世界一大きな額縁
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今からちょうど12年前の秋。
ニュート・スキャマンダーははじめて、ホグワーツの城門をくぐった。
11歳のニュートの最大の関心事は、自分だけの秘密基地を持つこと。
朝から晩まで他人と寝食をともにして過ごす寮生活は、彼にとって非常にストレスを感じることだった。
学生生活において人間関係というものは非常に重要である。
例えばペアになって参加する授業、食事の席、休み時間の過ごし方。
友達がいるかどうかでこれらが大きく変わってくる。
入学して数ヶ月、ニュートにはまだ友達がいない。
誰とでも普通に話しはするけれど、一緒に座ったり、テストの点を見せあったり、冗談を言って笑ったりはしない。
それはきっと、まだ誰とも友達じゃないってことだ。
原因は分かってる、内気で人見知り、口下手で要領も悪い。
2人ペアになって行う魔法薬学の実験と、食事の時間は彼にとってまさに地獄だった。
食事のテーブルはなるべく隅の方、目立たず、空いてる席をいち早く確保する。
一番角のテーブルが取れた時は少し嬉しい、隣と向かいに人が来なかった時はなお嬉しい。
女子に囲まれた時と、いちゃつくカップルが隣だった時と、一人でランチを食べてるのを兄のテセウスにからかわれた時は人生最悪の日、ただ感情を無にして時が過ぎるのを待つしかない。
テセウスはグリフィンドールのクィディッチメンバー、次の監督生にも名前が上がっているくらい勉強もできる、当然人気者でいつも誰かと一緒にいる。
恥を忍んで1度だけ兄に聞いたことがある、しかし返ってきた答えは「類は友を呼ぶ」だった。
聞く相手を間違えた、参考にはならなかった。
兄弟なのにどうしてこうも違うのだろうと、11年間悩み続けてる。
ゆえに、兄とは極力関わりたくない。
顔を合わせるたびになにかとからかってきて楽しむ悪癖のせいもあるが、一緒にいるとどうしても目立つのだ。
「あれがきみの弟か」と、いつも比べられる。
息が詰まる、ランチを食べるだけでなんだってこんなに疲れなくちゃいけないんだ。
かといってだれかに声を掛ける勇気も出せないまま、そもそもなんて言っていいのかも分からないまま一学期が半分終わった。
この先まだ長く続く憂鬱な学生生活に少しでも楽しみを見つけようと思いついたのが秘密基地の開拓だ。
秘密基地、ひみつの基地って響きがかっこいい、ドラゴンみたいだ。
所詮ニュートも11歳の男の子だ、考えるだけでも胸がわくわくした。
次の日からさっそく城の中を見に行くことにした。
ホグワーツ魔法魔術学校は千年も前に4人の創設者によって建てられた、どうりで埃っぽいはずだ。
石造りの立派な城は広くて大きい、おまけに至るところに魔法が掛けられていて一定ではなく無数のルートが存在する。
先生たちでさえ城中を全部把握しているわけではない。
ニュートには一つだけ、心当たりのある場所があった。
六階の南側の廊下には日曜にしか階段が通じない。
一見気まぐれに動く階段は、まれに法則性を持つときがある。
基本生徒は、授業のない日曜にわざわざ六階までキツい階段を上がったりしない。
そして、今日がその日曜日。
早々に朝食を済ますと急いで六階までかけ上がる、タイミングよく南側の廊下へと階段が動き出した。
階段を上りきった先は、思ったよりも広い廊下だった。
古い壊れた椅子や机が壁沿いに雑然と積まれていて、長く人の出入りがないことは一目で分かる。
南向きの大きなステンドグラスからは朝の陽光が射し込んで、空中に舞う埃の粒子がちらちらと細かい雪のように反射している。
廊下の突き当たりに一枚だけ、ドアで向こう側と隔たれていた。
ニュートは思い切って足を一歩踏み出した。
幅は広いが奥行きは思ったよりも短い、あっという間にドアの前まで辿り着いた。
古い木のドアは取っ手が錆びついてて、鍵も壊れている。
