あべこべ
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僕の彼女は、朝が弱い。
早く起きなきゃいけない時は起床の一時間前から十分おきに目覚ましが鳴る。
でもその度にちゃんと一瞬だけハッと起きて、止めて、また寝るから面白い。
寝ながら何回鳴ったかを数えていて「あと何回で起きなきゃいけない」と徐々に目を覚ましていくらしい。そんなことするくらいなら一回で起きればいいのに、と思ったけどそういうわけでもないというのだ。
仕方ないから僕は、三回目の目覚ましがなる前には朝食を作りにベッドから起き上がる。
お湯を沸かして、卵とベーコンを焼いて、パンが焼ける頃にトースターの音でのそのそとリジーが起きてくる。「おはよ」と言う声はまだ少し呂律が回っていない。
僕は朝型で、彼女は夜型。
僕はパブへ朝食を食べに行こうと誘うけど、彼女は今夜の晩ご飯はどこかへ出かけようと言う。
だから間をとって、外食はランチにするのがベストだ。
天気が晴れたからといって、無理に出かける予定を立てなくてもいい。
家でのんびり本を読んだり、おやつを食べたり、動物たちとふれ合うのも僕たちは好きだ。
リジーは休日の朝はゆっくり過ごしたいし、それに僕は出先で留守番している動物たちの心配をせずに済む。
僕たちの時計はあべこべに進んでいるけど、実際それがちょうどいい具合にぴったりと合っている。
その日、ニュートは珍しく朝寝坊をした。
昨夜は遅くまで深酒をしたせいだ、リジーと二人でジェンガをしたら思いのほか白熱し、夜中まで盛り上がってしまったのだ。調子に乗ってとっておきのワインを二本開けた。
時計を見たら午前十時を少し回ったところだった。
別に休みだし、大した予定もないし、今日くらい二度寝したって構わない。でもきっと動物たちが腹を空かして、今か今かとニュートが降りてくるのを待っている。
仕方ないからやっとの思いでもぞもぞと起き上がり、シーツの上に座ってしばらくボーッと目を覚ます。
――ふと隣を見たら、自分が寝ていた、
「……???」
???
起き抜けの靄がかかった頭で状況把握に務めようとしたが、いくら考えても首を傾げるばかり。
当の本人(?)はスヤスヤ寝息を立てて気持ちよさそうに眠っておられる、自分の寝顔を見る機会なんてまずないから何となく格好悪い。
それよりもリジーはどこへ?隣で寝ていたはずの彼女がいつのまにか野郎に変わってる。
リジー、名前を呼ぼうとした時ニュートはある事に気がついた。
――声が、変。
変、というか高い、というか。明らかにおかしい。
そしてニュートは恐る恐る鏡の前に駆け寄り、自分の姿を見た。
鏡に映る自分の姿は、紛れもなくリジーであった。
「えええええ!」と、ニュートは心の中で叫んだ。
実際のところ彼女の体は夜更かしからくる疲労プラス低血圧と、昨夜呑んだアルコールのせいで叫ぶほどの元気は残ってなかった。正直、いつも以上に体が重い。
見た目はリジーだが、中身は間違いなくニュートのままだ。ニュートの本体はまだベッドの中で眠っている。
ニュートはまじまじと鏡を見つめながらどうしようもない好奇心に駆られ、そっと自分の胸に手を触れた。
服の上から柔らかい感触が指先に伝わってくる、女性の体とはこうも違うのかと改めて感慨に浸りそうになり、今はそんなことしてる場合じゃないと断腸の思いで手を離す。
「リジー、ねえちょっと、起きてよ。大変なんだ」
ニュートはとりあえずリジー(?)を揺り起こす。
これでもし自分と入れ替わったのが彼女じゃなくてどこかの野郎だったら、よもやテセウスだったりしたらどうしようかと一瞬考える。
のそのそと起き上がった自分が、寝起きのぼんやりした低い声で「あれ……わたしじゃん……」と呟いたことによりそれは杞憂に終わった。
「うわ、声ガッラガラ……酒灼けひど……」
軽く咳払いをしてから、そこで初めてリジーは体の違和感に気がつく。
声が低い、手が大きい、そして何よりいつもよりも体が軽い!
