Ⅱ
夢小説設定
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ほう、と息を吐くと白い霞が朝の空に滲んだ。
蒸気をもくもく上げながら、徐々に速度を落とし、ゆっくりと汽車がホームに入ってくる。
季節外れのホグワーツ特急を、ニュートは不思議な気持ちで眺めた。
ふと隣に目をやれば、寒さに鼻先を赤くしたリジーが思いつめた様子で霞の向こうを見つめていた。
彼女の肩で滑り落ちかけているマフラーをぐるぐる巻きつけながら「寒くないかい」と尋ねる。
すると彼女は、マフラーの中にすっかり顔を埋め、目元だけを出し薄く笑って頷いた。
発射までにはまだあと10分ほど残されている。
慣れ親しんだホグワーツに別れを告げると同時に、リジーとも多分これが最後だろうと、ニュートは予感していた。
今日を分岐点に、お互い別々の道を歩んでいく。
これに乗ってしまえば、それでおしまい。
せめて忘れられるよりは、“学生時代の苦い思い出”とでも思ってくれたら。
今さら彼女を留めておく権利なんかどこにもないんだから。
でも、だからといって、あのままリタを見捨てることも出来なかった。
彼女が好きとか嫌いとか、そういう問題じゃあなく。
幼馴染みだから、共有してきた時間の分だけ情もある。
これでいいんだ、何度も自分の中で言い聞かせた。
お互いに押し黙ったまま、やけに静かな空間は時間が止まっているように感じる。
トランクの中の二フラーでさえ今日はなぜか大人しい。
しんとした中に、不意にリジーが「ねえ」口を開いた。
「話したいことが、あるんだけど……」
声が震えているのは、体温を逃がすまいと体が勝手に震えるせいか。
ニュートは僅かに息をのみ、静かに息をつく。
心臓が鈍い痛みを覚える、体温がざあっと引いていく。
リジーは黙りこくって、ニュートの言葉を待っていた。
1秒が鉛のようにずうんと重く感じた。
「……うん」
胸のあたりでざわざわと寒気がして、喉の奥がつまって呼吸が上手く通らない。
やっとの思いで出た言葉は音の代わりに白い吐息を吐き出して、ほとんど囁き声に近かった。
「ちょっと言いにくいんだけど……」
「うん……なんだい?」
リジーがすうと深く息を吸い込む、ニュートは覚悟を決めてゆっくりと目を閉じる。
今日で別れなきゃいけないなら、せめて、言葉にしてくれるなと、心の中で願った。
「毎年クリスマスに家でパーティやるんだけど、」
「うん……うん?」
予想とは斜め上の内容にニュートは戸惑った。
思わず「クリスマス?」と間の抜けた調子で聞き返した。
「パーティって言っても、そんな豪勢なものじゃないんだけど」
「……うん」
「家への手紙にニュートのこと書いたら、その、是非にってパパとママがうるさくて……」
「うん……え?」
混乱して、理解して飲み込むのにたっぷり十数秒掛かった。
「嫌じゃなかったら、でいいんだけど」リジーが慌てて付け加える。
「それは……」
「あ、でも、クリスマスはやっぱり家族で過ごしたいよね……?」
「いや、そうじゃなくて……いやじゃないの?」
「私は何度もいやって言ったのよ!
こ、恋人を、面と向かって親に紹介するなんて」
不自然に肩を竦め、マフラーの中にますます顔を埋ませるリジー。
「僕は……君の、恋人?」
「今更何言ってるの」
若干早口で澄まして答える彼女の耳は朱に染まっていた。
それまで頭の上で渦巻いていた灰色に濁った雨雲が嘘のようにさあっと解けていく。
無駄な杞憂だったと悟った瞬間、押しとどめていた感情が一気に防波堤を超えてやってきた。
「ニュート?――ひゃっ?!」
マフラーの中にずぼっと無遠慮に手を差し入れてリジーの頬に触れる。
人肌の体温でじんわりと指先が熱を取り戻していく感覚に浸りながら、もう片方の手も触れさせ、唇を重ねた。
冷たさに首を竦め身を捩る彼女を無視して、頬を引き寄せわざと逃げられないように固定させた。
彼女が何かを言おうとして口を開きかけたのをいい事に、思うまま深く重ね合わせる。
肩を柔く押し返す手に抵抗の意図がないことは明白だった。
――カチャリ。
足元でトランクの鍵が鈍い音を立てて独りでに開いた。
その音で一気に我に返る。
ニュートは深くため息をついて、リジーを解放せざるを得なくなった。
「あーあ、イイトコだったのに」
ずれ落ちたマフラーを口元まで引っ張りあげながらリジーは悪戯っぽく笑って呟いた。
汽車の汽笛が鳴る、リジーは照れくさそうにニュートの唇の端に口付けると「恋人続行ね」と言った。
「「じゃあね」」
遠ざかっていく列車をリジーは静かに見送った。
誰もいなくなった駅のプラットホームで彼女は一時の間人知れず涙を流して泣いた。
