テディベア
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今日も一日よく働いて、魔法省を出て、夕飯の買い物をして、家に着いたのが夜の7時。
毎度のことながら、玄関の前で鞄の中身をガサガサひっくり返して小さな鍵を探す。
音は鳴ってるのに一向に見つからないのはどうしてだろう。
すぐどっか行っちゃうし、表か裏か分かりづらいし、チャラチャラしてるし、どうにも相性が合わない。
鞄の奥にしれっと落ちてたのをやっと見つけて、開けたドアの隙間から体を中へ滑り込ませる。
真っ暗な部屋で杖を取り出し、魔法で明かりを灯す。
パッと明るくなった我が家で、真っ先に帰りを出迎えてくれたのは、巨大なクマだった。
「……何これ」
ソファをどっかり陣取る巨大なテディベア、米国の愛すべき我が友人、ジェイコブ・コワルスキーサイズと言えば、お分かりいただけるだろうか。
二人掛け、詰めれば大人四人が座れる大きなソファの半分を埋めつくす圧倒的存在感。
もしかしたらジェイコブの方がもう少しコンパクトだったかもしれない、今度会ったら謝っておこう。
クマの隣に置かれた小さなカードには見覚えのある筆跡で「誕生日じゃない日、おめでとう!」と書かれていた。
犯人が分かった、今度は一体何のつもりだ。
大きなクマを抱えてわざわざ部屋に運び込む姿を想像して、思わず笑みが溢れる。
「ニュート……いるんでしょー?!何なのもう……ちょっとこの子大きすぎなあい?」
毛足の長いアンティークゴールドのモヘアを手のひらで撫でる、思いの外ふわふわとした触り心地に病みつきになりそう。
「ニュートー?もう分かってるんだから出てきなさいよー!」
しーんと静まりかえった家の中は物音一つ響かず、気配も感じない。
いないのかな、買い物にでも出かけてるのかも。
とりあえず夕飯の準備でもしておくか、とコートを脱いで支度に取り掛かる。
ふと背後に視線を感じて振り向くと、小さな黒いビーズの瞳と目が合う。
「……」
何とはなしに、クマの鼻先を指でぶにゅっと押しつぶす。
ふわふわした薄茶色と、首元で結えられた少し歪な形の青いリボンが、どうしようもなく愛おしさがふつふつと湧き上がってくる。
結び直してあげるべきか迷って、何となくそのままにしておくことにした。
今は夜、家にはわたし一人、そして目の前には大きなクマ。
靴を脱いで、夕飯の支度もそっちのけ。ふかふかのモヘアのお腹に飛びこんで抱きついた。
「んっふふふ、あんたちょっと太りすぎよ、くまちゃん」
……仕事終わりで、ちょっと疲れてたんだと思う。
この時のわたしは正直、かなりどうかしていたと自分でもそう思う。
疲れと眠気と空腹とで、わたしの知能指数はもはやマイナスまで振り切っていた。
「……ニュート?え、ちょっと、うそでしょ?ニュートなの……?」
丸っこい耳を触って、丸太みたいな太い手を掴んで、最終的にはほっぺたをムギュっと鷲づかんでビーズの瞳を覗き込む。
ニュートだ……間違いない、このクマはニュートだ!
