Ⅰ
夢小説設定
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深夜、皆が寝静まった頃。
リジーはこっそりベッドを抜け出して禁じられた森へと向かった。
森の入り口では既にニュートが待ち構えていた。
「誰にも見つからなかった?」
「ええ、みんな寝てるもの、ベッドを抜け出したぐらいじゃ起きない」
二人はぼそぼそと小声で会話した。
「その前に私、謝らなくちゃいけないわね。一人で舞い上がって、勝手に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「なんだ、そんなことか、別に気にしてないよ」
「ほんとに?もうやんなっちゃったりしない?」
「まさか、危険だと思ったらいつでも君を引っ張って逃げるから大丈夫」
リジーはほっと表情を和らげた。
森は不気味なほどに静かで、月の光だけがぼんやりと照らしている。
杖を掲げ明かりを灯すも頼りなく感じられた。
時折風が木々を揺らしてざわめかせる音だけが木霊する。
今は草木も眠っているのか、森全体が息を潜めているようだった。
「いいかい、何があっても僕から離れないで」
森には危険が潜んでいる、何が起こるか分からない。
ニュートが先陣きってリジーの前を歩いた。
歩く度に枯れ葉を踏む音と湿った土の匂いが立ち昇る。
周囲を照らしながら慎重に歩を進めた。
「ニュート、怖い?」
こんな状況にも関わらず、子供みたいに無邪気に尋ねるリジーにニュートは苦笑した。
「思ったより雰囲気があるね」
「私たち、銀行強盗になったみたいじゃない?」
「バレたらどうする?」
「捕まらなきゃ平気よ」
大した勇気の持ち主だ、ニュートは心の中で呟いた。
広い森にしゃくしゃく、と土を踏む二人分の足音だけが響く。
時折足を止め静けさに耳を澄ます。
木々がざわざわと風にざわめく。
見上げると暗い底無し沼が頭上に広がっているようだった。
リジーはニュートの後を追った。
右を見ても左を見ても代わり映えのない景色の中にいると、段々と方向感覚が狂っていく。
真っ直ぐ歩いてきたはずだが、帰り道が分からない。
ニュートはどうやって方向を決めているのだろうか。
時折辺りを警戒しながらもしっかりとした足取りで前を進んでいく。
何か動物的な勘が働いているのか、彼には夜目が効くのか。
しかしその背中は、とても頼もしく感じられた。
――
突然、ニュートがぴたっと足を止めた。
杖を掲げ、暗闇の先を目を凝らしてじっと見つめる。
数メートル先の木の根本に薄ぼんやりと影が伸びていた、何かいる。
足音も立てず、ゆっくりと近づく。
影は段々と輪郭を帯びてやがてはっきりとその姿を現した。
鷲の頭に馬の足を持った生き物が大きな灰褐色の翼を地に広げ生気なく横たわっていた。
――ヒッポグリフだ。
慌てて駆け寄る二人。
しかしその目は固く閉じられたまま、体は冷たくなっており、すでに息絶えていた。
「……足を怪我してる、たぶん狼にやられたんだろう、痛かっただろうに」
ひどく噛まれたせいで傷口が化膿していた。狩りが出来なくなって、充分な餌を食べられなくて衰弱してしまったのかもしれない。
「……先生に話して、せめて手厚く弔ってあげないと。このままじゃ可哀想よ」
リジーは目に涙を浮かべながら、灰褐色の羽を労るように撫でた。
ニュートもショックを隠しきれず、遣る瀬ない気持ちで足元に視線を落とした。
命あるものはやがて死に、新たな生へと命を繋いでいく。
自然界の生き方とは云え、あまりにも無残な、哀しい結末だった――
ふと、ニュートが顔を上げた。
一瞬、枯れ葉がカサカサと擦れ合うような、何かが動くような気配を感じ取ったのだ。
すぐに音は止み、またカサカサと動く、今度ははっきりと聞こえた。
リジーも耳を澄ませ、気配を感じ取ろうと視線を彷徨わせる。
音はすぐ近くで鳴っている。
地面の近くで、何かが身じろぐような気配だ。
ニュートとリジーは目が合うと、ゆっくりと視線を足元に下ろした。
音は確かにヒッポグリフの亡骸から聞こえた。
翼の下に何かいるようだ。
「……ねえ、ニュート、下に何かいるみたいよ」
そうよね?、とリジーが僅かに震える声で問い掛ける。
恐怖に引き攣った表情でゆっくりと後退った。
杖を取り、一歩前に出るとしゃがんで翼の下を覗き込んだ。
何か、小さなふわふわしたものが丸まっているのが見えた。
時折小さく凹んだり膨らんだりしているのを見て呼吸しているのが分かる。
そっと手で包み込むと、ふわふわした灰褐色の羽と感触。
小さな翼と馬の蹄、ヒッポグリフの雛だった。
雛はぐったりとして呼吸は浅く、弱っていたがかろうじてまだ生きていて。
「雛だ、ヒッポグリフの雛だ……!」
リジーが驚きのあまり喉の奥でひゅっと声にならない声を上げた。
「まだ生きてる……助かるかもしれない」
雛を寒くないようにしっかりと懐に抱きかかえた。
「必ず、必ずまた来るから……待っててね……」
