世界一大きな額縁
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リジーは恐る恐る、額縁の外を覗き込む。
そこには何も無い、ただ深い深い深淵が口を開けて待ち構えている。
ニュートを見るとリジーはふるふると首を左右に振った。
「やっぱり、わたし怖いわ」
「大丈夫、行けるよ。だって肖像画はみんな自由に絵の中を行き来してるんだから」
「あなた絵の中に入ったことあるの?」
リジーは思わず咎めるような口調で問う。
ニュートは黙って肩を竦めた。
「ないけど……でもたぶん、大丈夫だよ」
ニュートには額縁の中に何があるかなんて分からない、いくら心配しても説得力に欠ける、だから心配しない。
リジーは意を決して深淵の底を覗き込む。
「カウントしていただける?」
「もちろん、三秒?」
「……五秒」
五秒前、深く息を吸って深呼吸する。
髪を結い上げて、袖を捲り、ドレスの裾を手で押さえる。
……三、二、一。
地を蹴って、背中から穴の中へ吸い込まれていく。
白兎を追いかけて、木のウロに落ちてしまったアリスみたいに。
落ちた先は見知らぬ部屋の中だった。
中世の鎧を纏った騎士が驚いて腰を抜かしている、もし空から人が降ってきたらリジーも同じ反応をするだろう。
「やや!これは驚いた!レディ、お怪我はありませんかな?」
騎士は素早く立ち上がり、リジーは差し伸べられた手を掴んでドレスの裾を気にしながら立ち上がる。
初対面のリジーの顔を、騎士は不躾にまじまじと眺める。
「はて、この城に住まわれているご婦人方のお顔は全て記憶していると思っていたが……」
「あ、あのわたくし……」
女好きの騎士に絡まれてるリジーを見つけたニュートは慌てて階段を駆け上がる。
「リジー、こっちだよ!」
「ニュート!ご親切にどうも、ごきげんよう!」
リジーはほっとして頬を綻ばせる。
膝を折ってお辞儀し騎士に別れを告げ、壁一面にぐるっと飾られた絵画の中を、ドレスの裾を翻して駆け抜けていく。
最上階の天文台手前の踊り場まで駆け足で上りきり、ニュートはさすがに息を切らして手すりに寄りかかった。
ふわりと絵の中を飛び越えて、リジーが額縁の中に現れる。
目の前に広がる幻想的な光景に思わず息をのんだ。
天から垂れ下がる無数の紫色の花々が、白木の東屋にしなだれかかるように飾り、空は雲一つない青空が果てしなく続いている。
「ああ……すごいわ、ニュート。この花はなんて言うの?」
「藤の花だよ……」
「とても綺麗ね、こんなの見たことない……家のお庭にはなかったもの」
リジーはうっとりとため息をつく。
藤の花が咲きみだれる花園に立ち尽くす少女の絵、その美しさにニュートはいつの間にか見惚れていた。
――もしいつかこの気持ちを伝えるなら、今しかないと思った。
我を忘れてキャンパスに手を伸ばす、リジーは振り返って何かを察してニュートを見つめた。
「リジー……好きだよ、リジー」
「ああ、ニュート……」リジーが声を震わせながら呻く、その目に涙が滲む。
心の中では嬉しくて幸せで、でも頭ではずっとその言葉を恐れていた。
「分かってるでしょう、わたしたち恋人になんてなれない」
「そんなことない、だって友達にはなれた」
「そんなの……っ」
リジーは泣き顔を手で覆い隠してしゃがみこむ。
みなまで言わずとも彼女の言おうとした言葉なんていくらでも思いついて、ニュートはまるで断崖絶壁から突き落とされたかのような絶望感に打ちのめされた。
「――君が、友達になってって言ったんだ。最初になれるって言ったのは君の方じゃないか、それなのに……っ」
彼女は、今までの友情までも否定するのか。
くだらないことで笑いあったあの笑顔も、何もかもが違って所詮魔法で生かされているだけの、感情など持たないただの絵にすぎないと。
「わたしはあなたに何も与えられない!卒業したらどうせもう会えないくせに、無責任なこと言わないで!」
リジーは涙ながらに感情を顕にする。
ニュートは息をのみ、愕然としながら階段を駆け下りて行った。
リジーはまるで罪のない仔犬に鞭を打ったような、ひどい罪悪感と悲しみに心臓を握りつぶされる。
あんな言葉、嘘だ。心からの言葉じゃない、でも間違いなくそれが現実だ。
本当は彼の気持ちが素直にとても嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて、その言葉をもらうためにわたしはこの日まで現実から目を逸らしてきたのかもしれない。
わたしに未来はない、感情もない、ニュートとの一握りの思い出が、彼がわたしに好意を抱いてくれたという事実だけが唯一の救い。
その次の日曜日、ニュートが秘密基地に来ることはなかった。
