Ⅲ
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結婚式から三日が過ぎたある日のこと。
事態は突然な展開を見せた。
魔法省の幹部クラスの一部に"内通者"がいたことが内部告発で明らかとなった。
グリンデルバルド陣営と密かに連絡を取り、援助を差し伸べ、度々事件を揉み消していた。
イギリスも、とっくの昔にグリンデルバルドの掌中に落ちていたのだ。
きっかけは魔法省の中でもトップに並ぶ男、アーチボルド・レストレンジ。
一度は魔法大臣の椅子にも座した、聖28一族に名を連ねるレストレンジ家の現当主である。
野心に満ち、地位や栄誉のためならば時として手段を選ばぬ打算的な男。
「より大きな善のために」
その言葉の奥に孕んだ恐ろしく残酷で冷ややかな狂気を目の当たりにした時、彼は怖気づいて逃げ出した。
グリンデルバルドの闇を垣間見た、覗き込めばあまりの深さに魅入られ、吸い込まれてしまうような深い深淵を。
報復を恐れた彼は、レストレンジの高潔で尊い名と引き換えに家族の身の安全の確保を願い出た。
魔法省は上層部のスキャンダルに混乱を極めていた。
アーチボルド・レストレンジの内部告発により魔法省はどこもかしこも対応に追われていた。
張り詰めた空気が局を支配し、局長のテセウスは大臣らとの会議に呼ばれたまま一向に戻る気配はない。
リジーに出来ることはあまり無かったが、先輩オーラーを手伝ってまだオフィスに残っていた。他にも数人のオーラーたちがあくせくと働いている。
こんなことは今までになかった、少なくともリジーが知る限りでは。
革命は、もうすでにイギリスでも起こっていた。
先手を取られた、しかし魔法省の幹部という強力な駒を失った以上、グリンデルバルドに確実にダメージを与えられるだろう。
これからどうなるんだろう、考えるほどに恐怖が増す。
内通者のリストに見知った名前を見つけた。
スリザリンの、由緒正しきブラック家の一人息子だ。
オルガはこの事を知ったら悲しむだろう、とうに過ぎ去った親友の淡い恋心に少しだけ胸が痛んだ。
計18名の名前の中に"彼女"の名は無かった。
一つ一つ指で辿り、何度も見返して、吐き出すように安堵のため息をつく。
嗚呼良かった、無意識のうちに言の葉が溢れる。
少なくとも、リタ・レストレンジはグリンデルバルドの信奉者ではない。
その事実だけが先行きの見えない漠然とした不安の中で唯一の救いのように思えた。
けたたましい音で電話のベルが鳴る。
内線電話ではなく、外部からの発信だった。
きっかり3回ベルが震えるのを見届け、悪い報せでないことを祈りながら受話器を取った。
「はい、闇祓い局本部です」
「テセウス・スキャマンダーはおりますか」
電話口の向こうで、氷のように澄み切った声の女がどこか冷ややかな口調で言った。
「局長は会議中です、言伝ておきましょうか?」
メモ帳から一枚剥ぎ取り、羽根ペンをインク壺に浸して電話口に耳を澄ました。
女性は少し迷って、ふと何か思いついたように声色を変え「ならリジーに代わってください、リジー・ヴァンクス」と言った。
「はあ、私ですが……どちら様ですか?」
まさか自分の名前が出てくるなんて思いもよらず、聞き間違えではと考えながら恐る恐る尋ねた。
「シエナよ。……久しぶりね、リジー」
リジーは思わず呻いた。
電話の相手があまりにも意外な人からで驚きと、きっと何かよっぽどの出来事があったのだと直感したからだ。
シエナは切羽詰まった様子で早速切り出した。
「リタと連絡がつかないの、あなた何か知らない?」
リジーは僅かに息を呑み、無意識に手もとに目をやった。
アーチボルド・レストレンジの名を筆頭に幹部、重役合わせて18名の名前が記されている。
父親が逮捕され、魔法省が揺れているこの非常事態に行方をくらました、ということは――。
「まさか、嘘でしょ?」
そんなはずない、何かの間違いだと一瞬頭を過ぎった可能性を一蹴するように頬を引き攣らせた。
「その様子じゃあ何も聞いてないのね」
僅かに漏れ聞こえるため息から落胆の色が伺える。
リジーは縋るような気持ちで言った。
「自宅は?親戚や、友達とか……」
「もちろん、真っ先に聞きに行ったわ。あとはもうスキャマンダーしか考えられなかった。……弟の方は?」
「……どうかしら」
リジーは一瞬返事を躊躇した。
言いようのない複雑な感情が彼女の周囲を取り巻き、心臓が鈍く痛んだ。
「もう何年も彼女とニュートは、手紙のひとつもやり取りしてないわよ」
緊張も動揺も一切してないような冷静で物静かな口調を真似てみれば、自分の声が冷ややかで温かみのない、起訴状を読み上げる検察官のように響いた。
「ああ、どうしましょう……叔父様とオーレストに続いて、リタまで……」
シエナは絶望に泣き崩れ、リジーは頭を抱えた。