昨夜の疲れはまだ多少あるものの、朝型人間のニュートの体は朝の方が調子がよいのだ。
ホッと安堵しつつ、二人で覚えている限りの記憶を擦り合わせながら昨夜の出来事を振り返る。
が、二人ともなぜこうなってしまったのか全く心当たりがなかった。酔った勢いでポリジュース薬をうっかり飲み干したというのなら話は別だが。
そもそも二本目のボトルを開けたところまではうっすら覚えている、けれどどうやってベッドまでたどり着いたのか記憶にない。
「……まあ、考えても仕方ないし、一日経てば元に戻るでしょ。とりあえず動物たちの様子見に行かないとでしょ?その前に、シャワー浴びたい」
「え、待って。この状態で?」
「他に方法あるの?」
「えー、だって、ええ……なんでそんな冷静なの……」
「どうせ二人とも休みだし、一日くらい大丈夫だって~。ほんと今日が日曜日で良かったね、わたしはいいけどニュート、闇祓いの仕事してって言われたら困るでしょ」
「困る」
いつものほわほわした調子で笑いながら、リジーはベッドから立ち上がろうとした。その時ハッとニュートはある事を思い出し、咄嗟に彼女を制する。
「待って!待って待って待って……ちょっと待って」
「なに、どうしたの急に」
「いや……やっぱり僕、使えそうな薬がないか一回調べてくるから、ちょっと待ってて」
「OK、じゃあゆっくりお風呂入りながら待ってる」
「いや、そうじゃなくってね……リジー、お願いだからここで待ってて、今きみに動かれるとちょっと困ることがあるんだ……」
昨夜はワインをたくさん飲んだ、だからきっと大丈夫だとは思うけどそうじゃなかった場合、ニュートはきっと今すぐ窓から身を転じて死にたくなるだろう。
リジーは知らない、男には朝ベッドから出られない事情があるという事を。なぜなら彼女は女の子だから。
リジーは知らない、知識としては知っていたとしても本質的に男がどういう生き物であるかを彼女は知らない。
「分かった分かった、心配しなくても大丈夫、わたしをなんだと思ってるの?魔法省のエリート、未来の英国のせラフィーナ・ピッカリーよ?何が起きても対処できるから、早く動物たちのところ行ってあげて」
低血圧から解放され、なおかつ外は天気のいい素晴らしい朝を迎えられたせいか、リジーはいつもより気分がいいらしかった。
自信たっぷりの爽やかな笑顔で立ち上がったその笑顔は、どこか実の兄を思わせる面影があり、ニュートはなんとも言えない複雑な気持ちになる。
幸いなことに事なきを得ていたようで、それと同時にニュートは心底安堵のため息をついた。
こうなってしまった以上、下手に薬に頼るよりもとりあえず元に戻るのを待って様子を見るのが懸命だ。鼻歌交じりにシャワーへと消えていく自身の背中を見送りながら、ニュートは座ってため息をつくことしか出来なかった。
「シャワー……シャワーかあ……」
彼女はなぜあんなに冷静に受け入れられるのか、普通少しは取り乱したりするものじゃないのか。
そこへリジーがまた戻ってきて扉の影から少し顔を覗かせて、少女みたいにケタケタ笑って言った。
「わたしの身体で変な気起こさないでね?ダーリン」
ああ、その言葉は元に戻ってから言ってくれとニュートは残念でならない。
彼女の鈴を転がすように柔らかい声とは程遠い自身の声でそれを聞いても、少しも嬉しくない。
けれど先程黙って体に触れたことはやっぱり秘密にしておこうと、彼はひっそりと心に決めたのだった。
早く起きなきゃいけない時は起床の一時間前から十分おきに目覚ましが鳴る。
でもその度にちゃんと一瞬だけハッと起きて、止めて、また寝るから面白い。
