澄んだ朝の空気は宇宙に似ている
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9.20 Twitter魔法夢ワンライ企画作品
「夜明けの談話室」
早朝、午前四時。
ハッフルパフ寮の隣のキッチンで朝食の準備に取りかかる屋敷しもべたちの静かな物音で目を覚ます。
さすがに早起きしすぎたな、と思いながらも二度寝するにはなんとなくもったいないような気がして、シーツの擦れる音に気をつけながらリジーはそうっと起き上がって辺りを見回し、なんとなくベッドの上で膝を抱える。
窓の外には濃いピンク色の朝焼けが名残惜しげに夜の終わりを告げていた。
空ってこんなにピンクになるんだ、と驚くぐらい青みがかった上品なオペラモーブ。
まだ夢の中にいるんじゃないかと思うくらいしん、とした静かな朝にふつふつと心が浮き足立つ。
世界中の人がまだ眠っていて、わたしだけがこの空を見上げている。
それは電気を消して、真っ暗な中で毛布を被って、みんなで朝方までお喋りして夜更かしした時や、授業中に机の陰に隠れてこっそり手紙やお菓子を交換する時みたいな。
妙に気分が上がって、今だったら何でもできる。なぜだか一瞬だけ変な度胸がどこからか湧いてくる、ふわふわしたあの不思議な感覚に似ている。
「そうだ、朝焼けを眺めながら紅茶でも飲みに行こう」とリジーは気まぐれに起床時間前のベッドを抜け出した。
寝室の扉がキイィ、と甲高い嫌な音を立てても誰も起きる気配はない。
一人になってしまえば、もう何も怖いものはない。
ハッフルパフの談話室の中でいつも早い者勝ちで取り合いになる一等席のふかふかのソファーを独り占めしてやろうと、リジーはくすくす笑いながら弾む足取りで談話室へと向かう。
しかし生憎と、驚いたことに先客がいたのだ。
「おはよ、リジー」
ニュートは少し驚いた様子で笑いながら、小声で挨拶した。
まさか自分以外に人がいるなんて思ってもみなかったリジーはさっと青ざめて、その場に硬直した。
なんていうことだ、男子に寝起きのパジャマ姿を見られるなんて!
「ちょっと!何してるの?!やだ、後ろ向いて!」
「え、」
「はやく!」
ニュートは訳が分からないまま仕方なしに背を向ける、何が何だか分からない。女子っていうのはどうして時々急にこうなるのか。
けれど黙っているのも変だろうとニュートは後ろを向いたまま「早起きだね?」とぎこちなく会話を試みる。
これはこれで不自然で滑稽でなんとも言えなかった。
「紅茶のむ?」
「あ、はい、ありがとう……」
不意に勧められたマグカップに入った紅茶をニュートは戸惑いがちに恐る恐る受け取り、大事そうに手の中に包み込むように両手で持った。
リジーはその様子にふっと柔らかく微笑んで、ニュートの隣に背中合わせに腰を下ろす。
背中から伝染する温かさが、少しひんやりした朝の空気の中で心地よい。
「今日午後から魔法史あるよ、大丈夫?」
「僕は大丈夫」
「わたしはムリ」
「どうせみんな寝てるから平気だよ」
内密の話みたいに自然と小さな声でささやくように話す。
周りが静かなせいか、囁き声もいつもより小さく聞こえてふと「宇宙ってこんな感じなのかな」と途方もないことを考えてみる。
遮るものも響く音も何もない、どこまでも続く無音の世界。
どこまでもどこまでも永遠に果てがなく、音も温度も酸素も重力もない。
どんな感じなのだろうかと考えて、足下に何もない底なしの闇を想像して怖くなった。
「……どうしたの?」
ニュートの背中にそっと縋り、頬を寄せる。
背中越しに心臓の音が聞こえてくる、ちょうど自分と同じくらいの温い体温と肺が膨らんで呼吸しているのが分かって、重力の存在を少しずつ思い出してきて安心感に包まれる。
声色から少しだけ動揺しているのが伝わってきた。
「……宇宙の壮大さについて考えてた」
「はあ……難しそうだね」
ニュートは苦笑いを浮かべながら少し眉を寄せて首を傾げる。
恐る恐る、といった様子でそうっと伸びてきた手が優しくリジーの頭を撫でる。
よしよし、と小さな子どもみたいに扱われてリジーは照れ隠しにすうっと撫でられまいと逃げる。
もう少しで暁が終わる。そうして朝が来て、少ししたらみんなが起きてくるだろう。
