Ⅲ
夢小説設定
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「……」
リジーの後を追いかけて、執務室のドアの外で待っていたショーンは、漏れ聞こえてくる二人の会話の中から、テセウスを義兄と呼んだリジーの一言で、彼女が婚約した事を知った。
彼の、十年以上続いた片想いは本当の意味で失恋した。
「ショーンったら、こんなとこに座り込んで何やってるの?」
仕立ての良いスーツとピカピカの革靴を履いた局長の秘書官が、廊下のど真ん中で膝を抱える姿にリジーは苦笑の表情を浮かべる。
「待ちくたびれたよ」
いかにも手慣れた雰囲気で、何でもないことのようにクールを装う姿が無様でないことを祈る。
「これ……杖の許可証とか、向こうで必要な書類。あとこっちは僕からの餞別」
少し厚みのある封筒と、小さな紙袋の中にハニーデュークスのお菓子や紅茶やカイロがきちんと包装されて詰まっていた。
「カエルチョコ!懐かしい!どうもありがとう」
「車まで送るよ」
息をするように自然とリジーの荷物を持つ仕草に、女性との噂が絶えない身の振り方についてまた口酸っぱく言いそうになったが今日はやめておいた。
彼とも当分の別れになりそうだ。
歩きはじめて少ししてから、ショーンは躊躇いがちに口を開いた。
「……本当に、これで良かったと思ってる?」
「どういう意味?」
「……君にアメリカで、もしもの事があったらすぐに動いてくれと局長から頼まれた」
「……どこまで聞いてる?」
「なにも」
僕はあの人の身内ではないから。
ショーンはどこか寂しそうに、やさぐれたように小さく呟く。
「……でも大体の想像はついてる、普通じゃ考えられないけど。あの人は身内に対して潔癖みたいなところがあるから、やりかねない」
暴走してるんだ。
ショーンの言葉に、リジーはすぐに否定することができなかった。
「……ボスを変える?」
「そうだね、どうせ信頼もされてないし」
「だったら、最初からあなたに頼み事なんてしない」
「だとしても、いいように使われるのはごめんだ」
「……そんなこと、あの人が出来ると思う?」
疎遠になっていた幼なじみのために何もかもを棒に振って、自分一人の責任にするために部下を遠ざけるような人が。
それゆえに罪悪感を感じるような人が。
「……君は、上司がスキャマンダーの兄だからそう言うんだろう。身内だから、あの人は君を秘書にしたかったんだ」
「……もうここまででいいわ」
リジーにはなんて答えたらいいのか分からなかった。
自分から何を言っても彼には全て綺麗事のようにしか聞こえないだろう。
彼と立場も抱えるものも、全てが変わってしまったのだ。
「……やっとこの国を出られる。アメリカはね、マグル生まれにも寛容なんですって……今まで味方してくれて、ありがとうショーン」
彼女のその一言で、彼の中にあった今までの感情がほんの少し、報われたような気がした。
「ニューヨークに来ることがあったら連絡して」
「……リジーも。言いそびれてたけど、婚約おめでとう」
ありがとう、リジーは心から嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあね、ショーン。いいボスが見つかることを祈るわ」
ぽん、とショーンの肩を一つ叩いて、リジーは振り返ることもなく、魔法省を後にして行った。
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、ショーンはずっと見送っていた。
リジーの後を追いかけて、執務室のドアの外で待っていたショーンは、漏れ聞こえてくる二人の会話の中から、テセウスを義兄と呼んだリジーの一言で、彼女が婚約した事を知った。
彼の、十年以上続いた片想いは本当の意味で失恋した。
「ショーンったら、こんなとこに座り込んで何やってるの?」
仕立ての良いスーツとピカピカの革靴を履いた局長の秘書官が、廊下のど真ん中で膝を抱える姿にリジーは苦笑の表情を浮かべる。
「待ちくたびれたよ」
いかにも手慣れた雰囲気で、何でもないことのようにクールを装う姿が無様でないことを祈る。
「これ……杖の許可証とか、向こうで必要な書類。あとこっちは僕からの餞別」
少し厚みのある封筒と、小さな紙袋の中にハニーデュークスのお菓子や紅茶やカイロがきちんと包装されて詰まっていた。
「カエルチョコ!懐かしい!どうもありがとう」
「車まで送るよ」
息をするように自然とリジーの荷物を持つ仕草に、女性との噂が絶えない身の振り方についてまた口酸っぱく言いそうになったが今日はやめておいた。
彼とも当分の別れになりそうだ。
歩きはじめて少ししてから、ショーンは躊躇いがちに口を開いた。
「……本当に、これで良かったと思ってる?」
「どういう意味?」
「……君にアメリカで、もしもの事があったらすぐに動いてくれと局長から頼まれた」
「……どこまで聞いてる?」
「なにも」
僕はあの人の身内ではないから。
ショーンはどこか寂しそうに、やさぐれたように小さく呟く。
「……でも大体の想像はついてる、普通じゃ考えられないけど。あの人は身内に対して潔癖みたいなところがあるから、やりかねない」
暴走してるんだ。
ショーンの言葉に、リジーはすぐに否定することができなかった。
「……ボスを変える?」
「そうだね、どうせ信頼もされてないし」
「だったら、最初からあなたに頼み事なんてしない」
「だとしても、いいように使われるのはごめんだ」
「……そんなこと、あの人が出来ると思う?」
疎遠になっていた幼なじみのために何もかもを棒に振って、自分一人の責任にするために部下を遠ざけるような人が。
それゆえに罪悪感を感じるような人が。
「……君は、上司がスキャマンダーの兄だからそう言うんだろう。身内だから、あの人は君を秘書にしたかったんだ」
「……もうここまででいいわ」
リジーにはなんて答えたらいいのか分からなかった。
自分から何を言っても彼には全て綺麗事のようにしか聞こえないだろう。
彼と立場も抱えるものも、全てが変わってしまったのだ。
「……やっとこの国を出られる。アメリカはね、マグル生まれにも寛容なんですって……今まで味方してくれて、ありがとうショーン」
彼女のその一言で、彼の中にあった今までの感情がほんの少し、報われたような気がした。
「ニューヨークに来ることがあったら連絡して」
「……リジーも。言いそびれてたけど、婚約おめでとう」
ありがとう、リジーは心から嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあね、ショーン。いいボスが見つかることを祈るわ」
ぽん、とショーンの肩を一つ叩いて、リジーは振り返ることもなく、魔法省を後にして行った。
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、ショーンはずっと見送っていた。