Ⅲ
夢小説設定
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変わり映えのない職場、指先が軽やかにタイプライターを叩く音。
デスクではいつも何かしらの会議が行われていて、禁煙フロアにも関わらず、誰かのスーツに染みついた煙草の匂いがする。
いつもと変わらぬ、慣れ親しんだ空気――それなのに、なぜだか今日に限っては朝から居心地が悪い。
ふと背後を振り向く、一人二人、三人と目が合い、そのまますっと逸らされる。
ああ、なるほど……この反応は見覚えがある。
今頃になってまた生まれに文句をつけられるのか、リジーは学生時代のことを思い出した。
耐えかねてオフィスを出れば、ショーン・フィネガンが若い魔女に馴れ馴れしく声を掛けているところだった。
「やあリジー!久しぶりだね、元気?」
「こんにちはショーン、おかげさまで」
正直なところ、今は彼と楽しく談笑などできる気分ではないし、面倒だったので適当にあしらってさっさとコーヒーでも飲みに行こうと考えていた。
しかし、良く言えば図太いのは彼の際立った長所でもあった。
困ったように笑いながら、満更でもなさげに頬を染める魔女をおいて急ぎ足で駆け寄ってきたのだ。
「あなた、こんなとこでそんなことしてていいの?少しは局長を手伝うとか」
「あの人はなんでも一人で出来るから、俺なんかがいても邪魔なだけだよ」
リジーは目を細めながら、ショーンの顔をじっと見た。
前は自分と同じぐらいの丈しかなかったのにいつの間にか追い越され、瞼にかかる栗色の巻き毛はいかにも軟派な雰囲気を纏わせている。
この男に、どれだけの子が泣かされてきたのか。
「……ねえ。何をどうしようとあなたが決めることだけど、女の子を泣かせちゃダメよ、紳士のやることじゃないわ」
「ひどいなあ、まるで俺が紳士じゃないみたいな言い方だ」
口ではそう言いつつ、ショーンは傷ついた素振りなんか少しも見せないで、愛想よく笑みを浮かべただけだった。
「俺は思ったより一途な人間なんだよ、でもあっちがそうさせてくれないだけ」
「……ふーん。まあよく分かんないけど、呪われないように気をつけてね」
足を止めず、歩くスピードを上げる。
ショーンはめげずに話しかけ続けた。
「それよりさ、コーヒーでも飲みに行こうよ。オフィスにいると息が詰まる」
「誤解されるわよ」
「別に構わない」
「私が困るの」
つれないなあ、とへらへら笑うショーンにリジーは内心イライラさせられた。
おかげで多少は気が紛れたが、これ以上相手にする必要もないと判断し、彼が同僚に話しかけられた隙にさっさとその場を立ち去った。
「あっ……なんだよもう、後にしろって」
もしかして、邪魔したか?と笑う同僚のジミー・ロックハートにショーンはあからさまに機嫌を悪くした。
「リジーか、お前全く相手にされてなかったけどな」
「もう恋人がいるから、仕方ないよ」
「ああ、局長の弟だろ」
「……なんで知ってる?」
思わず反応すると、ジミーは顔を寄せて幾分か抑えた声で言った。
「兄貴が有名になったから、玉の輿狙ったって噂だよ。マグル生まれらしいからな、さっさと嫁に行ってスキャマンダー姓名乗ったほうが響きもいい」
「……へえ」
ショーンはこみ上げてくる怒りをなんとか飲み込んで、舌の上で言い留める。
表面上は僅かに眉をうごかしただけだった。
スキャマンダーがなんと言われようと関係ないが、リジーに関しては彼の気がすまない。
なおもへらへらと笑うジミーの肩に親しげに手を置くと怒りに任せて力いっぱい肩を掴んだ。
突然のことと痛みに息を呑む彼に、低い声で耳打ちする。
「根も葉もない噂だと否定しておけ、いいな?」
必至に何度も頷くジミーを見て、ショーンは手の力を緩めた。
