Ⅲ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戦争になるかもしれない、とニュートは心の中で呟いた。
何の根拠もない、ただ今回の件で何か物事が大きく変わっていくような、そんな気がしたのだ。
舞い上がった小さな火の粉が、風に乗ってどこか思いがけない場所で炎に変わるように。
もしそうなった時、僕は大切なものを守りきれるだろうか。
二フラーや、リジーのことを。
くたくたになってオフィスを出たリジーは、出迎えに来たニュートの顔を見て思わず涙ぐみそうになった。
リタのことを伝えなければ、真っ先にそう思いながらも、とても言い出せなかった。
口に出してしまえば本当になってしまうような気がして。
「ニュート……リタが……」
その一言で彼は何かを察したように目を伏せ、息をついた。
それは後悔とも、悲嘆とも、絶望ともとれた。
言葉を返すかわりに僅かに口角を引き、薄く微笑んだ。
「帰ろう、リジー」
二人は寄り添うようにして手を取り合い、家路を辿って行った。
リジーはずっと考えていた、もしもリタが本当に革命の一端を担っていたら。
彼女も信奉者の一員なら、アーチボルド氏も当然知っていたはずだ。
自らは手を引いたとしても、出頭すれば当然彼の周囲も調査部が調べることになる。
それに、彼が手を引けば裏切り行為として娘のリタにも危険が及ぶかもしれない。
司法取引でなく家族の保護を求める人がわざわざ娘の身を危険に晒すとは思えない。
下手をすればアズカバン行きになるかもしれないのに。
悪い考えは際限なく浮かび、こういう時人は自分の都合の良い可能性だけを拾い集めようとする。
もし、彼女が逮捕されたらリジーが彼女を取り調べることになるかもしれない。
その時は、彼女を前に調査官として冷静に客観的に向き合えるだろうか。
すでにこれまでに起きた狂信者関連の事件の被疑者も何人も取り調べたことがある。
でも、リタは……友達だ。
少なくとも、リジーはそう思っていた。
スリザリンで、純血主義の家系に生まれながらも、対立するグリフィンドールに身を置き、マグル生まれの自分とも気さくに接してくれたことが何より嬉しかった。
だからこそ、あんな形で別れてしまったのがずっと心残りだった。
「……ねえ、私ニュートに言ったことあったっけ」
「なんだい?」
静かな夜の箱庭。
時計の針の音と、時折彼が資料の頁を捲る音と、遊び疲れてソファの二人の間で眠る二フラーの寝息だけが聞こえる中、徐ろに口を開く。
「昔……あの事故の時に、リタと話したってのは嘘だったの」
学生時代の苦い記憶は、大人になるにつれ些細なものへと変化していった。
一生言うつもりはなかった真実をぽつりと零す。
たった一人の、大切な幼馴染みのためについたささやかな嘘ももうそろそろ時効だろうと。
すると彼はふっと笑って、また一枚資料を捲った。
「そんなこと、ずっと前から知ってたよ」
「ええ?」
「あいつは昔から意地っぱりだから、自分から謝ったことなんて一度もない」
思ってもみなかった答えと、まるで「散々な目にあってきた」とでも暗に言いたげな妙に実感のこもった響きに思わず笑みが零れた。
過ごした時間の分だけ、愛情も信頼もそれなりの関係を得ている。
そばにいなくてもそこにいるような、何も言わなくても伝わるくらい。
彼のことで知らないことはもうないと思っていた。
でも、それは私についても同じことだったのだ。
「今さら僕に隠し事ができると思う?」
「思わない……っ」
じわじわと揺らぐ視界に、滲む涙を隠そうと俯く。
ぐっと引き寄せられてニュートの肩に顔が埋まる。
大人しく眠る二フラーをつぶさないように気をつけながら彼に身を任せた。
「泣かないでリジー……」
「だって……っ、もし本当だったら、私のせいでアズカバンに……」
「……君、そんなに権力もってないだろう?」
「そうだけど……っ」
からかうような口ぶりと裏腹に、髪を撫でる手つきは純粋で。
まじないのように額に落とされた口付けは安心感と、いくらかの落ちつきを取り戻させた。
「大丈夫だから、きっと……」
小さく呟いた言葉は囁き声のようで、それはまるで自分自身に言い聞かせるようにも聞こえた。