何をもって確信としたのかは分からないが、目の前のテディベアが「何らかの理由により姿を変えられたニュート」にしか見えなくなっていた。
「ニュート……!まあ!何があったの?!誰がこんな酷いことを……!ねえ何とか言ってよ!」
ニュートはうんとすんとも答えない。
当然だ、彼は今テディベアなのだから。
にわかにあり得ないと心のどこかで思いつつも、もしかしたら……変身術に失敗したのかもしれない。
動物たちともっと仲良くなりたいとか、どうやって意思疎通してるのか知りたいとか……なんかそういう実験で動物に変身しようとしたんだけど……とか。
実験で新しい薬の調合中に、間違って頭から浴びて……とか。
無機質な人工物で作られたビーズの瞳が、モヘアに針と糸で縫いつけただけの瞳が、ものを言えなくなった体で何かを訴えかけてるように見つめていた。
――
一方ニュートは、リジーと二人で食べようと買ったケーキを、揺らさないように慎重に腕に抱き抱えて、「そろそろ帰ってるかな」と時計を気にしながら家の前に姿現しをしたところだった。
「幻の動物とその生息地」の調査に出てから、調査続きで会えない時間を埋め合わせるように、たまの休みにサプライズでプレゼントを買って帰るのが常となっていた。
しかしあのクマを部屋に運ぶのはさすがに骨が折れた。
どんな顔をするかな、「ちょっと大きすぎるわ」なんて言いながらも嬉しそうに笑うリジーの笑顔を思い浮かべる。
ドアを開けて、案の定明かりの灯った部屋の中をこっそり様子を伺う。
帰ってきて一番に目にした光景は、力いっぱいクマを抱きしめて涙を流すリジーと、押しつぶされた哀れなクマだった。
「ああっ、かわいそうなニュート……っ!こんな、こんなくまちゃんになっちゃって……わたしが必ず人間に戻してあげるから、動物たちのことは安心してわたしに任せてね……!」
呆然と空を見つめるクマと目が合う。
予想外の自体にニュートも同じだった。
「ただいま……」
ぽろっと溢れた言葉は床に落ちて、小さく弾んでころころと転がって、ソファの下でぴたりと止まった。
「お、おかえりなさい……」
リジーは幽霊でも見たみたいな顔をして、ニュートを見て、クマを見て。
さあっと青ざめて、微動だにしなくなった。
「なにしてたの?リジー」
にやり、ニュートが意地悪く笑む。
真っ赤になりながら顔を覆って「オブリビエイトして」と呟く彼女に、ニュートはにんまり笑みを濃くして「絶対いやだ」と頭のてっぺんにキスをした。
end.
毎度のことながら、玄関の前で鞄の中身をガサガサひっくり返して小さな鍵を探す。
音は鳴ってるのに一向に見つからないのはどうしてだろう。
すぐどっか行っちゃうし、表か裏か分かりづらいし、チャラチャラしてるし、どうにも相性が合わない。
鞄の奥にしれっと落ちてたのをやっと見つけて、開けたドアの隙間から体を中へ滑り込ませる。
真っ暗な部屋で杖を取り出し、魔法で明かりを灯す。
パッと明るくなった我が家で、真っ先に帰りを出迎えてくれたのは、巨大なクマだった。
「……何これ」
ソファをどっかり陣取る巨大なテディベア、米国の愛すべき我が友人、ジェイコブ・コワルスキーサイズと言えば、お分かりいただけるだろうか。
二人掛け、詰めれば大人四人が座れる大きなソファの半分を埋めつくす圧倒的存在感。
もしかしたらジェイコブの方がもう少しコンパクトだったかもしれない、今度会ったら謝っておこう。
クマの隣に置かれた小さなカードには見覚えのある筆跡で「誕生日じゃない日、おめでとう!」と書かれていた。
犯人が分かった、今度は一体何のつもりだ。
大きなクマを抱えてわざわざ部屋に運び込む姿を想像して、思わず笑みが溢れる。
「ニュート……いるんでしょー?!何なのもう……ちょっとこの子大きすぎなあい?」
毛足の長いアンティークゴールドのモヘアを手のひらで撫でる、思いの外ふわふわとした触り心地に病みつきになりそう。
「ニュートー?もう分かってるんだから出てきなさいよー!」
