Ⅱ
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自分の血に誇りを持ちなさい。
先祖代々守ってきたその血に相応しくあれ、家と家族を何より大切に。
シエナは幼い頃からそう教えられてきた。
純血であることを誇りに思っていたし、父や祖父と同じようにスリザリンに選ばれた事を心の底から喜んだ。
母親を早くに亡くし、父は多忙な人なため殆ど家に居なかったし、老齢の祖父は年の離れた弟ばかり可愛がったが、それでも家族を愛してたし家以上に心安らぐ居場所はないと感じていた。
シエナは魔力に目覚めるのが遅かった。
歩くことより先に杖を振ることを覚えた弟はマーリンの生まれ変わりだともてはやされ、いとこたちとはいつも比べられた。
11歳になるとホグワーツからの入学案内状が届いた。
そしてやがて、家以上にこの城は彼女にとって居心地のよい所となっていた。
不思議と帰りたいとは思わなかった。
弟は甘やかされて育ちシエナを馬鹿にする、父は相変わらず家に居ないし、祖父には厳しく躾けられた記憶しかない。
彼女は初めて自分が冷たく渇いた場所に居たことに気づいた。
家からの手紙は不規則で内容はいつも決まっている。
純血に相応しくあれ、妥協せずいつも一番であること。
寂しさに無理やり蓋をするかのようにシエナは尊大に振る舞い、いつも取り巻きを連れて歩くようになった。
そんな中、リジー・ヴァンクスは彼女にとって目障りな存在でしかならなかった。
彼女はいつの間にかシエナを追い抜き、同級生のみならず後輩にも慕われていた。
もはやマグル生まれのことなど誰も、思い出しても気にも留めない。
「どうしてその子の事、そんなに嫌うの?」
以前、従姉妹のリタに尋ねられてシエナは返答に困った。
血のことなど本当はもうどうでもよかった。
「彼女が、私にないものを持ってるから」
どれだけ努力しようと手に入らないものをリジーは最初から全て持っていながらそれを見せたりしないから、もしそれを少しでもひけらかしたり彼女が自己中心的だったなら今とは全く違っただろう。
憎くて憎くて、羨ましかったのだ。
夏休みに入り、久しぶりに家に帰省した時。
シエナが約半年ぶりに帰ってきても家の者は特に誰も気にも留めなかったし、長らく留守にしていたせいか帰ってきた実感があまりなく、縁戚の家に訪問に来たような気分だった。
珍しく父も家に居て家族四人で食卓を囲んだ。
が、家族水入らずというには温かい家庭らしい会話もなく、殺伐とした空気さえ滲み、ただ黙々と皿の上を空けていく作業に勤しんだ。
食事が終わると父が自分の書斎にシエナを招いた。
そこには父が描いた亡くなった母の肖像画が置いてあってシエナは幼い頃よくそこに座って肖像画をずっと眺めていた。
母はシエナを産んですぐに亡くなった、彼女が8歳の時に父は新たな妻を迎え、程なくして弟が産まれたが彼女は母親であるよりもいつまでも若く美しい一人の女性であることを望み、生まれたばかりの弟を置いたまま何処かへ消えた。
母親とはどんなものだろうかと肖像画の母に語りかけていたが、彼女は優しく微笑むだけで娘を抱きしめることもキスすることもしてくれなかった。
書斎にはガラス張りのショーケースがあってその中には父の大切にしている品が飾ってあった。
子供の頃はそれに触れることも近づくことすら禁じられていたそこから父は一つ取り出してシエナの手に乗せた。
ターコイズとダイヤで小さな花をひとかたまりあしらったブローチ、肖像画に描かれた母が身に付けているものだった。
――とても聡明で、優しくて、美しい人だった。
父の口から初めて聞く母についてだった。
彼女の自慢でもある美しいブロンドの髪を母親譲りだと褒め、いずれお前が嫁いでこの家を出るときにこのブローチを持って行きなさいと言った。
弟が生まれた時、父も祖父も跡継ぎが出来たととても喜んだし、そのために父は再婚した。
父の後、家や爵位は当然嫡子である弟が継ぐもの。
シエナはどこか他の家に嫁に行って、子供を産んで、夫を支えながら良妻として家庭での役割を果たす。
働きに出る人もいるだろうがキャリアガールとして外で経験を積むことより良縁と結婚する方が父や祖父の望みでもある。
母もそうだった、そこに愛があるかどうかは重要ではない。
生まれた時から既に婚約者のいる従兄弟だっている。
古い由緒正しい家柄の子供は大抵そうする。
自分の将来がそこまで決められていることにただ呆然とした。
お前は出て行く人間なのだから、そのために生まれてきたのだからと。
父にも祖父にも逆らったことはなかった、面と向かって自分の気持ちを話す勇気も、それで何かが変わるとも思えなかった。
だから父の戸棚からブローチをこっそり持ち出した。
留守の多い父のことだから戸棚からブローチが無くなったって気づかない、どうせ私のものになるんだからと。
