Ⅲ
夢小説設定
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「……秘密を打ち明けっこしましょう」
じっと黙りこくったまましばらく頭を抱えていたリジーは深く息をついてから、顔をあげずに辟易と呟く。
「……そうね、そうした方がよさそう。わたしも話したいことがあったの……」
クイニーはちらりと目線だけで一瞥してから憂鬱そうにため息をついた。
こういう場面は過去にも経験したことがある。
いつかは打ち明けなければ、と思いながらも出来れば一生その日が来ないことを何度も何度も心の中で願っていた。
仲良くなればなるほど言えないことが多くなっていく、この関係がいつまでも残るようにと身構えて口を噤む。
かと言って気を許した途端、わたしが"思っていた通りの人"でなくなった途端にみんな離れていく。
最初は物珍しさに心惹かれても、どんなに馬があって親しい人間同士でも時に様々な感情が飛び交う。それが全て筒抜けになっていることにお互い窮屈になってくるのだ。
たまたま虫の居所が悪かったり、疲れていたりしたのが悪くてもたった一度の悪意で人間関係は複雑になってしまう。
誰だって言いたくない秘密の一つや二つはある、それに大抵の人は争いを避けていい人でいたいと思っている。
クイニーは一拍置いて生ぬるいため息とともに口を開いた。
「わたし、実はね……人の心が読めちゃうの」
「……レジメンターってこと?」
訝しげにリジーは尋ねた、クイニーは恐る恐る小さく頷く。
リジーはふと、学生時代のことを思い出していた。
かつて自分も、ニュートにマグル生まれだと打ち明けるのを躊躇ったこと。
なぜ私だけがこんな思いをしなければいけないのかと何度も何度も自問自答し、自分の生まれを呪うことさえあった。
あの時から一人が怖くなって、幼いながらに人を疑うことを覚えた。
あの時の苦い経験は今も胸の奥に淀んでる。
時が経てば経つほど、愛着が湧くほど打ち明けるのには勇気がいる。
今まで気づきあげてきた信頼や友情をすべてぶち壊しにしてしまうかもしれないというリスク。
何も知らない人と一緒にいるのは確かに心地がいい、そこに一線があるから。
彼女もきっと同じだった、わたしと同じ。
平凡で無知な振りと、魅力的な笑顔で彼女は自分自身を守っていたのだ。
リジーはふっと微笑んで、何事もなかったかのように紅茶を一口すすった。
「そうだったのね」
ほんの少しだけ、クイニーはリジーの過去を垣間見た。
その一言に何かが救われた気がした。
「そう……だから、あなたがグレイブス長官のことをモリアーティ教授って心の中で呼んでるのも知ってるし――」
「あら、いやだ」
「――フィアンセの彼じゃなくて車のことをダーリンって呼んでるのも知ってるわ」
「絶対内緒よ?」
「ええ、もちろん。誰にも言わないわ」
クイニーはそっと滲む涙を拭う。安堵と喜びの涙だった。
リジーは恐る恐る言いにくそうに唇を歪めさせる。
「あのね、クリスマスだけど……泊まりで行くとなるとちょっと問題があって……うち、猫がいるの……」
「……猫?」
「ヘイミッシュ、ここのところ調子悪くて……もちろん、許可は取ってあるわよ!でもその……申請が通るまでに何ヶ月掛かるか分からないって言うもんだから……どうしても置いて行けなくて……船で一緒に連れてきちゃった。だからまだ内緒なの」
要するに無許可で不法に持ち込んだ猫だ、第3条のAに該当する。
闇祓いのリジーが、ティナならばきっと渋い顔をしたことだろう。
でも、クイニーはなんだかおかしくなってきて笑ってしまった。
けれど同時に、彼女がどうして結婚の約束までしておいて一人アメリカに来たのか。
英国で婚約者を待つという選択肢はなかったのか。
その答えを得た気がした。
生まれながらにして光るものを持った人がこの世界にはたくさんいる。
リーダーシップがあって、努力家で、器用で、人を惹きつけ、目立つ人に愛されて広い場所で一緒にいる人たち。
人から見た自分と、自分から見た自分は大抵違うものだけど、リジーは愛される人の方だ。
生まれた時からたくさん愛されて、大切にされて育ったのだろう。
けれど、魔法使いとしては違った。
家族からもそれまで生きてきた世界からも切り離されて、孤独と不安が彼女を変えてしまった。
いつも笑顔で、親切であることだけではいけないのだと。
誰からも愛される人でいないと誰からも愛されなくなってしまう。
故郷はリジーにとってあまり居心地のいい場所ではなかったのだろう。
限られた愛してくれる人たちだけでは、彼女の不安は満たされなかった。
