Ⅰ
夢小説設定
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「リジー!」
走り去る彼女を咄嗟に追いかける。
程なくして追いついて掴んだその手は、拒絶するように振り払われた。
「何で追いかけてくるのっ」
「君が逃げたから……」
「いいから放っといてよ!」
振り向いた頬には涙が伝っていた。
「ごめん……何も知らなくて」
初めて見る彼女の涙に、ニュートは気がついた。
どうしてリジーが自分と一緒に居たのか。
――何も知らなかったからだ。
「なんで謝るの?」
「君を、知らないうちに傷付けてたかも」
じわっと溢れた涙は頬を伝い、ぽろぽろと零れて落ちた。
「違っ、私はただ……っ」
顔を見られまいと両手で覆い隠して肩を震わす姿は、とても小さく、儚く目に映った。
やがて落ち着きを取り戻した彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
湖と森に囲まれた千年も前から建つ立派な古城は、自分たちが思ってるよりもずっと狭くて、毎日同じ顔と顔を突き合わせて日々を過ごすのは時々息が詰まりそうになる。
個性は異端、出る杭は真っ先に打たれる。
日々を平穏に過ごすコツは、決して耳目を集めず、何者ともならず、なんとなく曖昧に時間を浪費していくしかないのだ。
そんな中でどれだけの人間が居場所を持っているのか。
他者に向かって自分らしく在れと言えるのか。
好奇の目を向けられ、排斥され、結局頼れるのは自分だけだと諦めた頃、ある日突然状況は一変。
周りの人間は手の平返ししたように媚びへつらい、それまでの事などすっかり水に流されてる。
一体、何を信じろというのか。
ニュートにはその気持ちがよく分かった。
彼もまた、ここでの生きづらさは痛いほどよく分かっていた。
「私、本当に、あなたに嫌われたくなかっただけで」
ごめんなさいと、声を震わせ彼女は言った。
「そんなことで嫌うはずないじゃないか」
「でも、私はっ」
いつもの恐れを知らない豪胆なリジーはそこには居なかった。
ただひどく怯え、傷ついた少女だった。
「僕は……勉強が出来て、行動力があって、何より動物に優しい君の事を、とても誇りに思ってる」
だからもう泣かないで。
手を取った彼女の指先は冷たかった。
「ねえリジー、泣かないでよ」
「違うのっ、なんか止まんないの」
息をつまらせ嗚咽しながら声を上げる彼女にニュートはくすっと笑った。
「なんで笑うのっ!!」
「いや、だってちっちゃい子みたいに泣くんだなあって」
「なんで今そういうこと言うの?!」
握っていた手は振り解かれ、代わりに肩をバシバシ叩いた。
「分かった、分かった。もう笑わないから」
「もう!!ニュートなんて大嫌いっ」
「ごめんって」
そうは言っても笑いは中々引っ込まず。
つられてリジーも、いつの間にか涙は乾き、その表情は晴れやかな笑みで満たされていた。
「やっと笑った」
――春の足音が聞こえてくるような、穏やかな風が二人の間を駆け抜けた。
走り去る彼女を咄嗟に追いかける。
程なくして追いついて掴んだその手は、拒絶するように振り払われた。
「何で追いかけてくるのっ」
「君が逃げたから……」
「いいから放っといてよ!」
振り向いた頬には涙が伝っていた。
「ごめん……何も知らなくて」
初めて見る彼女の涙に、ニュートは気がついた。
どうしてリジーが自分と一緒に居たのか。
――何も知らなかったからだ。
「なんで謝るの?」
「君を、知らないうちに傷付けてたかも」
じわっと溢れた涙は頬を伝い、ぽろぽろと零れて落ちた。
「違っ、私はただ……っ」
顔を見られまいと両手で覆い隠して肩を震わす姿は、とても小さく、儚く目に映った。
やがて落ち着きを取り戻した彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
湖と森に囲まれた千年も前から建つ立派な古城は、自分たちが思ってるよりもずっと狭くて、毎日同じ顔と顔を突き合わせて日々を過ごすのは時々息が詰まりそうになる。
個性は異端、出る杭は真っ先に打たれる。
日々を平穏に過ごすコツは、決して耳目を集めず、何者ともならず、なんとなく曖昧に時間を浪費していくしかないのだ。
そんな中でどれだけの人間が居場所を持っているのか。
他者に向かって自分らしく在れと言えるのか。
好奇の目を向けられ、排斥され、結局頼れるのは自分だけだと諦めた頃、ある日突然状況は一変。
周りの人間は手の平返ししたように媚びへつらい、それまでの事などすっかり水に流されてる。
一体、何を信じろというのか。
ニュートにはその気持ちがよく分かった。
彼もまた、ここでの生きづらさは痛いほどよく分かっていた。
「私、本当に、あなたに嫌われたくなかっただけで」
ごめんなさいと、声を震わせ彼女は言った。
「そんなことで嫌うはずないじゃないか」
「でも、私はっ」
いつもの恐れを知らない豪胆なリジーはそこには居なかった。
ただひどく怯え、傷ついた少女だった。
「僕は……勉強が出来て、行動力があって、何より動物に優しい君の事を、とても誇りに思ってる」
だからもう泣かないで。
手を取った彼女の指先は冷たかった。
「ねえリジー、泣かないでよ」
「違うのっ、なんか止まんないの」
息をつまらせ嗚咽しながら声を上げる彼女にニュートはくすっと笑った。
「なんで笑うのっ!!」
「いや、だってちっちゃい子みたいに泣くんだなあって」
「なんで今そういうこと言うの?!」
握っていた手は振り解かれ、代わりに肩をバシバシ叩いた。
「分かった、分かった。もう笑わないから」
「もう!!ニュートなんて大嫌いっ」
「ごめんって」
そうは言っても笑いは中々引っ込まず。
つられてリジーも、いつの間にか涙は乾き、その表情は晴れやかな笑みで満たされていた。
「やっと笑った」
――春の足音が聞こえてくるような、穏やかな風が二人の間を駆け抜けた。