世界一大きな額縁
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額縁の中で少女は目を覚ました。
どれくらい眠っていたのか、長い夢を見てた気がするけどよく思い出せない。
肩と背中が痛い、椅子で寝ていたせいか。
伸びをすると骨がバキバキと嫌な音を立てた。
ふと周りを見回し、少なくとも眠りにつく前の最後の記憶と明らかに景色が変わっていることに気づく。
布がなくなっている、誰かが取った?
狭い部屋の中は埃っぽいが、明らかに人の形跡が残っている。
小さな硝子窓からあたたかい太陽の光が射し込んで、眩しさに目を細めた。
こんな感覚はいつぶりだろうと考える、もしかしたら初めてだったかもしれない。
ずっと長いこと布に覆われていた気がする。
額縁の中で、壁に飾られることも、誰かのこころに残ることもなく。
ひとりぼっちで、行くあても術もなく、暗くて狭い布の中は時間が止まっているみたいだった。
どんな人だろう? わたしを壁に掛けて、額縁を磨いて、美しいとおもってくれたのは。
ふと自分が色褪せてないか心配になった。
向こうの方で足音が聞こえてきて、ドアが軋みながら内側に開くと、入ってきたのは箒とちりとりだった。
箒がひとりでに床を掃きながら、ちりとりがその後をちょこちょこと追いかける。
呆気にとられていると小さなもぐらのような生きものがくんくん鼻を鳴らしながらやってきて、恐る恐る様子をうかがい、走って逃げていった。
何?なになに何なの?!どうして箒が生きてるの?!
本当に驚いた時には声も出せないらしい。
ドアが軋んで、最後に入ってきたのはさっきのもぐらを腕に抱いた男の子だった。
ひととおり部屋の中を回って、ちりとりが埃を回収すると礼儀正しく(掃除道具が礼儀正しいというのはおかしいが、それでも彼らの仕事は丁寧で礼儀正しかった)ぴょこぴょこと部屋を出ていった。
男の子はそれに「お疲れさま、どうもありがとう」と言ってドアを押さえてあげていた。
ふいに澄んだ碧眼と目が合う、男の子はぎこちなく微笑んだ。
「やあ」
微笑みかけられ挨拶されて咄嗟に反応できなかった、絵はだれかに話しかけられることなんてないから。
「ここ、ちょっとだけ使ってもいいかな。ええっと、ヴァンクスさん……?」
わたしの名前!なんて懐かしい響きだろう!
どうして知ってるの?そう聞こうとしたけど、咄嗟のことで声が喉に張りついてしまったみたいに音にならなかった。
男の子は「下の方にサインが……」と指をさした。
「あ……ご、ごめんよ、先に名乗るのが普通だよね。僕はニュート……こっちは二フラー、噛んだりはしないよ、噛んだりは」
ニュートは二フラーを抱きながら意味深に言葉を繰り返してへらっと笑った。
腕に抱かれながら離せと言わんばかりに身を乗り出して、ふんふん鼻を鳴らす二フラーにリジーは自然と頬が綻んだ。
「……かわいい」
ニュートは自分のことみたいに嬉しそうに笑んだ。
二フラーはこっちに来たくて仕方ないようで、ニュートの腕を一心不乱に蹴りあげていた。
「離してあげて、額に触りたいみたい」
「いいのかい?」
「お腹のポケットには入らないだろうけど、それでも良ければ」
ニュートが本棚の上に降ろしてやると二フラーはつぶらな瞳をきらきら輝かせながら金の額縁におずおずと小さな手で触れた。
「よく知ってるね?お腹にポケットがあること」
ニュートは不思議に思って尋ねた。
パフスケインやドーセットなんかと違って、二フラーはペット向きの魔法動物じゃない。
二フラーという名前を聞いてもピンと来ない人の方がほとんどだ。
魔法動物に興味があるんだろうか、少しの期待を込めて尋ねると、彼女は首を傾げて答えた。
「ニュートが教えてくれた」
思ってもみなかった答えに咄嗟に反応できなかった。
彼女とは初対面なのに、しかも自分が生まれるよりずっと前に存在した人だ。
どこかで会ったことあるはずも、そもそも出会うはずがない。
「どうして……僕たち今日が初めてだと思うんだけど……」
リジーはただ不思議そうに首を傾げるだけだった。
「日曜日にはこの子も連れてきてね、なんて可愛らしいの」
二フラーは夢中で額縁のにおいを嗅いだり爪で引っかいたりしていた。
それをリジーは楽しそうにじっと眺めていた。
どれくらい眠っていたのか、長い夢を見てた気がするけどよく思い出せない。
肩と背中が痛い、椅子で寝ていたせいか。
伸びをすると骨がバキバキと嫌な音を立てた。
ふと周りを見回し、少なくとも眠りにつく前の最後の記憶と明らかに景色が変わっていることに気づく。
布がなくなっている、誰かが取った?
