Turquoise

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耳元でばちん、何かが爆ぜたような大きな音がした。
頬が熱くなってじんじん痛くなってきて、やっと｢叩かれたんだ｣と気づいた。
あまりにも一瞬の出来事で、リジーはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
どうしていいか分からず、突き刺すような熱に戸惑う。
誰かに頬を叩かれるなんてはじめて。
これまでに打たれるような悪さをしたことないし、幸いなことに理由もなく打つような大人もいなかったから。
まさかデートに遅れたからって彼氏に叩かれるなんて思ってもみなかったけど。
口の中で唾が増したような、ぬるりとした感触に口端を指で拭うと血が出ていた。
｢……帰る｣と一言、それが精一杯だった。
踵を返し逃げるように早足で来た方向へ歩いていくと、後ろから追いかけてきた彼に手首を掴まれた。
引っ張られた腕がみしりと嫌な音を立てる。
今さら謝罪なんて聞きたくもないと、掴まれた手を振り払い、思いきり走って逃げた。
何度も後ろを振り返りながら、なんとか寮までたどり着く。
彼氏なのに、恋人同士なのに、追いかけてきたらどうしようと恐怖した。
寮の合言葉がわりに手早く樽を2回叩いて、扉が現れるのも焦れったく思いながら、開いた隙間から素早く体を中へ滑り込ませる。
後ろ手に扉を閉めて、やっと一息つけた。
談話室には人の気配がなく、時計の音が静かに響き、暖かな日差しが部屋の中をちょうどよく温めていた。
ほっとしたら力が抜けて、誰もいないのをいいことにそのまま床に座り込む。
頬と腕がじんじんして、口の中は切れた箇所がピリピリして、ヒールの高い新しい靴は靴ズレしていた。
靴も鞄も何もかも放り投げて膝を抱えて丸くなる。
あちこち痛くて、とにかく悲しくて、涙が溢れた。

その日、ニュートは週末だからといってどこかに出掛けるわけでもなく、寮の自分のベッドで二フラーと一緒に一日中過ごすつもりだった。
ふと誰かのすすり泣く声がして、恐る恐る談話室を見に行って、泣いているのが幼馴染みのリジーだと気づくと目をみはった。
彼女の頬は不自然に赤く腫れて、明らかに誰かに打たれた跡が残っている。
彼女のあわれな姿を見てニュートは愕然とした、幼い時から妹のように思ってきた、好きな女の子が頬を打たれて泣いて帰ってきたのだ。
ニュートの姿を見て｢なんでいるのよ｣と言わんばかりにリジーは余計に泣き出してしまった。
彼女からしたら、この幼馴染みこそ今一番会いたくない人間の第1位だった。
泣き腫らした惨めな顔を見られたくなかった、心の中で密かに好きな人だったから。
ニュートは跪いて、恐る恐るリジーの肩を抱き寄せて腕の中に閉じ込めた。
子供の頃に戻ったみたい、泣きじゃくるリジーを抱きしめて慰めた懐かしい思い出が蘇る。
同い年で自分よりも少し背が高いのが自慢だった彼女は、いつの間にか小さくなってしまったみたいだった。
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