Ⅲ
夢小説設定
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文字通り、実質的に今までに一人になったことがあまりなかったから、一人暮らしがいかに孤独で侘しいものかということを初めて知った。
実家にいる時は両親が揃って留守でもそのうち帰ってくることは分かっていたし、それ以外の時は大抵いつもニュートがそばにいてくれた。
ひとりぼっち、という言葉には少しトラウマがある。
危ない目にあったとか恐怖体験とかそういうのじゃないけど、一人は嫌いだ。
ただいま、という自分の声がいやに大きく響く。
ヘイミッシュは最近昼も夜も眠ってばかりで出迎えをしてくれない、ニューヨークに来てからぐんと歳をとった気がする。
もうおばあちゃんだから引越しは大きな負担だったろう、可哀想なことをしたと思う。
出立の日が迫っていよいよとなると彼女を連れていくべきか、最後まで悩んだ。
でもどこであろう置いていくことなんて有り得なかった、ヘイミッシュはわたしの子だ。捨てるようなことなんて出来ない。
もし彼女がいてくれなかったら、わたしはとうの昔にホームシックでイギリスに逃げ帰っていることだろう。
眠っているふわふわの毛玉を撫でる、ビクッと耳を揺らして顔を上げてすごく迷惑そうな目で睨んできた。
そんな生意気なところも愛おしくて、可愛くてたまらない。
でも時々、しんとした部屋の中が静かすぎて、パパとママから、友達から、ニュートからあまりにも遠く離れてすぎていて、子供みたいに声を上げて泣きたくなる。
あの場所から逃げたくてここまで来たのに、帰りたい、パパとママと、誰よりもニュートに会いたい。
ヘイミッシュかおしゃべりができたらいいのに、友達同士みたいに、気分屋でかまってちゃんのめんどくさいおばあちゃんでいいから。
涙がたまって目に沁みる、ぼろぼろと頬を伝いヘイミッシュのふわふわの毛皮を濡らした。
「帰りたい……っ」
ぽつりとリジーが呟いた時。
玄関のドアポストの蓋がカタカタと揺れて、一通の手紙がまるで生き物のようによいしょと器用に角を使って蓋を押し上げてリジーの元に届いた。
ヘイミッシュのお腹に顔を埋めて嗚咽するリジーの周りを、鳥のようにパタパタと羽ばたいて惹きつける。
奇妙な手紙にリジーは思わず涙をひっこめて少し後ずさった。
封筒の背中にびっしりと貼られた異国の切手、「リジーへ、Nより」と見知ったくせ字で綴られたイニシャルを見てリジーは手紙を捕まえて封蝋を破った。
――
最愛のリジーへ
この手紙が無事に君の元に届くことを祈るよ。
ミャンマーの人々は何もかもゆったりしてる、バスは一日に一本しかないし、手紙がちゃんと届く確証は配達人によりけりだ。
船を下りて下宿先の宿で君の手紙を受け取った、船酔いも一気に醒めたよ。
二フラーには相変わらず元気すぎて困ってる、友達もできてやんちゃに拍車が掛かってきた。ピケットとドゥーガルっていうんだ、早くリジーにも紹介したい。
今一番の悩みは言葉と食だけど、何とか元気にやっている。
仕事も順調だ、とても楽しい。後押ししてくれて本当に感謝している。
金の不死鳥はさぞ美しいことだろう、でもいつか本物を見てみたいな、君と一緒に。
モリアーティ教授か、懐かしい。ぜひ会ってみたいね。
今だから言うけどむかし、僕は何とか君を口説き落とそうと必至で、シャーロック・ホームズを全巻読み通したんだ。
二日間寝ないで読んだ甲斐があったよ。
そっちは寒いだろうから、ちゃんと毛布をきて寝るんだよ。
泣き虫のリジーのことだから、きっとホームシックでめそめそ泣いてるんだろう。
春にはお互い都合をつけてイギリスで会おう、本当は今すぐポートキーで飛んでいってキスしてあげたいけど。君になら逮捕されるのも悪くない。