寝ながら何回鳴ったかを数えていて「あと何回で起きなきゃいけない」と徐々に目を覚ましていくらしい。そんなことするくらいなら一回で起きればいいのに、と思ったけどそういうわけでもないというのだ。
仕方ないから僕は、三回目の目覚ましがなる前には朝食を作りにベッドから起き上がる。
お湯を沸かして、卵とベーコンを焼いて、パンが焼ける頃にトースターの音でのそのそとリジーが起きてくる。「おはよ」と言う声はまだ少し呂律が回っていない。
僕は朝型で、彼女は夜型。
僕はパブへ朝食を食べに行こうと誘うけど、彼女は今夜の晩ご飯はどこかへ出かけようと言う。
だから間をとって、外食はランチにするのがベストだ。
天気が晴れたからといって、無理に出かける予定を立てなくてもいい。
家でのんびり本を読んだり、おやつを食べたり、動物たちとふれ合うのも僕たちは好きだ。
リジーは休日の朝はゆっくり過ごしたいし、それに僕は出先で留守番している動物たちの心配をせずに済む。
僕たちの時計はあべこべに進んでいるけど、実際それがちょうどいい具合にぴったりと合っている。
その日、ニュートは珍しく朝寝坊をした。
昨夜は遅くまで深酒をしたせいだ、リジーと二人でジェンガをしたら思いのほか白熱し、夜中まで盛り上がってしまったのだ。調子に乗ってとっておきのワインを二本開けた。
時計を見たら午前十時を少し回ったところだった。
別に休みだし、大した予定もないし、今日くらい二度寝したって構わない。でもきっと動物たちが腹を空かして、今か今かとニュートが降りてくるのを待っている。
仕方ないからやっとの思いでもぞもぞと起き上がり、シーツの上に座ってしばらくボーッと目を覚ます。
――ふと隣を見たら、自分が寝ていた、
「……???」
???
起き抜けの靄がかかった頭で状況把握に務めようとしたが、いくら考えても首を傾げるばかり。
当の本人(?)はスヤスヤ寝息を立てて気持ちよさそうに眠っておられる、自分の寝顔を見る機会なんてまずないから何となく格好悪い。
それよりもリジーはどこへ?隣で寝ていたはずの彼女がいつのまにか野郎に変わってる。
リジー、名前を呼ぼうとした時ニュートはある事に気がついた。
――声が、変。
変、というか高い、というか。明らかにおかしい。
そしてニュートは恐る恐る鏡の前に駆け寄り、自分の姿を見た。
鏡に映る自分の姿は、紛れもなくリジーであった。
「えええええ!」と、ニュートは心の中で叫んだ。
実際のところ彼女の体は夜更かしからくる疲労プラス低血圧と、昨夜呑んだアルコールのせいで叫ぶほどの元気は残ってなかった。正直、いつも以上に体が重い。
見た目はリジーだが、中身は間違いなくニュートのままだ。ニュートの本体はまだベッドの中で眠っている。
ニュートはまじまじと鏡を見つめながらどうしようもない好奇心に駆られ、そっと自分の胸に手を触れた。
服の上から柔らかい感触が指先に伝わってくる、女性の体とはこうも違うのかと改めて感慨に浸りそうになり、今はそんなことしてる場合じゃないと断腸の思いで手を離す。
「リジー、ねえちょっと、起きてよ。大変なんだ」
ニュートはとりあえずリジー(?)を揺り起こす。
これでもし自分と入れ替わったのが彼女じゃなくてどこかの野郎だったら、よもやテセウスだったりしたらどうしようかと一瞬考える。
のそのそと起き上がった自分が、寝起きのぼんやりした低い声で「あれ……わたしじゃん……」と呟いたことによりそれは杞憂に終わった。
「うわ、声ガッラガラ……酒灼けひど……」
軽く咳払いをしてから、そこで初めてリジーは体の違和感に気がつく。
声が低い、手が大きい、そして何よりいつもよりも体が軽い!
