Ⅲ
夢小説設定
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外国行きの大きな渡航船が「ボー」と鈍いドの♯で汽笛を鳴らす。
ニュートは朝食のサンドイッチを三口でぱくりと完食し、最後の一口をごくんと飲み込むと、渡航船をぼんやり眺めながら「エルンペントみたいだ」と呟く。
4年前、戦争から帰ってきたニュートをちょうどこの港で待っている時のことを思い出した。
大きな船が港にのっそりのっそり入ってくる姿を、彼ならきっとエルンペントに例えるだろうと。
思ったとおりの言葉にリジーは思わず笑う。
「言うと思ったって顔してる」
言葉にしなくても相手のことが分かる距離感はあたたかいけど、少しくすぐったい。
「着いたら……手紙を送って」
「ニュートもね」
何度目かのやりとりを繰り返す。
ニュートは一分一秒をも惜しむようにリジーの手をぎゅっと握る。
冷えた体温がじわじわと解けていく感覚に、冬が近いことを知らせた。
リジーは途端に寂しくなってきて「やっぱり格好なんてつけずに、素直に行かないでって言えばよかった」と後悔した。
油断したら零れてしまいそうな涙を忘れようと、ハンドバックの中で寄り添いあって暖をとるヘイミッシュと二フラーを撫でる。
久しぶりに会ったにも関わらず二フラーはしっかりヘイミッシュのことを覚えていたようだ。
一方でヘイミッシュは最初はしゃー!っと威嚇したが、彼女ももうおばあちゃん、喧嘩をするほどの元気はなくなっていた。
この頃はぐんと歳をとった気がする。
しかし、いくら検知不可能拡大呪文を掛けたとはいえ、小さなハンドバックに暴れる彼女を押し込むのは大変だった。
小さなかすり傷がいくつかで済んだのは本当に運がいい。
「……海の上ってどんな?」
「3日もすれば飽きるよ。あとは頭痛と船酔いと、とにかくひま、ひま、ひま」
「思ったより夢がないのね」
ニュートは苦笑いしつつ「そんなもんだよ」と一蹴した。
「……でも、一週間近くも同じ空間にいると、自然と友達が出来たりするんだ。人と話すくらいしか娯楽がないからね……マグルの乗り物には、ポートキーや煙突飛行には無い良さがある」
彼の言葉に、リジーは自分の事のように嬉しくなった。
マグルの両親のもとに生まれて、非魔法族と魔法族の血が自分の中で半分ずつ流れていることをとても誇らしく思った。
11歳の誕生日、人生最初の分かれ道でわたしの下した決定は正しかった。
ホグワーツに行っていなければ、ニュートとは一生出会えなかったのだから。
「……すてき」
汽笛のドの♯、迫る出港の合図に次々と乗客たちが荷物を抱えてタラップを上がる。
リジーは縋るようにニュートの手を握った。
「……リジー――」
――やっぱやめとこっかな、ニュートが冗談っぽく言う。
声と裏腹にその目は悲しそうに、下手な作り笑いをしていた。
「……早く、帰ってきて」
我慢していた涙が決壊する。
俯いて、せめて声が震えないように。
二フラーが鼻を鳴らして慰めるように涙に手を伸ばしていた。
涙でしょっぱい頬にキスをして、二フラーとヘイミッシュを潰さないようにそっと抱きしめた。
「体に気をつけて」
「ああ、リジーもね」
「ちゃんと食べて、危ないとこには近づかないで……スーツのまま椅子で寝ちゃダメよ」
ニュートはふっと笑みをこぼして「気をつけるよ」と答えた。
リジーはハンドバックの中から二フラーを抱き上げて小さな頭に額を合わせた。
「ニュートのこと……よろしくね」
リジーはこっそり、ハンドバックの中で二フラーのお腹に手紙と、ニュートへのプレゼントを忍ばせた。
ニュートはそれに気づかずヘイミッシュの頭を撫でて、二フラーをトランクにしまい立ち上がる。
「……じゃあね、リジー」
リジーは何も言わずに彼の目をじっと見つめて、唇を重ねた。
「……いってらっしゃい」
最後の乗客が船に乗り、出港の最終合図が鳴る。
リジーはニュートに向けて指輪に口づけ、船が小さくなって見えなくなるまで見送っていた。
甲板からだんだんと遠のいて行く港を見つめながら、ニュートは急にふっと不安に駆られた。
――本当に、これで良かったのか。
なにか、とんでもない間違いをしてしまったような気がして、途端に怖くなった。