ヘイミッシュによろしく。
遠く離れていても愛してるよリジー。
N.S
実家にいる時は両親が揃って留守でもそのうち帰ってくることは分かっていたし、それ以外の時は大抵いつもニュートがそばにいてくれた。
ひとりぼっち、という言葉には少しトラウマがある。
危ない目にあったとか恐怖体験とかそういうのじゃないけど、一人は嫌いだ。
ただいま、という自分の声がいやに大きく響く。
ヘイミッシュは最近昼も夜も眠ってばかりで出迎えをしてくれない、ニューヨークに来てからぐんと歳をとった気がする。
もうおばあちゃんだから引越しは大きな負担だったろう、可哀想なことをしたと思う。
出立の日が迫っていよいよとなると彼女を連れていくべきか、最後まで悩んだ。
でもどこであろう置いていくことなんて有り得なかった、ヘイミッシュはわたしの子だ。捨てるようなことなんて出来ない。
もし彼女がいてくれなかったら、わたしはとうの昔にホームシックでイギリスに逃げ帰っていることだろう。
眠っているふわふわの毛玉を撫でる、ビクッと耳を揺らして顔を上げてすごく迷惑そうな目で睨んできた。
そんな生意気なところも愛おしくて、可愛くてたまらない。
でも時々、しんとした部屋の中が静かすぎて、パパとママから、友達から、ニュートからあまりにも遠く離れてすぎていて、子供みたいに声を上げて泣きたくなる。
あの場所から逃げたくてここまで来たのに、帰りたい、パパとママと、誰よりもニュートに会いたい。
ヘイミッシュかおしゃべりができたらいいのに、友達同士みたいに、気分屋でかまってちゃんのめんどくさいおばあちゃんでいいから。
涙がたまって目に沁みる、ぼろぼろと頬を伝いヘイミッシュのふわふわの毛皮を濡らした。
「帰りたい……っ」
ぽつりとリジーが呟いた時。
玄関のドアポストの蓋がカタカタと揺れて、一通の手紙がまるで生き物のようによいしょと器用に角を使って蓋を押し上げてリジーの元に届いた。
ヘイミッシュのお腹に顔を埋めて嗚咽するリジーの周りを、鳥のようにパタパタと羽ばたいて惹きつける。
奇妙な手紙にリジーは思わず涙をひっこめて少し後ずさった。
封筒の背中にびっしりと貼られた異国の切手、「リジーへ、Nより」と見知ったくせ字で綴られたイニシャルを見てリジーは手紙を捕まえて封蝋を破った。
――
最愛のリジーへ
この手紙が無事に君の元に届くことを祈るよ。
ミャンマーの人々は何もかもゆったりしてる、バスは一日に一本しかないし、手紙がちゃんと届く確証は配達人によりけりだ。
船を下りて下宿先の宿で君の手紙を受け取った、船酔いも一気に醒めたよ。
二フラーには相変わらず元気すぎて困ってる、友達もできてやんちゃに拍車が掛かってきた。ピケットとドゥーガルっていうんだ、早くリジーにも紹介したい。
今一番の悩みは言葉と食だけど、何とか元気にやっている。
仕事も順調だ、とても楽しい。後押ししてくれて本当に感謝している。
金の不死鳥はさぞ美しいことだろう、でもいつか本物を見てみたいな、君と一緒に。
モリアーティ教授か、懐かしい。ぜひ会ってみたいね。
今だから言うけどむかし、僕は何とか君を口説き落とそうと必至で、シャーロック・ホームズを全巻読み通したんだ。
二日間寝ないで読んだ甲斐があったよ。
そっちは寒いだろうから、ちゃんと毛布をきて寝るんだよ。
泣き虫のリジーのことだから、きっとホームシックでめそめそ泣いてるんだろう。
春にはお互い都合をつけてイギリスで会おう、本当は今すぐポートキーで飛んでいってキスしてあげたいけど。君になら逮捕されるのも悪くない。
ヘイミッシュによろしく。
遠く離れていても愛してるよリジー。
N.S