無邪気にはしゃぐ少女の笑顔が一瞬浮かんで、記憶の砂嵐にかき消される。
彼女は今、どこに――。
事態は突然な展開を見せた。
魔法省の幹部クラスの一部に"内通者"がいたことが内部告発で明らかとなった。
グリンデルバルド陣営と密かに連絡を取り、援助を差し伸べ、度々事件を揉み消していた。
イギリスも、とっくの昔にグリンデルバルドの掌中に落ちていたのだ。
きっかけは魔法省の中でもトップに並ぶ男、アーチボルド・レストレンジ。
一度は魔法大臣の椅子にも座した、聖28一族に名を連ねるレストレンジ家の現当主である。
野心に満ち、地位や栄誉のためならば時として手段を選ばぬ打算的な男。
「より大きな善のために」
その言葉の奥に孕んだ恐ろしく残酷で冷ややかな狂気を目の当たりにした時、彼は怖気づいて逃げ出した。
グリンデルバルドの闇を垣間見た、覗き込めばあまりの深さに魅入られ、吸い込まれてしまうような深い深淵を。
報復を恐れた彼は、レストレンジの高潔で尊い名と引き換えに家族の身の安全の確保を願い出た。
魔法省は上層部のスキャンダルに混乱を極めていた。
アーチボルド・レストレンジの内部告発により魔法省はどこもかしこも対応に追われていた。
張り詰めた空気が局を支配し、局長のテセウスは大臣らとの会議に呼ばれたまま一向に戻る気配はない。
リジーに出来ることはあまり無かったが、先輩オーラーを手伝ってまだオフィスに残っていた。他にも数人のオーラーたちがあくせくと働いている。
こんなことは今までになかった、少なくともリジーが知る限りでは。
革命は、もうすでにイギリスでも起こっていた。
先手を取られた、しかし魔法省の幹部という強力な駒を失った以上、グリンデルバルドに確実にダメージを与えられるだろう。
これからどうなるんだろう、考えるほどに恐怖が増す。
内通者のリストに見知った名前を見つけた。
スリザリンの、由緒正しきブラック家の一人息子だ。
オルガはこの事を知ったら悲しむだろう、とうに過ぎ去った親友の淡い恋心に少しだけ胸が痛んだ。
計18名の名前の中に"彼女"の名は無かった。
一つ一つ指で辿り、何度も見返して、吐き出すように安堵のため息をつく。
嗚呼良かった、無意識のうちに言の葉が溢れる。
少なくとも、リタ・レストレンジはグリンデルバルドの信奉者ではない。
その事実だけが先行きの見えない漠然とした不安の中で唯一の救いのように思えた。
けたたましい音で電話のベルが鳴る。
内線電話ではなく、外部からの発信だった。
きっかり3回ベルが震えるのを見届け、悪い報せでないことを祈りながら受話器を取った。
「はい、闇祓い局本部です」
「テセウス・スキャマンダーはおりますか」
電話口の向こうで、氷のように澄み切った声の女がどこか冷ややかな口調で言った。
「局長は会議中です、言伝ておきましょうか?」
メモ帳から一枚剥ぎ取り、羽根ペンをインク壺に浸して電話口に耳を澄ました。
女性は少し迷って、ふと何か思いついたように声色を変え「ならリジーに代わってください、リジー・ヴァンクス」と言った。
「はあ、私ですが……どちら様ですか?」
まさか自分の名前が出てくるなんて思いもよらず、聞き間違えではと考えながら恐る恐る尋ねた。
「シエナよ。……久しぶりね、リジー」
リジーは思わず呻いた。
電話の相手があまりにも意外な人からで驚きと、きっと何かよっぽどの出来事があったのだと直感したからだ。
シエナは切羽詰まった様子で早速切り出した。
「リタと連絡がつかないの、あなた何か知らない?」
リジーは僅かに息を呑み、無意識に手もとに目をやった。
アーチボルド・レストレンジの名を筆頭に幹部、重役合わせて18名の名前が記されている。
父親が逮捕され、魔法省が揺れているこの非常事態に行方をくらました、ということは――。
「まさか、嘘でしょ?」
そんなはずない、何かの間違いだと一瞬頭を過ぎった可能性を一蹴するように頬を引き攣らせた。
「その様子じゃあ何も聞いてないのね」
僅かに漏れ聞こえるため息から落胆の色が伺える。
リジーは縋るような気持ちで言った。
「自宅は?親戚や、友達とか……」
「もちろん、真っ先に聞きに行ったわ。あとはもうスキャマンダーしか考えられなかった。……弟の方は?」
「……どうかしら」
リジーは一瞬返事を躊躇した。
言いようのない複雑な感情が彼女の周囲を取り巻き、心臓が鈍く痛んだ。
「もう何年も彼女とニュートは、手紙のひとつもやり取りしてないわよ」
緊張も動揺も一切してないような冷静で物静かな口調を真似てみれば、自分の声が冷ややかで温かみのない、起訴状を読み上げる検察官のように響いた。
「ああ、どうしましょう……叔父様とオーレストに続いて、リタまで……」
シエナは絶望に泣き崩れ、リジーは頭を抱えた。
無邪気にはしゃぐ少女の笑顔が一瞬浮かんで、記憶の砂嵐にかき消される。
彼女は今、どこに――。