Ⅱ
夢小説設定
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ニュートはゆっくりと杖を下に降ろすと、地面に這いつくばるようにして目線を合わせた。
やあ、初めまして。
調子はどう?ここのとこ雨続きで湿っぽくて厭になるよね、よければそっちに行ってもいいかな。
静かな低いトーンで声を掛けながらじわりじわりと距離を縮めていく。
絶対に君を傷つけるようなことはしないよ、約束する。
友達になりたいんだ。
――遡ること数時間前。
聞き込みを重ねること数日間、収穫は全くと言っていいほど無く。
時間だけがだらだらと過ぎていくこの状況に、いい加減飽き飽きしてきてた。
その間、温室は絶好の探偵事務所と化していた。
リジーは退屈そうに本のページを捲りながら時折ため息をもらし、ニュートも何やら読書に勤しんでおり、ヘイミッシュは飼い主の手を離れ、ニュートの膝に乗っかって喉を鳴らしていた。
調査というものは本来、地味でぱっとしないものの積み重ねなのだが、リジーはすっかり意気を挫かれてしまっていた。
誰に聞いても全く同じ回答しか得られず、うんざりしていた。
これが物語の中ならある程度ストーリーも展開も予測出来たのに、不可解な証拠品も、あからさまに善人ぶった容疑者も現実にはいない。
限界を感じると同時に、リジーの中ではシエナの言葉が喉の奥に引っ掛かっていた。
ニュートは機転が利くわけでも、人の機微に聡い方でも無かったが、「もうやめる?」とは決して自分から口にはしなかった。
リジーがそれを望んでいないことを理解してたので、とことん付き合うつもりでいた。
彼としては内心、この状況を大いに楽しんでいた。
何かと理由を付けて図書室で本を借りる必要が無くなって、気兼ねなく彼女と会える大義名分が出来たのだから。
下心と言われても仕方ないが、彼だってただの若くて健全な男子に過ぎないのだ。
「根を詰めるのもよくないよ」
ニュートは本から顔を上げないまま、ちらっと目線だけを動かして言った。
ついさっきまで姿勢よくきちんと開いていた本は閉じられ、読んでいたリジーは力なく突っ伏し、年季の入った革表紙は不本意ながらと言うようにくたりと形のよい頭に押しつぶされている。
「どうしたらいいと思う……?」
頭がかくかく揺れて、穴の空いた風船のような絶望の滲んだ声が僅かに空気を揺らし、地面に落ちる。
ニュートはなるべく本に集中して、素っ気ない声を出せるよう努力した。
「考え方を変えてみたらどうかな、九九だってさ、“七三”は難しくても逆に“三七”は簡単だろ?」
「逆……」
逆、ぎゃく、発想の逆転……。
今までとは全く違う正反対の、先入観に囚われず……。
内部の人間でも、外部の人間でもないとすると……宇宙人?
まずそもそも逆とは何か?