そしてしばらくして後、彼はリジーの知らないところで密かにホグワーツを去って行った。
そこには何も無い、ただ深い深い深淵が口を開けて待ち構えている。
ニュートを見るとリジーはふるふると首を左右に振った。
「やっぱり、わたし怖いわ」
「大丈夫、行けるよ。だって肖像画はみんな自由に絵の中を行き来してるんだから」
「あなた絵の中に入ったことあるの?」
リジーは思わず咎めるような口調で問う。
ニュートは黙って肩を竦めた。
「ないけど……でもたぶん、大丈夫だよ」
ニュートには額縁の中に何があるかなんて分からない、いくら心配しても説得力に欠ける、だから心配しない。
リジーは意を決して深淵の底を覗き込む。
「カウントしていただける?」
「もちろん、三秒?」
「……五秒」
五秒前、深く息を吸って深呼吸する。
髪を結い上げて、袖を捲り、ドレスの裾を手で押さえる。
……三、二、一。
地を蹴って、背中から穴の中へ吸い込まれていく。
白兎を追いかけて、木のウロに落ちてしまったアリスみたいに。
落ちた先は見知らぬ部屋の中だった。
中世の鎧を纏った騎士が驚いて腰を抜かしている、もし空から人が降ってきたらリジーも同じ反応をするだろう。
「やや!これは驚いた!レディ、お怪我はありませんかな?」
騎士は素早く立ち上がり、リジーは差し伸べられた手を掴んでドレスの裾を気にしながら立ち上がる。
初対面のリジーの顔を、騎士は不躾にまじまじと眺める。
「はて、この城に住まわれているご婦人方のお顔は全て記憶していると思っていたが……」
「あ、あのわたくし……」
女好きの騎士に絡まれてるリジーを見つけたニュートは慌てて階段を駆け上がる。
「リジー、こっちだよ!」
「ニュート!ご親切にどうも、ごきげんよう!」
リジーはほっとして頬を綻ばせる。
膝を折ってお辞儀し騎士に別れを告げ、壁一面にぐるっと飾られた絵画の中を、ドレスの裾を翻して駆け抜けていく。
最上階の天文台手前の踊り場まで駆け足で上りきり、ニュートはさすがに息を切らして手すりに寄りかかった。
ふわりと絵の中を飛び越えて、リジーが額縁の中に現れる。
目の前に広がる幻想的な光景に思わず息をのんだ。
天から垂れ下がる無数の紫色の花々が、白木の東屋にしなだれかかるように飾り、空は雲一つない青空が果てしなく続いている。
「ああ……すごいわ、ニュート。この花はなんて言うの?」
「藤の花だよ……」
「とても綺麗ね、こんなの見たことない……家のお庭にはなかったもの」
リジーはうっとりとため息をつく。
藤の花が咲きみだれる花園に立ち尽くす少女の絵、その美しさにニュートはいつの間にか見惚れていた。
――もしいつかこの気持ちを伝えるなら、今しかないと思った。
我を忘れてキャンパスに手を伸ばす、リジーは振り返って何かを察してニュートを見つめた。
「リジー……好きだよ、リジー」
「ああ、ニュート……」リジーが声を震わせながら呻く、その目に涙が滲む。
心の中では嬉しくて幸せで、でも頭ではずっとその言葉を恐れていた。
「分かってるでしょう、わたしたち恋人になんてなれない」
「そんなことない、だって友達にはなれた」
「そんなの……っ」
リジーは泣き顔を手で覆い隠してしゃがみこむ。
みなまで言わずとも彼女の言おうとした言葉なんていくらでも思いついて、ニュートはまるで断崖絶壁から突き落とされたかのような絶望感に打ちのめされた。
「――君が、友達になってって言ったんだ。最初になれるって言ったのは君の方じゃないか、それなのに……っ」
彼女は、今までの友情までも否定するのか。
くだらないことで笑いあったあの笑顔も、何もかもが違って所詮魔法で生かされているだけの、感情など持たないただの絵にすぎないと。
「わたしはあなたに何も与えられない!卒業したらどうせもう会えないくせに、無責任なこと言わないで!」
リジーは涙ながらに感情を顕にする。
ニュートは息をのみ、愕然としながら階段を駆け下りて行った。
リジーはまるで罪のない仔犬に鞭を打ったような、ひどい罪悪感と悲しみに心臓を握りつぶされる。
あんな言葉、嘘だ。心からの言葉じゃない、でも間違いなくそれが現実だ。
本当は彼の気持ちが素直にとても嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて、その言葉をもらうためにわたしはこの日まで現実から目を逸らしてきたのかもしれない。
わたしに未来はない、感情もない、ニュートとの一握りの思い出が、彼がわたしに好意を抱いてくれたという事実だけが唯一の救い。
その次の日曜日、ニュートが秘密基地に来ることはなかった。
そしてしばらくして後、彼はリジーの知らないところで密かにホグワーツを去って行った。