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知り合ったきっかけは何だったっけ、リジーはふと一年前の記憶を振り返る。
もうずっと前からニュートのことはよく知っていた、顔と名前が一致する程度には。たぶん彼の方もそうだったろう。
図書室で本を取ってもらったことが一、二回。
二人っきりで談話室に居合わせた時に雑談をしたのが数回。「学校にはもう慣れた?」とか「次の授業はなに?」とか、大体そんなようなことを聞かれた気がする。
初めて話したことも、内容も、全部はっきり覚えているのにどうやって仲良くなっていったのか思い出せない。
案外、友達というのはそういうものなのかもしれないとリジーは思う。
先輩、という存在はリジーにとってどちらかと言うと苦手な部類だ。内気すぎる性格ゆえだと思うが、誕生日が二週間早いだけのいとこたちにも今だにお兄ちゃん、お姉ちゃん、などと呼んでいるぐらいだ。
「ニュートでいいよ」と言われても最初はファーストネームで呼ぶのにも抵抗があって、仰々しく「ミスタースキャマンダー」などと呼んでいた。
その度に彼はうーん、とちょっぴり寂しそうに苦笑いを浮かべる。ファーストネームで呼び合うのはわたしにとって二人の間のちょっとした塀を乗り越えるような気持ちだった。
「ミスター……ミスター…………ニュート」
たっぷりの沈黙と戸惑いの後に、ニュートは心底嬉しそうに「うん」と目元を綻ばせて微笑んだ。
柔らかに破顔したその表情がとても優しくて、まるで大きな仔犬のようで可愛らしいと思ってしまいリジーは密かに胸を高鳴らせる。
きっと逆の立場ならリジーは内気な小さな少年の頭を思いっきり撫でて、抱きしめて頬にキスしていたかもしれない。
さすがに五歳も年上の男の子の頭を撫でるわけにはいかないが。
「うーん……リジー今いくつだっけ」
あまりに唐突な質問に、何だろうと思いながらもリジーは「二年です」と指を二本立てて答える。
ニュートはまたうーん、と大きな背丈の上から見下ろしながら唸った。
「二年……十二かあ……うん、まあ……いいよね」
一人で何か考え込みながらぶつぶつ呟く彼に、リジーは目をぱちくりと瞬かせながら首を傾げる。
話の脈略が無さすぎてついていけない、こういう時にリジーは特に際立って彼との年齢差を感じる。まだお互い子どもとは言え、十二と十七では大人と子どもほどに見えている世界や考えている事が違うのだ。
「どうかしたのですか」
リジーはおずおずと尋ねる、一人ぼっちで置いてけぼりにされるのは好きじゃない。
不意にニュートの大きな手がふれて、頬をすっぽりと大きく包み込む。
リジーは今自分の身に何が起きているのか理解できないまま息をのみ、びくりと石像のように固まった。
「じっとして」
優しく微笑みながらニュートが囁く、彼の顔がぐっと近くまで来て、かぶりつくように唇に唇が重ねられた。
リジーは驚いて反射的に足が後ろに逃げようとする、けれどすぐ後ろには壁がそびえ立ち、逃げ場は塞がれた。
軽く吸われてちゅ、と音を立てて唇が離される。
ほんの一瞬の出来事、けれどリジーにとっては時間が止まっているのではと思うほどに長い劇的な時間だった。
「……ねえ、リジー」
もう一回してもいい?
