Ⅰ
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リジー・ヴァンクスという人間は聞き上手の話上手で、何をどう言えば相手が喜ぶか本能的に知っているようだった。
それ故、自然と彼女の周りには人が集まってくるのだ。
ニュートもその一人。
クラスメイトたちと一緒にいる時は、彼女はどこからどう見ても優等生らしく振る舞い、
勉強が出来て面倒見よい先輩として下級生にも慕われていた。
彼は、リジーのような明るくて皆に慕われるような人間がどうして自分に近づいてきたのか今だに分からなかった。
しかし、彼女と過ごすうちに、だんだんとリジー・ヴァンクスという人格も見えてきた。
石橋を叩いて渡るような慎重な性格と裏腹に、如何にもグリフィンドール生らしく、勇敢で少々向こう見ずな一面も持ち合わせているようだ。
「君って、意外とこの手の話好きなんだね」
噂の怪物に荒らされた花壇をじっと覗き込んでいる彼女にニュートは苦笑した。
「コナン・ドイルのファンなの、シャーロック・ホームズって知らない?」
「うーん、知らないな」
「今度貸してあげる、マグルの読み物だけど、最高よ」
ちょっと来て、と手招きされ彼女と同じようにしゃがんで花壇を覗き込んだ。
「見て、足あとが残ってる」
よく見ると土に点々と足あとのような踏み荒らされた跡が残ってる。
「たぶん、馬の蹄の跡かな」
「きっとそうね、あちこち掘り起こしてるけど餌でも探してたのかな」
二人は首を傾げた。
――
次に二人は、例の怪物に襲われたという生徒の元を訪ねた。
「どうしたの?」
医務室の前でため息をつくリジー。
「ううん、何でもない」
「?」
意を決して医務室に足を踏み入れるとマダム・ポンフリーが出迎えた。
「こんにちはマダム、ショーン・フィネガンに会いたいのですが」
「彼なら会えませんよ、絶対安静ですから」
「そんなに悪いんですか?」
「いーえ、腕の骨折だけ、薬を飲めば2,3日で治るような怪我よ、だけど」
ちらっとベッドの方へ視線をやってから声を潜めて言った。
「あなたが来たら騒がしくなりますからね」
リジーはそれだけで納得したようにため息混じりに短く声を上げた。
「どういうこと?」
「ほら、前に話したでしょ?私にしつこく付き纏ってくる人」
そういえば、とニュートは以前図書室であった出来事を思い出した。
「お願いしますマダム、絶対に騒ぎませんから」
お願いします、ともう一度念入りに頼んだ。
「……少しの間だけですよ、騒いだら外に放り出しますからね」
「ありがとうございます!」
ずらりとベッドの並んだ病棟、そのいくつかは白いカーテンで仕切られている。
息を吸い込むたびに消毒薬の匂いが鼻についた。
「ミスター・フィネガン、あなたにお客様ですよ、その代わり騒いだら承知しませんから」
静かにね、と釘を刺してからマダムはまた、忙しくぱたぱたと病棟を出て行った。
カーテンの隙間からリジーが顔を覗かせると、栗色の巻き毛をした小柄な少年がぱあっと顔を輝かせてベッドから飛び起きた。
「リジー!来てくれたんだね!会えて嬉しいよ!」
「こんにちはショーン、具合はどう?」
「最高さ、今なら何でも出来る気がする」
ショーンはうっとりとリジーを見つめた。
「この前はごめんなさい」
「いや、気にしないで、全然いいよ……だれ?」
後からひょっこり顔を出したニュートに訝しげに眉をひそめた。
「ニュートよ、私たちの一つ先輩」
「やあ……よろしく」
「どーも……」
ぎこちなく握手を交わす二人。
ショーンはニュートをじっと上から下まで値踏みするように睨みつけた。
「……ショーン、その怪我って例の怪物に襲われたって本当?」
「そう、大きな鷲みたいなのが急に襲い掛かって来たんだ」
「馬じゃなくて?」
「俺が見たのは間違いなく鷲だったよ、と言っても真っ暗でほとんど何も見えなかったけど。とにかくデカくて、梟みたいに目が金色に光ってた、食い殺されるかと思ったよ」
「どこで襲われたの?」
「森だよ、怪物の噂を聞いて夜中にみんなで肝試しに行った時に。
……先生には内緒にしてくれよ、入り口からちょっとしか入ってないし」
「森、か……」
ニュートが小さく呟いた。
顎に手を当てて思案を巡らす。
「ショーンありがとう、お大事にね」
「え、もう行くの」
名残惜しそうにするショーン。
「マダムに追い出される前に行かなきゃ、じゃあね」
元通りカーテンを閉じて立ち去ろうとするとショーンが「待って!」と声を上げた。
「あ、あのさ」
「なに?」
周囲を気にしながら声を潜めて言った。
「シエナのことだけど、」
「シエナ?彼女がどうかしたの?」
「え?」
リジーが首を傾げた。
「え?あ、知らない?」
「何を?」
「あー……ならいいんだ、別に、気にしないで」
「そう?」
首を傾げつつ立ち去ろうとするとショーンが後ろから声を掛けた。
「あの!俺に出来ることがあれば、いつでも言って!」