穏やかな眠りの季節が、もうすぐそこまでやって来ていた。
蒸気をもくもく上げながら、徐々に速度を落とし、ゆっくりと汽車がホームに入ってくる。
季節外れのホグワーツ特急を、ニュートは不思議な気持ちで眺めた。
ふと隣に目をやれば、寒さに鼻先を赤くしたリジーが思いつめた様子で霞の向こうを見つめていた。
彼女の肩で滑り落ちかけているマフラーをぐるぐる巻きつけながら「寒くないかい」と尋ねる。
すると彼女は、マフラーの中にすっかり顔を埋め、目元だけを出し薄く笑って頷いた。
発射までにはまだあと10分ほど残されている。
慣れ親しんだホグワーツに別れを告げると同時に、リジーとも多分これが最後だろうと、ニュートは予感していた。
今日を分岐点に、お互い別々の道を歩んでいく。
これに乗ってしまえば、それでおしまい。
せめて忘れられるよりは、“学生時代の苦い思い出”とでも思ってくれたら。
今さら彼女を留めておく権利なんかどこにもないんだから。
でも、だからといって、あのままリタを見捨てることも出来なかった。
彼女が好きとか嫌いとか、そういう問題じゃあなく。
幼馴染みだから、共有してきた時間の分だけ情もある。
これでいいんだ、何度も自分の中で言い聞かせた。
お互いに押し黙ったまま、やけに静かな空間は時間が止まっているように感じる。
トランクの中の二フラーでさえ今日はなぜか大人しい。
しんとした中に、不意にリジーが「ねえ」口を開いた。
「話したいことが、あるんだけど……」
声が震えているのは、体温を逃がすまいと体が勝手に震えるせいか。
ニュートは僅かに息をのみ、静かに息をつく。
心臓が鈍い痛みを覚える、体温がざあっと引いていく。
リジーは黙りこくって、ニュートの言葉を待っていた。
1秒が鉛のようにずうんと重く感じた。
「……うん」
胸のあたりでざわざわと寒気がして、喉の奥がつまって呼吸が上手く通らない。
やっとの思いで出た言葉は音の代わりに白い吐息を吐き出して、ほとんど囁き声に近かった。
「ちょっと言いにくいんだけど……」
「うん……なんだい?」
リジーがすうと深く息を吸い込む、ニュートは覚悟を決めてゆっくりと目を閉じる。
今日で別れなきゃいけないなら、せめて、言葉にしてくれるなと、心の中で願った。
「毎年クリスマスに家でパーティやるんだけど、」
「うん……うん?」
予想とは斜め上の内容にニュートは戸惑った。
思わず「クリスマス?」と間の抜けた調子で聞き返した。
「パーティって言っても、そんな豪勢なものじゃないんだけど」
「……うん」
「家への手紙にニュートのこと書いたら、その、是非にってパパとママがうるさくて……」
「うん……え?」
混乱して、理解して飲み込むのにたっぷり十数秒掛かった。
「嫌じゃなかったら、でいいんだけど」リジーが慌てて付け加える。
「それは……」
「あ、でも、クリスマスはやっぱり家族で過ごしたいよね……?」
「いや、そうじゃなくて……いやじゃないの?」
「私は何度もいやって言ったのよ!
こ、恋人を、面と向かって親に紹介するなんて」
不自然に肩を竦め、マフラーの中にますます顔を埋ませるリジー。
「僕は……君の、恋人?」
「今更何言ってるの」
若干早口で澄まして答える彼女の耳は朱に染まっていた。
それまで頭の上で渦巻いていた灰色に濁った雨雲が嘘のようにさあっと解けていく。
無駄な杞憂だったと悟った瞬間、押しとどめていた感情が一気に防波堤を超えてやってきた。
「ニュート?――ひゃっ?!」
マフラーの中にずぼっと無遠慮に手を差し入れてリジーの頬に触れる。
人肌の体温でじんわりと指先が熱を取り戻していく感覚に浸りながら、もう片方の手も触れさせ、唇を重ねた。
冷たさに首を竦め身を捩る彼女を無視して、頬を引き寄せわざと逃げられないように固定させた。
彼女が何かを言おうとして口を開きかけたのをいい事に、思うまま深く重ね合わせる。
肩を柔く押し返す手に抵抗の意図がないことは明白だった。
――カチャリ。
足元でトランクの鍵が鈍い音を立てて独りでに開いた。
その音で一気に我に返る。
ニュートは深くため息をついて、リジーを解放せざるを得なくなった。
「あーあ、イイトコだったのに」
ずれ落ちたマフラーを口元まで引っ張りあげながらリジーは悪戯っぽく笑って呟いた。
汽車の汽笛が鳴る、リジーは照れくさそうにニュートの唇の端に口付けると「恋人続行ね」と言った。
「「じゃあね」」
遠ざかっていく列車をリジーは静かに見送った。
誰もいなくなった駅のプラットホームで彼女は一時の間人知れず涙を流して泣いた。
穏やかな眠りの季節が、もうすぐそこまでやって来ていた。