軽く手で押すと、古くなった蝶番がギイィーと悲鳴をあげ、廊下中に大袈裟に響き渡った。
そこは物置部屋だった、ただひとつ違っていたのはそこにしまわれていた家具や調度品にはホコリよけに白い大きな布が掛けられていた。
布を捲るとモスグリーンのソファや、凝った刺繍のクッション、小さい本棚には古い小説が数冊並んでいた。
古くなっていたとはいえ、造りの良さから元は高価な物だと素人目にもすぐに分かった。
たぶん、昔いた教授のだれかが置いていったのか、スリザリンの談話室にあったものかもしれない。
あそこは金持ちの生徒が多いし、緑だし。
最後の布を捲ると出てきたのは絵画だった、机につっぷして眠る少女の絵。
どうして一枚だけ、こんなところに。
不思議に思いつつも、すこやかに眠る少女の寝顔に思わず見惚れていた。
キャンパスの左下に小さく"1865,7 リジー・ヴァンクス"と白い細筆で記されている。
リジー、心の中で何とはなしに呟いてみる。
今からだいたい……40年くらい前、19世紀後半を生きた見知らぬ女の子。
どこかで会ったことあるような気がするのは、きっと腕のいい芸術家のおかげだろう。
ニュートはそれを背の低い本棚の上に掛けて、布で金の額縁を磨いてやった。
この部屋にあったものの中で、この絵が一番気に入った。
なぜだかはっきりとは分からないけど、ここで誰の目にも触れられず、ずっとひとりぼっちで忘れられていたのかと思うと妙な親近感が湧いた。
ニュートは満足げに部屋を見渡すと、急いで地下にある厨房まで階段を駆け下りていった。
日曜日には子どもたちがお菓子をねだりに来るのを見越して、屋敷しもべ妖精たちがクッキーやビスケットや、スコーンやパイやらをどっさりこしらえて持たせてくれる。
あれもこれもとポケットに詰めてもらい、ついでに箒とちりとりと、寮のベッドで銀のスプーンを抱きしめて寝ていたペットの二フラーを抱いて、また階段を上がる。
息が上がって、久しぶりに楽しくて仕方なかった。
ニュート・スキャマンダーははじめて、ホグワーツの城門をくぐった。
11歳のニュートの最大の関心事は、自分だけの秘密基地を持つこと。
朝から晩まで他人と寝食をともにして過ごす寮生活は、彼にとって非常にストレスを感じることだった。
学生生活において人間関係というものは非常に重要である。
例えばペアになって参加する授業、食事の席、休み時間の過ごし方。
友達がいるかどうかでこれらが大きく変わってくる。
入学して数ヶ月、ニュートにはまだ友達がいない。
誰とでも普通に話しはするけれど、一緒に座ったり、テストの点を見せあったり、冗談を言って笑ったりはしない。
それはきっと、まだ誰とも友達じゃないってことだ。
原因は分かってる、内気で人見知り、口下手で要領も悪い。
2人ペアになって行う魔法薬学の実験と、食事の時間は彼にとってまさに地獄だった。
食事のテーブルはなるべく隅の方、目立たず、空いてる席をいち早く確保する。
一番角のテーブルが取れた時は少し嬉しい、隣と向かいに人が来なかった時はなお嬉しい。
女子に囲まれた時と、いちゃつくカップルが隣だった時と、一人でランチを食べてるのを兄のテセウスにからかわれた時は人生最悪の日、ただ感情を無にして時が過ぎるのを待つしかない。
テセウスはグリフィンドールのクィディッチメンバー、次の監督生にも名前が上がっているくらい勉強もできる、当然人気者でいつも誰かと一緒にいる。
恥を忍んで1度だけ兄に聞いたことがある、しかし返ってきた答えは「類は友を呼ぶ」だった。
聞く相手を間違えた、参考にはならなかった。
兄弟なのにどうしてこうも違うのだろうと、11年間悩み続けてる。
ゆえに、兄とは極力関わりたくない。
顔を合わせるたびになにかとからかってきて楽しむ悪癖のせいもあるが、一緒にいるとどうしても目立つのだ。
「あれがきみの弟か」と、いつも比べられる。
息が詰まる、ランチを食べるだけでなんだってこんなに疲れなくちゃいけないんだ。
