Ⅲ
夢小説設定
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それから色々なことを話し合った、主に二人の将来について。
リジーは短期でMACUZAへの出向の誘いが来ているということを掻い摘んで話した。
ニュートは本当は、闇祓いのような危ない仕事は辞めて欲しかったが「君の好きにしたらいい」と答えた。
彼女がこの仕事に誇りを持っていることを理解していたのでそれを奪うようなことはしたくなかった。
ニュートはこの前、テセウスの紹介で出版社に行ってきた時のことを話した。
本を書かないかと勧められた、と言うとリジーはパスタをフォークにくるくる巻き付けながら「何の本?」と尋ねた。
「幻の動物とその生息地」
魔法動物についてのより新たな知識の本、リジーはぴたりとフォークを持つ手を止めた。
「世界中を旅して魔法動物の調査をする」
「ドラゴンとか?」
「そう」
すてき、リジーは期待に胸をふくらませた。
これこそニュートにぴったりの仕事だと思った。
戦争から戻ってきて以来、狭いオフィスに一日中閉じこもって苦手なデスクワークをしているせいか、塞ぎ込んでいたから。
一つしか年は違わないはずなのに、時々どうにも埋められない距離を感じることがあった、
趣味でも、仕事でもなんでもいい。
もっと好きなことをして、取り戻して欲しかった。傷を負う前の彼を。
しかし一方で、ニュートは表情を曇らせ俯いた。
「断ろうかと思ってる」
「どうして?」
ニュートは少しの間沈黙し、深く息をついた。
「戦地で……ドラゴンと仲良くなった。なぜか僕にだけ懐いてくれて、真っ赤な瞳が夕焼けみたいにすごく綺麗で……」
君にも見せてあげたかったな、ニュートは自分の記憶に残っているドラゴンの美しい姿を思い描きながらやわく微笑んだ。
リジーは黙って耳を傾けていた、戦地での出来事を彼が話すのは初めてのことだった。
「ある日、近くで爆発があった。マグルが起こしたもので、僕らの方まで被害はなかったけど……音にびっくりしてドラゴンが暴れて、鎖が外れてしまったんだ」
リジーは想像した。
耳をつんざくようなドラゴンの恐怖に怯える声、炎が草を焦がすにおい、鋭い鉤爪で傷ついた人々……。
「普段は大人しくて、すごく利口な子だったけど……パニックを起こして、手がつけられなかった、僕は……」
なんの罪もない、ただ純粋で美しい生き物に杖を向ける自分の姿を何度も悪夢に見る。
実際にそうでなくても、「殺した」という自覚が自分の中に確かにある。
ニュートは固く目を閉じた。
「……僕なら、もしかしたら救えたかもしれない。でも途中で、怖くなって……逃げたんだ」
違う、リジーは首を横に振ってニュートの手を握った。
「あなたは、帰ってきてくれた。悪いのは、その子を鎖に繋いで、暴力で問題解決しようとした人間でしょ?」
ニュートはリジーの指で光る婚約指輪をじっと眺めながら歪に微笑んだ。
「……人間であることがいやになるよ」
リジーもまた、同じ気持ちを抱えていた。
でも彼は長く時間をかけて考え、ようやく気持ちに折り合いをつけて言葉にしてくれたんだろう。
その傷がどれほどのものか、行った人間にしかきっと100%理解することはできない。
「調査に出たら、5年はかかる。危険な国に行くこともあるかも。それに……もう動物が死ぬのを見たくない」
リジーはじっと黙ったまま、心の中で考えた。
失うのが怖い、その気持ちは痛いほどよく分かる。
人間は誰しも傷つきたくない。
「ニュートが行かないなら、わたしも行かない……でも、本当にそれでいいの?」
本当は、まだ少し心のどこかで迷っていた。
「動物は好きだし、正直やってみたい気もする。でも……」
幼い時から動物に囲まれて育った、嫌というほどたくさんの最期を看取った。
でも、何度経験しても慣れることはなかった。
「好きなものを仕事にはできないよ」
「好きな人にしかできないこともあるわ」
「……どうかな」
ニュートは肩を竦めた、綺麗事だと思ってしまう自分がいやになる。
「ニュートなら誰よりも動物たちのことを分かってあげられる。それに――」
きっと楽しいわ。
ニュートは黙って、今までに出会った動物たちとの思い出を瞼の裏に思い浮かべた。
いつも一緒だった家族たち、弱ってるのを拾ってきてすぐに死んでしまった子も。
今はもう、とうの昔にいなくなってしまった子たちばかり。
思い出すと悲しくなるから、思い出さないようにしてるけど、1度も忘れたことはない。
大切にしまってある薄い硝子玉のような記憶を、ゆっくりと慎重に手のひらに乗せる。
「……あの鳥、覚えてる?」
リジーは静かにええ、と頷く。
冷たい北風が吹く秋の日に、巣から落ちて死んでしまった可哀想な小鳥。
もし、見つけたのがニュートで、もっと早かったら。
助けられたかもしれない、リジーが小さく呟く。
ニュートは伏し目がちにほんの少し頬を緩めた。