唸っても答えは出てこず、リジーが哲学に目覚めそうになってる時、ニュートの膝でまったり寛いでいたヘイミッシュは、視界の端ですばしっこく動き回る物体を確かに捉えた。
すぐさま立ち上がって身を乗り出し、丸っこいつぶらな瞳が好奇心と狩猟本能にぎらりと光を帯びる。
ニュートは肩によじ登って爪を立てている仔猫を引き剥がそうと手を伸ばした。
彼の手がふわふわの毛玉を掴むより先にヘイミッシュはそのまま跳躍し、対象目掛けて全速力で駆け、開きっぱなしの温室の扉から外へ出て行ってしまった。
「ヘイミッシュ……!」
その時一瞬、仔猫に追われて逃げていったすばしっこい獲物をニュートも目にした。
黒い小さめのもぐらのような、もしくは太りすぎのネズミのような。
あれは、――魔法動物だ。
「っ……追いかけよう!」
杖を取り出して呼び戻そうとするリジーを制し、仔猫を見失わないうちに急いで外へ駈け出した。
やあ、初めまして。
調子はどう?ここのとこ雨続きで湿っぽくて厭になるよね、よければそっちに行ってもいいかな。
静かな低いトーンで声を掛けながらじわりじわりと距離を縮めていく。
絶対に君を傷つけるようなことはしないよ、約束する。
友達になりたいんだ。
――遡ること数時間前。
聞き込みを重ねること数日間、収穫は全くと言っていいほど無く。
時間だけがだらだらと過ぎていくこの状況に、いい加減飽き飽きしてきてた。
その間、温室は絶好の探偵事務所と化していた。
リジーは退屈そうに本のページを捲りながら時折ため息をもらし、ニュートも何やら読書に勤しんでおり、ヘイミッシュは飼い主の手を離れ、ニュートの膝に乗っかって喉を鳴らしていた。
調査というものは本来、地味でぱっとしないものの積み重ねなのだが、リジーはすっかり意気を挫かれてしまっていた。
誰に聞いても全く同じ回答しか得られず、うんざりしていた。
これが物語の中ならある程度ストーリーも展開も予測出来たのに、不可解な証拠品も、あからさまに善人ぶった容疑者も現実にはいない。
限界を感じると同時に、リジーの中ではシエナの言葉が喉の奥に引っ掛かっていた。
ニュートは機転が利くわけでも、人の機微に聡い方でも無かったが、「もうやめる?」とは決して自分から口にはしなかった。
リジーがそれを望んでいないことを理解してたので、とことん付き合うつもりでいた。
彼としては内心、この状況を大いに楽しんでいた。
何かと理由を付けて図書室で本を借りる必要が無くなって、気兼ねなく彼女と会える大義名分が出来たのだから。
下心と言われても仕方ないが、彼だってただの若くて健全な男子に過ぎないのだ。
「根を詰めるのもよくないよ」
ニュートは本から顔を上げないまま、ちらっと目線だけを動かして言った。
ついさっきまで姿勢よくきちんと開いていた本は閉じられ、読んでいたリジーは力なく突っ伏し、年季の入った革表紙は不本意ながらと言うようにくたりと形のよい頭に押しつぶされている。
「どうしたらいいと思う……?」
頭がかくかく揺れて、穴の空いた風船のような絶望の滲んだ声が僅かに空気を揺らし、地面に落ちる。
ニュートはなるべく本に集中して、素っ気ない声を出せるよう努力した。
「考え方を変えてみたらどうかな、九九だってさ、“七三”は難しくても逆に“三七”は簡単だろ?」
「逆……」
逆、ぎゃく、発想の逆転……。
今までとは全く違う正反対の、先入観に囚われず……。
内部の人間でも、外部の人間でもないとすると……宇宙人?
まずそもそも逆とは何か?
唸っても答えは出てこず、リジーが哲学に目覚めそうになってる時、ニュートの膝でまったり寛いでいたヘイミッシュは、視界の端ですばしっこく動き回る物体を確かに捉えた。
すぐさま立ち上がって身を乗り出し、丸っこいつぶらな瞳が好奇心と狩猟本能にぎらりと光を帯びる。
ニュートは肩によじ登って爪を立てている仔猫を引き剥がそうと手を伸ばした。
彼の手がふわふわの毛玉を掴むより先にヘイミッシュはそのまま跳躍し、対象目掛けて全速力で駆け、開きっぱなしの温室の扉から外へ出て行ってしまった。
「ヘイミッシュ……!」
その時一瞬、仔猫に追われて逃げていったすばしっこい獲物をニュートも目にした。
黒い小さめのもぐらのような、もしくは太りすぎのネズミのような。
あれは、――魔法動物だ。
「っ……追いかけよう!」
杖を取り出して呼び戻そうとするリジーを制し、仔猫を見失わないうちに急いで外へ駈け出した。