「……うん、ありがとうショーン」
振り返ってショーンに手を振り、ニュートの後を追って病棟を後にした。
それ故、自然と彼女の周りには人が集まってくるのだ。
ニュートもその一人。
クラスメイトたちと一緒にいる時は、彼女はどこからどう見ても優等生らしく振る舞い、
勉強が出来て面倒見よい先輩として下級生にも慕われていた。
彼は、リジーのような明るくて皆に慕われるような人間がどうして自分に近づいてきたのか今だに分からなかった。
しかし、彼女と過ごすうちに、だんだんとリジー・ヴァンクスという人格も見えてきた。
石橋を叩いて渡るような慎重な性格と裏腹に、如何にもグリフィンドール生らしく、勇敢で少々向こう見ずな一面も持ち合わせているようだ。
「君って、意外とこの手の話好きなんだね」
噂の怪物に荒らされた花壇をじっと覗き込んでいる彼女にニュートは苦笑した。
「コナン・ドイルのファンなの、シャーロック・ホームズって知らない?」
「うーん、知らないな」
「今度貸してあげる、マグルの読み物だけど、最高よ」
ちょっと来て、と手招きされ彼女と同じようにしゃがんで花壇を覗き込んだ。
「見て、足あとが残ってる」
よく見ると土に点々と足あとのような踏み荒らされた跡が残ってる。
「たぶん、馬の蹄の跡かな」
「きっとそうね、あちこち掘り起こしてるけど餌でも探してたのかな」
二人は首を傾げた。
――
次に二人は、例の怪物に襲われたという生徒の元を訪ねた。
「どうしたの?」
医務室の前でため息をつくリジー。
「ううん、何でもない」
「?」
意を決して医務室に足を踏み入れるとマダム・ポンフリーが出迎えた。
「こんにちはマダム、ショーン・フィネガンに会いたいのですが」
「彼なら会えませんよ、絶対安静ですから」
「そんなに悪いんですか?」
「いーえ、腕の骨折だけ、薬を飲めば2,3日で治るような怪我よ、だけど」
ちらっとベッドの方へ視線をやってから声を潜めて言った。
「あなたが来たら騒がしくなりますからね」
リジーはそれだけで納得したようにため息混じりに短く声を上げた。
「どういうこと?」
「ほら、前に話したでしょ?私にしつこく付き纏ってくる人」
そういえば、とニュートは以前図書室であった出来事を思い出した。
「お願いしますマダム、絶対に騒ぎませんから」
お願いします、ともう一度念入りに頼んだ。
「……少しの間だけですよ、騒いだら外に放り出しますからね」
「ありがとうございます!」
ずらりとベッドの並んだ病棟、そのいくつかは白いカーテンで仕切られている。
息を吸い込むたびに消毒薬の匂いが鼻についた。
「ミスター・フィネガン、あなたにお客様ですよ、その代わり騒いだら承知しませんから」
静かにね、と釘を刺してからマダムはまた、忙しくぱたぱたと病棟を出て行った。
カーテンの隙間からリジーが顔を覗かせると、栗色の巻き毛をした小柄な少年がぱあっと顔を輝かせてベッドから飛び起きた。
「リジー!来てくれたんだね!会えて嬉しいよ!」
「こんにちはショーン、具合はどう?」
「最高さ、今なら何でも出来る気がする」
ショーンはうっとりとリジーを見つめた。
「この前はごめんなさい」
「いや、気にしないで、全然いいよ……だれ?」
後からひょっこり顔を出したニュートに訝しげに眉をひそめた。
「ニュートよ、私たちの一つ先輩」
「やあ……よろしく」
「どーも……」
ぎこちなく握手を交わす二人。
ショーンはニュートをじっと上から下まで値踏みするように睨みつけた。
「……ショーン、その怪我って例の怪物に襲われたって本当?」
「そう、大きな鷲みたいなのが急に襲い掛かって来たんだ」
「馬じゃなくて?」
「俺が見たのは間違いなく鷲だったよ、と言っても真っ暗でほとんど何も見えなかったけど。とにかくデカくて、梟みたいに目が金色に光ってた、食い殺されるかと思ったよ」
「どこで襲われたの?」
「森だよ、怪物の噂を聞いて夜中にみんなで肝試しに行った時に。
……先生には内緒にしてくれよ、入り口からちょっとしか入ってないし」
「森、か……」
ニュートが小さく呟いた。
顎に手を当てて思案を巡らす。
「ショーンありがとう、お大事にね」
「え、もう行くの」
名残惜しそうにするショーン。
「マダムに追い出される前に行かなきゃ、じゃあね」
元通りカーテンを閉じて立ち去ろうとするとショーンが「待って!」と声を上げた。
「あ、あのさ」
「なに?」
周囲を気にしながら声を潜めて言った。
「シエナのことだけど、」
「シエナ?彼女がどうかしたの?」
「え?」
リジーが首を傾げた。
「え?あ、知らない?」
「何を?」
「あー……ならいいんだ、別に、気にしないで」
「そう?」
首を傾げつつ立ち去ろうとするとショーンが後ろから声を掛けた。
「あの!俺に出来ることがあれば、いつでも言って!」
「……うん、ありがとうショーン」
振り返ってショーンに手を振り、ニュートの後を追って病棟を後にした。