ただ抱きしめて、キスして、ほんの少しでいいから話を聞いて欲しかっただけなのに。
先祖代々守ってきたその血に相応しくあれ、家と家族を何より大切に。
シエナは幼い頃からそう教えられてきた。
純血であることを誇りに思っていたし、父や祖父と同じようにスリザリンに選ばれた事を心の底から喜んだ。
母親を早くに亡くし、父は多忙な人なため殆ど家に居なかったし、老齢の祖父は年の離れた弟ばかり可愛がったが、それでも家族を愛してたし家以上に心安らぐ居場所はないと感じていた。
シエナは魔力に目覚めるのが遅かった。
歩くことより先に杖を振ることを覚えた弟はマーリンの生まれ変わりだともてはやされ、いとこたちとはいつも比べられた。
11歳になるとホグワーツからの入学案内状が届いた。
そしてやがて、家以上にこの城は彼女にとって居心地のよい所となっていた。
不思議と帰りたいとは思わなかった。
弟は甘やかされて育ちシエナを馬鹿にする、父は相変わらず家に居ないし、祖父には厳しく躾けられた記憶しかない。
彼女は初めて自分が冷たく渇いた場所に居たことに気づいた。
家からの手紙は不規則で内容はいつも決まっている。
純血に相応しくあれ、妥協せずいつも一番であること。
寂しさに無理やり蓋をするかのようにシエナは尊大に振る舞い、いつも取り巻きを連れて歩くようになった。
そんな中、リジー・ヴァンクスは彼女にとって目障りな存在でしかならなかった。
彼女はいつの間にかシエナを追い抜き、同級生のみならず後輩にも慕われていた。
もはやマグル生まれのことなど誰も、思い出しても気にも留めない。
「どうしてその子の事、そんなに嫌うの?」
以前、従姉妹のリタに尋ねられてシエナは返答に困った。
血のことなど本当はもうどうでもよかった。
「彼女が、私にないものを持ってるから」
どれだけ努力しようと手に入らないものをリジーは最初から全て持っていながらそれを見せたりしないから、もしそれを少しでもひけらかしたり彼女が自己中心的だったなら今とは全く違っただろう。
憎くて憎くて、羨ましかったのだ。
夏休みに入り、久しぶりに家に帰省した時。
シエナが約半年ぶりに帰ってきても家の者は特に誰も気にも留めなかったし、長らく留守にしていたせいか帰ってきた実感があまりなく、縁戚の家に訪問に来たような気分だった。
珍しく父も家に居て家族四人で食卓を囲んだ。
が、家族水入らずというには温かい家庭らしい会話もなく、殺伐とした空気さえ滲み、ただ黙々と皿の上を空けていく作業に勤しんだ。
食事が終わると父が自分の書斎にシエナを招いた。
そこには父が描いた亡くなった母の肖像画が置いてあってシエナは幼い頃よくそこに座って肖像画をずっと眺めていた。
母はシエナを産んですぐに亡くなった、彼女が8歳の時に父は新たな妻を迎え、程なくして弟が産まれたが彼女は母親であるよりもいつまでも若く美しい一人の女性であることを望み、生まれたばかりの弟を置いたまま何処かへ消えた。
母親とはどんなものだろうかと肖像画の母に語りかけていたが、彼女は優しく微笑むだけで娘を抱きしめることもキスすることもしてくれなかった。
書斎にはガラス張りのショーケースがあってその中には父の大切にしている品が飾ってあった。
子供の頃はそれに触れることも近づくことすら禁じられていたそこから父は一つ取り出してシエナの手に乗せた。
ターコイズとダイヤで小さな花をひとかたまりあしらったブローチ、肖像画に描かれた母が身に付けているものだった。
――とても聡明で、優しくて、美しい人だった。
父の口から初めて聞く母についてだった。
彼女の自慢でもある美しいブロンドの髪を母親譲りだと褒め、いずれお前が嫁いでこの家を出るときにこのブローチを持って行きなさいと言った。
弟が生まれた時、父も祖父も跡継ぎが出来たととても喜んだし、そのために父は再婚した。
父の後、家や爵位は当然嫡子である弟が継ぐもの。
シエナはどこか他の家に嫁に行って、子供を産んで、夫を支えながら良妻として家庭での役割を果たす。
働きに出る人もいるだろうがキャリアガールとして外で経験を積むことより良縁と結婚する方が父や祖父の望みでもある。
母もそうだった、そこに愛があるかどうかは重要ではない。
生まれた時から既に婚約者のいる従兄弟だっている。
古い由緒正しい家柄の子供は大抵そうする。
自分の将来がそこまで決められていることにただ呆然とした。
お前は出て行く人間なのだから、そのために生まれてきたのだからと。
父にも祖父にも逆らったことはなかった、面と向かって自分の気持ちを話す勇気も、それで何かが変わるとも思えなかった。
だから父の戸棚からブローチをこっそり持ち出した。
留守の多い父のことだから戸棚からブローチが無くなったって気づかない、どうせ私のものになるんだからと。
ただ抱きしめて、キスして、ほんの少しでいいから話を聞いて欲しかっただけなのに。