昨夜の疲れはまだ多少あるものの、朝型人間のニュートの体は朝の方が調子がよいのだ。
ホッと安堵しつつ、二人で覚えている限りの記憶を擦り合わせながら昨夜の出来事を振り返る。
が、二人ともなぜこうなってしまったのか全く心当たりがなかった。酔った勢いでポリジュース薬をうっかり飲み干したというのなら話は別だが。
そもそも二本目のボトルを開けたところまではうっすら覚えている、けれどどうやってベッドまでたどり着いたのか記憶にない。
「……まあ、考えても仕方ないし、一日経てば元に戻るでしょ。とりあえず動物たちの様子見に行かないとでしょ?その前に、シャワー浴びたい」
「え、待って。この状態で?」
「他に方法あるの?」
「えー、だって、ええ……なんでそんな冷静なの……」
「どうせ二人とも休みだし、一日くらい大丈夫だって~。ほんと今日が日曜日で良かったね、わたしはいいけどニュート、闇祓いの仕事してって言われたら困るでしょ」
「困る」
いつものほわほわした調子で笑いながら、リジーはベッドから立ち上がろうとした。その時ハッとニュートはある事を思い出し、咄嗟に彼女を制する。
「待って!待って待って待って……ちょっと待って」
「なに、どうしたの急に」
「いや……やっぱり僕、使えそうな薬がないか一回調べてくるから、ちょっと待ってて」
「OK、じゃあゆっくりお風呂入りながら待ってる」
「いや、そうじゃなくってね……リジー、お願いだからここで待ってて、今きみに動かれるとちょっと困ることがあるんだ……」
昨夜はワインをたくさん飲んだ、だからきっと大丈夫だとは思うけどそうじゃなかった場合、ニュートはきっと今すぐ窓から身を転じて死にたくなるだろう。
リジーは知らない、男には朝ベッドから出られない事情があるという事を。なぜなら彼女は女の子だから。
リジーは知らない、知識としては知っていたとしても本質的に男がどういう生き物であるかを彼女は知らない。
「分かった分かった、心配しなくても大丈夫、わたしをなんだと思ってるの?魔法省のエリート、未来の英国のせラフィーナ・ピッカリーよ?何が起きても対処できるから、早く動物たちのところ行ってあげて」
低血圧から解放され、なおかつ外は天気のいい素晴らしい朝を迎えられたせいか、リジーはいつもより気分がいいらしかった。
自信たっぷりの爽やかな笑顔で立ち上がったその笑顔は、どこか実の兄を思わせる面影があり、ニュートはなんとも言えない複雑な気持ちになる。
幸いなことに事なきを得ていたようで、それと同時にニュートは心底安堵のため息をついた。
こうなってしまった以上、下手に薬に頼るよりもとりあえず元に戻るのを待って様子を見るのが懸命だ。鼻歌交じりにシャワーへと消えていく自身の背中を見送りながら、ニュートは座ってため息をつくことしか出来なかった。
「シャワー……シャワーかあ……」
彼女はなぜあんなに冷静に受け入れられるのか、普通少しは取り乱したりするものじゃないのか。
そこへリジーがまた戻ってきて扉の影から少し顔を覗かせて、少女みたいにケタケタ笑って言った。
「わたしの身体で変な気起こさないでね?ダーリン」
ああ、その言葉は元に戻ってから言ってくれとニュートは残念でならない。
彼女の鈴を転がすように柔らかい声とは程遠い自身の声でそれを聞いても、少しも嬉しくない。
けれど先程黙って体に触れたことはやっぱり秘密にしておこうと、彼はひっそりと心に決めたのだった。
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