そしたらきっと、僕らは出会えなかった。
リジーは悲しげに微笑んで、もう一度よく考えてみてと言った。
リジーは短期でMACUZAへの出向の誘いが来ているということを掻い摘んで話した。
ニュートは本当は、闇祓いのような危ない仕事は辞めて欲しかったが「君の好きにしたらいい」と答えた。
彼女がこの仕事に誇りを持っていることを理解していたのでそれを奪うようなことはしたくなかった。
ニュートはこの前、テセウスの紹介で出版社に行ってきた時のことを話した。
本を書かないかと勧められた、と言うとリジーはパスタをフォークにくるくる巻き付けながら「何の本?」と尋ねた。
「幻の動物とその生息地」
魔法動物についてのより新たな知識の本、リジーはぴたりとフォークを持つ手を止めた。
「世界中を旅して魔法動物の調査をする」
「ドラゴンとか?」
「そう」
すてき、リジーは期待に胸をふくらませた。
これこそニュートにぴったりの仕事だと思った。
戦争から戻ってきて以来、狭いオフィスに一日中閉じこもって苦手なデスクワークをしているせいか、塞ぎ込んでいたから。
一つしか年は違わないはずなのに、時々どうにも埋められない距離を感じることがあった、
趣味でも、仕事でもなんでもいい。
もっと好きなことをして、取り戻して欲しかった。傷を負う前の彼を。
しかし一方で、ニュートは表情を曇らせ俯いた。
「断ろうかと思ってる」
「どうして?」
ニュートは少しの間沈黙し、深く息をついた。
「戦地で……ドラゴンと仲良くなった。なぜか僕にだけ懐いてくれて、真っ赤な瞳が夕焼けみたいにすごく綺麗で……」
君にも見せてあげたかったな、ニュートは自分の記憶に残っているドラゴンの美しい姿を思い描きながらやわく微笑んだ。
リジーは黙って耳を傾けていた、戦地での出来事を彼が話すのは初めてのことだった。
「ある日、近くで爆発があった。マグルが起こしたもので、僕らの方まで被害はなかったけど……音にびっくりしてドラゴンが暴れて、鎖が外れてしまったんだ」
リジーは想像した。
耳をつんざくようなドラゴンの恐怖に怯える声、炎が草を焦がすにおい、鋭い鉤爪で傷ついた人々……。
「普段は大人しくて、すごく利口な子だったけど……パニックを起こして、手がつけられなかった、僕は……」
なんの罪もない、ただ純粋で美しい生き物に杖を向ける自分の姿を何度も悪夢に見る。
実際にそうでなくても、「殺した」という自覚が自分の中に確かにある。
ニュートは固く目を閉じた。
「……僕なら、もしかしたら救えたかもしれない。でも途中で、怖くなって……逃げたんだ」
違う、リジーは首を横に振ってニュートの手を握った。
「あなたは、帰ってきてくれた。悪いのは、その子を鎖に繋いで、暴力で問題解決しようとした人間でしょ?」
ニュートはリジーの指で光る婚約指輪をじっと眺めながら歪に微笑んだ。
「……人間であることがいやになるよ」
リジーもまた、同じ気持ちを抱えていた。
でも彼は長く時間をかけて考え、ようやく気持ちに折り合いをつけて言葉にしてくれたんだろう。
その傷がどれほどのものか、行った人間にしかきっと100%理解することはできない。
「調査に出たら、5年はかかる。危険な国に行くこともあるかも。それに……もう動物が死ぬのを見たくない」
リジーはじっと黙ったまま、心の中で考えた。
失うのが怖い、その気持ちは痛いほどよく分かる。
人間は誰しも傷つきたくない。
「ニュートが行かないなら、わたしも行かない……でも、本当にそれでいいの?」
本当は、まだ少し心のどこかで迷っていた。
「動物は好きだし、正直やってみたい気もする。でも……」
幼い時から動物に囲まれて育った、嫌というほどたくさんの最期を看取った。
でも、何度経験しても慣れることはなかった。
「好きなものを仕事にはできないよ」
「好きな人にしかできないこともあるわ」
「……どうかな」
ニュートは肩を竦めた、綺麗事だと思ってしまう自分がいやになる。
「ニュートなら誰よりも動物たちのことを分かってあげられる。それに――」
きっと楽しいわ。
ニュートは黙って、今までに出会った動物たちとの思い出を瞼の裏に思い浮かべた。
いつも一緒だった家族たち、弱ってるのを拾ってきてすぐに死んでしまった子も。
今はもう、とうの昔にいなくなってしまった子たちばかり。
思い出すと悲しくなるから、思い出さないようにしてるけど、1度も忘れたことはない。
大切にしまってある薄い硝子玉のような記憶を、ゆっくりと慎重に手のひらに乗せる。
「……あの鳥、覚えてる?」
リジーは静かにええ、と頷く。
冷たい北風が吹く秋の日に、巣から落ちて死んでしまった可哀想な小鳥。
もし、見つけたのがニュートで、もっと早かったら。
助けられたかもしれない、リジーが小さく呟く。
ニュートは伏し目がちにほんの少し頬を緩めた。
そしたらきっと、僕らは出会えなかった。
リジーは悲しげに微笑んで、もう一度よく考えてみてと言った。