しーんと静まりかえった家の中は物音一つ響かず、気配も感じない。
いないのかな、買い物にでも出かけてるのかも。
とりあえず夕飯の準備でもしておくか、とコートを脱いで支度に取り掛かる。
ふと背後に視線を感じて振り向くと、小さな黒いビーズの瞳と目が合う。
「……」
何とはなしに、クマの鼻先を指でぶにゅっと押しつぶす。
ふわふわした薄茶色と、首元で結えられた少し歪な形の青いリボンが、どうしようもなく愛おしさがふつふつと湧き上がってくる。
結び直してあげるべきか迷って、何となくそのままにしておくことにした。
今は夜、家にはわたし一人、そして目の前には大きなクマ。
靴を脱いで、夕飯の支度もそっちのけ。ふかふかのモヘアのお腹に飛びこんで抱きついた。
「んっふふふ、あんたちょっと太りすぎよ、くまちゃん」
……仕事終わりで、ちょっと疲れてたんだと思う。
この時のわたしは正直、かなりどうかしていたと自分でもそう思う。
疲れと眠気と空腹とで、わたしの知能指数はもはやマイナスまで振り切っていた。
「……ニュート?え、ちょっと、うそでしょ?ニュートなの……?」
丸っこい耳を触って、丸太みたいな太い手を掴んで、最終的にはほっぺたをムギュっと鷲づかんでビーズの瞳を覗き込む。
ニュートだ……間違いない、このクマはニュートだ!
何をもって確信としたのかは分からないが、目の前のテディベアが「何らかの理由により姿を変えられたニュート」にしか見えなくなっていた。
「ニュート……!まあ!何があったの?!誰がこんな酷いことを……!ねえ何とか言ってよ!」
ニュートはうんとすんとも答えない。
当然だ、彼は今テディベアなのだから。
にわかにあり得ないと心のどこかで思いつつも、もしかしたら……変身術に失敗したのかもしれない。
動物たちともっと仲良くなりたいとか、どうやって意思疎通してるのか知りたいとか……なんかそういう実験で動物に変身しようとしたんだけど……とか。
実験で新しい薬の調合中に、間違って頭から浴びて……とか。
無機質な人工物で作られたビーズの瞳が、モヘアに針と糸で縫いつけただけの瞳が、ものを言えなくなった体で何かを訴えかけてるように見つめていた。
――
一方ニュートは、リジーと二人で食べようと買ったケーキを、揺らさないように慎重に腕に抱き抱えて、「そろそろ帰ってるかな」と時計を気にしながら家の前に姿現しをしたところだった。
「幻の動物とその生息地」の調査に出てから、調査続きで会えない時間を埋め合わせるように、たまの休みにサプライズでプレゼントを買って帰るのが常となっていた。
しかしあのクマを部屋に運ぶのはさすがに骨が折れた。
どんな顔をするかな、「ちょっと大きすぎるわ」なんて言いながらも嬉しそうに笑うリジーの笑顔を思い浮かべる。
ドアを開けて、案の定明かりの灯った部屋の中をこっそり様子を伺う。
帰ってきて一番に目にした光景は、力いっぱいクマを抱きしめて涙を流すリジーと、押しつぶされた哀れなクマだった。
「ああっ、かわいそうなニュート……っ!こんな、こんなくまちゃんになっちゃって……わたしが必ず人間に戻してあげるから、動物たちのことは安心してわたしに任せてね……!」
呆然と空を見つめるクマと目が合う。
予想外の自体にニュートも同じだった。
「ただいま……」
ぽろっと溢れた言葉は床に落ちて、小さく弾んでころころと転がって、ソファの下でぴたりと止まった。
「お、おかえりなさい……」
リジーは幽霊でも見たみたいな顔をして、ニュートを見て、クマを見て。
さあっと青ざめて、微動だにしなくなった。
「なにしてたの?リジー」
にやり、ニュートが意地悪く笑む。
真っ赤になりながら顔を覆って「オブリビエイトして」と呟く彼女に、ニュートはにんまり笑みを濃くして「絶対いやだ」と頭のてっぺんにキスをした。
end.
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