ロンドンの朝
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まだ少し肌寒い、春先のある日。
アパートの窓から明け方のビッグ・ベンを眺めながら、リジーはぽつりとこう言った。
「……ニュートって、確かチェイサーだったわよね」
ニュートは毛布にくるまったまま、ベッドの傍らの時計に目をやる。まだ朝の五時半だ。
「うん……?むかしね……」
もう十数年も前の話だ、それにここ何年も箒なんて乗ったこともない。
ニュートは本能のままに重く垂れ下がってくるまぶたをゆっくりと閉じて、再び眠りにつく。
しかし、隣で寝ていたはずの彼女が二人でくるまっていた毛布をずるずると体に巻きつけてむくりと起き上がったせいで、ニュートは寒さに体を縮こまらせた。
「ちょっと……さむいんだけど……リジー、ねえってば、」
「箒って物置にまだ置いてある?」
「え、箒?うーん……どうだったかな……」
まだ覚醒しきらない頭で思い出しながら、のろのろとベッドから起き上がる。
ぱたぱたと駆けていく小さな足音、数分後にリジーはにやりと笑みを浮かべて箒を手に戻ってきた。
「起きて、散歩に行くわよ」
一応言っておくけど、とニュートは前置きしてから「箒の二人乗りは法律違反だ」と窘める。
そもそも闇祓いであるリジーが知らないはずないのだ、彼女は「知ってるわよ」と何でもないことのようにさらりと受け流した。
「だからこそこの時間に行くんじゃない、前から思ってたの」
「ちなみにどこへ行くの?」
「ビッグ・ベンの一番上」
そう言って、うす靄の向こうにそびえるビッグ・ベンを指さした。
ニュートは思わず笑みをこぼす。眠気はどこかへ吹っ飛び、俄然わくわくしてきた。
パジャマ姿にコートを羽織って、マフラーを巻いて、二人で箒に跨る。
床を蹴って、ふわりふわりと二人を乗せた箒が浮き上がり、アパートの窓から飛び出す。
霧の合間を走り抜け、頂上を目指してぐんぐん上昇していく。
しんと奇妙に静まり返った夜明けの街が遠ざかっていく、ニュートは彼女をしっかりと捕まえて一気に真上に急上昇させた。
ビッグ・ベンがすぐ目の前まで迫ってくる、より近くまで行くとその巨大さが下から見上げるよりも大きく感じる。
まだ明かりのともされていない真っ暗な文字盤を横切り、頂上の屋根の周りをぐるっと一周して時計台の上に降り立った。
乳白色の霧に覆われた幻想的なロンドンは、まるで雲の上にいるよう。
気づけば朝日が昇り始め、薄紫色の空を鮮やかに染め上げていく。
筆舌に尽くし難い美しいロンドンの朝、しかし二人の口をついて出た言葉はあまりにもロマンチックとはかけ離れた一言だった。
「さむい……」
「さむすぎる」
「帰りましょう」
「賛成」
ちょうど朝の六時、人々は静かに新たな一日を迎えた。
ビッグ・ベンに明かりが灯され、箒に乗って家路に着く二人の姿が巨大な文字盤に影を落とす。
ぽつりぽつりと街灯が白く霧の中でぼんやりと輝く、ロンドンの街が眠りから覚めるように。
アパートの窓から明け方のビッグ・ベンを眺めながら、リジーはぽつりとこう言った。
「……ニュートって、確かチェイサーだったわよね」
ニュートは毛布にくるまったまま、ベッドの傍らの時計に目をやる。まだ朝の五時半だ。
「うん……?むかしね……」
もう十数年も前の話だ、それにここ何年も箒なんて乗ったこともない。
ニュートは本能のままに重く垂れ下がってくるまぶたをゆっくりと閉じて、再び眠りにつく。
しかし、隣で寝ていたはずの彼女が二人でくるまっていた毛布をずるずると体に巻きつけてむくりと起き上がったせいで、ニュートは寒さに体を縮こまらせた。
「ちょっと……さむいんだけど……リジー、ねえってば、」
「箒って物置にまだ置いてある?」
「え、箒?うーん……どうだったかな……」
まだ覚醒しきらない頭で思い出しながら、のろのろとベッドから起き上がる。
ぱたぱたと駆けていく小さな足音、数分後にリジーはにやりと笑みを浮かべて箒を手に戻ってきた。
「起きて、散歩に行くわよ」
一応言っておくけど、とニュートは前置きしてから「箒の二人乗りは法律違反だ」と窘める。
そもそも闇祓いであるリジーが知らないはずないのだ、彼女は「知ってるわよ」と何でもないことのようにさらりと受け流した。
「だからこそこの時間に行くんじゃない、前から思ってたの」
「ちなみにどこへ行くの?」
「ビッグ・ベンの一番上」
そう言って、うす靄の向こうにそびえるビッグ・ベンを指さした。
ニュートは思わず笑みをこぼす。眠気はどこかへ吹っ飛び、俄然わくわくしてきた。
パジャマ姿にコートを羽織って、マフラーを巻いて、二人で箒に跨る。
床を蹴って、ふわりふわりと二人を乗せた箒が浮き上がり、アパートの窓から飛び出す。
霧の合間を走り抜け、頂上を目指してぐんぐん上昇していく。
しんと奇妙に静まり返った夜明けの街が遠ざかっていく、ニュートは彼女をしっかりと捕まえて一気に真上に急上昇させた。
ビッグ・ベンがすぐ目の前まで迫ってくる、より近くまで行くとその巨大さが下から見上げるよりも大きく感じる。
まだ明かりのともされていない真っ暗な文字盤を横切り、頂上の屋根の周りをぐるっと一周して時計台の上に降り立った。
乳白色の霧に覆われた幻想的なロンドンは、まるで雲の上にいるよう。
気づけば朝日が昇り始め、薄紫色の空を鮮やかに染め上げていく。
筆舌に尽くし難い美しいロンドンの朝、しかし二人の口をついて出た言葉はあまりにもロマンチックとはかけ離れた一言だった。
「さむい……」
「さむすぎる」
「帰りましょう」
「賛成」
ちょうど朝の六時、人々は静かに新たな一日を迎えた。
ビッグ・ベンに明かりが灯され、箒に乗って家路に着く二人の姿が巨大な文字盤に影を落とす。
ぽつりぽつりと街灯が白く霧の中でぼんやりと輝く、ロンドンの街が眠りから覚めるように。
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