それまで、もう少しだけ。二人きりの夜明けを漂っていたい。
「夜明けの談話室」
早朝、午前四時。
ハッフルパフ寮の隣のキッチンで朝食の準備に取りかかる屋敷しもべたちの静かな物音で目を覚ます。
さすがに早起きしすぎたな、と思いながらも二度寝するにはなんとなくもったいないような気がして、シーツの擦れる音に気をつけながらリジーはそうっと起き上がって辺りを見回し、なんとなくベッドの上で膝を抱える。
窓の外には濃いピンク色の朝焼けが名残惜しげに夜の終わりを告げていた。
空ってこんなにピンクになるんだ、と驚くぐらい青みがかった上品なオペラモーブ。
まだ夢の中にいるんじゃないかと思うくらいしん、とした静かな朝にふつふつと心が浮き足立つ。
世界中の人がまだ眠っていて、わたしだけがこの空を見上げている。
それは電気を消して、真っ暗な中で毛布を被って、みんなで朝方までお喋りして夜更かしした時や、授業中に机の陰に隠れてこっそり手紙やお菓子を交換する時みたいな。
妙に気分が上がって、今だったら何でもできる。なぜだか一瞬だけ変な度胸がどこからか湧いてくる、ふわふわしたあの不思議な感覚に似ている。
「そうだ、朝焼けを眺めながら紅茶でも飲みに行こう」とリジーは気まぐれに起床時間前のベッドを抜け出した。
寝室の扉がキイィ、と甲高い嫌な音を立てても誰も起きる気配はない。
一人になってしまえば、もう何も怖いものはない。
ハッフルパフの談話室の中でいつも早い者勝ちで取り合いになる一等席のふかふかのソファーを独り占めしてやろうと、リジーはくすくす笑いながら弾む足取りで談話室へと向かう。
しかし生憎と、驚いたことに先客がいたのだ。
「おはよ、リジー」
ニュートは少し驚いた様子で笑いながら、小声で挨拶した。
まさか自分以外に人がいるなんて思ってもみなかったリジーはさっと青ざめて、その場に硬直した。
なんていうことだ、男子に寝起きのパジャマ姿を見られるなんて!
「ちょっと!何してるの?!やだ、後ろ向いて!」
「え、」
「はやく!」
ニュートは訳が分からないまま仕方なしに背を向ける、何が何だか分からない。女子っていうのはどうして時々急にこうなるのか。
けれど黙っているのも変だろうとニュートは後ろを向いたまま「早起きだね?」とぎこちなく会話を試みる。
これはこれで不自然で滑稽でなんとも言えなかった。
「紅茶のむ?」
「あ、はい、ありがとう……」
不意に勧められたマグカップに入った紅茶をニュートは戸惑いがちに恐る恐る受け取り、大事そうに手の中に包み込むように両手で持った。
リジーはその様子にふっと柔らかく微笑んで、ニュートの隣に背中合わせに腰を下ろす。
背中から伝染する温かさが、少しひんやりした朝の空気の中で心地よい。
「今日午後から魔法史あるよ、大丈夫?」
「僕は大丈夫」
「わたしはムリ」
「どうせみんな寝てるから平気だよ」
内密の話みたいに自然と小さな声でささやくように話す。
周りが静かなせいか、囁き声もいつもより小さく聞こえてふと「宇宙ってこんな感じなのかな」と途方もないことを考えてみる。
遮るものも響く音も何もない、どこまでも続く無音の世界。
どこまでもどこまでも永遠に果てがなく、音も温度も酸素も重力もない。
どんな感じなのだろうかと考えて、足下に何もない底なしの闇を想像して怖くなった。
「……どうしたの?」
ニュートの背中にそっと縋り、頬を寄せる。
背中越しに心臓の音が聞こえてくる、ちょうど自分と同じくらいの温い体温と肺が膨らんで呼吸しているのが分かって、重力の存在を少しずつ思い出してきて安心感に包まれる。
声色から少しだけ動揺しているのが伝わってきた。
「……宇宙の壮大さについて考えてた」
「はあ……難しそうだね」
ニュートは苦笑いを浮かべながら少し眉を寄せて首を傾げる。
恐る恐る、といった様子でそうっと伸びてきた手が優しくリジーの頭を撫でる。
よしよし、と小さな子どもみたいに扱われてリジーは照れ隠しにすうっと撫でられまいと逃げる。
もう少しで暁が終わる。そうして朝が来て、少ししたらみんなが起きてくるだろう。
それまで、もう少しだけ。二人きりの夜明けを漂っていたい。
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