じゃあな、と笑いながら何事もなかったように立ち去っていく後ろ姿を見送りながら、ジミーは彼が若くして局長の秘書官に選ばれた理由を悟って、背筋に冷たいものを感じた。
デスクではいつも何かしらの会議が行われていて、禁煙フロアにも関わらず、誰かのスーツに染みついた煙草の匂いがする。
いつもと変わらぬ、慣れ親しんだ空気――それなのに、なぜだか今日に限っては朝から居心地が悪い。
ふと背後を振り向く、一人二人、三人と目が合い、そのまますっと逸らされる。
ああ、なるほど……この反応は見覚えがある。
今頃になってまた生まれに文句をつけられるのか、リジーは学生時代のことを思い出した。
耐えかねてオフィスを出れば、ショーン・フィネガンが若い魔女に馴れ馴れしく声を掛けているところだった。
「やあリジー!久しぶりだね、元気?」
「こんにちはショーン、おかげさまで」
正直なところ、今は彼と楽しく談笑などできる気分ではないし、面倒だったので適当にあしらってさっさとコーヒーでも飲みに行こうと考えていた。
しかし、良く言えば図太いのは彼の際立った長所でもあった。
困ったように笑いながら、満更でもなさげに頬を染める魔女をおいて急ぎ足で駆け寄ってきたのだ。
「あなた、こんなとこでそんなことしてていいの?少しは局長を手伝うとか」
「あの人はなんでも一人で出来るから、俺なんかがいても邪魔なだけだよ」
リジーは目を細めながら、ショーンの顔をじっと見た。
前は自分と同じぐらいの丈しかなかったのにいつの間にか追い越され、瞼にかかる栗色の巻き毛はいかにも軟派な雰囲気を纏わせている。
この男に、どれだけの子が泣かされてきたのか。
「……ねえ。何をどうしようとあなたが決めることだけど、女の子を泣かせちゃダメよ、紳士のやることじゃないわ」
「ひどいなあ、まるで俺が紳士じゃないみたいな言い方だ」
口ではそう言いつつ、ショーンは傷ついた素振りなんか少しも見せないで、愛想よく笑みを浮かべただけだった。
「俺は思ったより一途な人間なんだよ、でもあっちがそうさせてくれないだけ」
「……ふーん。まあよく分かんないけど、呪われないように気をつけてね」
足を止めず、歩くスピードを上げる。
ショーンはめげずに話しかけ続けた。
「それよりさ、コーヒーでも飲みに行こうよ。オフィスにいると息が詰まる」
「誤解されるわよ」
「別に構わない」
「私が困るの」
つれないなあ、とへらへら笑うショーンにリジーは内心イライラさせられた。
おかげで多少は気が紛れたが、これ以上相手にする必要もないと判断し、彼が同僚に話しかけられた隙にさっさとその場を立ち去った。
「あっ……なんだよもう、後にしろって」
もしかして、邪魔したか?と笑う同僚のジミー・ロックハートにショーンはあからさまに機嫌を悪くした。
「リジーか、お前全く相手にされてなかったけどな」
「もう恋人がいるから、仕方ないよ」
「ああ、局長の弟だろ」
「……なんで知ってる?」
思わず反応すると、ジミーは顔を寄せて幾分か抑えた声で言った。
「兄貴が有名になったから、玉の輿狙ったって噂だよ。マグル生まれらしいからな、さっさと嫁に行ってスキャマンダー姓名乗ったほうが響きもいい」
「……へえ」
ショーンはこみ上げてくる怒りをなんとか飲み込んで、舌の上で言い留める。
表面上は僅かに眉をうごかしただけだった。
スキャマンダーがなんと言われようと関係ないが、リジーに関しては彼の気がすまない。
なおもへらへらと笑うジミーの肩に親しげに手を置くと怒りに任せて力いっぱい肩を掴んだ。
突然のことと痛みに息を呑む彼に、低い声で耳打ちする。
「根も葉もない噂だと否定しておけ、いいな?」
必至に何度も頷くジミーを見て、ショーンは手の力を緩めた。
じゃあな、と笑いながら何事もなかったように立ち去っていく後ろ姿を見送りながら、ジミーは彼が若くして局長の秘書官に選ばれた理由を悟って、背筋に冷たいものを感じた。