白薔薇のおやゆび姫
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それはたった6シックルで、怪しげな露天商人から半信半疑で買い求めたものだった。
珍しい不思議な花で、一つとして同じ花を咲かせるものはなく、上手く育てば花の中から美しい精霊が生まれる。
ただ一つ、注意点があった。一年経って、花が種をつける頃になったら根から切り取ってしまうこと。そうしなければその花は毒になってしまうのだ。
大切に育てろと言われて、言われた通り一ヶ月の間その小さな花の苗を我が子のように大切に世話を焼いた。
水や温度にも気を配り、植物は話しかけてやるといいと聞いてからは事ある毎に話しかけ親友のように扱った。
何が咲くのかと楽しみに、それはそれはもう待ち遠しいほどにこの日を待っていた。
それが今日、やっと花を咲かせたのだ。
鉢植えから芽を出した白い薔薇の蕾の中には、美しい少女が眠っていた。
「……」
ニュートは声も出せないほど驚愕し、持っていた紅茶を床にぶちまけてティーカップを一つ割ってしまった。
その音で少女が夢から目を覚ます、白い陶器のような肌に薔薇色の頬をした美しい蕾の中で生まれた少女。
白い薔薇の花弁を身にまとい、蕾の中から起き上がるとニュートを見つけ、嬉しそうに微笑んで「ママ」と囁くように小さな声で言った。
その瞬間、ニュートの中に衝撃が走り、心臓が息苦しくなるほどの愛おしさが沸き起こる。
「ママ……そう、ママだよ……」
徐ろに蕾へと手を伸ばすと、少女は小さな腕を伸ばしてその指に触れる。
「ママ」と今度ははっきりとニュートの耳に響き、少女は嬉しそうにニュートの乾いた指に頬を擦り寄せた。
なんて、なんて小さくて、脆くて、美しい生きものなんだろうか。
ニュートは胸に迫る大きな感動に、自然と頬を綻ばせる。
なんて名前にしようか、ニュートはパッと頭に浮かんだ音を口にする。
「リジー……」
リジー、と呼ばれた少女は自分のことらしいと気づくと頬を赤らめて俯く。
あまりにも美しく、儚い小さな存在に、ニュートは「守ってやらないと」と強く胸に誓った。
その瞬間、不思議なことにニュートはまるで、彼女に恋をしたのだ。
大切に大切に、自分の子供のように育ててきたのだ。愛さずにはいられなかった。
「ママ、大きくなったらママのお嫁さんにして」
ある日、リジーは頬を赤らめながら無邪気な笑顔でそう言った。
ニュートは黙って、静かに優しく微笑みながら彼女の頬を指先で撫でる。
「ああ、そうだね。嬉しいよ……リジー」
ニュートは俯き、鉢を抱いて土を涙で湿らせる。
愛してる、心の底から。家族や他の誰より、何よりも大切に。
けれどその言葉を口に出すことはついに無かった。
花の毒はこの世の中で最も強力で、そこにあるだけで多くの命を滅ぼす。美しさには常に刺があるものなのだ。
名前なんてつけなければよかった、別れの度にニュートはいつもそう思う。愛着が湧いて、手放し難くなるから。
けれどたとえ最初から分かっていたとしても、それで何かが変わる訳でもない。失うことを恐れるあまり大事な子を名前で呼べないなんて、そんなの悲しすぎる。
でもニュートは今心の底から後悔していた、自らの手で愛するものの命を断ち切らねばいけないのだから。
鋏を持つ手が震える、別れの時が近づいていた。
珍しい不思議な花で、一つとして同じ花を咲かせるものはなく、上手く育てば花の中から美しい精霊が生まれる。
ただ一つ、注意点があった。一年経って、花が種をつける頃になったら根から切り取ってしまうこと。そうしなければその花は毒になってしまうのだ。
大切に育てろと言われて、言われた通り一ヶ月の間その小さな花の苗を我が子のように大切に世話を焼いた。
水や温度にも気を配り、植物は話しかけてやるといいと聞いてからは事ある毎に話しかけ親友のように扱った。
何が咲くのかと楽しみに、それはそれはもう待ち遠しいほどにこの日を待っていた。
それが今日、やっと花を咲かせたのだ。
鉢植えから芽を出した白い薔薇の蕾の中には、美しい少女が眠っていた。
「……」
ニュートは声も出せないほど驚愕し、持っていた紅茶を床にぶちまけてティーカップを一つ割ってしまった。
その音で少女が夢から目を覚ます、白い陶器のような肌に薔薇色の頬をした美しい蕾の中で生まれた少女。
白い薔薇の花弁を身にまとい、蕾の中から起き上がるとニュートを見つけ、嬉しそうに微笑んで「ママ」と囁くように小さな声で言った。
その瞬間、ニュートの中に衝撃が走り、心臓が息苦しくなるほどの愛おしさが沸き起こる。
「ママ……そう、ママだよ……」
徐ろに蕾へと手を伸ばすと、少女は小さな腕を伸ばしてその指に触れる。
「ママ」と今度ははっきりとニュートの耳に響き、少女は嬉しそうにニュートの乾いた指に頬を擦り寄せた。
なんて、なんて小さくて、脆くて、美しい生きものなんだろうか。
ニュートは胸に迫る大きな感動に、自然と頬を綻ばせる。
なんて名前にしようか、ニュートはパッと頭に浮かんだ音を口にする。
「リジー……」
リジー、と呼ばれた少女は自分のことらしいと気づくと頬を赤らめて俯く。
あまりにも美しく、儚い小さな存在に、ニュートは「守ってやらないと」と強く胸に誓った。
その瞬間、不思議なことにニュートはまるで、彼女に恋をしたのだ。
大切に大切に、自分の子供のように育ててきたのだ。愛さずにはいられなかった。
「ママ、大きくなったらママのお嫁さんにして」
ある日、リジーは頬を赤らめながら無邪気な笑顔でそう言った。
ニュートは黙って、静かに優しく微笑みながら彼女の頬を指先で撫でる。
「ああ、そうだね。嬉しいよ……リジー」
ニュートは俯き、鉢を抱いて土を涙で湿らせる。
愛してる、心の底から。家族や他の誰より、何よりも大切に。
けれどその言葉を口に出すことはついに無かった。
花の毒はこの世の中で最も強力で、そこにあるだけで多くの命を滅ぼす。美しさには常に刺があるものなのだ。
名前なんてつけなければよかった、別れの度にニュートはいつもそう思う。愛着が湧いて、手放し難くなるから。
けれどたとえ最初から分かっていたとしても、それで何かが変わる訳でもない。失うことを恐れるあまり大事な子を名前で呼べないなんて、そんなの悲しすぎる。
でもニュートは今心の底から後悔していた、自らの手で愛するものの命を断ち切らねばいけないのだから。
鋏を持つ手が震える、別れの時が近づいていた。
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