後ろ髪を引かれる思いでヒッポグリフの亡骸に別れを告げ、森を後にした。
リジーはこっそりベッドを抜け出して禁じられた森へと向かった。
森の入り口では既にニュートが待ち構えていた。
「誰にも見つからなかった?」
「ええ、みんな寝てるもの、ベッドを抜け出したぐらいじゃ起きない」
二人はぼそぼそと小声で会話した。
「その前に私、謝らなくちゃいけないわね。一人で舞い上がって、勝手に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「なんだ、そんなことか、別に気にしてないよ」
「ほんとに?もうやんなっちゃったりしない?」
「まさか、危険だと思ったらいつでも君を引っ張って逃げるから大丈夫」
リジーはほっと表情を和らげた。
森は不気味なほどに静かで、月の光だけがぼんやりと照らしている。
杖を掲げ明かりを灯すも頼りなく感じられた。
時折風が木々を揺らしてざわめかせる音だけが木霊する。
今は草木も眠っているのか、森全体が息を潜めているようだった。
「いいかい、何があっても僕から離れないで」
森には危険が潜んでいる、何が起こるか分からない。
ニュートが先陣きってリジーの前を歩いた。
歩く度に枯れ葉を踏む音と湿った土の匂いが立ち昇る。
周囲を照らしながら慎重に歩を進めた。
「ニュート、怖い?」
こんな状況にも関わらず、子供みたいに無邪気に尋ねるリジーにニュートは苦笑した。
「思ったより雰囲気があるね」
「私たち、銀行強盗になったみたいじゃない?」
「バレたらどうする?」
「捕まらなきゃ平気よ」
大した勇気の持ち主だ、ニュートは心の中で呟いた。
広い森にしゃくしゃく、と土を踏む二人分の足音だけが響く。
時折足を止め静けさに耳を澄ます。
木々がざわざわと風にざわめく。
見上げると暗い底無し沼が頭上に広がっているようだった。
リジーはニュートの後を追った。
右を見ても左を見ても代わり映えのない景色の中にいると、段々と方向感覚が狂っていく。
真っ直ぐ歩いてきたはずだが、帰り道が分からない。
ニュートはどうやって方向を決めているのだろうか。
時折辺りを警戒しながらもしっかりとした足取りで前を進んでいく。
何か動物的な勘が働いているのか、彼には夜目が効くのか。
しかしその背中は、とても頼もしく感じられた。
――
突然、ニュートがぴたっと足を止めた。
杖を掲げ、暗闇の先を目を凝らしてじっと見つめる。
数メートル先の木の根本に薄ぼんやりと影が伸びていた、何かいる。
足音も立てず、ゆっくりと近づく。
影は段々と輪郭を帯びてやがてはっきりとその姿を現した。
鷲の頭に馬の足を持った生き物が大きな灰褐色の翼を地に広げ生気なく横たわっていた。
――ヒッポグリフだ。
慌てて駆け寄る二人。
しかしその目は固く閉じられたまま、体は冷たくなっており、すでに息絶えていた。
「……足を怪我してる、たぶん狼にやられたんだろう、痛かっただろうに」
ひどく噛まれたせいで傷口が化膿していた。狩りが出来なくなって、充分な餌を食べられなくて衰弱してしまったのかもしれない。
「……先生に話して、せめて手厚く弔ってあげないと。このままじゃ可哀想よ」
リジーは目に涙を浮かべながら、灰褐色の羽を労るように撫でた。
ニュートもショックを隠しきれず、遣る瀬ない気持ちで足元に視線を落とした。
命あるものはやがて死に、新たな生へと命を繋いでいく。
自然界の生き方とは云え、あまりにも無残な、哀しい結末だった――
ふと、ニュートが顔を上げた。
一瞬、枯れ葉がカサカサと擦れ合うような、何かが動くような気配を感じ取ったのだ。
すぐに音は止み、またカサカサと動く、今度ははっきりと聞こえた。
リジーも耳を澄ませ、気配を感じ取ろうと視線を彷徨わせる。
音はすぐ近くで鳴っている。
地面の近くで、何かが身じろぐような気配だ。
ニュートとリジーは目が合うと、ゆっくりと視線を足元に下ろした。
音は確かにヒッポグリフの亡骸から聞こえた。
翼の下に何かいるようだ。
「……ねえ、ニュート、下に何かいるみたいよ」
そうよね?、とリジーが僅かに震える声で問い掛ける。
恐怖に引き攣った表情でゆっくりと後退った。
杖を取り、一歩前に出るとしゃがんで翼の下を覗き込んだ。
何か、小さなふわふわしたものが丸まっているのが見えた。
時折小さく凹んだり膨らんだりしているのを見て呼吸しているのが分かる。
そっと手で包み込むと、ふわふわした灰褐色の羽と感触。
小さな翼と馬の蹄、ヒッポグリフの雛だった。
雛はぐったりとして呼吸は浅く、弱っていたがかろうじてまだ生きていて。
「雛だ、ヒッポグリフの雛だ……!」
リジーが驚きのあまり喉の奥でひゅっと声にならない声を上げた。
「まだ生きてる……助かるかもしれない」
雛を寒くないようにしっかりと懐に抱きかかえた。
「必ず、必ずまた来るから……待っててね……」
後ろ髪を引かれる思いでヒッポグリフの亡骸に別れを告げ、森を後にした。