狭い部屋の中は埃っぽいが、明らかに人の形跡が残っている。
小さな硝子窓からあたたかい太陽の光が射し込んで、眩しさに目を細めた。
こんな感覚はいつぶりだろうと考える、もしかしたら初めてだったかもしれない。
ずっと長いこと布に覆われていた気がする。
額縁の中で、壁に飾られることも、誰かのこころに残ることもなく。
ひとりぼっちで、行くあても術もなく、暗くて狭い布の中は時間が止まっているみたいだった。
どんな人だろう? わたしを壁に掛けて、額縁を磨いて、美しいとおもってくれたのは。
ふと自分が色褪せてないか心配になった。
向こうの方で足音が聞こえてきて、ドアが軋みながら内側に開くと、入ってきたのは箒とちりとりだった。
箒がひとりでに床を掃きながら、ちりとりがその後をちょこちょこと追いかける。
呆気にとられていると小さなもぐらのような生きものがくんくん鼻を鳴らしながらやってきて、恐る恐る様子をうかがい、走って逃げていった。
何?なになに何なの?!どうして箒が生きてるの?!
本当に驚いた時には声も出せないらしい。
ドアが軋んで、最後に入ってきたのはさっきのもぐらを腕に抱いた男の子だった。
ひととおり部屋の中を回って、ちりとりが埃を回収すると礼儀正しく(掃除道具が礼儀正しいというのはおかしいが、それでも彼らの仕事は丁寧で礼儀正しかった)ぴょこぴょこと部屋を出ていった。
男の子はそれに「お疲れさま、どうもありがとう」と言ってドアを押さえてあげていた。
ふいに澄んだ碧眼と目が合う、男の子はぎこちなく微笑んだ。
「やあ」
微笑みかけられ挨拶されて咄嗟に反応できなかった、絵はだれかに話しかけられることなんてないから。
「ここ、ちょっとだけ使ってもいいかな。ええっと、ヴァンクスさん……?」
わたしの名前!なんて懐かしい響きだろう!
どうして知ってるの?そう聞こうとしたけど、咄嗟のことで声が喉に張りついてしまったみたいに音にならなかった。
男の子は「下の方にサインが……」と指をさした。
「あ……ご、ごめんよ、先に名乗るのが普通だよね。僕はニュート……こっちは二フラー、噛んだりはしないよ、噛んだりは」
ニュートは二フラーを抱きながら意味深に言葉を繰り返してへらっと笑った。
腕に抱かれながら離せと言わんばかりに身を乗り出して、ふんふん鼻を鳴らす二フラーにリジーは自然と頬が綻んだ。
「……かわいい」
ニュートは自分のことみたいに嬉しそうに笑んだ。
二フラーはこっちに来たくて仕方ないようで、ニュートの腕を一心不乱に蹴りあげていた。
「離してあげて、額に触りたいみたい」
「いいのかい?」
「お腹のポケットには入らないだろうけど、それでも良ければ」
ニュートが本棚の上に降ろしてやると二フラーはつぶらな瞳をきらきら輝かせながら金の額縁におずおずと小さな手で触れた。
「よく知ってるね?お腹にポケットがあること」
ニュートは不思議に思って尋ねた。
パフスケインやドーセットなんかと違って、二フラーはペット向きの魔法動物じゃない。
二フラーという名前を聞いてもピンと来ない人の方がほとんどだ。
魔法動物に興味があるんだろうか、少しの期待を込めて尋ねると、彼女は首を傾げて答えた。
「ニュートが教えてくれた」
思ってもみなかった答えに咄嗟に反応できなかった。
彼女とは初対面なのに、しかも自分が生まれるよりずっと前に存在した人だ。
どこかで会ったことあるはずも、そもそも出会うはずがない。
「どうして……僕たち今日が初めてだと思うんだけど……」
リジーはただ不思議そうに首を傾げるだけだった。
「日曜日にはこの子も連れてきてね、なんて可愛らしいの」
二フラーは夢中で額縁のにおいを嗅いだり爪で引っかいたりしていた。
それをリジーは楽しそうにじっと眺めていた。