憧憬
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列車は長い田園風景を横切り、トンネルを抜けた。
曇天の夜空の向こうにぼんやりそびえるホグワーツ城を人目見ようと、ローブを纏った子供たちが窓辺に駆け寄る。
ニュートも急いで少し大きめのローブに袖を通しながら、ちらりと窓の方に目をやった。
何人もの人の頭ばっかりで結局薄曇りの空が少し隙間から見えただけで、ニュートは少し残念に思いながらまあこれから先お城なんて嫌というほど見られるさと自身を励ます。
それより問題はこれだ、ニュートは買ったばかりの長いネクタイを持て余しながら、見よう見まねで首に掛けてみる。
理由はよく分からないが、しゅるしゅると襟の内側に滑らし、絹ずれの音をさせるとなんだかそれっぽく出来るような気がしてきた。
しかしここからが問題である。
ネクタイなんて今まで一度も結んだことがない、ニュートが通っていた田舎の小学校は名門校と違ってネクタイや制服なんて無縁の学校だった。
ネクタイぐらい結べる、と強がってテセウスに教えてもらわなかったことを心底後悔する。
何となく喉元で一つ結んでみる、やってみてこれだけは違うことだけは分かった。
「一年生、まだ席に着いてて。あと五分で到着よ!座席を片付けて、ゴミは各自責任を持って処分するように!」
焦れば焦るほどに新品のネクタイには皺がより、いくら考えたところで原理は理解できそうにない。
同じくネクタイを首からだらりと下げた新入生の男子たちが上級生のところに列を作っていくのを見て、なんとなくあそこにだけは並びたくないと妙なプライドが邪魔をする。
なんでこんな訳の分からないものを首からぶら下げてなきゃいけないんだ、とニュートは窓から投げ捨ててやりたくなった。
「準備できた?」
知らない上級生がコンパートメントの戸を叩く。
ハッフルパフのイエローのネクタイをきっちり結び、豊かなブロンドの巻き毛のいかにも高飛車なお嬢様然とした、ニュートよりいくらか背の高い彼女は黙って床に跪きニュートのネクタイに手を掛けた。
コンパートメント内の半密室空間にしゅるりとシルクの擦れる音がし、ニュートは何だか悪いことをしてるような気がしてしまって心臓が跳ね上がる。
「大剣を長めに持ち、小剣の上から回して、後ろから前に輪の中へ通す」
あっという間にきゅっと逆三角形の結び目が完成され、たったの三つのステップではあったがニュートは到底覚えられそうにないと思った。
「あ、あの、ありがとう……ございます」
「いいのよ、毎年の恒例だから」
事実その通りらしく、彼女はなんでもないと言った様子で表情を変えず去っていった。
そういえば君、とふと思い出したように後ろを振り返る。
長いまつ毛に縁取られたビスクドールのような青い瞳と目が合った。
「名前は?」
「あ、えっと……ニュート・スキャマンダー……」
「ああ、テセウスの。じゃあきっと同じ寮ね」
「テセウスを知ってるの……?」
彼女はハッフルパフで、テセウスもハッフルパフだったのだから知ってて当たり前なのだが、ニュートは嬉しくなって会話を終わらせまいと咄嗟に尋ねた。
ええ、と彼女はもちろん当然のように頷く。
「一度デートに行ったわ、また後でねニュート」
ニュートは呆然として彼女が去って行くのを眺めていた。
聞くんじゃなかったと自分の浅はかな言動を後悔すると同時に、心の中で兄を呪った。
ニュート・スキャマンダー、初めての失恋である。
曇天の夜空の向こうにぼんやりそびえるホグワーツ城を人目見ようと、ローブを纏った子供たちが窓辺に駆け寄る。
ニュートも急いで少し大きめのローブに袖を通しながら、ちらりと窓の方に目をやった。
何人もの人の頭ばっかりで結局薄曇りの空が少し隙間から見えただけで、ニュートは少し残念に思いながらまあこれから先お城なんて嫌というほど見られるさと自身を励ます。
それより問題はこれだ、ニュートは買ったばかりの長いネクタイを持て余しながら、見よう見まねで首に掛けてみる。
理由はよく分からないが、しゅるしゅると襟の内側に滑らし、絹ずれの音をさせるとなんだかそれっぽく出来るような気がしてきた。
しかしここからが問題である。
ネクタイなんて今まで一度も結んだことがない、ニュートが通っていた田舎の小学校は名門校と違ってネクタイや制服なんて無縁の学校だった。
ネクタイぐらい結べる、と強がってテセウスに教えてもらわなかったことを心底後悔する。
何となく喉元で一つ結んでみる、やってみてこれだけは違うことだけは分かった。
「一年生、まだ席に着いてて。あと五分で到着よ!座席を片付けて、ゴミは各自責任を持って処分するように!」
焦れば焦るほどに新品のネクタイには皺がより、いくら考えたところで原理は理解できそうにない。
同じくネクタイを首からだらりと下げた新入生の男子たちが上級生のところに列を作っていくのを見て、なんとなくあそこにだけは並びたくないと妙なプライドが邪魔をする。
なんでこんな訳の分からないものを首からぶら下げてなきゃいけないんだ、とニュートは窓から投げ捨ててやりたくなった。
「準備できた?」
知らない上級生がコンパートメントの戸を叩く。
ハッフルパフのイエローのネクタイをきっちり結び、豊かなブロンドの巻き毛のいかにも高飛車なお嬢様然とした、ニュートよりいくらか背の高い彼女は黙って床に跪きニュートのネクタイに手を掛けた。
コンパートメント内の半密室空間にしゅるりとシルクの擦れる音がし、ニュートは何だか悪いことをしてるような気がしてしまって心臓が跳ね上がる。
「大剣を長めに持ち、小剣の上から回して、後ろから前に輪の中へ通す」
あっという間にきゅっと逆三角形の結び目が完成され、たったの三つのステップではあったがニュートは到底覚えられそうにないと思った。
「あ、あの、ありがとう……ございます」
「いいのよ、毎年の恒例だから」
事実その通りらしく、彼女はなんでもないと言った様子で表情を変えず去っていった。
そういえば君、とふと思い出したように後ろを振り返る。
長いまつ毛に縁取られたビスクドールのような青い瞳と目が合った。
「名前は?」
「あ、えっと……ニュート・スキャマンダー……」
「ああ、テセウスの。じゃあきっと同じ寮ね」
「テセウスを知ってるの……?」
彼女はハッフルパフで、テセウスもハッフルパフだったのだから知ってて当たり前なのだが、ニュートは嬉しくなって会話を終わらせまいと咄嗟に尋ねた。
ええ、と彼女はもちろん当然のように頷く。
「一度デートに行ったわ、また後でねニュート」
ニュートは呆然として彼女が去って行くのを眺めていた。
聞くんじゃなかったと自分の浅はかな言動を後悔すると同時に、心の中で兄を呪った。
ニュート・スキャマンダー、初めての失恋である。
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