Ⅲ
夢小説設定
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「イギリスにいる両親に手紙を送りたいの、それのどこがダメなの?」
「ですから、ノー・マジとの接触は法律違反で……」
「アメリカではノー・マジの子供が魔法使いだったら法律違反だから家族と縁を切るわけ?馬鹿馬鹿しい!」
リジーは苛立ちとともに深くため息をついて、痛むこめかみを指で押さえた。
分からずやの郵便局員と、かれこれ三十分も同じやりとりを続けている。
ラパポート法があるアメリカでは、マグルの家族に手紙を送るには監査官が手紙の内容を一々確認し、許可を貰わないと法律違反らしい。
「それで、そっちの手紙も確認するわけ?ミャンマーにいる婚約者への手紙なんですけどっ」
コツコツ、神経質に爪の先で机を叩きながらリジーが刺々しく尋ねる。
「……ヘイミッシュ、とは誰のことですか」
監査官が鋭い眼差しで尋ねる。
内心ギクリと胃が軋むのを見て見ぬふりをしながら、堂々とさも当然の事のように答える。
「わたしの車の名前よ、フォード・モデルT18年製。早くして、この後受け取りに行かなくちゃいけないんだから」
壁に架かった時計を見上げて、また一つため息をもらす。
アメリカは自由の国とやらではなかったのか、何がノー・マジよ。わたしがマグル生まれだからって目の敵にしてるんだわ。
リジーは不機嫌さを隠そうともせず、むすっと椅子に背をもたれさせて監査官と目も合わそうとしなかった。
結局、正式に許可が下り解放されたのは一時間近く後のことだった。
――
リジーには大切にしているものが三つある。
かわいいヘイミッシュ、ニュート、そして車。
わざわざイギリスから持ってくるのはだいぶ金額が嵩んだけど、留守の間数年間も暗いガレージの奥で埃を被せておくなんて車が可哀想すぎると、引越し費用を費やして船に乗せたのだ。
何よりこの車には二人の思い出が詰まってる。
「やっと来たのねダーリン」久しぶりの運転席、心地よい皮のシートに身を沈めるとしゅるりとハンドルを撫でる。
ぶるるん、武者震いするように車体を揺らしエンジンが掛かる。リジーは自然と笑顔が溢れた。
風は冷たいが空は澄みきっていて、こんな日は少し遠回りして行きたくなる。
ニューヨークの通りをゆっくりと、モデルTが走り出した。
「あら」
向こうの方からやってくる車の運転席に見覚えのある顔を見かけて、ウールワースビルの前でクイニーは立ち止まった。
ついこの前、調査部まで案内した英国から出向に来たという、ティナの後任の彼女だ。
小さく手を振ると、車はスピードを緩めて彼女の前で停まった。
「こんにちは。車の運転ができるのね、すごいわ」
「こんにちは。この前はどうもありがとう、助かったわ」
リジーは彼女が自分のことを覚えていてくれたことに嬉しくなった。
クイニーはすぐにそれを見抜いてばら色の頬を綻ばせる。
「ところでここって――」
「ああ、裏にガレージがあるわ。入り方がちょっとややこしいから、案内しましょうか」
「ええぜひ、助かるわ。どうぞ乗ってちょうだい」
リジーが身を乗り出して助手席のドアを開けると、クイニーは嬉々として車に乗り込んだ。
「このベルトを着けるのよね、わたし自動車に乗るの初めて!」
「そういえばわたしたち、自己紹介がまだよね。わたしはリジー・ヴァンクス、よろしくね」
「クイニーよ、クイニー・ゴールドスタイン」
「こっちに来てあなたが初めてのお友達、クイニー」
そう言われて、クイニーは素直に喜ぶことができなかった。
彼女にとって"友達"という言葉にあまりいい思い出はない、友達とはいつも離れていくものだったから。
心を無思慮に他人に覗かれるのは誰だっていい気はしない、当然のことだ。
そしてリジーはまだ、自分がレジメンターであることを知らないのだ。
――
愛するニュートへ
アメリカに来て早くも失望を味わっています、わたしは自由の国に期待しすぎていたのかも。
ラパポート法はマグル生まれの魔法使いに寛容どころか、両親に手紙を送るのも許可がいるの。
くたびれていやになっちゃう、でも国際電話は高い割に繋がらないし……
もし仮にわたしが、郵便局で監査の人と大喧嘩しちゃったとしても嫌いにならないでね。
次からはもうちょっとお行儀よくするから。
でも次に行った時にはもう顔を覚えてもらってるから、きっとマシな対応になることを願うわ。
最後にとっても嬉しい報告をするわね、今朝わたしの車がニューヨーク港に着いたの!この日をどれだけ心待ちにしていたことか!