穏やかな世界はそう長く続かないことを知りながら。
何の根拠もない、ただ今回の件で何か物事が大きく変わっていくような、そんな気がしたのだ。
舞い上がった小さな火の粉が、風に乗ってどこか思いがけない場所で炎に変わるように。
もしそうなった時、僕は大切なものを守りきれるだろうか。
二フラーや、リジーのことを。
くたくたになってオフィスを出たリジーは、出迎えに来たニュートの顔を見て思わず涙ぐみそうになった。
リタのことを伝えなければ、真っ先にそう思いながらも、とても言い出せなかった。
口に出してしまえば本当になってしまうような気がして。
「ニュート……リタが……」
その一言で彼は何かを察したように目を伏せ、息をついた。
それは後悔とも、悲嘆とも、絶望ともとれた。
言葉を返すかわりに僅かに口角を引き、薄く微笑んだ。
「帰ろう、リジー」
二人は寄り添うようにして手を取り合い、家路を辿って行った。
リジーはずっと考えていた、もしもリタが本当に革命の一端を担っていたら。
彼女も信奉者の一員なら、アーチボルド氏も当然知っていたはずだ。
自らは手を引いたとしても、出頭すれば当然彼の周囲も調査部が調べることになる。
それに、彼が手を引けば裏切り行為として娘のリタにも危険が及ぶかもしれない。
司法取引でなく家族の保護を求める人がわざわざ娘の身を危険に晒すとは思えない。
下手をすればアズカバン行きになるかもしれないのに。
悪い考えは際限なく浮かび、こういう時人は自分の都合の良い可能性だけを拾い集めようとする。
もし、彼女が逮捕されたらリジーが彼女を取り調べることになるかもしれない。
その時は、彼女を前に調査官として冷静に客観的に向き合えるだろうか。
すでにこれまでに起きた狂信者関連の事件の被疑者も何人も取り調べたことがある。
でも、リタは……友達だ。
少なくとも、リジーはそう思っていた。
スリザリンで、純血主義の家系に生まれながらも、対立するグリフィンドールに身を置き、マグル生まれの自分とも気さくに接してくれたことが何より嬉しかった。
だからこそ、あんな形で別れてしまったのがずっと心残りだった。
「……ねえ、私ニュートに言ったことあったっけ」
「なんだい?」
静かな夜の箱庭。
時計の針の音と、時折彼が資料の頁を捲る音と、遊び疲れてソファの二人の間で眠る二フラーの寝息だけが聞こえる中、徐ろに口を開く。
「昔……あの事故の時に、リタと話したってのは嘘だったの」
学生時代の苦い記憶は、大人になるにつれ些細なものへと変化していった。
一生言うつもりはなかった真実をぽつりと零す。
たった一人の、大切な幼馴染みのためについたささやかな嘘ももうそろそろ時効だろうと。
すると彼はふっと笑って、また一枚資料を捲った。
「そんなこと、ずっと前から知ってたよ」
「ええ?」
「あいつは昔から意地っぱりだから、自分から謝ったことなんて一度もない」
思ってもみなかった答えと、まるで「散々な目にあってきた」とでも暗に言いたげな妙に実感のこもった響きに思わず笑みが零れた。
過ごした時間の分だけ、愛情も信頼もそれなりの関係を得ている。
そばにいなくてもそこにいるような、何も言わなくても伝わるくらい。
彼のことで知らないことはもうないと思っていた。
でも、それは私についても同じことだったのだ。
「今さら僕に隠し事ができると思う?」
「思わない……っ」
じわじわと揺らぐ視界に、滲む涙を隠そうと俯く。
ぐっと引き寄せられてニュートの肩に顔が埋まる。
大人しく眠る二フラーをつぶさないように気をつけながら彼に身を任せた。
「泣かないでリジー……」
「だって……っ、もし本当だったら、私のせいでアズカバンに……」
「……君、そんなに権力もってないだろう?」
「そうだけど……っ」
からかうような口ぶりと裏腹に、髪を撫でる手つきは純粋で。
まじないのように額に落とされた口付けは安心感と、いくらかの落ちつきを取り戻させた。
「大丈夫だから、きっと……」
小さく呟いた言葉は囁き声のようで、それはまるで自分自身に言い聞かせるようにも聞こえた。
穏やかな世界はそう長く続かないことを知りながら。