それぐらい"彼"のいない喪失は大きくてきっと、それぐらい二人は愛し合っているのだ。
じっと黙りこくったまましばらく頭を抱えていたリジーは深く息をついてから、顔をあげずに辟易と呟く。
「……そうね、そうした方がよさそう。わたしも話したいことがあったの……」
クイニーはちらりと目線だけで一瞥してから憂鬱そうにため息をついた。
こういう場面は過去にも経験したことがある。
いつかは打ち明けなければ、と思いながらも出来れば一生その日が来ないことを何度も何度も心の中で願っていた。
仲良くなればなるほど言えないことが多くなっていく、この関係がいつまでも残るようにと身構えて口を噤む。
かと言って気を許した途端、わたしが"思っていた通りの人"でなくなった途端にみんな離れていく。
最初は物珍しさに心惹かれても、どんなに馬があって親しい人間同士でも時に様々な感情が飛び交う。それが全て筒抜けになっていることにお互い窮屈になってくるのだ。
たまたま虫の居所が悪かったり、疲れていたりしたのが悪くてもたった一度の悪意で人間関係は複雑になってしまう。
誰だって言いたくない秘密の一つや二つはある、それに大抵の人は争いを避けていい人でいたいと思っている。
クイニーは一拍置いて生ぬるいため息とともに口を開いた。
「わたし、実はね……人の心が読めちゃうの」
「……レジメンターってこと?」
訝しげにリジーは尋ねた、クイニーは恐る恐る小さく頷く。
リジーはふと、学生時代のことを思い出していた。
かつて自分も、ニュートにマグル生まれだと打ち明けるのを躊躇ったこと。
なぜ私だけがこんな思いをしなければいけないのかと何度も何度も自問自答し、自分の生まれを呪うことさえあった。
あの時から一人が怖くなって、幼いながらに人を疑うことを覚えた。
あの時の苦い経験は今も胸の奥に淀んでる。
時が経てば経つほど、愛着が湧くほど打ち明けるのには勇気がいる。
今まで気づきあげてきた信頼や友情をすべてぶち壊しにしてしまうかもしれないというリスク。
何も知らない人と一緒にいるのは確かに心地がいい、そこに一線があるから。
彼女もきっと同じだった、わたしと同じ。
平凡で無知な振りと、魅力的な笑顔で彼女は自分自身を守っていたのだ。
リジーはふっと微笑んで、何事もなかったかのように紅茶を一口すすった。
「そうだったのね」
ほんの少しだけ、クイニーはリジーの過去を垣間見た。
その一言に何かが救われた気がした。
「そう……だから、あなたがグレイブス長官のことをモリアーティ教授って心の中で呼んでるのも知ってるし――」
「あら、いやだ」
「――フィアンセの彼じゃなくて車のことをダーリンって呼んでるのも知ってるわ」
「絶対内緒よ?」
「ええ、もちろん。誰にも言わないわ」
クイニーはそっと滲む涙を拭う。安堵と喜びの涙だった。
リジーは恐る恐る言いにくそうに唇を歪めさせる。
「あのね、クリスマスだけど……泊まりで行くとなるとちょっと問題があって……うち、猫がいるの……」
「……猫?」
「ヘイミッシュ、ここのところ調子悪くて……もちろん、許可は取ってあるわよ!でもその……申請が通るまでに何ヶ月掛かるか分からないって言うもんだから……どうしても置いて行けなくて……船で一緒に連れてきちゃった。だからまだ内緒なの」
要するに無許可で不法に持ち込んだ猫だ、第3条のAに該当する。
闇祓いのリジーが、ティナならばきっと渋い顔をしたことだろう。
でも、クイニーはなんだかおかしくなってきて笑ってしまった。
けれど同時に、彼女がどうして結婚の約束までしておいて一人アメリカに来たのか。
英国で婚約者を待つという選択肢はなかったのか。
その答えを得た気がした。
生まれながらにして光るものを持った人がこの世界にはたくさんいる。
リーダーシップがあって、努力家で、器用で、人を惹きつけ、目立つ人に愛されて広い場所で一緒にいる人たち。
人から見た自分と、自分から見た自分は大抵違うものだけど、リジーは愛される人の方だ。
生まれた時からたくさん愛されて、大切にされて育ったのだろう。
けれど、魔法使いとしては違った。
家族からもそれまで生きてきた世界からも切り離されて、孤独と不安が彼女を変えてしまった。
いつも笑顔で、親切であることだけではいけないのだと。
誰からも愛される人でいないと誰からも愛されなくなってしまう。
故郷はリジーにとってあまり居心地のいい場所ではなかったのだろう。
限られた愛してくれる人たちだけでは、彼女の不安は満たされなかった。
それぐらい"彼"のいない喪失は大きくてきっと、それぐらい二人は愛し合っているのだ。