それから新しいお友達もできたのよ、クイニーっていうブロンドのかわいい女の子。あなたもきっと気に入る。
寂しくてどうにかなってしまいそう、愛してるわニュート。
リジーより、愛を込めて。
XOXOXO
「ですから、ノー・マジとの接触は法律違反で……」
「アメリカではノー・マジの子供が魔法使いだったら法律違反だから家族と縁を切るわけ?馬鹿馬鹿しい!」
リジーは苛立ちとともに深くため息をついて、痛むこめかみを指で押さえた。
分からずやの郵便局員と、かれこれ三十分も同じやりとりを続けている。
ラパポート法があるアメリカでは、マグルの家族に手紙を送るには監査官が手紙の内容を一々確認し、許可を貰わないと法律違反らしい。
「それで、そっちの手紙も確認するわけ?ミャンマーにいる婚約者への手紙なんですけどっ」
コツコツ、神経質に爪の先で机を叩きながらリジーが刺々しく尋ねる。
「……ヘイミッシュ、とは誰のことですか」
監査官が鋭い眼差しで尋ねる。
内心ギクリと胃が軋むのを見て見ぬふりをしながら、堂々とさも当然の事のように答える。
「わたしの車の名前よ、フォード・モデルT18年製。早くして、この後受け取りに行かなくちゃいけないんだから」
壁に架かった時計を見上げて、また一つため息をもらす。
アメリカは自由の国とやらではなかったのか、何がノー・マジよ。わたしがマグル生まれだからって目の敵にしてるんだわ。
リジーは不機嫌さを隠そうともせず、むすっと椅子に背をもたれさせて監査官と目も合わそうとしなかった。
結局、正式に許可が下り解放されたのは一時間近く後のことだった。
――
リジーには大切にしているものが三つある。
かわいいヘイミッシュ、ニュート、そして車。
わざわざイギリスから持ってくるのはだいぶ金額が嵩んだけど、留守の間数年間も暗いガレージの奥で埃を被せておくなんて車が可哀想すぎると、引越し費用を費やして船に乗せたのだ。
何よりこの車には二人の思い出が詰まってる。
「やっと来たのねダーリン」久しぶりの運転席、心地よい皮のシートに身を沈めるとしゅるりとハンドルを撫でる。
ぶるるん、武者震いするように車体を揺らしエンジンが掛かる。リジーは自然と笑顔が溢れた。
風は冷たいが空は澄みきっていて、こんな日は少し遠回りして行きたくなる。
ニューヨークの通りをゆっくりと、モデルTが走り出した。
「あら」
向こうの方からやってくる車の運転席に見覚えのある顔を見かけて、ウールワースビルの前でクイニーは立ち止まった。
ついこの前、調査部まで案内した英国から出向に来たという、ティナの後任の彼女だ。
小さく手を振ると、車はスピードを緩めて彼女の前で停まった。
「こんにちは。車の運転ができるのね、すごいわ」
「こんにちは。この前はどうもありがとう、助かったわ」
リジーは彼女が自分のことを覚えていてくれたことに嬉しくなった。
クイニーはすぐにそれを見抜いてばら色の頬を綻ばせる。
「ところでここって――」
「ああ、裏にガレージがあるわ。入り方がちょっとややこしいから、案内しましょうか」
「ええぜひ、助かるわ。どうぞ乗ってちょうだい」
リジーが身を乗り出して助手席のドアを開けると、クイニーは嬉々として車に乗り込んだ。
「このベルトを着けるのよね、わたし自動車に乗るの初めて!」
「そういえばわたしたち、自己紹介がまだよね。わたしはリジー・ヴァンクス、よろしくね」
「クイニーよ、クイニー・ゴールドスタイン」
「こっちに来てあなたが初めてのお友達、クイニー」
そう言われて、クイニーは素直に喜ぶことができなかった。
彼女にとって"友達"という言葉にあまりいい思い出はない、友達とはいつも離れていくものだったから。
心を無思慮に他人に覗かれるのは誰だっていい気はしない、当然のことだ。
そしてリジーはまだ、自分がレジメンターであることを知らないのだ。
――
愛するニュートへ
アメリカに来て早くも失望を味わっています、わたしは自由の国に期待しすぎていたのかも。
ラパポート法はマグル生まれの魔法使いに寛容どころか、両親に手紙を送るのも許可がいるの。
くたびれていやになっちゃう、でも国際電話は高い割に繋がらないし……
もし仮にわたしが、郵便局で監査の人と大喧嘩しちゃったとしても嫌いにならないでね。
次からはもうちょっとお行儀よくするから。
でも次に行った時にはもう顔を覚えてもらってるから、きっとマシな対応になることを願うわ。
最後にとっても嬉しい報告をするわね、今朝わたしの車がニューヨーク港に着いたの!この日をどれだけ心待ちにしていたことか!
それから新しいお友達もできたのよ、クイニーっていうブロンドのかわいい女の子。あなたもきっと気に入る。
寂しくてどうにかなってしまいそう、愛してるわニュート。
リジーより、愛を込めて。
XOXOXO