船は順調よく航路を出発し、イギリスから遠く旅立って行った。
ニュートは朝食のサンドイッチを三口でぱくりと完食し、最後の一口をごくんと飲み込むと、渡航船をぼんやり眺めながら「エルンペントみたいだ」と呟く。
4年前、戦争から帰ってきたニュートをちょうどこの港で待っている時のことを思い出した。
大きな船が港にのっそりのっそり入ってくる姿を、彼ならきっとエルンペントに例えるだろうと。
思ったとおりの言葉にリジーは思わず笑う。
「言うと思ったって顔してる」
言葉にしなくても相手のことが分かる距離感はあたたかいけど、少しくすぐったい。
「着いたら……手紙を送って」
「ニュートもね」
何度目かのやりとりを繰り返す。
ニュートは一分一秒をも惜しむようにリジーの手をぎゅっと握る。
冷えた体温がじわじわと解けていく感覚に、冬が近いことを知らせた。
リジーは途端に寂しくなってきて「やっぱり格好なんてつけずに、素直に行かないでって言えばよかった」と後悔した。
油断したら零れてしまいそうな涙を忘れようと、ハンドバックの中で寄り添いあって暖をとるヘイミッシュと二フラーを撫でる。
久しぶりに会ったにも関わらず二フラーはしっかりヘイミッシュのことを覚えていたようだ。
一方でヘイミッシュは最初はしゃー!っと威嚇したが、彼女ももうおばあちゃん、喧嘩をするほどの元気はなくなっていた。
この頃はぐんと歳をとった気がする。
しかし、いくら検知不可能拡大呪文を掛けたとはいえ、小さなハンドバックに暴れる彼女を押し込むのは大変だった。
小さなかすり傷がいくつかで済んだのは本当に運がいい。
「……海の上ってどんな?」
「3日もすれば飽きるよ。あとは頭痛と船酔いと、とにかくひま、ひま、ひま」
「思ったより夢がないのね」
ニュートは苦笑いしつつ「そんなもんだよ」と一蹴した。
「……でも、一週間近くも同じ空間にいると、自然と友達が出来たりするんだ。人と話すくらいしか娯楽がないからね……マグルの乗り物には、ポートキーや煙突飛行には無い良さがある」
彼の言葉に、リジーは自分の事のように嬉しくなった。
マグルの両親のもとに生まれて、非魔法族と魔法族の血が自分の中で半分ずつ流れていることをとても誇らしく思った。
11歳の誕生日、人生最初の分かれ道でわたしの下した決定は正しかった。
ホグワーツに行っていなければ、ニュートとは一生出会えなかったのだから。
「……すてき」
汽笛のドの♯、迫る出港の合図に次々と乗客たちが荷物を抱えてタラップを上がる。
リジーは縋るようにニュートの手を握った。
「……リジー――」
――やっぱやめとこっかな、ニュートが冗談っぽく言う。
声と裏腹にその目は悲しそうに、下手な作り笑いをしていた。
「……早く、帰ってきて」
我慢していた涙が決壊する。
俯いて、せめて声が震えないように。
二フラーが鼻を鳴らして慰めるように涙に手を伸ばしていた。
涙でしょっぱい頬にキスをして、二フラーとヘイミッシュを潰さないようにそっと抱きしめた。
「体に気をつけて」
「ああ、リジーもね」
「ちゃんと食べて、危ないとこには近づかないで……スーツのまま椅子で寝ちゃダメよ」
ニュートはふっと笑みをこぼして「気をつけるよ」と答えた。
リジーはハンドバックの中から二フラーを抱き上げて小さな頭に額を合わせた。
「ニュートのこと……よろしくね」
リジーはこっそり、ハンドバックの中で二フラーのお腹に手紙と、ニュートへのプレゼントを忍ばせた。
ニュートはそれに気づかずヘイミッシュの頭を撫でて、二フラーをトランクにしまい立ち上がる。
「……じゃあね、リジー」
リジーは何も言わずに彼の目をじっと見つめて、唇を重ねた。
「……いってらっしゃい」
最後の乗客が船に乗り、出港の最終合図が鳴る。
リジーはニュートに向けて指輪に口づけ、船が小さくなって見えなくなるまで見送っていた。
甲板からだんだんと遠のいて行く港を見つめながら、ニュートは急にふっと不安に駆られた。
――本当に、これで良かったのか。
なにか、とんでもない間違いをしてしまったような気がして、途端に怖くなった。
船は順調よく航路を出発し、イギリスから遠く旅立って行った。