の前に置いた。
安い砂糖の味が口の中にぼわんと広がる、やっぱり大して美味しくはない。まだたくさんあるのにどうしよう、と早くもうんざりする味だ。
彼女はもういないのだと、思う度に家の中のあちこちに彼女の面影を見る。
記憶の中の幻でしかない彼女は虚ろで虚しくて、けれど彼女を失ったニュートの心は動物たちと、幻を追うことで生かされている。
もう死んでしまいたい、馬鹿げた考えだと分かりながら一日のうちに何度も漠然と頭を過る。
亡霊でもなんでもいいから、一瞬でも本当に姿を見せてくれないか。
菫色の硝子のボンボ二エールの中でカラフルなキャンディーがひとつカランと転がる。一つ減ったキャンディーに、ニュートが気づくことはとうとうなかった。
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