ペンギン
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5.10 Twitter魔法夢ワンライ企画作品
「未来のあなたへ」
「ニュートくんは……なんの動物が一番好き?」
「んー……」
栗色の巻き毛を俯かせて一生懸命考え始めた小さな少年を見守りながら、リジーはブランコの背をゆらりと優しく押した。
頭の中で様々な動物たちを手に取りながら、このお姉さんは誰だろうと幼いニュートは考え込んでいた。
古いロープがぎしりと危なげに軋む。
ブランコが揺れるたび、ほんの一瞬だけ体が重力から解き放たれる。
「……ペンギン」
「ペンギン?わたしも大好き、かわいいよね」
うん、と小さく頷く小さな頭。
ふと後ろを振り向こうとすると、暖かい手のひらが優しく背中を押して慣性に従って揺れるブランコに阻まれた。
「……本物のペンギン、見たことある?」
「ない」
「わたしはねえ、一回だけ。南極の本物のペンギン」
「え?うそ」
「羨ましいでしょ」と言うように、ほんの幼い少女のように彼女は笑う。
「すっごい寒いの、信じられないくらいとにかく寒い」
「スコットランドより?」
「もっともっと!でもねえ、ペンギンって賢いんだよ。みんなでくっついて温め合うの。すごいよねえ」
「うん」
ふと、ブランコを押す手が止まる。
地に足をついて見れば、手を伸ばせば届きそうなほどに近づいていた青空は思っていたよりも遠い。
こういう時、幼いながらに何かを直感するのだろうか。
振り返った青い瞳がどこか悲しげに、哀れむように不安げに揺れる。
頬を涙が伝い落ちて、懐かしい面影を歪ませる。
デートに南極なんて、と悪態をつきながらオシャレなんかそっちのけで、不細工な古いセーターまで引っ張り出してきて、二人して身を寄せあって凍えながらペンギンの群れを見た。
一面雪と氷の銀世界、小さな赤ちゃんペンギン、自然の美しさとあまりにも大きすぎるその壮大さに心を震わせた。
「どうしても、連れてきたかったんだ」
ガタガタと震えながらそう言った彼は正直カッコ悪かった。
今になってこんなことを思い出させるなんて、本当に世の中はなんて皮肉なんだろう。
「ねえ、ニュート……ハグしてもいい?」
「えー……いいよ」
ほんの少し嫌そうに顔を顰めさせるニュートにリジーは思わずふふっと笑う。
それでも背中に腕を回してくれた少年の、体にすっぽり収まってしまうほど小さな肩とくしゃくしゃの巻き毛をリジーは思いっきり抱きしめた。
「元気でね、いっぱい遊んで大きくなって。たまにはテセウスにもハグしてあげてね、それから……将来のあなたはとっても素敵な紳士になってるわよ」
母親と同じくらい年の離れた女性が、子供の自分の肩で泣いてるのをニュートは困惑しながらそれでも黙って精一杯抱きしめる腕に力を込めた。
「……お姉さん、大きくなったら僕と結婚してくれる?」
小さな少年の可愛らしい求婚に、リジーは頬を綻ばせた。
もつれた前髪をかき分けてまろい額に小さくキスをする、
「……ええ、嬉しいわ」
ぽろぽろと大粒の涙が零れておろしたての喪服のスカートを濡らす。
それ以上は声が詰まって言葉が出てこなかった。
二十数年経って、遠い過去の約束を健気にも守り通そうとしてくれた小さな少年は、もういない。
「未来のあなたへ」
「ニュートくんは……なんの動物が一番好き?」
「んー……」
栗色の巻き毛を俯かせて一生懸命考え始めた小さな少年を見守りながら、リジーはブランコの背をゆらりと優しく押した。
頭の中で様々な動物たちを手に取りながら、このお姉さんは誰だろうと幼いニュートは考え込んでいた。
古いロープがぎしりと危なげに軋む。
ブランコが揺れるたび、ほんの一瞬だけ体が重力から解き放たれる。
「……ペンギン」
「ペンギン?わたしも大好き、かわいいよね」
うん、と小さく頷く小さな頭。
ふと後ろを振り向こうとすると、暖かい手のひらが優しく背中を押して慣性に従って揺れるブランコに阻まれた。
「……本物のペンギン、見たことある?」
「ない」
「わたしはねえ、一回だけ。南極の本物のペンギン」
「え?うそ」
「羨ましいでしょ」と言うように、ほんの幼い少女のように彼女は笑う。
「すっごい寒いの、信じられないくらいとにかく寒い」
「スコットランドより?」
「もっともっと!でもねえ、ペンギンって賢いんだよ。みんなでくっついて温め合うの。すごいよねえ」
「うん」
ふと、ブランコを押す手が止まる。
地に足をついて見れば、手を伸ばせば届きそうなほどに近づいていた青空は思っていたよりも遠い。
こういう時、幼いながらに何かを直感するのだろうか。
振り返った青い瞳がどこか悲しげに、哀れむように不安げに揺れる。
頬を涙が伝い落ちて、懐かしい面影を歪ませる。
デートに南極なんて、と悪態をつきながらオシャレなんかそっちのけで、不細工な古いセーターまで引っ張り出してきて、二人して身を寄せあって凍えながらペンギンの群れを見た。
一面雪と氷の銀世界、小さな赤ちゃんペンギン、自然の美しさとあまりにも大きすぎるその壮大さに心を震わせた。
「どうしても、連れてきたかったんだ」
ガタガタと震えながらそう言った彼は正直カッコ悪かった。
今になってこんなことを思い出させるなんて、本当に世の中はなんて皮肉なんだろう。
「ねえ、ニュート……ハグしてもいい?」
「えー……いいよ」
ほんの少し嫌そうに顔を顰めさせるニュートにリジーは思わずふふっと笑う。
それでも背中に腕を回してくれた少年の、体にすっぽり収まってしまうほど小さな肩とくしゃくしゃの巻き毛をリジーは思いっきり抱きしめた。
「元気でね、いっぱい遊んで大きくなって。たまにはテセウスにもハグしてあげてね、それから……将来のあなたはとっても素敵な紳士になってるわよ」
母親と同じくらい年の離れた女性が、子供の自分の肩で泣いてるのをニュートは困惑しながらそれでも黙って精一杯抱きしめる腕に力を込めた。
「……お姉さん、大きくなったら僕と結婚してくれる?」
小さな少年の可愛らしい求婚に、リジーは頬を綻ばせた。
もつれた前髪をかき分けてまろい額に小さくキスをする、
「……ええ、嬉しいわ」
ぽろぽろと大粒の涙が零れておろしたての喪服のスカートを濡らす。
それ以上は声が詰まって言葉が出てこなかった。
二十数年経って、遠い過去の約束を健気にも守り通そうとしてくれた小さな少年は、もういない。
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