かといってだれかに声を掛ける勇気も出せないまま、そもそもなんて言っていいのかも分からないまま一学期が半分終わった。
この先まだ長く続く憂鬱な学生生活に少しでも楽しみを見つけようと思いついたのが秘密基地の開拓だ。
秘密基地、ひみつの基地って響きがかっこいい、ドラゴンみたいだ。
所詮ニュートも11歳の男の子だ、考えるだけでも胸がわくわくした。
次の日からさっそく城の中を見に行くことにした。
ホグワーツ魔法魔術学校は千年も前に4人の創設者によって建てられた、どうりで埃っぽいはずだ。
石造りの立派な城は広くて大きい、おまけに至るところに魔法が掛けられていて一定ではなく無数のルートが存在する。
先生たちでさえ城中を全部把握しているわけではない。
ニュートには一つだけ、心当たりのある場所があった。
六階の南側の廊下には日曜にしか階段が通じない。
一見気まぐれに動く階段は、まれに法則性を持つときがある。
基本生徒は、授業のない日曜にわざわざ六階までキツい階段を上がったりしない。
そして、今日がその日曜日。
早々に朝食を済ますと急いで六階までかけ上がる、タイミングよく南側の廊下へと階段が動き出した。
階段を上りきった先は、思ったよりも広い廊下だった。
古い壊れた椅子や机が壁沿いに雑然と積まれていて、長く人の出入りがないことは一目で分かる。
南向きの大きなステンドグラスからは朝の陽光が射し込んで、空中に舞う埃の粒子がちらちらと細かい雪のように反射している。
廊下の突き当たりに一枚だけ、ドアで向こう側と隔たれていた。
ニュートは思い切って足を一歩踏み出した。
幅は広いが奥行きは思ったよりも短い、あっという間にドアの前まで辿り着いた。
古い木のドアは取っ手が錆びついてて、鍵も壊れている。
軽く手で押すと、古くなった蝶番がギイィーと悲鳴をあげ、廊下中に大袈裟に響き渡った。
そこは物置部屋だった、ただひとつ違っていたのはそこにしまわれていた家具や調度品にはホコリよけに白い大きな布が掛けられていた。
布を捲るとモスグリーンのソファや、凝った刺繍のクッション、小さい本棚には古い小説が数冊並んでいた。
古くなっていたとはいえ、造りの良さから元は高価な物だと素人目にもすぐに分かった。
たぶん、昔いた教授のだれかが置いていったのか、スリザリンの談話室にあったものかもしれない。
あそこは金持ちの生徒が多いし、緑だし。
最後の布を捲ると出てきたのは絵画だった、机につっぷして眠る少女の絵。
どうして一枚だけ、こんなところに。
不思議に思いつつも、すこやかに眠る少女の寝顔に思わず見惚れていた。
キャンパスの左下に小さく"1865,7 リジー・ヴァンクス"と白い細筆で記されている。
リジー、心の中で何とはなしに呟いてみる。
今からだいたい……40年くらい前、19世紀後半を生きた見知らぬ女の子。
どこかで会ったことあるような気がするのは、きっと腕のいい芸術家のおかげだろう。
ニュートはそれを背の低い本棚の上に掛けて、布で金の額縁を磨いてやった。
この部屋にあったものの中で、この絵が一番気に入った。
なぜだかはっきりとは分からないけど、ここで誰の目にも触れられず、ずっとひとりぼっちで忘れられていたのかと思うと妙な親近感が湧いた。
ニュートは満足げに部屋を見渡すと、急いで地下にある厨房まで階段を駆け下りていった。
日曜日には子どもたちがお菓子をねだりに来るのを見越して、屋敷しもべ妖精たちがクッキーやビスケットや、スコーンやパイやらをどっさりこしらえて持たせてくれる。
あれもこれもとポケットに詰めてもらい、ついでに箒とちりとりと、寮のベッドで銀のスプーンを抱きしめて寝ていたペットの二フラーを抱いて、また階段を上がる。
息が上がって、久しぶりに楽しくて仕方なかった。
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