悪気の欠片もない澄んだ目でそう尋ねられて、リジーは首を横に振るだけで精一杯だった
残念、とニュートは眉を下げる。二回目の許可を取るくらいなら一回目に許可を取って欲しかった、とリジーは他人事のように思う。
世間知らずの恋愛というものに訳も分からず憧れているだけの十二歳にはあまりに衝撃が大きすぎて、突然の事に混乱を隠せずリジーは走って逃げ出した。
リジーにとっての小さな塀。それは多分、彼にとっての境界線だった。
「後輩」が「友だち」になって、「友だち」がまた別の何かに変わる合図。
彼は何を思ってあんなことをしたのか。
今この瞬間、わたしたちの関係は何になってしまったんだろうか。
もうずっと前からニュートのことはよく知っていた、顔と名前が一致する程度には。たぶん彼の方もそうだったろう。
図書室で本を取ってもらったことが一、二回。
二人っきりで談話室に居合わせた時に雑談をしたのが数回。「学校にはもう慣れた?」とか「次の授業はなに?」とか、大体そんなようなことを聞かれた気がする。
初めて話したことも、内容も、全部はっきり覚えているのにどうやって仲良くなっていったのか思い出せない。
案外、友達というのはそういうものなのかもしれないとリジーは思う。
先輩、という存在はリジーにとってどちらかと言うと苦手な部類だ。内気すぎる性格ゆえだと思うが、誕生日が二週間早いだけのいとこたちにも今だにお兄ちゃん、お姉ちゃん、などと呼んでいるぐらいだ。
「ニュートでいいよ」と言われても最初はファーストネームで呼ぶのにも抵抗があって、仰々しく「ミスタースキャマンダー」などと呼んでいた。
その度に彼はうーん、とちょっぴり寂しそうに苦笑いを浮かべる。ファーストネームで呼び合うのはわたしにとって二人の間のちょっとした塀を乗り越えるような気持ちだった。
「ミスター……ミスター…………ニュート」
たっぷりの沈黙と戸惑いの後に、ニュートは心底嬉しそうに「うん」と目元を綻ばせて微笑んだ。
柔らかに破顔したその表情がとても優しくて、まるで大きな仔犬のようで可愛らしいと思ってしまいリジーは密かに胸を高鳴らせる。
きっと逆の立場ならリジーは内気な小さな少年の頭を思いっきり撫でて、抱きしめて頬にキスしていたかもしれない。
さすがに五歳も年上の男の子の頭を撫でるわけにはいかないが。
「うーん……リジー今いくつだっけ」
あまりに唐突な質問に、何だろうと思いながらもリジーは「二年です」と指を二本立てて答える。
ニュートはまたうーん、と大きな背丈の上から見下ろしながら唸った。
「二年……十二かあ……うん、まあ……いいよね」
一人で何か考え込みながらぶつぶつ呟く彼に、リジーは目をぱちくりと瞬かせながら首を傾げる。
話の脈略が無さすぎてついていけない、こういう時にリジーは特に際立って彼との年齢差を感じる。まだお互い子どもとは言え、十二と十七では大人と子どもほどに見えている世界や考えている事が違うのだ。
「どうかしたのですか」
リジーはおずおずと尋ねる、一人ぼっちで置いてけぼりにされるのは好きじゃない。
不意にニュートの大きな手がふれて、頬をすっぽりと大きく包み込む。
リジーは今自分の身に何が起きているのか理解できないまま息をのみ、びくりと石像のように固まった。
「じっとして」
優しく微笑みながらニュートが囁く、彼の顔がぐっと近くまで来て、かぶりつくように唇に唇が重ねられた。
リジーは驚いて反射的に足が後ろに逃げようとする、けれどすぐ後ろには壁がそびえ立ち、逃げ場は塞がれた。
軽く吸われてちゅ、と音を立てて唇が離される。
ほんの一瞬の出来事、けれどリジーにとっては時間が止まっているのではと思うほどに長い劇的な時間だった。
「……ねえ、リジー」
もう一回してもいい?
悪気の欠片もない澄んだ目でそう尋ねられて、リジーは首を横に振るだけで精一杯だった
残念、とニュートは眉を下げる。二回目の許可を取るくらいなら一回目に許可を取って欲しかった、とリジーは他人事のように思う。
世間知らずの恋愛というものに訳も分からず憧れているだけの十二歳にはあまりに衝撃が大きすぎて、突然の事に混乱を隠せずリジーは走って逃げ出した。
リジーにとっての小さな塀。それは多分、彼にとっての境界線だった。
「後輩」が「友だち」になって、「友だち」がまた別の何かに変わる合図。
彼は何を思ってあんなことをしたのか。
今この瞬間、わたしたちの関係は何になってしまったんだろうか。
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